1.TU-777という機種の位置づけ(歴史的背景)
| 正面から見たTU-777 |
TU-555は1968年6月と数ケ月遅れの発売ですが、 FETには2SK19Aが採用され、FM用だけは大型IFTですが、それ以外はトランジスタ用の小型IFTが採用されています。1970年6月発売のTU-666も同様にFETは定番化された2SK19AとFM用だけは大型IFTですが、それ以外はトランジスタ用の小型IFTが採用されています。このことからもTU-777がチューナー技術が変遷する狭間に位置する製品であることがわかります。
しかし今回入手した個体は、**フライホイールの亜鉛崩壊(ジンク・ペスト)**という致命的な問題を抱えていました。さらに、前オーナーによる修理の影響で発振回路にも異常があり、調整不能な状態となっていました。
本記事では、崩壊寸前のフライホイールの修復と、発振回路の再調整を中心に、その修理過程を記録したものです。
本記事では以下の点を扱います・ジンクペスト崩壊フライホイールの修復(ほぼ前例なし)
・発振回路のトラッキング不良の実測修正
・前期/後期構造差の実機検証
外観と構造
| TU-777の背面 |
背面にはアンテナ端子のほか、入力感度を切り替えるDIST./LOC.スイッチ、セパレーションおよび出力レベル調整用ボリューム、AMバーアンテナ、RCA出力端子が配置されています。
| TU-777の上から見た内部 |
内部を確認すると、大型のIFTが目を引きます。これはトランジスタ式チューナー黎明期の特徴であり、本機が過渡期の設計であることを示しています。
フロントエンドにはMPF102が採用されており、その後主流となる2SK19A以前の構成である点も興味深いところです。
2.今回の個体の問題点(フライホイール崩壊・発振回路異常)
フライホイールの崩壊
今回の修理で最初に気が付いたのはフライホイールの劣化でした。TU-777では、フライホイールの亜鉛ダイキャストが経年劣化により崩壊する個体があります。本機はその典型例であり、再利用可能なレベルまで修復できるか検証しました。
| フライホイールがひび割れて劣化した様子 |
上の写真では、直径6cmの大きなフライホイール がひび割れて劣化していることがわかります。フライホイールの素材は亜鉛ダイキャストで湿度や保管状況が悪いと腐食・劣化します。TU-555,TU-666より大きな直径6cmのフライホイールなので異なる機種からの流用はできそうにありません。
| 取り外したフライホイール |
フライホイールを取り外して詳細に状態を確認します。全体的に激しく劣化していて深いクラックが入っていることが判ります。フライホイールを机に置いただけで破片が飛び散るほどの末期症状です。このような状態は亜鉛崩壊(ジンク・ペスト)と呼ばれています。
3,フライホイール修復(材料・工程・注意点)
フライホイール修復
| ガイアノーツ M-07Gn 瞬間カラーパテ |
| M-07Gnのジェル状のパテを塗った様子 |
ガイアノーツ(Gaianotes) M-07Gnをクラックに浸透させ溝が埋まるまで何回も繰り返し塗る必要があります。完全に乾燥するには1日程度は必要です。
円周部の再生と仕上げ
| フライホイールの円周部を研磨した様子 |
| 円周部にパテを塗った状態 |
| 銀色に塗装したフライホイール |
| フライホイールを取り付けた様子 |
| 電源回路の1000μF×3 |
| TU-777の消費電流 |
| TC2の破損で外付けでトリマが取り付けてある様子 |
| 初期のTU-777のバリコン用トリマの様子 |
| TC2のトリマを新しく交換 |
前オーナーさんが取り付けた斜めのトリマは、新しいトリマと交換して上の写真のように修理しました。
| フロントエンドの内部 |
| 発振回路のSE3001が2SC1047に交換されている様子 |
| 発振回路の10pFのリード線が外れている様子 |
| AMとFMの受信試験 |
この状態でTU-777を調整してみます。
| フロントエンドの回路図 |
| 発振回路の回路図 |
発振回路のL105コイルとTC104トリマでトラッキング(周波数範囲)を調整します。 AMとFMは受信でき音はでました。FMダイヤル目盛りの周波数を合わせようとしますが、78MHzが受信できると90MHzが範囲外にズレています。90MHzを受信できるようにすると78MHzが範囲外にズレてしまいます。発振回路のトリマとコイルでは正常にトラッキング調整できませんでした。前オーナーさんが修理した影響で発振回路の周波数範囲がズレたようです。
6.回路定数変更によるトラッキング修正
トラッキング調整の修正
| 発振回路の10pFを8pFの交換した様子 |
先ほどの発振回路のC127の10pFのリード線が外れていたのは、周波数範囲を正常にしようと試みた痕跡だったようです。修理方法としては発振回路のC127を10pFを8pFに容量を減らして修理します。8pFにすることで発振周波数を高くして、トラッキングの周波数範囲を狭くすることができます。この8pFへの変更により、コイルとトリマでダイヤル目盛りどおりの周波数帯域幅での受信できるようになりました。このコンデンサ容量は数点入れ替えて試験した結果、最適な容量として8pFを選定しました。
| 右上2番目のAM用IFTのコア破損 |
AMがノイズばかりで受信できません。簡易的に順に調整してみると2段目のIFTのコアが破損して回すことができません。一番奥までねじ込んで破損して詰まってしまった模様です。コアを交換して調整したところNHKが受信できるようになりました。また、この状態でシグナルメーターも振れるようなりました。
7.最終調整と測定結果
| IF波形 |
今回のTU-777の修理には苦戦しましたがどうにか修理できました。元オーナーさんが苦労しながら修理した痕跡が残り、当時の息遣いまで感じるようなチューナーです。修理後は非常に安定して動作するのはさすがSANSUIです。トランジスタ式の過渡期のチューナーですが、できる限りの機能を盛り込んだ意欲的な製品であることがわかりました。
10.あとがき
フライホイールの劣化が激しいジンク・ペストを見たとき絶望しました。ジンク・ペストは今回で2回目で前回の修理は諦めた経緯があります。フライホイールの修理のイメージは当初から持っていて、ひび割れた亜鉛の奥まで接着剤を浸透させて強度を回復させ、パテで大き凹凸を補修する感じです。ガイアノーツ(Gaianotes) M-07Gnを見つけたのは偶然ですが、接着剤とパテの機能を兼ねた理想的な補修材でした。一番心配だった強度についても、粘度も低く細かなひび割れにも浸透して想像以上の強度で復元できました。修復できる保証もないダメ元で始めた試行錯誤のフライホイールの修理記録です。また、その後の元オーナーさん改造による故障は予期していない誤算の修理記録でもあります。