2026/05/05

ビクター JA-S51 プリメインアンプの修理記録

1.概要 

JA-S51 プリメインアンプ

ビクター JA-S51 プリメインアンプの修理記録です。ビクター JA-S51は、1975年、59,800円の製品です。同年にJA-S71,JA-S31が発売されています。翌年1976年には名機JA-S41が発売されています。JA-S51とJA-S41は同じデザインであること以外は大きく異なるアンプです。JA‑S51は「レコード再生に特化した、時代に埋もれた名機」です。今回の修理とヒアリングで、その実力を明らかにします。

2.機能説明(カップリングコンデンサと4連ボリューム)

2章では、JA‑S51が“レコード再生に特化したアンプ”である理由を、 回路構成と設計思想から解説します。 

カップリングコンデンサと4連ボリュームの概要図

回路図(ラジオ技術 1975年7月号)とプリント基板を眺めていたら、2つの特徴に気が付きました。

2-1.カップリングコンデンサ(無極性化の意図)

EQ回路のオレンジ色の電解コンデンサ10μFが2個直列の様子

一つ目は、EQ出力とプリアンプ出力には電解コンデンサ10μFを2個直列にして無極性コンデンサとしていることです。コンデンサの歪を低減するためのものと思います。当時は無極性コンデンサもなく2個組み合わせていたようです。また、パワーアンプの入力には0.082μFのフィルムコンデンサが使われていて、出力には電解コンデンサを使用しないOCL構成が採用された音質重視となっています。

2-2.4連ボリューム(トリミング・ツイン・ボリューム) 

4連ボリューム(トリミング・ツイン・ボリューム)

二つ目は4連ボリュームの採用です。プリアンプの前後にそれぞれ2連ボリュームが入っているのが特徴です。ビクターのカタログによれば4連ボリュームをトリミング・ツイン・ボリュームとの名称で呼ばれています。

プリアンプ回路の入力側の1段目ボリュームは、EQからの信号レベルによるクリッピングを防止して歪のないクリアな音を提供します。また、プリアンプ回路のノイズをそのままのレベルでパワーアンプに送るよりも、プリアンプ回路の出力側に2段目のボリュームを入れることで信号だけでなくノイズも同時に調整することができS/Nを改善します。

更にPhono入力には100kΩ、47kΩ、33kΩのカートリッジ・ロード切替スイッチもあり、JA-S51はレコードを聴くために注力したアンプであることがわかります。

トリミング・ツイン(4連)・ボリュームの採用は、これ以降の製品では採用されておらず高価で貴重な機能となっています。

2-3.高級感ある外装パーツ

JA-S51は高級感あふれるツマミ類を採用しています。 

①ボリュームツマミ:直径43mm、長さ30mm、重さ103g、材質:アルミ無垢 

②セレクタツマミ:直径26.5mm、長さ22mm、重さ14g:材質:アルミ無垢

③トーンとバランス用ツマミ:直径22mm,長さ22mm、重さ12g、材質:2mmアルミとプラスチック製軸受け

④フロントパネル:厚さ4mmのアルミ無垢

⑤レバー用ツマミ:アルミとプラスチック製軸受け 

アルミ類の合計重量は870g、全重量10kgの1割弱を占めています。デザインと操作時の質感を重視していますが、この物量ではアンプは重いはずです。また、トーンとバランス用ツマミはアルミ無垢ではないため、触感で重量感がないと違いがわかるのが残念です。

3.入力レベルの注意点

JA-S51にレコードプレーヤー以外のチューナーやデジタル機器(CDプレーヤーやUSB DACなど)を接続するときの注意事項です。

・なぜ160mVなのか

JA-S51のプリアンプへの入力レベルは160mVが基準です。入力レベルに敏感なアンプなので、接続するチューナーやデジタル機器(CDプレーヤー、USB DACなど)の出力レベルは160mV基準に合わせる必要があります。

・許容範囲 

実際にはある程度の許容範囲があり、JA-S51への入力レベルは160mV(基準)~320mV(2倍程度が許容範囲内)に収める必要があります。 

・過入力時の症状 

入力レベルを低く適正にしないと、本来の音質が得られないのアンプです。入力レベルが高すぎると音全体にクリアさをうしない曇ります。また、音に広がりや奥行がなくなります。

・実例(チューナー600mV → -6dB) 

機器別入力レベル表

アナログチューナーの出力レベルを600mVとすると最低でも-6dB以下に減衰させ320mV以下にする必要があります。USB DACの出力レベルが2000mVとすると最低でも16dB以下に減衰させ320mV以下にする必要があります。 

4.電源投入前の修理

アンプを上から見た内部の様子

故障個所の列記

・スピーカー端子の損傷

破損したスピーカー端子のツマミ

経年劣化でプラスチックのツマミが欠けて取れていますので新しいスピーカー端子に交換します。

スピーカー端子の内側はカバーなしの電源ヒューズ

スピーカー端子の内側には電源ヒューズがあり端子と接触しては危険なので、カバーなしの電源ヒューズを絶縁型ヒューズフォルダーに変更して対策します。 

古いスピーカー端子を加工
破損したスピーカー端子は板ごと取外します。古いスピーカー端子板にネジ式スピーカー端子を取り付け製作します。 
新しいスピーカー端子
スピーカー端子と絶縁性の電源ヒューズ

新しいスピーカー端子を実装して終了です。

・RCA入力端子の損傷

破損したRCA入力端子

TUNERとAUXのRCA入力端子のプラスチックが割れてネジ止め固定できません。保管してあるジャンクパーツのRCA入力端子と交換します。 

交換したRCA入力端子

・セレクタ(ロータリースイッチ)の端子清掃 

ロータリースイッチ(3個)は端子が黒くなっているので清掃します。

目視ではわからない事前修理

・劣化部品の交換

底のゴムが膨らみ劣化した電解コンデンサ

古い年代の電解コンデンサは劣化しているので全て交換します。電源関係だけで28個あります。外観からはわからない電解コンデンサの底のゴムが膨らみ膨張して劣化していました。

部品交換後の内部の様子

・スイッチの分解・清掃 

大型のトグルスイッチを取り外して分解清掃します。

接点復活剤で内部がドロドロの様子

スイッチを分解したところ内部が接点復活剤の大量散布でドロドロでした。接点復活剤だけでは接触不良が改善しないばかりかショートもするので良くない修理方法です。分解して丹念に汚れを拭き取り清掃すればスイッチは蘇ります。Phonoのカートリッジ・ロード切替用のスライドスイッチも忘れずに分解清掃します。

・パワートランジスタの放熱用シリコングリスの交換 

放熱用シリコン交換後のパワートランジスタ

パワートランジスタを取り外します。予想通り放熱用シリコンが乾き固まっています。古いシリコンを丹念に拭き取り、新しいシリコングリス(サンハヤト:SCH-30)に塗り替えます。

5.動作試験

5-1.初回電源投入

スピーカー保護リレーは正常にカチッと動作しますが、この時点では導通は確認できていません。電源回路の電圧も正常です。 

5-2.アイドリング電流調整 

アイドリング電流は以下のとおりです。0.22Ω×2の両端で測定します。

L側:8.4mV(18.5mA)

R側:11.4mV(25.9mA)

・アイドリング電流(調整後) 

アイドリング電流調整は左上:R325と右上:R324

アイドリング電流は半固定抵抗のR325とR324を以下のとおり調整しました。

アイドリング電流は10~40mAの範囲で調整が必要です。今回はLR共に11.0mV(25mA)で調整しました。

5-3.DCオフセット調整

DCオフセット調整は左下:R313と右下:R314

DCオフセット調整は半固定抵抗のR313とR314でスピーカー端子が0Vになる様に調整しました。 

5-4.不具合の発生

結論:原因はスピーカー保護リレーの接触不良だった。 

スピーカーから音はでますが、次第に小さくなり歪んでいます。そして最終は音が聞こえなくなります。

5-5.原因の特定(リレー) 

・正弦波の変化 

最初はきれいな正弦波を観測した画面
 
しばらくするとレベル低下した画面
 
最終的にはノイズだけになった画面

1kHzのテスト信号を入力しながらスピーカー端子にダミー抵抗8Ωを接続してオシロスコープで観測します。最初はきれいな正弦波が出ています。時間がたつと次第に信号レベルが低下します。最終的には1kHzのテスト信号は聞こえずノイズだけになります。

・パワーアンプ直結で正常 

パワーアンプ出力にオシロスコープを直接接続すると波形は正常で信号レベルの変動もありませんでした。

・リレーを叩くと変動 

接触不良のスピーカー保護リレー

以上のことからスピーカー保護リレーが接触不良の模様です。1kHzのテスト信号を流しながらリレーをコツコツ叩くと信号レベルが明らかに変動します。リレーの接点が酸化被膜で導通不良になったと思われます。分解清掃で導通は復活はしますが再発する可能性が高いのでリレーは交換します。

5-6.リレーの修理と導通測定 

・リレーの修理 

OMRON MY3-0-NB DC24Vが使われていますが既に生産終了しています。代替推奨品はMY3-02 DC24Vを使用します。

MY3-0-NBのカバーを外した様子

MY3-02 DC24Vの納品が遅く、仮修理としてリレーの接点の清掃で対応します。

・導通測定の数値  

デジタルテスターを下記のリレー端子番号につなぎ、手でリレーをONにすることで清掃前後の導通状態を確認します。

清掃前

4-7端子: 300Ω~10Ωで変動して不安定

5-8端子:8kΩ~300Ωまで変動して不安定

6-9端子: 18kΩ~300Ωまで変動して不安定

清掃後

4-7端子:3.1Ωで安定

5-8端子:3.2Ωで安定

6-9端子:20Ω~3Ωまで変動して3.2Ωで安定

リレーの清掃時に端子から黒いスス状の汚れがでました。 

リレーを基板に取り付けで動作確認したところ、左右の導通は正常になり、小信号での再生でも音切れや不安定、ノイズもなく良好です。

ただし、6-9端子は変動して数値が安定するまでに時間がかかる挙動のため接点が修復できないダメージがあるとの徴候を示しています。10Ω未満の抵抗値ても変動があるリレーは廃棄して新しいリレーへの交換が必要です。

新しいリレーが到着しだい、メンテナンス用底板を外して交換する予定です。

・メンテナンス用の開口部

赤枠がメンテナンス範囲

上の写真で底板からのメンテンアンス範囲を赤枠で示します。パワーアンプ基板の部品やリレーなどの故障や劣化しやすい部品は底板を外すだけで交換できます。

6.ヒアリング

修理後のJA‑S51が本来の性能を発揮できているか、 入力レベルを適正化したうえでヒアリングを行います。

・事前準備(レベル調整用アッテネーター 製作)

チューナーにはSONY ST-SA50ESを使いますが、出力レベルが固定で調整できません。そのため、レベル調整用のアッテネーター を製作します。

計算例 

SONY ST-SA50ES:出力レベル:600mV⇒160mV、20log10(160/600)=-11.5dB     

11.5dBのアッテネーターを入れて160mV出力とする

11.3dBアッテネーター(163mV)を製作:L型アッテネーター 直列:15kΩ、並列5.6kΩ  

基準レベル・早見表
TUNERとDACの出力レベルを160mV,300mV,320mVにしたときのアッテネーターの数値を早見表にしています。また、JA-S51のプリアンプの基準レベルの2倍程度であれば入力しても許容範囲として計算しています。

アッテネーター製作

市販されているアッテネーター製品を利用すればいいのですが、今回は11.3dBアッテネーターを自作しました。構造が簡単で音質も良い固定式アッテネーターを製作します。

アッテネーター製作に必要な材料一式

15kΩ(1W)×2、5.6kΩ(1W)×2、RCA端子×4、円筒プラケース×2を材料として使用します。 

完成した11.3dBL型アッテネーター

ケースに穴を開けて配線と11.3dB ATTのテプラを貼って完成です。

・ヒアリング

以下の通り、接続機器の信号レベルを合わせてからヒアリングをします。 

なお、EQ回路などのオレンジ色の音響用電解コンデンサ(10µF×2直列)は、 低電圧動作で劣化が軽微だったため交換せず、オリジナルのままとしました。 この部分はJA‑S51の音質に直結するため、当時の音を残す意図もあるからです。  

アナログチューナー(SONY ST-SA50ES)

ATTなし(600mV): 中低音がやや膨らみ、全体のクリアさが失われて少し曇った音がします。

ATTあり(160mV):バランスも良くクリアで繊細な音かします。明らかに奥行や深みが加わります。

USB DAC(ToppingDX3Pro)

-10dB(600mV):音はエコーがかかったようで不自然です。バランスはとれているが音が平坦に聞こえ奥行が不足しています。

-16dB(300mV):全体にクリアだが中低域が出て音に力強さが加わり元気な音がします。音は繊細さもあるが奥行はやや後退しますが、これはこれでありの音かと思わせる音です。

-22dB(160mV) :濁りの無い中低音と少し線は細いが高域が繊細です。消えゆく音を最後まで聞かせる。奥行は一番深く余韻が美しい。

レコード:XL-1550、AT-10E、カートリッジ・ロード47k

チューナーやUSB DACでは感じられなかった圧倒的な空気感をまとったボーカルが浮かび上がる。JAZZの“存在感のある盤”では、録音現場の空気がそのまま立ち上がり、 JA‑S51がレコード専用機として作られたことを強く実感します。

なお、修理直後は高域がやや元気に感じられたが、エージングが進むにつれて高域の暴れは収まり、最終的には中低域とのバランスが整いました。現在は落ち着いた自然な音調で、長時間聴いても疲れない仕上がりとなっています。 

7.まとめ

JA‑S51を初めて修理しましたが、内部構成や回路設計を追うほどに、当時のビクターがどれほど真剣にレコード再生へ向き合っていたかを思い知らされました。エージングが進むにつれて音は落ち着きを増し、JA‑S51が本来持つ“静かで深いレコード再生能力”が姿を現します。EQカップリングをあえて残したことで、JA‑S51が本来持つ“レコードの空気感”がそのまま蘇りました。JA‑S51は、適正レベルで駆動したときにだけ本領を発揮する、極めて繊細で唯一無二のレコード再生機です。

1970年前半は、オーディオ機器がまだ低出力で、微細信号の扱いに高度な技術が求められた時代でした。JA‑S51はその技術の集大成として生まれましたが、翌年には高出力化へ転換したJA‑S41が登場し、時代の潮流は一気に変わります。高出力機器を前提とした評価軸では、JA‑S51は本来の性能を発揮できず、正当に評価される機会すらなかったのかもしれません。

低出力から高出力へと技術が移り変わる“狭間”に置き去りにされたアンプです。しかし、その繊細さと精密さは、レコード再生において今なお圧倒的な存在感を放ちます。

JA‑S51は、レコード再生のためだけに作られた、時代に埋もれた名機です。 

8.JA-S51型規格

ビクターJA-S51カタログ(昭和50年5月20日現在)より抜粋 

・パワーアンプ部

回路方式=全段直結ピュア・コンプリメンタリーOCL

実効出力=52W+52W(8Ω・THD 0.25%)

20Hz~20kHz出力=47W+47W (8Ω・THD 0.25%)

高調波歪率=0.05%(47W出力時・1kHz)、0.05%以下(1W出力時)

混変調歪率=0.25%(実効出力時)、0.05%(1W出力時)

パワーバンド・ウェス=15Hz~40kHz(IHF t用CH動作・THD 0.25%)

周波数特性=20Hz~70kHz +0dB、-1dB

ダンピング・ファクター=30以上(20Hz~20kHz・8Ω負荷

負荷インピーダンス=4~16Ω

入力感度=1V(50kΩ) 

・プリアンプ部 

周波数特性= 20Hz~50kHz +0dB、-1dB

トーン・コントロール=BASS ±8dB(100Hz)、TREBLE ±8dB(10kHz)

入力感度=PHONO 1、2  2.5mV(100k,47k,33k)、TUNER AUX他 160mV(50kΩ)

SN比=PHONO 65dB以上(RMS)、75dB以上(IHF、Aネットワーク、ショートサーキット)

 TUNER,AUX 85dB以上(RMS)、95dB以上(IHF、Aネットワーク、ショートサーキット)

イコライザー特性=20Hz~15kHz ±0.5dB(RIAA偏差)

PHONO最大許容入力=180mV RMS(1kHz)

出力レベル=PRE OUT 1.1V(2.2kΩ)

      TAPE REC 160mV、TAPE REC(DIN)30mV(80kΩ) 

フィルターHIGH=9kHz(-6dB/OCT)

ミューティング=-20dB

ラウドネス=+10dB(100Hz)、+4dB(10kHz)、(-30dBポイント)

・その他

電源=AC100V(50/60Hz)

定格消費電力=110W(〶安全規格)

ACアウトレット=電源スイッチ連動2個、非連動1個

寸法=(H)162×(W)420×(D)342mm

重量=10.0kg 

2026/04/24

ONKYO Integra 725 プリメインアンプの修理記録

 1.概要

Integra725の正面パネル

ONKYO Integra 725 プリメインアンプの紹介です。1969年、45,900円のプリメインアンプです。 幅313x高さ136x奥行366mm、重さ8kgのやや小型のアンプです。鮮やかなシルバーのパネルにツマミやレバーに黒のアクセントがある独特のデザインとサイドウッドにより高級感があります。

Integra 725はつくづく不思議なアンプです。何故、横幅が313mmの小型サイズなのでしょうか。レコードプレーヤーと横並びにしても700mm程度に収まり和室への設置環境に適していたのかと思います。別の見方をすればミニコンポザイズの先駆け、もしくは原型になったサイズとも言えます。当時、ONKYO以外では313mmサイズの製品はないことからONKYOのデザインの独自性が際立っています。しかも、内容は本格的な作りで高級志向の製品です。

上から見たIntegra725

上蓋を開けると端子パネル

横幅313mmに収めるための構造で特徴的なのは本体の上蓋を開けた中央に端子パネルが配置されていることです。端子パネルを背面に設置する空間がないため横置きの端子パネルが採用されています。この配置により入力から出力までの信号の流れが自然です。しかも、プリアンプを端子パネルの裏側に配置することで最短距離での配線となっています。ヒートシンクは内部に配置できる空間はなく、背面に出して解決していますが奥行が長くなります。スピーカー端子は本体の外に出したかったはずですが、場所もなく端子パネルで妥協しています。しかし、操作性や美観は損なわない様に配慮されています。

背面のヒートシンク

背面のパワートランジスタは2SD180×2の準コンプリメンタリー構成により22Wの定格出力です。 

パワーアンプ基板と端子パネル
本体を上から見ると、端子パネル、電源トランスとパワーアンプ基板が配置されています。

底板を外すとプリアンプ基板がある

底板を外すとプリアンプ基板や端子パネルの配線がコンパクトに収納されています。

トーンコントロール基板
プリアンプの段数も少なく簡素な回路に見えますが、トーンコントロール基板は抵抗とコンデンサを組み合わせたセレクタ式の贅沢な作りです。
大きなトグルスイッチ

無垢のツマミ、金属レバーのトグルスイッチも堅牢で高品質なものを採用していて隅々まで配慮された高級アンプであることがわかります。 

2.修理作業

パワーアンプ基板

Integra725のパワーアンプ基板はネジとコネクタを外せば簡単に取り出すことが出来ます。

劣化した電解コンデンサ
パワーアンプ基板をよく見るとR側の電解コンデンサが熱で被覆がめくれています。過電流の兆候が疑われます。それ以外に外観の劣化や損傷はみあたりませんでした。

パワーアンプ基板と劣化部品
パワーアンプ基板の劣化部品を全て交換します。また、黒く焼けているコネクタ端子を磨いておきます。

取り外したプリアンプ回路基板
裏側にあるプリアンプ基板を取り外します。

電解コンデンサ2個による無極性が採用されている

電解コンデンサ1μF×2個、47μF×2個で作った無極性が採用されています。同じように電解コンデンサ2個を組み合わせて無極性を作り交換します。

部品交換したプリアンプ基板

プリアンプ基板の劣化部品を全て交換します。

部品交換が終了したパワーアンプ基板
部品交換が終了したプリアンプ基板

3.放熱用シリコンの交換

放熱用シリコンが固まり放熱効果が落ちていることを想定してシリコングリスの交換をします。

サンハヤト放熱用シリコン SCH-30を使用します。 

サンハヤト放熱用シリコン SCH-30
元々の用途がサイリスタやパワートランジスタの放熱用です。-50℃~+300℃で、2×10^-3の熱伝導率を誇る優秀な放熱用シリコンです。 
絶縁マイカ板と放熱シリコンを交換
ヒートシンクを外してから、パワートランジスタを取り外します。一回り大きな絶縁マイカ板がついていました。放熱用シリコンを交換した形跡です。放熱用シリコンは固まっています。絶縁マイカ板と放熱用シリコンを交換しました。

絶縁試験 

放熱用シリコン交換後にヒートシンクとパワートランジスタ間の絶縁を確認したところ導通があります。トランジスタの配線は基盤からコネクタで切り離しています。ぱっと見では正常に見えます。

固定端子板に油の様なシミ

ヒートシンクにも油の様なシミ

トランジスタの固定端子板をヒートシンクから取り外します。固定端子板とヒートシンクの双方に油の様なシミがありました。油の様なシミは濡れた様な感じです。このシミになった汚れを丹念に清掃してトランジスタを取り付けます。

再度、 テスターで確認するとヒートシンクとトランジスタ間は絶縁になり正常となりました。油に様なシミは何だったのか不明です。導通のあるシリコングリスを使っても溶け出すことはありません。もしかしたらトランジスタ端子に接点復活剤でも振ったのかもしれません。

4.電源試験

劣化部品を交換したので電源を入れて故障の有無を確認します。電源電圧は±24.5Vで正常、アイドリングはR側+27.8mVが大きすぎます。電解コンデンサの被覆が熱でめくれていた原因でもあります。ただし、電圧は半固定抵抗で調整できましたので故障ではなく調整不良でした。

・電源電圧:±24.5V

・アイドリング:0.5Ω抵抗の両端電圧 

 R側 +28.7mV⇒+10mVに調整、 -10mV 

 L側 +10mV、 -10mV

後のヒアリングにより修正 

・アイドリング:0.5Ω抵抗の両端電圧 

 R側(L側も同様)

    +10mV(アイドリング電流+20mA)⇒+15mV(アイドリング電流+30mA)

  -10mV(アイドリング電流-20mA)⇒-15mV(アイドリング電流-30mA) 

5.故障診断

故障診断のためようやく音出し試験です。TUNER端子に入力してプリアンプとパワーアンプの動作を確認します。

故障診断の音だし試験

何事もなかったように左右から音がでます。歪んでもません。めずらしく1回で音だし試験はOKです。 ただし、ボリューム、セレクタ、スイッチの操作でガリやノイズ、接触不良がでます。トーンコントロールが複数点で導通していないらしく音色がメチャメチャでした。特に異常な発熱などもありません。

故障と思われる現象を列記します。

・ガリや接触不良:ボリューム、セレクタ、スイッチ類の全て

・トーンコントロールのクリック全般で導通不良

・電源ONにしてから3~50秒ほど左右からノイズが出ます。しばらくすると完全に消えます

・スピーカー端子が緩んでグラグラ 

・電源ランプ不点灯(6.3V電球切れ) 

・Phonoイコライザーから左右ノイズあり 

6.修理作業

セレクタは前面パネルをはずしてから清掃します。トグルスイッチは全て分解・清掃します。本体中央にあるプリアンプとパワーアンプの接続用スライドスイッチも取り外して分解・清掃します。

トーンコントロールの分解・清掃

トーンコントロールの基板を取り出します。半分くらいの接点が通電しないのでナットを外してセレクタを分解します。ベークライトの板とワッシャの順番を間違えなければ簡単に取り外しての清掃ができます。意外と簡単な作業でした。

スピーカー端子のナットを絞めている様子
Integra725の唯一の欠点がスピーカー端子です。スピーカー端子を回してコードを接続していると端子のナットが緩んでガタガタになります。このスピーカー端子を使う場合はバナナプラグで接続するしかないです。修理はスピーカー端子のナットを小型モンキーで締めればOKです。ただし、工具を使うスペースがないため作業はすごくやり難いです。

 ノイズの切り分け作業

電源ONにした時のノイズの原因を切り分けます。原因を探すのに手こずりました。

ノイズの発生原因の自作ショートピン

原因はパワーアンプとプリアンプを繋ぐ自作のショートピンです。スライドスイッチをUNITEにすればプリアンプとパワーアンプは接続することができます。スライドスイッチをわざわざSEPにして、ショートピンでプリとパワーを接続していました。このショートピンが入っているとUNITEの状態でもノイズが入るため原因切り分けに時間がかかりました。

Phono EQのノイズ源のトランジスタ
レコードを聴いてみましたがPhonoイコライザーから左右にノイズが入ります。EQには2SA493、2SC632A、2SC732が使われています。3石ともにノイズでEQ回路は全滅でした。

トランジスタは以下のとおりに交換しました。

2SA493⇒2SA910

2SC632A⇒2SC2310

2SC732⇒2SC732

トランジスタ交換により左右のノイズはなくなり良好になりました。 

7.ヒアリング

ヒアリング風景
やっと、修理も終了したのでヒアリングです。USB DACを接続して試験をします。交換部品が多かったせいか高域が暴れてヒアリングになりません。しばらくは音を出したままエージングすることにします。

1時間後:少し高域の暴れがおさまり大人しくなってきました。第一印象は立ち上がりの良いクリアな高域が綺麗な音がします。現在のバランスは高域寄りになっています。入力の音質をそのままストレートに再現するアンプのようです。良くても悪くてもダイレクトにスピーカーからそのままの音質をだします。音を作るアンプではないです。USB DACから良質の音楽は心地よく、ノイズ感のあるFMを聴くとそのままの粗さを感じます。あと、半日は鳴らしたままにしておく必要がありそうです。

半日後:鳴らし試験をしました。まだ、音のバランスが高域寄りです。アイドリング電流は20mAでは少ないのでしょうか?ヒートシンクは冷たいままです。

アイドリング電流を20mAから30mAに変更してヒアリングします。重心が下がりバランスがとれた音に変化しました。

更に半日後(1日後):更に半日は慣らし運転をすることにしました。時間とともに高域の粗さがとれ滑らかさが出てきました。音のバランスも重心が更に少し下がっています。エージングが進むにつれて中低音の力強さも戻ってきています。第一印象の立ち上がりの良いクリアな音質は変わりません。音源の音質を色付けせずダイレクトにスピーカーから出てきます。やはり、音を作るアンプではなく音質をそのままストレートに表現するアンプです。使う人を試すようなところがあるアンプとも思えます。少し気難しいアンプです。

Integra725のクリアな音質を生かすために色付けのないセレクタ式のトーンコントロールを選択したのがわかります。トーンコントロールを操作してもクリアな音の本質は担保されています。

翌日(1日半後): Integra725はカミソリのような切れ味の音です。高域は少し和らぎましたがそれでも高域寄りの音です。この時代のアンプはカマボコ型の特性をイメージしていましたが完全に裏切られました。この音を聴くとアナログ機器と組み合わせると音のバランスが良いのかもしれません。

チューナーはSONY ST-ES50SAを使います。FM放送でソニー・ロリンズ ドント・ストップ・カーニバルが流れていました。JAZZが生き生きと響き、場の雰囲気に全体が包まれたように聞こえます。この音は当時秋葉原のオーディオルームで聴いた音のようです。古臭い音ではなく当時の最先端オーディオ機器の音です。70年代の空気感が一気に蘇ります。Integra725はアナログ機器をつないだ時に本当の真価を発揮するアンプです。 デジタル機器なんて関係ない時代のアンプですから、無理にDACで鳴らしていたのかもしれません。

翌々日(2日半後):部品交換後の初期動作で音が固まるまで時間のかかるアンプです。

朝、アナログチューナーの音を聞いていて、意外と中低音でるようになったと気がつきました。高音はまだ粗かったです。

夜になるとアナログチューナーの音が大人しくなったような気がします。時間がかかりましたがようやく高域の粗さがとれてきました。それと共に芯のある中低域が弾むようにでます。音の重心が下がりバランスがとれてきました。

3日後(最終日):音が落ち着いてきたので再度DACを接続してみます。シュガー・ベイブ「蜃気楼の街」を聴いてみました。耳障りな高域の粗さが消えています。高域よりの音ですが、中低域が気持ちよくでるようになっています。うまく鳴りだしました。まだ少し高域が暴れますが改善しそうな予感をさせる音です。 

午後になり、高域よりですがとりあえずプリアンプとパワーアンプの初期エージングは終了とします。

プリアンプとパワーアンプが落ち着いた最後にレコードを聴いてきます。最後にしたのはPhono EQ回路のみを純粋に聞き分けたかったからです。 

やはり高域よりのバランスですが、DACのクリアとは違い音の厚みや存在感でしょうか場の雰囲気や空気感が良いです。レコードの良さが生きるアンプです。トランジスタを交換しましたがEQは違和感もなくプリアンプとパワーアンプの音をそのまま受け継いだような音に仕上がっています。 

戻って、USB DACはやはり高域よりのバランスです。クリアで帯域も広く中低域も気持ちよく響きます。 

アナログ・チューナーはやはり高域よりのバランスです。レコード、USB DAC、アナログ・チューナーで高域の質やバランスがそれぞれに違いがあり音の印象がかわるのが面白いです。帯域は一番狭いはずですが音も厚く何故か一番華やかな音がします。 

Integra725は、色づけのないストレートな音色で、音源ソースの質の良し悪しまでそのままへ表現します。当時にしては帯域は広いためなのか、特に音のバランスやノイズ感には特に敏感なので周辺機器との組み合わせが重要かと思います。 

余談ですが、ヒアリングしていて電源トランス鳴りがありました。電源入れて10秒程度です。電源電圧選択スイッチ100V-117Vのスライドスイッチを数回動かしたらトランス鳴りがピタリと収まりました。毎回、電源投入時に電源電圧が変動していたのかもしれません。 

8.まとめ 

Integra725は小型であることを生かした信号の最短経路などにより、音の素材をそのままストレートに再生する高級アンプであるとの印象を受けました。組み合わせる機器や鳴らす音楽を選ぶアンプなので万人向けではありません。1969年当時としては斬新な外観のインパクトと非常にクリアな音質に、こんなアンプがあったんだという純粋な驚きがあります。ONKYOのアンプへの情熱と拘りを知る機会となりました。個性も強く完成度も高いアンプなので使いこなしが大変むずかしいアンプの修理でした。