1.概要
| 6BA6を出力管とした低電圧アンプ |
高周波(RF)増幅管である 6BA6 を出力管として用い、低電圧でドライブするアンプの試作記録です。6BA6は、低電圧動作において隠れた実力を発揮する真空管ですが、私自身低電圧アンプの製作は今回が初めて。まずはヘッドホン駆動およびデスクトップのニアフィールドリスニングを想定した試作機を仕立ててみました。
製作の経緯
数多くのラジオやチューナーを修理していると、行き場のないジャンク真空管が手元に溜まっていきます。私の部品箱も漏れなく「不要球」で溢れていました。
| ジャンク真空管の部品箱 |
その箱を覗きながら、「6AU6や6BA6を使って、低電圧でアンプが作れないだろうか?」と考えたのが始まりです。とはいえ、低電圧動作のノウハウも経験もゼロ。いきなり本番機をつくるのは無謀なため、事前練習としてこの試作機を立ち上げることにしました。
2.回路図
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| 6BA6低電圧式アンプ回路図 |
(1)特徴
回路のB電源は標準で42V。G3(第3グリッド)の接続を工夫した「変形スペースチャージ」と、初段トランジスタによる「ハイブリッド構成」を採用しています。
(2)スペースチャージ方式と変形スペースチャージ
真空管の低電圧駆動といえば、カソードのすぐ外側にある第1グリッド(G1)に正の低電圧を加え、電子を強力に引き出すスペースチャージ方式(空間電荷格子管方式)が定番です。
しかし、この標準的な方式で小型アンプを組んでみたところ完全に失敗しました。6AU6や6BA6は格子(グリッド)が密すぎるため、G1をB電源に接続するとグリッド損失が大きくなりすぎ、音が全く出なかったのです。
そこで今回は、G1を入力(信号)、G2をB電源へ接続し、通常はカソードへ繋ぐG3(第3グリッド)をB電源へ接続する「変形スペースチャージ」を採用しました。
解説:真空管の**スペースチャージ方式(空間電荷格子管方式 / Space Charge Grid)**は、カソード(陰極)のすぐ外側に配置した「第1グリッド(スペースチャージグリッド)」に正(プラス)の低電圧を印加し、カソードから電子を強力に引き出す仕組みです。
(3)初段トランジスタ(2SC1815)によるハイブリッド化
RF管である6BA6を出力管として成立させるため、初段に2SC1815を挿入したハイブリッド回路としました。これには明確な目的があります。
・低ゲインの補正:低電圧動作に伴う増幅率(ゲイン)の低下を初段トランジスタでカバー。
・S/N比の向上:ローノイズなトランジスタで信号レベルをしっかり稼いでから真空管へ流し込むことで、残留ノイズを目立ちにくくする。
・バイアス問題の回避とドライブ能力アップ:6BA6のバイアスが浅すぎる問題を回避しつつ、十分な信号振幅を送り込んで出力トランスをクリップギリギリまでしっかり使い切る。
3.製作
| 6BA6低電圧式アンプ |
| 両脇は006P×2本、背面は単2×4本 |
ジャンクパーツをかき集めて組み上げた試作機ですが、見た目だけはそれらしく仕上がりました。
電源構成は以下の通りです。
・ヒーター電源:単2乾電池 × 4本
・B電源(通常時):006P(9V)角型乾電池 × 2本(18V〜)
・テスト時:外付けで006Pを最大3本まで順次追加し、高電圧側までの挙動を確認。
4.プレート電流の測定結果
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| 低電圧増幅・測定結果 |
6AU6および6BA6を用い、B電源電圧(24V / 33V / 42V / 51V)と出力トランスの一次インピーダンス(7kΩ / 4kΩ / 3kΩ)を変えながらプレート電流を測定・比較しました。
| 測定している様子 |
低電圧動作では出力トランスの選定が非常に重要であることが分かりました。実験上は4kΩの結果が最も良好で、本番機を組む際には汎用品の5kΩトランスが最適と判断しました。
(2)6AU6と6BA6の明確な特性差
・ 6AU6 のデータ(33Vで1.7mA、42Vで2.7mA)と比較すると、6BA6 の方が低電圧下で約2.3倍〜2.6倍も電流が流れやすいことが一目瞭然です。
・シャープカットオフ管の 6AU6 に比べて、リモートカットオフ(可変ゲイン)特性を持つ 6BA6 の方が、この低電圧領域において内部抵抗が低く抑えられ、出力段として非常に扱いやすいことが実測データによって裏付けられています。
5.ヒアリング
| ヒアリング風景 |
回路として動く感触は得られましたが、オーディオで最も重要なのはスペックではなく「音質」です。
試聴にあたっては、ヘッドホンでは評価が甘くなるのを避けるため、FM放送を音源とし、2Way小型スピーカーを鳴らすという厳しい環境でチェックを行いました。
【条件1】6BA6のみ(単体駆動)
・条件1-1:G3=カソード接続
音量をボリューム位置12時より上げると高域で歪みを感じます。高音はやわらかな音色で中低音は出ません。音自体はきれいだが量感に乏しいです。音量はやや小さいですが夜間のリスニングには十分です。昼間でもニアフィールドであれば必要十分な音量です。・条件1-2:G3=B電源接続(変形スペースチャージ)
条件1-1と同様に音量をボリューム位置12時より上げると高域で歪みを感じますが歪は少ないです。少し音がクリアで見通しが良くなっています。こちらの方が中低域で少し厚くなって聞こえます。
【条件2】 ハイブリッド構成(2SC1815 + 6BA6)
・条件2-1:ハイブリッド化(初期)
ハイブリッド化は音に安定感があります。音に繊細さとつやがでてきてボーカルに色気が感じられます。出力上限または入力上限を超えなければ音は破綻しないがその範囲は狭いです。中低域は一番でています。 辛めの評価としては、音全体に灰色の膜がかかり透明度とクリアさが不足しています。中低域の厚みがもっと欲しい。S/Nの向上は感じられませんでした。ハイブリッド化によりボリュームに少し余裕がでましたが、まだ初段のゲインが高すぎるようです。・条件2-2:初段ゲイン最適化 + B電源42V
初段のゲインを2~3倍程度に下げた回路とB電源42Vで再調整後のヒアリングです。 初段トランジスタのバッファ効果でしょうか。6BA6への入力の影響もなくボリューム範囲が広がり12時超えても歪まずに改善しました。高域のざらつきがまだ少し残っていますが時間とともに減少しています。 音に適度の重さとうるおいが出て、それなりの透明度もあります。ただし、突き抜けるようなクリアさや透明度ではなく、空気全体に薄く色がまとっています。少しねばりのある中低音がでているが、気持ちよく聴けます。ボーカルに色気があります。 高域寄りの音を重心を少し下げ、ザラツキを減らせればと思います。オーディオとして音質調整してもいいレベルにようやく到達した音質になりました。ただし、まだ好みではありません。・最終調整
最後に初段トランジスタのベースとエミッタ間に 47pF、カソードに 450μF を入れてから半固定抵抗で微調整しました。 音のバランスが一気に整いました。音だけを聴いたら6BA6シングルだなんてわかりません。これなら夜間のオーディオ用として使えます。真空管の味も十分味わえる出来上がりです。音楽が楽しいアンプに仕上がりました。
【条件3】 B電源電圧の比較テスト(条件2-2の回路ベース)
・条件3-1:B電源 33V
条件2-2の回路構成でB電源33VとしましたがB電源42Vと同じ音がします。驚きですが、音質は42V電源と遜色がありません。最大音量も下がったようには感じらずほぼ同等です。ただし、半固定抵抗の再調整は必要です。
・条件3-2:B電源 24V
条件2-2の回路構成でB電源24Vの音は、全体的に音がおとなしくなった印象です。中低域に重心が下がったバランスで聴きやすい音です。高域のざらつきは極わずかだけ聞こえます。音量も少し小さくはなりましたが、夜間のリスニングでは十分な音量です。十分実用になるレベルの鳴りっぷりです。ただし、過大入力レベルに対する余裕は少なく、半固定抵抗での調整は限界ぎりぎりです。
・条件3-3:B電源 15V
条件2-2の回路構成でB電源15Vの音は、どのように調整しても歪んでNGでした。回路を見直し再設計すれば修正できるかもしれません。限界までの低電圧を目指している訳ではなく、あくまで音質優先なので、低電圧の動作確認はここまでとします。
6.まとめ
正直、6BA6で本気のオーディオアンプが製作できるとは思いませんでした。低電圧アンプでは珍しく、スピーカードライブできます。小音量ですが音は良いです。真空管の音が聞けるアンプに仕上がりました。RF管の6BA6ですが低電圧でこそ本領を発揮する真空管でした。はじめた本人も驚く結末でした。
7.今後の課題(周波数特性の測定)
今回は聴感上のフィーリングを中心に評価を行いましたが、今後は周波数特性等の測定を行い、6BA6低電圧アンプの電気的な特徴をさらに掘り下げて可視化していく予定です。











