2026/05/26

ナショナル TA-90 AM-FM オールバンド型 ハイファイチューナー

 1.概要(外観・仕様)

ナショナル TA-90

ナショナル TA-90 AM-FM オールバンド型 ハイファイチューナーの修理記録です。ナショナル TA-90は、1962年発売・14,900円の3バンド(MW/SW/FM)真空管チューナーです。 黒を基調とした端正なデザインで、通信機を思わせる精悍さと高性能を感じさせます。

背面の端子類

背面には、音声出力OP端子、外部機器入力端子PUとTAPE,MPX端子M/Xとアンテナ端子、ヒューズボックスがあります。ヒューズボックスは入力電圧によって100Vと110Vの片方のみにガラス管ヒューズを装着します。 

2.特徴(配置図・糸掛け図・回路構成)

2-1.配置図と糸掛け図 

仕様、配置図、糸掛け図

チューナーのボンネット裏には、仕様、配置図、糸掛け図が貼り付けてあります。

・仕様

TA-90 仕様
仕様として下記の内容が記載されています。

受信周波数帯:MWバンド 535~1605KC

       SWバンド 3.9~12MC

       FMバンド 80~90MC

中間周波数:AM 455KC,FM 10.7MC

使用真空管:6AQ8、6BA6、6AJ8、6DC8、6BX6、6AL5、6ZE1、6X4

ダイヤルライト:6.3V、0.25A、2個

感   度:MWバンド 50μV/30mV

      SWバンド 50μV/30mV

      FMバンド 30μV/30mV(S/N 30db)

電   源:50~60c/s 100~110V(ヒューズ差替式) 

・ 糸掛け図

糸掛け図

この糸掛け図にはダイヤル目盛りも併記されており、初見では調整方法が分かりにくい構成です。 しかし、ナショナル独自の方式を理解すると、短時間で正確に調整できる合理的な方法であることが分かります。
  
この糸掛け方式は“FM 89MHz を絶対基準にする”のが最大のポイントです。 
 そのうえで、以下のように寸法で位置決めを行います。 

②そこから 93.2mm がスタート地点

③さらに 8.6mm が SW 4MHz(糸掛けの正しさを確認する点)

④MW はトラッキング調整で合わせる(糸掛けでは決まらない)

⑤SW がズレている場合は糸掛けのやり直し(巻き量・初期位置の誤差)

以上の方法で糸掛けと調整をすれば正しい受信周波数になります。

工場向けに単純な糸掛け方法の説明ですみ、なおかつ誰でも短時間で正確に調整できるメリットが重要だったのではと推察しました。大量生産向けのナショナル独自方式です。

・配置図

配置図
真空管などの配置図です。ただし、(誤)6AB6⇒(正)6BA6と誤記があるので要注意です。

・工業所有権のシール

ボンネット裏の反対側には、「当社ガ有スル工業所有権」のシールが貼られています。特許侵害への警告と技術の高さをアピールするためのものでしょうか。昔の秋葉原ではコピー商品であふれていました。SONYのカセットテープそっくりのパッケージでよく見るとSANYの文字の商品などです。当然、中のテープは粗悪品でした。そんな経験から特許侵害への警告かなとも思えます。

2-2.回路図

ラジオ技術1962年9月号 回路図(抜粋)

ラジオ技術 1962年9月号に回路図が掲載されています。

2.3.回路構成

TA-90の機器配置

FM 系:

アンテナ → 6BA6(RF) → 6AJ8(MIX/OSC) → 6DC8(IF×2) → 6BX6(LIM) → 6AL5(FM DET) → AF OUT+ 検波出力 → 6ZE1/6BA6 → AFC → 局発へフィードバック

AM 系:

アンテナ → 6BA6(RF) → 6AJ8(MIX/OSC) → 6DC8(IF) → 6AL5(AM DET) → AF OUT+ NAR/WIDE で IF 帯域切替

共通:

6X4 電源、6ZE1 マジックアイ、PU 入力・出力切替

3.修理プロセス(事前作業 → 電源試験 → 不具合 → 再修理)

3-1.事前作業

電源を入れて試験する前に実施する修理作業です。 

・目視確認

修理前の内部の様子
内部を目視しますが、焦げや損傷、ハンダなどの異常もなく良好です。

修理したヒューズカバー

ヒューズ断とヒューズカバー破損しています。ヒューズ(1A)交換とカバーを修理します。

・劣化部品

交換して取り外した劣化部品

ペーパーコンデンサは全てフィルムコンデンサと交換します。

ペーパーコンデンサ交換後の内部

ペーパーコンデンサの片側ハンダなし

この位置の0.05μFは“音声出力のカップリング”という重要な役割を持つため、 片側が無ハンダのまま出荷されていたのは驚きでした。手前の抵抗の陰に隠れていて、抵抗を取り外さないとハンダ箇所が見えない場所です。あまり見たくなかった製造ミスです。なお、音声が完全に途切れなかったのは、近接する配線や部品との間に生じる浮遊容量(数 pF 程度)による微小な AC カップリングによって、IF 信号がわずかに漏れ込んでいたためと考えられます。

・清掃

AFC用のスライドスイッチ

AFC用のスライドスイッチは分解、清楚します。セレクタの端子も黒くなっているので清掃します。

ダイヤル目盛りの背面の黒板を清掃

清掃後の綺麗になったダイヤル目盛り

ダイヤル目盛りのガラス板を慎重に清掃します。背面の黒い板は汚れが酷くコンパウンドで磨くと綺麗になります。背面の黒い板を清掃しておくとダイヤル目盛の仕上がりの美しさに大きな差がでます。

4.調整(RF/IF・AFC・MPX)

4-1.電源試験

まず、電源投入後に主要ポイントの電圧を測定し、回路図値と比較しました。 結果を以下にまとめます。 

電源装置で100Vで0.6Aと表示
電圧測定の様子

回路図に記載されている電圧を参考にします。□内の電圧はAM、()内はFMの電圧です。

電源回路(抜粋)

測定電圧一覧表
 ・電源トランス100V端子接続 

電源回路の1kΩ両端(電源トランス側とチューナー側)の電圧を測定(測定電圧一覧を参照)します。

FMの電圧は+32Vと少し高めです。また、電流値は+8mAですが電圧が高い影響のためで、ブロック電解コンデンサは過電流もなく良好と判断できます。 

・電源トランス110V端子接続 

給電電圧が高いため、電源トランスの一次側タップを100V⇒110V接続に変更して二次側電圧を下げて測定(測定電圧一覧を参照)します。(背面のヒューズホルダのヒューズを110V側にします。)

測定した結果からFMおよびAM受信で給電電圧が適正な電圧の電源トランス一次側は110Vタップで通常使用とします。

・短絡(ショート)

このTA-90は購入時に電源ヒューズが溶断していました。修理中も電源トラブルもなく良好に動作していました。それが、突然6AQ8付近から小さな白煙で、ヒューズ線は白熱電球のように光っています。 電源ヒューズが溶断していたのでおかしいとは思っていました。

ヒーターの5番端子とシールド板の接触あり
2P(プレート)1番端子とシールド板もショートの危険性あり

すぐに電源落として裏返して確認します。6AQ8のソケットのシールド板と端子が接触してショートしていました。6AQ8のヒーター用の5番端子とシールド板がショートしたのが原因です。6AQ8を揺すると2P(プレート)用の1番端子もシールド板と接触します。シールド板を少し上に位置をずらし、端子から遠ざかるように横に曲げて接触しないように修復します。本来はシールド板の下に端子が来ても接触しないようにシールド板がカットされています。シールド板の設置位置が低すぎてカット面が端子に接触していました。これも見たくなかったもうひとつの製造ミスです。 

4-2.受信確認(1回目)

AM,FM共に正常に受信できます。ジーッとノイズが入り耳障りです。一番疑わしいのはブロック電解コンデンサで交換する必要がありそうです。

4-3.再修理(ジーッ音のノイズ)

受信時にジーッとノイズが入ります。ブロック電解コンデンサが疑わしいので確認します。電源回路にモニターを入れて直接ノイズ音を確認します。 ブロック電解コンデンサに近いほどノイズが大きくノイズの質も音声出力と同じです。ブロック電解コンデンサがノイズ源で確定です。

外観はそのままのブロック電解コンデンサ

新しい電解コンデンサと交換し、黄色いカバーのブロック電解コンデンサはくり抜きそのまま設置して再利用すれば、外観は全く変わりません。

ヒヤリング試験をしますが、嘘のように電源ノイズは消え音声がクリアになり修理は成功です。 

4-4.受信試験(2回目)

再修理でブロック電解コンデンサを交換して電源ノイズもなくなりました。しかし、FMステレオ放送を聴くと背景にサーッと違うノイズが聞こえて気になります。

FMシグナルジェネレータとスペアナを接続して波形を観測します。チューナーを裏返しにするなど本体を動かすと波形が変形したり、うねったり不安定です。ノイズレベルは-50dBとかなり悪い状態で、これがサーッという消したいノイズです。高調波も全帯域で発生しています。ノイズの解消というよりは、波形の不安定さを解消するのが先決のようです。

4-5.再々修理(サーッ音のノイズ) 

部品のひとつひとつのハンダ付けや配線、容量など地道にチェックします。原因はセラミックコンデンサのリード線が6AQ8の端子に接触しており、 微小な容量変化が局発周波数に影響して波形が不安定になっていました。

セラミックコンデンサのリード線にエンパイヤチューブを被せて6AQ8端子と接触しないように対策します。対策後のスペアナを見ると高調波も少ない綺麗な波形です。

スペアナで見たノイズもなく正常な波形と帯域

この状態でRFやIFなど調整します。調整したことによりノイズレベルも-70dB以下になりました。もう少しノイズレベルが低いといいのですが、FM黎明期のMPX出力の限界かと思います。

4-6.受信試験(3回目) 

サーッ音のノイズも低減したので、マジックアイの機能を確認します。 

マジックアイ・AFC OFF(緑) 

マジックアイ・AFC ON(赤)

マジックアイの受信状況の変化は良好です。このマジックアイ(6ZE1)はAFC機能OFF:緑、AFC機能ONで赤く点灯が変わります。また、AFC機能の受信周波数に引き込む動作は良好でした。 

4-7.MPX出力(FMステレオ放送)

TA-90のMPX出力とFMマルチプレックスアダプターには同じナショナルのSH-300がよかったのですがSH-300の調子が悪く、TRIO AD-5を接続してFMステレオ放送を試験します。

TRIO AD-5とTA-90でFMステレオ試験

FMステレオのセパレーションは右25dB、左23dBでした。 FM黎明期の真空管チューナーとしてりっぱな数値です。

5.ヒアリング

TA-90とAD-5でヒアリング

・感度: 

 AMとFMは受信感度も高く良好に受信できます。

・AM:

  音質はノイズも少なく聴きやすい音質です。 

・FMモノラル:

  中域が前面にでた音のバランスです。全体的に厚みのある音がします。音質はクリアでノイズ感はありません。高音も程よくでています。

・FMステレオ:

  中低音が厚く、全体的にエネルギー感のある音がします。奥行も良好でやわらかな高音です。全体がなめらかな音質で、ボーカルに艶や色気があります。

・ノイズ:

  ステレオ時にサーッ音が入りますが、激しい曲では判りません。静かな曲などではノイズは聞こえますが、さほど気にならない範囲かと思います。 

6.デザイン考察

TA-90の黒を基調としたデザイン

TA-90は、黒を基調としたパネルに中央のゴールドのツマミを配置した、通信機そのものの面構えをしています。家庭用チューナーとしては武骨で、好みが分かれるデザインです。なぜナショナルは、このような通信機的デザインを採用したのでしょうか。

結論として、通信機を作りたかったのではなく、“通信機の信頼性と精密さ”を外観で表現したかったと考えられます。

1960年代前半はFM放送が始まったばかりで、FMチューナーはまだ新しい高周波機器でした。ナショナルとしては、「高周波技術に強いメーカーである」という印象を市場に示す必要があり、その象徴として通信機のデザイン言語を取り入れたと考えられます。

実際、TA-90の内部構成は家庭用ラジオより通信機寄りで、RF → MIX/OSC → IF×2 → LIM → DETという本格的な高周波構成や、AFC・MPX出力など、当時としては先進的な要素が多く含まれています。外観と中身が一致しているわけです。

また、松下電器は当時、通信機器部門と家庭用ラジオ部門を並行して持っており、高周波技術者がチューナー開発に関わった可能性も十分にあります。

つまりTA-90の武骨な外観は、単なるデザインではなく、「精密な高周波機器である」という技術的メッセージを込めた意図的な選択だったと考えられます。マニア好みの外観になったのも、その結果と言えるでしょう。

TA-90のデザインは、1960年代前半の技術観とナショナルの姿勢がそのまま外観に表れた製品です。デザインには、その時代の空気と気配が満ちています。

7.まとめ(総評)

TA-90 は、FMステレオ放送開始前に MPX 出力を搭載した先進的な設計で、 ナショナルが FM 時代を強く意識していたことが分かります。 修理後は動作も安定しており、60年以上前の製品とは思えない完成度です。 当時の技術思想と設計品質を今に伝える、非常に魅力的なチューナーだと感じました。

2026/05/05

ビクター JA-S51 プリメインアンプの修理記録

1.概要 

JA-S51 プリメインアンプ

ビクター JA-S51 プリメインアンプの修理記録です。ビクター JA-S51は、1975年、59,800円の製品です。同年にJA-S71,JA-S31が発売されています。翌年1976年には名機JA-S41が発売されています。JA-S51とJA-S41は同じデザインであること以外は大きく異なるアンプです。JA‑S51は「レコード再生に特化した、時代に埋もれた名機」です。今回の修理とヒアリングで、その実力を明らかにします。

2.機能説明(カップリングコンデンサと4連ボリューム)

2章では、JA‑S51が“レコード再生に特化したアンプ”である理由を、 回路構成と設計思想から解説します。 

カップリングコンデンサと4連ボリュームの概要図

回路図(ラジオ技術 1975年7月号)とプリント基板を眺めていたら、2つの特徴に気が付きました。

2-1.カップリングコンデンサ(無極性化の意図)

EQ回路のオレンジ色の電解コンデンサ10μFが2個直列の様子

一つ目は、EQ出力とプリアンプ出力には電解コンデンサ10μFを2個直列にして無極性コンデンサとしていることです。コンデンサの歪を低減するためのものと思います。当時は無極性コンデンサもなく2個組み合わせていたようです。また、パワーアンプの入力には0.082μFのフィルムコンデンサが使われていて、出力には電解コンデンサを使用しないOCL構成が採用された音質重視となっています。

2-2.4連ボリューム(トリミング・ツイン・ボリューム) 

4連ボリューム(トリミング・ツイン・ボリューム)

二つ目は4連ボリュームの採用です。プリアンプの前後にそれぞれ2連ボリュームが入っているのが特徴です。ビクターのカタログによれば4連ボリュームをトリミング・ツイン・ボリュームとの名称で呼ばれています。

プリアンプ回路の入力側の1段目ボリュームは、EQからの信号レベルによるクリッピングを防止して歪のないクリアな音を提供します。また、プリアンプ回路のノイズをそのままのレベルでパワーアンプに送るよりも、プリアンプ回路の出力側に2段目のボリュームを入れることで信号だけでなくノイズも同時に調整することができS/Nを改善します。

更にPhono入力には100kΩ、47kΩ、33kΩのカートリッジ・ロード切替スイッチもあり、JA-S51はレコードを聴くために注力したアンプであることがわかります。

トリミング・ツイン(4連)・ボリュームの採用は、これ以降の製品では採用されておらず高価で貴重な機能となっています。

2-3.高級感ある外装パーツ

JA-S51は高級感あふれるツマミ類を採用しています。 

①ボリュームツマミ:直径43mm、長さ30mm、重さ103g、材質:アルミ無垢 

②セレクタツマミ:直径26.5mm、長さ22mm、重さ14g:材質:アルミ無垢

③トーンとバランス用ツマミ:直径22mm,長さ22mm、重さ12g、材質:2mmアルミとプラスチック製軸受け

④フロントパネル:厚さ4mmのアルミ無垢

⑤レバー用ツマミ:アルミとプラスチック製軸受け 

アルミ類の合計重量は870g、全重量10kgの1割弱を占めています。デザインと操作時の質感を重視していますが、この物量ではアンプは重いはずです。また、トーンとバランス用ツマミはアルミ無垢ではないため、触感で重量感がないと違いがわかるのが残念です。

3.入力レベルの注意点

JA-S51にレコードプレーヤー以外のチューナーやデジタル機器(CDプレーヤーやUSB DACなど)を接続するときの注意事項です。

・なぜ160mVなのか

JA-S51のプリアンプへの入力レベルは160mVが基準です。入力レベルに敏感なアンプなので、接続するチューナーやデジタル機器(CDプレーヤー、USB DACなど)の出力レベルは160mV基準に合わせる必要があります。

・許容範囲 

実際にはある程度の許容範囲があり、JA-S51への入力レベルは160mV(基準)~320mV(2倍程度が許容範囲内)に収める必要があります。 

・過入力時の症状 

入力レベルを低く適正にしないと、本来の音質が得られないアンプです。入力レベルが高すぎると音全体のクリアさをうしない曇ります。また、音に広がりや奥行がなくなります。

・実例(チューナー600mV → -6dB) 

機器別入力レベル表

アナログチューナーの出力レベルを600mVとすると最低でも-6dB以下に減衰させ320mV以下にする必要があります。USB DACの出力レベルが2000mVとすると最低でも16dB以下に減衰させ320mV以下にする必要があります。 

4.電源投入前の修理

アンプを上から見た内部の様子

故障個所の列記

・スピーカー端子の損傷

破損したスピーカー端子のツマミ

経年劣化でプラスチックのツマミが欠けて取れていますので新しいスピーカー端子に交換します。

スピーカー端子の内側はカバーなしの電源ヒューズ

スピーカー端子の内側には電源ヒューズがあり端子と接触しては危険なので、カバーなしの電源ヒューズを絶縁型ヒューズフォルダーに変更して対策します。 

古いスピーカー端子を加工
破損したスピーカー端子は板ごと取外します。古いスピーカー端子板にネジ式スピーカー端子を取り付け製作します。 
新しいスピーカー端子
スピーカー端子と絶縁性の電源ヒューズ

新しいスピーカー端子を実装して終了です。

・RCA入力端子の損傷

破損したRCA入力端子

TUNERとAUXのRCA入力端子のプラスチックが割れてネジ止め固定できません。保管してあるジャンクパーツのRCA入力端子と交換します。 

交換したRCA入力端子

・セレクタ(ロータリースイッチ)の端子清掃 

ロータリースイッチ(3個)は端子が黒くなっているので清掃します。

目視ではわからない事前修理

・劣化部品の交換

底のゴムが膨らみ劣化した電解コンデンサ

古い年代の電解コンデンサは劣化しているので全て交換します。電源関係だけで28個あります。外観からはわからない電解コンデンサの底のゴムが膨らみ膨張して劣化していました。

部品交換後の内部の様子

・スイッチの分解・清掃 

大型のトグルスイッチを取り外して分解清掃します。

接点復活剤で内部がドロドロの様子

スイッチを分解したところ内部が接点復活剤の大量散布でドロドロでした。接点復活剤だけでは接触不良が改善しないばかりかショートもするので良くない修理方法です。分解して丹念に汚れを拭き取り清掃すればスイッチは蘇ります。Phonoのカートリッジ・ロード切替用のスライドスイッチも忘れずに分解清掃します。

・パワートランジスタの放熱用シリコングリスの交換 

放熱用シリコン交換後のパワートランジスタ

パワートランジスタを取り外します。予想通り放熱用シリコンが乾き固まっています。古いシリコンを丹念に拭き取り、新しいシリコングリス(サンハヤト:SCH-30)に塗り替えます。

5.動作試験

5-1.初回電源投入

スピーカー保護リレーは正常にカチッと動作しますが、この時点では導通は確認できていません。電源回路の電圧も正常です。 

5-2.アイドリング電流調整 

アイドリング電流は以下のとおりです。0.22Ω×2の両端で測定します。

L側:8.4mV(18.5mA)

R側:11.4mV(25.9mA)

・アイドリング電流(調整後) 

アイドリング電流調整は左上:R325と右上:R324

アイドリング電流は半固定抵抗のR325とR324を以下のとおり調整しました。

アイドリング電流は10~40mAの範囲で調整が必要です。今回はLR共に11.0mV(25mA)で調整しました。

5-3.DCオフセット調整

DCオフセット調整は左下:R313と右下:R314

DCオフセット調整は半固定抵抗のR313とR314でスピーカー端子が0Vになる様に調整しました。 

5-4.不具合の発生

結論:原因はスピーカー保護リレーの接触不良だった。 

スピーカーから音はでますが、次第に小さくなり歪んでいます。そして最終は音が聞こえなくなります。

5-5.原因の特定(リレー) 

・正弦波の変化 

最初はきれいな正弦波を観測した画面
 
しばらくするとレベル低下した画面
 
最終的にはノイズだけになった画面

1kHzのテスト信号を入力しながらスピーカー端子にダミー抵抗8Ωを接続してオシロスコープで観測します。最初はきれいな正弦波が出ています。時間がたつと次第に信号レベルが低下します。最終的には1kHzのテスト信号は聞こえずノイズだけになります。

・パワーアンプ直結で正常 

パワーアンプ出力にオシロスコープを直接接続すると波形は正常で信号レベルの変動もありませんでした。

・リレーを叩くと変動 

接触不良のスピーカー保護リレー

以上のことからスピーカー保護リレーが接触不良の模様です。1kHzのテスト信号を流しながらリレーをコツコツ叩くと信号レベルが明らかに変動します。リレーの接点が酸化被膜で導通不良になったと思われます。分解清掃で導通は復活はしますが再発する可能性が高いのでリレーは交換します。

5-6.リレーの修理と導通測定 

・リレーの修理 

OMRON MY3-0-NB DC24Vが使われていますが既に生産終了しています。代替推奨品はMY3-02 DC24Vを使用します。

MY3-0-NBのカバーを外した様子

MY3-02 DC24Vの納品が遅く、仮修理としてリレーの接点の清掃で対応します。

・導通測定の数値  

デジタルテスターを下記のリレー端子番号につなぎ、手でリレーをONにすることで清掃前後の導通状態を確認します。

清掃前

4-7端子: 300Ω~10Ωで変動して不安定

5-8端子:8kΩ~300Ωまで変動して不安定

6-9端子: 18kΩ~300Ωまで変動して不安定

清掃後

4-7端子:3.1Ωで安定

5-8端子:3.2Ωで安定

6-9端子:20Ω~3Ωまで変動して3.2Ωで安定

リレーの清掃時に端子から黒いスス状の汚れがでました。 

リレーを基板に取り付けで動作確認したところ、左右の導通は正常になり、小信号での再生でも音切れや不安定、ノイズもなく良好です。

ただし、6-9端子は変動して数値が安定するまでに時間がかかる挙動のため接点が修復できないダメージがあるとの徴候を示しています。10Ω未満の抵抗値ても変動があるリレーは廃棄して新しいリレーへの交換が必要です。

新しいリレーが到着しだい、メンテナンス用底板を外して交換する予定です。

・メンテナンス用の開口部

赤枠がメンテナンス範囲

上の写真で底板からのメンテンアンス範囲を赤枠で示します。パワーアンプ基板の部品やリレーなどの故障や劣化しやすい部品は底板を外すだけで交換できます。

6.ヒアリング

修理後のJA‑S51が本来の性能を発揮できているか、 入力レベルを適正化したうえでヒアリングを行います。

・事前準備(レベル調整用アッテネーター 製作)

チューナーにはSONY ST-SA50ESを使いますが、出力レベルが固定で調整できません。そのため、レベル調整用のアッテネーター を製作します。

計算例 

SONY ST-SA50ES:出力レベル:600mV⇒160mV、20log10(160/600)=-11.5dB     

11.5dBのアッテネーターを入れて160mV出力とする

11.3dBアッテネーター(163mV)を製作:L型アッテネーター 直列:15kΩ、並列5.6kΩ  

基準レベル・早見表
TUNERとDACの出力レベルを160mV,300mV,320mVにしたときのアッテネーターの数値を早見表にしています。また、JA-S51のプリアンプの基準レベルの2倍程度であれば入力しても許容範囲として計算しています。

アッテネーター製作

市販されているアッテネーター製品を利用すればいいのですが、今回は11.3dBアッテネーターを自作しました。構造が簡単で音質も良い固定式アッテネーターを製作します。

アッテネーター製作に必要な材料一式

15kΩ(1W)×2、5.6kΩ(1W)×2、RCA端子×4、円筒プラケース×2を材料として使用します。 

完成した11.3dBL型アッテネーター

ケースに穴を開けて配線と11.3dB ATTのテプラを貼って完成です。

・ヒアリング

以下の通り、接続機器の信号レベルを合わせてからヒアリングをします。 

なお、EQ回路などのオレンジ色の音響用電解コンデンサ(10µF×2直列)は、 低電圧動作で劣化が軽微だったため交換せず、オリジナルのままとしました。 この部分はJA‑S51の音質に直結するため、当時の音を残す意図もあるからです。  

アナログチューナー(SONY ST-SA50ES)

ATTなし(600mV): 中低音がやや膨らみ、全体のクリアさが失われて少し曇った音がします。

ATTあり(160mV):バランスも良くクリアで繊細な音かします。明らかに奥行や深みが加わります。

USB DAC(ToppingDX3Pro)

-10dB(600mV):音はエコーがかかったようで不自然です。バランスはとれているが音が平坦に聞こえ奥行が不足しています。

-16dB(300mV):全体にクリアだが中低域が出て音に力強さが加わり元気な音がします。音は繊細さもあるが奥行はやや後退しますが、これはこれでありの音かと思わせる音です。

-22dB(160mV) :濁りの無い中低音と少し線は細いが高域が繊細です。消えゆく音を最後まで聞かせる。奥行は一番深く余韻が美しい。

レコード:XL-1550、AT-10E、カートリッジ・ロード47k

チューナーやUSB DACでは感じられなかった圧倒的な空気感をまとったボーカルが浮かび上がる。JAZZの“存在感のある盤”では、録音現場の空気がそのまま立ち上がり、 JA‑S51がレコード専用機として作られたことを強く実感します。

なお、修理直後は高域がやや元気に感じられたが、エージングが進むにつれて高域の暴れは収まり、最終的には中低域とのバランスが整いました。現在は落ち着いた自然な音調で、長時間聴いても疲れない仕上がりとなっています。 

7.まとめ

JA‑S51を初めて修理しましたが、内部構成や回路設計を追うほどに、当時のビクターがどれほど真剣にレコード再生へ向き合っていたかを思い知らされました。エージングが進むにつれて音は落ち着きを増し、JA‑S51が本来持つ“静かで深いレコード再生能力”が姿を現します。EQカップリングをあえて残したことで、JA‑S51が本来持つ“レコードの空気感”がそのまま蘇りました。JA‑S51は、適正レベルで駆動したときにだけ本領を発揮する、極めて繊細で唯一無二のレコード再生機です。

1970年前半は、オーディオ機器がまだ低出力で、微細信号の扱いに高度な技術が求められた時代でした。JA‑S51はその技術の集大成として生まれましたが、翌年には高出力化へ転換したJA‑S41が登場し、時代の潮流は一気に変わります。高出力機器を前提とした評価軸では、JA‑S51は本来の性能を発揮できず、正当に評価される機会すらなかったのかもしれません。

低出力から高出力へと技術が移り変わる“狭間”に置き去りにされたアンプです。しかし、その繊細さと精密さは、レコード再生において今なお圧倒的な存在感を放ちます。

JA‑S51は、レコード再生のためだけに作られた、時代に埋もれた名機です。 

8.JA-S51型規格

ビクターJA-S51カタログ(昭和50年5月20日現在)より抜粋 

・パワーアンプ部

回路方式=全段直結ピュア・コンプリメンタリーOCL

実効出力=52W+52W(8Ω・THD 0.25%)

20Hz~20kHz出力=47W+47W (8Ω・THD 0.25%)

高調波歪率=0.05%(47W出力時・1kHz)、0.05%以下(1W出力時)

混変調歪率=0.25%(実効出力時)、0.05%(1W出力時)

パワーバンド・ウェス=15Hz~40kHz(IHF t用CH動作・THD 0.25%)

周波数特性=20Hz~70kHz +0dB、-1dB

ダンピング・ファクター=30以上(20Hz~20kHz・8Ω負荷

負荷インピーダンス=4~16Ω

入力感度=1V(50kΩ) 

・プリアンプ部 

周波数特性= 20Hz~50kHz +0dB、-1dB

トーン・コントロール=BASS ±8dB(100Hz)、TREBLE ±8dB(10kHz)

入力感度=PHONO 1、2  2.5mV(100k,47k,33k)、TUNER AUX他 160mV(50kΩ)

SN比=PHONO 65dB以上(RMS)、75dB以上(IHF、Aネットワーク、ショートサーキット)

 TUNER,AUX 85dB以上(RMS)、95dB以上(IHF、Aネットワーク、ショートサーキット)

イコライザー特性=20Hz~15kHz ±0.5dB(RIAA偏差)

PHONO最大許容入力=180mV RMS(1kHz)

出力レベル=PRE OUT 1.1V(2.2kΩ)

      TAPE REC 160mV、TAPE REC(DIN)30mV(80kΩ) 

フィルターHIGH=9kHz(-6dB/OCT)

ミューティング=-20dB

ラウドネス=+10dB(100Hz)、+4dB(10kHz)、(-30dBポイント)

・その他

電源=AC100V(50/60Hz)

定格消費電力=110W(〶安全規格)

ACアウトレット=電源スイッチ連動2個、非連動1個

寸法=(H)162×(W)420×(D)342mm

重量=10.0kg