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2026/10/25

SANYO SFT-1 FMチューナー MPX OUT付加と修理記録

SANYO SFT-1 FMチューナー MPX OUT付加と修理記録

1.概要 

SFT-1正面

SFT-1背面

SANYO SFT-1 FMチューナーの紹介です。 1958年、9,500円の三洋電機から初のFMチュ-ナーです。

横幅370mmの大きな堅牢な鉄製筐体のFMチューナーです。全面が鉄板で囲まれたここまで堅牢なFMチューナーは初めてです。

ナショナルES-901のような家庭に置いて似合うラジオではありません。デザインが武骨なため家庭の和室や洋室にも合わず、会社の事務所などに置くと似合いそうです。当時はSANYOの製品は一般家庭では見ませんでしたので業務用機器が多かったのかもしれません。 

・回路図

SFT-1 回路図
SANYO SFT-1の回路図は、「FMラジオの解説と製作 オーム社 昭和33年8月20日初版発行、昭和41年6月30日第9版発行」に掲載されています。

真空管は、6DT8,6BA6,6BA6,6AL5,6X4の構成です。ナショナルES-901と瓜二つの回路構成です。 ナショナルもSANYOも標準的で破綻のない手堅い回路を採用しています。回路図の手堅さは社風が大きく影響しているものと思います。

初段がナショナルES-901は6AQ8でSANYO SFT-1は6DT8との違いはあります。互換性はありますが、ヒーター電流は6DT8(0.3A)から6AQ8(0.43A)、6AQ8の方が僅かに高ゲイン(高感度)かつ低ノイズ(S/N比向上)かと思います。6AQ8への差し替え後はフロントエンドの再調整は必要です。 

2.修理作業

・分解

SFT-1を分解した様子 

分解すると本体カバーの剛性がよくわかります。通常はコの字型カバーを上から被せますが、 SFT-1は両側がコの字型で、前後の金属板と底板を組み合わせると箱型形状になっています。この形状は、両端のネジで天板からの圧力をコの字で受け止める従来の構造とは剛性が段違いです。

剛性の高いケース

背面板も鉄製メッシュで、ES-901のようなパーチクルボードの破損などは一切ない構造です。 

通気は天板、底板、背面の3方向にメッシュ構造として、筐体全体が鉄製で放熱するため発熱対策が万全です。この発熱対策により各部品の経年劣化もすくなく、剛性筐体により部品へのストレスも少ない理想的な筐体かと思います。その証拠に本体カバー内側のススは薄く全体についているだけで、局所的に激しく焼けるような痕跡は皆無です。

高さ20mmの足

1点角忘れてました、筐体の4本の足が特徴的です。通常のゴム足ではなく、高さ20mmもある細いくて硬い円錐状の足です。 これば底板からの通気性を考慮したものと思います。徹底した発熱対策が施されています。

SFT‑1の円錐状の高足は、昭和の民生機ではほぼ見られず、 同様の構造を採用していたのは TRIO の初期チューナーだけです。 これは両社が家庭向けデザインよりも、通信機的な剛性・放熱構造を優先した 共通の設計文化を持っていたためと思われます。 

状態の良いケースの塗装

更にもう一つ、この本体カバーを水洗いして激しい汚れを落としました。その下から現れたのは当時のままの美しい塗装です。表にも裏にも一切のサビがない優秀な塗装です。

・目視確認 

前オーナーさんからは、「コンデンサを入替したが音がでませんでした」 との販売コメントのある製品です。

内部を覗いて見ます。

裏側の配線の様子

SFT-1は劣化する部品点数が少ないチューナーで、その劣化すると思われる部品が交換されていました。

ブロック電解コンデンサは撤去され電解コンデンサ×2個に置き換わっています。ペーパーコンデンサはフィルムコンデンサに交換されています。意味は不明ですが何故か数十pFのコンデンサが数点交換されています。

重要なフロントエンドの同調回路にまで手を加えていました。部品交換による影響がなければよいのですが。 

・配線チェック 

配線を全数チェックしましたが正しい配線です。ただ気になるのは、電源トランスの表面に油が染み出て固着して光っています。電源トランスが発熱(過電流)した形跡だと思います。

配線が正しく、電源トランスが発熱する過電流であると想定すると疑わしいのはショートです。 

6X4の4ピンがショート

配線をチェックしているときに、6X4の4ピンの配線がソケットの固定リベットに接触しています。 ヒーターがショートしています。音が出るはずもありません。電源電圧をチェックしなかったのでしょう。この部分を再度ハンダすれば修理は完了です。

・電源試験 

電源試験で電流を測定

原因らしき箇所を発見・修理したので、電源を入れてみます。 電流は0.32Aで安定しています。各箇所の電圧を測定して正常です。

・動作確認

OUT PUTにモニター接続してSFT-1の音だし試験をします。あっさり、FM放送が受信できました。拍子抜けです。6X4のヒーター配線のショートを直しただけです。 

・トラッキング

 トラッキングが大幅にズレています。トリマやコイルを調整しますが、78~83MHz近辺しか受信できません。同調回路のコンデンサを交換した影響です。

同調回路の二次側コンデンサが交換されている
写真では青いコンデンサが交換されたものです。回路図では23pF、交換されたコンデンサは22pFでした。周波数のズレ幅が非常に大きいので容量差1pFではないかと思います。 また、同調回路の一次側コンデンサも交換されています。回路図どおりのコンデンサに交換しても回復できそうにない繊細な回路です。

ためしに、23pFにしてみましたがもっとズレ幅が広がります。元の部品が残っていないのが悔やまれます。

トリマへの交換
仕方なく、20pFトリマを取り付けての実機調整としました。調整はある程度できたのですが、ダイヤルスケール目盛り幅で上限は2MHzほど短かくなってしまいました。受信できる周波数範囲は80MHz~90MHzです。このチューナーは調整幅が極端にすくないので、繊細なバランスが崩れてしまいました。直して直せないでもありませんが、部品交換しながらの調整で時間もかかりそうなのでここまでの修理とします。

3.MPX OUT付加

MPX OUTを付加した回路図

モノラルFMチューナーですから、FMステレオ放送を聞くためにMPX OUTを付加します。

MPX回路に改造

部品点数も少なく簡単に配線することができました。

ヒアリング風景

TRIO AD-5と接続して音だし試験をします。これも簡単に左右から音がでます。動作にも不具合や不安定さはなさそうです。

・セパレーション 

セパレーションを測定します。

セパレーション(1kHz): 15dB

・ヒアリング

FMステレオ放送は、上下の帯域は欲張らずにバランスの良い音ですがやや高域よりでしょうか。音質は真空管チューナーではあまり聞いたことのない、やや硬めのタイトな音がします。ノイズはほんの僅か電源ノイズのブーンとホワイトノイスのサーッの2種類が混じります。ホワイトノイズはAD-5のフィルターONで消すことができます。MPXは十分に実用になる範囲で改造できたようです。このチューナーの構造の影響を思わせるタイトで硬めの音が印象に残ります。

4.まとめ

SFT‑1は、私の生活圏の民生機文化とはまったく異なる構造のFMチューナーです。筐体は必要以上に大きく、内部の本体シャーシも民生機では見たことがないほど余裕を持って作られています。この“ゆとりのある構造”が、剛性・放熱・劣化の少なさ・改造の容易さのすべてを支えており、民生機では絶対に感じられない「気配のなさ」を生んでいるのだと思います。

分解しても、修理しても、触っても、民生機のような文化的な匂いや癖がほとんど感じません。製品としての方向性が完全に民生機から外れていて、通信機や業務機の系統に属するチューナーです。鉄製の箱型筐体、3方向メッシュの放熱構造、高足による底面通気、合理的すぎる端子配置──どれもが家庭用ラジオの文化とは別の世界の設計思想です。

内部構造は単純な回路なのに、部品配置の自由度が異様に高く、ラグ板なしでどんな回路でも組めそうな合理性を持っています。これは民生機ではまず見られない構造で、私には理解しきれません。触ってようやく少しだけ感触がつかめる程度で、普通に見ただけでは気配すら感じない機種です。

今回の修理作業で、業務用機器が過酷な環境に耐えるために持つ構造の強さをまざまざと感じました。民生機にもこの剛性と放熱構造がほしくなる、そんな修理記録でした。

5.定格 

型   式 : 高周波1段付スーパー・ヘテロダイン

受信周波数帯:FM帯 80~90Mc

中間周波数 :10.7Mc

使用真空管 :6DT8 高周波増幅および局部発振混合

       6BA6×2 中間周波増幅

       6AL5 FM レシオ検波

       6X4 電源整流

ダイヤルライト:6.3V 0.2A

感    度 :25μV/30mV、S/N 30dB

出 力 電 圧:500μV 入力 30% 変調 0.5V

        500μV 入力 100% 変調 1.1V

電    源 :50~60c/s 90~100~110V(ヒューズ切替式)

消 費 電 流:20VA

形    状 :370×120×150mm