2026/09/29

東芝 RH-506F ラインアンテナの構造美と昭和技術の美学 ― 修理記録

1.概要

RH-506F(正面)

RH-506F(裏面)

東芝 RH-506F AM/FMラジオは1972年、8,700円のホームラジオです。

・経緯

このラジオにはとても惹かれています。それはラジオ本体ではなくラインアンテナ(電源線アンテナ)が残っているからです。 

ラインアンテナ用カップラ

ラインアンテナは、電源コードとラインアンテナ用カップラで構成されています。ラインアンテナ用カップラは電源コードの留め金具ではありません。正真正銘のラジオ用アンテナです。多くのラジオでは捨てられて、残っているラジオが珍しくなっています。

ラインアンテナ用カップラを見たとき、昔のゲルマニウムラジオのアンテナ線を電源コードにぐるぐる巻きにしていたことを思い出しました。 

原理は同じです。電源コードとカップラ間の静電容量で、ラジオ波を拾いアンテナとして機能させています。

ラインアンテナ用カップラが気になって仕方がないので、すぐに静電容量を測定しました。

約20pF。予想通りの値です。

では、この静電容量がどれほど効果を持つのか。DSPラジオのレベル表示機能を使ってでAM/FMの感度を測定してみました。FM放送の改善があまりにも劇的で、思わずあぜんとしました。 こんな簡単な構造が、ここまで合理的に働くとは信じられませんでした。

しかも従来の電灯線アンテナより安全面では格段にすぐれた方式です。

今回は、最初にラインアンテナをご紹介してから修理作業に入りたいと思います。 

2.ラインアンテナ

ラインアンテナ用カップラ
ラインアンテナの原理は電源コードとカップラ(結合金具)間の静電容量をアンテナに応用したものです。ラインアンテナの静電容量、インピーダンス、効果について確認します。 

 (1)静電容量

①実測

電源コードとRH-506F付属するカップラ(結合金具)間の静電容量を測定すると約20pFです。

②カップラの長さと静電容量

20mmは18.1pF
40mmは25.5pF

カップラを長くすれば静電容量が増えるのではと思い実験してみました。

ラインアンテナの試験用カップラとして長さを変えたアルミ板を電源コードに巻いて静電容量を測定します。

横幅20mmと40mmを比較します。20mm:18.1pF、40mm:25.5pFと横に長く伸ばしても長さに比例して静電容量が大きくなるわけではありませんでした。

③25mmカップラの意味

横幅25mmのカップラ

ラインアンテナ用カップラの幅が約25mmという設計は、高周波結合の観点から非常に絶妙なバランスの上に成り立っています。

対向面積を広げて長さを25mm以上に伸ばしても、電線被覆(PVC等)の誘電率や密着性の限界から結合容量は単純に比例して増えにくくなります。むしろ、シールドやシャーシグランドとの不要な浮遊容量が増大し、同調回路のQ値を下げたりノイズを増やす原因になります。

(2)波長とアンテナ長(電源コード長)のマッチング 

RH-506F の電源コードの長さは1.8mです。この長さ1.8mが、どう影響するのか考察します。

①FM(VHF帯):約3mの波長

FMの波長はλ≒3.7m(80MHz)です。1/2波長(ダイポール)で約1.8m、1/4波長で約0.9m(90cm)となります。 

一般家庭の電源コード(ACライン)は全長1.5m〜3m程度ありRH-506Fは1.8m、電源コードそのものがFM波の波長に対して理想的な「1/2波長または1/4波長アンテナ」としてジャストサイズで共振・動作します。

②AM(中波帯):約300mの波長

AMの波長はλ≒300m(1000kHz)です。電源コードの数メートル程度の長さでは波長に対してあまりにも短すぎるため、微弱な効果にとどまります。 

 (3)インピーダンス 

20pFの結合コンデンサ(電源コードとカップラ間の静電容量)と周波数によるインピーダンスの関係は以下のとおりです。

①FM(80MHz)でのインピーダンス

・結合容量 C=20pFのリアクタンスXcは次のようになります。 

 Xc=1/2πfC=1/(2π×80×10^6×20×10^-12)≒99.5Ω

 ・FM高周波領域ではわずか約100Ωの非常に低いインピーダンス(信号が素通りする状態)になり、電源コードに誘導したFM波のRFエネルギーがロスなくFMチューナーの同調回路(高周波段)へ流れていきます。

②AM(1MHz)でのインピーダンス

・ 一方、AM帯では Xc≒8kΩと高いため、高周波エネルギーを引き込む効率としては疎結合(信号の減衰が大きい)になります。

2バンド(AM/FM)ラジオにおいて、ラインアンテナはAMのためというよりも、実は「室内でFM放送をロッドアンテナなしでクリアに受信させるための主目的回路」として極めて緻密に設計されていると言えます。 

(4)効果の確認

DSPラジオのレベル表示機能でRH-506Fのラインアンテナの効果を確認します。

・AM放送

カップラ未接続 37dB

カップラ接続 37dB  0db改善

・FM放送

カップラ未接続 14dB

カップラ接続 25dB  11db改善 

ラインアンテナはAMよりFM放送の感度向上に劇的に効果があります。今までAM用アンテナ用だとすっかり信じて誤解していました。

FM放送であれば電源ノイズの影響も受けにくく、FMアンテナのないホームラジオには非常に適したアンテナです。 外部アンテナの設置が不要で場所を取らずスマートな構造です。

(5)自作カップラ

ラインアンテナ用カップラは簡単に自作できるのでご紹介します。

横幅40mm目玉クリップ

横幅40mmの目玉クリップをカップラとして使います。目玉クリップのはさみ口を平らに加工して電源コードをしっかり挟めるようにします。

目玉クリップの静電容量

自作カップラ(40mm目玉クリップ)で電源コードを挟んだ時の静電容量は20pFでした。自作カップラが同じ静電容量を持ちラインアンテナとして利用できることがわかります。

ラジオのアンテナに自作カップラ未接続

ラジオのアンテナに自作カップラ接続

DSPラジオ(RAD-T941N)のレベル表示を使い自作カップラの効果を確認します。 電源コードを自作カップラ(40mm目玉クリップ)で挟み込み、自作カップラ(目玉クリップ)とラジオのアンテナ間はワニ口クリップで接続する構成とします。

80M㎐受信、自作カップラ未接続 :8dBμ

80M㎐受信、自作カップラ接続:26dBμ

26-8=18dB改善

自作カップラを接続すると80M㎐受信時に18dB改善しました。FM放送は良好に受信出来るようになりました。

しかし、PCやUSB DACなどのデンジタル機器の電源ONだと、受信レベルが改善してもFM放送はノイズだらけの音で聞くに堪えません。ラインアンテナは効果的ですが、電源からのノイズの影響を受けやすことがわかりました。

3.無電源ラジオと増回路付ラジオの違い

ラインアンテナ(20pF)がゲルマニウムラジオに使えないか気になり調べてみました。

(1)ゲルマニウムラジオで100pFの電灯線アンテナが効く理由

 ・AM帯(1MHz)でのインピーダンス低下

 結合容量が20pF(約8kΩ)から100pF約1.6kΩ)に増えると、結合インピーダンスが約5分の1に低下します。

 これにより、建物全体の電灯線に載っている高周波のAM信号エネルギーが、減衰することなく回路へしっかりと引き込まれます。

 ・無電源(無増幅)回路との相性

 ゲルマニウムラジオは外部電源やトランジスタによる増幅が一切できないため、アンテナから入る高周波エネルギーの大きさがそのままイヤホンの音量に直結します。

選択度(Q値)の低下や電源ノイズ(ブーンというハム音など)を引き換えにしてでも、インピーダンスを下げて微弱な高周波エネルギーを多く取り出すという意味で、100pFの電灯線結合は無電源回路にとって極めて都合が良いわけです。 

 (2)増幅回路付ラジオ(トランスジスタ/真空管)との違い

 ・トランスジスタ/真空管ラジオ(20pF)

 後段に十分な増幅回路があるため、アンテナ側で無理にエネルギーを稼ぐ必要がありません。むしろ20pF程度の疎結合にしてインピーダンスを高く保ち、同調回路のQ値(選択度)を上げて隣接局の混信を防ぐ方が有利になります。

 ・ゲルマニウムラジオ(100pF)

 択度やノイズ耐性を多少犠牲にしてでも、100pF等で低インピーダンス化して「とにかく信号パワー量を最大化する」ことが最優先されます。

 「20pF=高インピーダンスで疎結合(感度より選択度・安全重視)」「100pF=低インピーダンスで密結合(選択度より感度・パワー重視)」という使い分けの理屈が、ゲルマニウムラジオの動作特性と完璧に合致しますね。

(※ただし、やはりAC100Vへの直接接続はコンデンサのショート破壊時のリスクが非常に高いため、実験される際はくれぐれも安全対策にご注意ください。)

(3) 用途別の適正容量(C)

・ゲルマニウムラジオ

適正値:100pF 〜 470pF

・真空管・トランジスタラジオ

適正値:20pF 〜 100pF(推奨は33pF〜50pF程度)

4.ラインアンテナの性能

①強電界地域での使用

元々が電界強度が極めて高い「強電界地域(送信所の近く)」でローカル局を聞くだけのものです。弱電界地域での受信にはT型フィーダーアンテナの方が性能が良いです。

②電波環境の変化

  

FM多局化時代を迎え、電波環境が大きく変化したことがラインアンテナが使われなくなった大きな要因です。

・ラインアンテナの性能限界

電源コードの不特定の引き回しによる周波数範囲の変動や無指向性のためマルチパス混信を防ぐことができないなど、FM環境に適合できなくなりました。

・外部アンテナ併用の悪影響

外部アンテナとラインアンテナを併用して使うと、インピーダンス不整合と信号の反射や同調回路のQ値の低下、更にはラインアンテナからの電源ノイズが入るなどの悪影響がでます。

 

そのため、ホームラジオへのカップラの標準装備は次第になくなりました。

4.修理作業

前置きが長くなりましたが、修理作業に入ります。 

・内部の状態確認 

ラジオ内部の様子

基盤は上下に綺麗に機能が分かれています。上部はAM/FMラジオ回路で左から右へ信号が流れます。下部はアンプ回路で同様に左から右へ信号が流れる素直な構造です。

・回路の理解

トランジスタ応用例”9石 AM-FM ラジオ”

RH-506Fは接続集やテクニカルガイドがなくても回路の理解は十分可能です。「実用トランジスター回路集 無線と実験編 成文堂新光社 昭和34年5月1日初版発行、昭和42年8月1日第6版発行」のP.192:トランジスタ応用例の”9石 AM-FM ラジオ” の回路図はRH-506Fとほぼ同じ構成として読むことが出来ます。また、チューナー回路やプッシュプル回路についてトランジスタ種別の適用事例(P.61-P.65を参照)が詳しく解説されています。RH-506Fはトランジスタ初期の頃から実績のある定番回路を採用していることがわかります。

・ケースの修理

ラジオを分解した様子
木製ケースはかなり汚れているのでサッと水洗いします。

錆びで汚れたネットと新しいネット材料

張り替えたスピーカーネット

スピーカーネットは、スピーカー固定のネジが錆びてネットの布にシミになり取れません。ネジは錆び止めしてスピーカーネットを張替えしました。 

・劣化部品の交換

取り外した劣化部品

雑音でラジオが受信できませんので、劣化部品を交換して様子を見ます。

 ・動作確認試験(1回目)

AM,FM共に受信できるようになりましたが、AMとFM共通のブツブツと音がする雑音が入ります。

AM/FMバンド切替のスライドスイッチが接触不良です。 

ダイヤル目盛りのランプが切れています。

AC100Vでの試験は煩わしいので006P9V乾電池を繋いて試験をしています。

・スライドスイッチ修理

AM/FMバンド切替のスライドスイッチ

AM/FMバンド切替のスライドスイッチは、スイッチのL型の足をプリントパターン表面にハンダ付けする特殊な構造で取外しが非常に難しいです。修理する方にはお勧めできな作業です。プリントパターンを剥がさない様にスイッチを取り外して分解・清掃します。この清掃作業により、切替動作は正常になりました。

・トランジスタ不良による雑音

2段目の2SB54
 アンプ回路を切り分けて2段目の2SB54不良で交換して解消です。ランプも交換します。

 ・動作確認試験(2回目) 

AM,FMとも受信レベルなどを調整します。AMは良好です。FMはホワイトノイスが多いです。調整中にいきなり音が徐々に小さくなって最後は無音になりました。このアンプの不具合は通電していると不定期に何回も発生します。 

・ヒートシンクによる接触(ショート)

入力トランス2次側のサーミスタと抵抗

アンプ回路の入力トランス2次側のサーミスタを導通して指の温度に反応するので正常です。

サーミスターに平行する抵抗100Ωが173Ωと劣化して電流が流れ過ぎるので予防で交換しました。

正常に戻したヒートシンク(故障時は右下が接触)

修理作業中に出力トランジスタのヒートシンクが不自然に傾いているのに気づきました。ヒートシンクはトランジスタの足を左側に上から押倒して、ヒートシンクとトランジスタの足が接触しています。道理でヒートシングがやけに熱いと思いました。ヒートシンクをトランジスタも一緒に上に引き上げて正常な状態に戻します。 

・動作確認試験(3回目) 

電源を入れてもヒーシンクはほんのりとしか熱くならず正常です。アンプの音が小さくなる故障も2度と再発しなくなりました。ヒートシンクの接触が原因で間違いなさそうです。 

FMのホワイトノイズを解消できないかとフトントエンドやIFを2SC1675に変えてみましたが徒労でした。このラジオの性能限界のようです。

・ヒアリング

ヒアリング風景
AMは感度も高く音質も良好です。FMは受信感度は低めでホワイトノイズが目立ちます。良く受信できる放送局ならあまりノイズは気にならないです。 

・FM外部端子の意味 

FM用外部アンテナ端子

当時の東芝ホームラジオにはFMアンテナだけ外部端子があり、ラインアンテナ装着を前提に設計されていたことを、修理の過程でようやく理解しました。 

オークションではラインアンテナのカップラが紛失したホームラジオをよく見かけます。カップラがないと、まるでロッドアンテナが折れたポータブルラジオのように見えてしまいます。しかし本来カップラは、ホームラジオに最適化された合理的なFMアンテナでした。 

この“アンテナに見えず、誤解されながら消えていった技術”こそ、今回ラインアンテナに強く惹かれた理由です。

5.まとめ 

「身近すぎるのに、深すぎる」──ラインアンテナはまさにそういう構造物です。普段はただの金具。ただの電源コード。ただのホームラジオです。

しかも、何の説明もしない「見ればわかるだろう」という暗黙の文化を感じます。 

ところが、その“ありふれた日常の部品”の裏側に、「高周波工学・安全設計・コスト最適化・波長マッチング・静電容量結合 」という、とんでもなく深い技術が潜んでいます。

このギャップこそが、ラインアンテナの魅力です。

ラインアンテナは「構造が美しすぎるのに見た目は地味すぎる存在」です。

昭和技術の本質をみたようです。

現代であれば見た目重視で金ぴかのロゴ入りで性能はそこそこで作られます。 

昭和のラインアンテナは今見ると異様に美しいです。

何も説明しないが構造が美しい武骨な昭和の技術者達の息吹を感じさせます。 

2026/09/14

ナショナル ES-901 FMチューナーの修理記録(MPX付加)

 1.概要

ES-901(表側)

ES-901(裏側)

ナショナルのFMチューナーES-901の修理記録です。 1958年、9,800円の真空管モノラル・FMチューナーです。FM黎明期に発売されたナショナル初のFMチューナー1号機です。当時のFM周波数割り当てから受信できる周波数は80MHz~90MHzとなっています。

2.ES-901の変遷 

ES-901は発売時期により、若干の違いがあります。

・初期

初期型は電源トランスの上にヒューズ
電源トランスの上にヒューズ、背面のFM/PUスライド・スイッチ 、電源スイッチ付きボリューム

・中期

中期からヒューズフォルダは電源トランスから分離
電源ヒュースは独立して電源トランス後ろに設置、背面のFM/PUスライド・スイッチ 、電源スイッチ付きボリューム

・後期

電源スイッチ

今まで電源スイッチ付きボリュームでしたが、左下に電源スイッチが配置されるようになりました。

ボリュームをOFFにするとPUに切り替わる

電源スイッチ付きボリュームからPU切替スイッチ付きボリュームに変更になっています。 

3.回路図、駆動図と配置図

(1)回路図 

ES-901回路図「FMラジオの解説と製作」

回路図は昭和33年発行「FMラジオの解説と製作」からの抜粋です。

ES-901回路図「ケース内側より」

ES-901の木製ケースの内側の回路図と全く同じです。ただし、各箇所の電流値が記載されている違いはあります。 

(2)駆動図と配置図

仕様、駆動図、配置図がケース内側に貼られている
ケース内側には回路図以外に使用、駆動図、配置図を一枚にした図面が貼られています。

4.構造

ダイヤル針の背面はアイボリー

木製ケースから出すとダイヤル針の背面板の色がRE-510と同じナショナルが好んで使ったアイボリーです。 

真空管などの配置

6AQ8、6BA6、6BA6、6AL5、6X4の構成です。V3で増幅とリミッタを兼ねていますので、TRIOなどの製品より1球少ないシンプルな構成です。

レシオ検波は、2つの検波器を高精度で揃える必要があります。この時期のダイオードのペアリングではなく、真空管内に同一製造の2つ検波器がある6AL5を品質面では有利と判断して真空管を採用したのだと思います。

フロントエンド

フロントエンドを見ると、後のFM専用ワイヤードパックFM-P1の原型の面影があります。 

小ぶりの2連バリコンでTRIOのような大型3連バリコンではありません。その後のFM多局化には耐えられない混信に弱い宿命をもった過渡期の製品の位置づけです。 

 5.内部 

裏側の状態を確認

裏側を覗いてみます。丈夫な作りで経年劣化で交換が必要になる部品が少ないです。ブロック電解コンデンサ×1、ペーパーコンデンサ×1、電解コンデンサ×2、ボリューム×1ぐらいしか劣化するおそれのある部品が使われていません。

劣化した電源トランスからの配線

ただし、電源トランスからの配線の被覆が劣化して剥がれ落ちで危険な状態なので何本か張替えが必要です。 

6.修理作業

(1)ケース修理

ケース上部の化粧板が剥がれたので修復

木製ケースの化粧板がはがれボロボロなので修復します。 ケースは金属製より木製の方が温度上昇が緩やかで優れた面もありますが強度と耐久性に難があります。

折れたパーチクルボードを補強して修復

背面のパーチクルボードのネジ穴上が左右ともに折れていますので補強を入れ修理します。

ツマミはアイボリーに再塗装

ツマミのアイボリーの塗装が剥げていますので再塗装します。

 (2)劣化部品の交換

修理後の裏側の様子

ブロック電解コンンデンサは劣化の兆候があるので交換します。ペーパーコンデンサ、電解コンデンサを交換すれば終了です。

交換したボロボロに劣化した配線
電源トランス一次側の配線が劣化していて触ると「ポキッ」と音がして被覆が剥がれるほどの重症でした。一次側配線を全て張り替えます。

ダイヤル操作したら糸が切れたので、新しく糸掛けをしました。

これで全ての修理作業は終了です。

(3)試験 

電源試験機で電流を確認
電源試験でAC100V,0.4Aで正常、各箇所の電圧も正常でした。
受信試験の様子

モニターを接続して受信テストをします。FM放送はすぐに受信できましたがトラッキングがずれています。

受信感度とトラッキングを調整すれば全て終了です。なんともあっけなく修理作業はおわりです。

 7.MPX付加

当然、FMステレオ放送開始以前の製品なのでモノラル出力のみです。現代のFMステレオに対応させるためMPX OUT端子を付加してFMステレオ放送を聞けるように改造したいと思います。

(1)検波方式

・レシオ検波の考察

何故、技術的に優れたフォスターシーレー検波ではなく、レシオ検波を選んだのでしょうか。

フォスターシーレー検波はAMノイズに弱く、高精度で調整も大変なリミッターが必要なため高価でもあります。

一方のレシオ検波はリミッターの精度は低くくて安価です。リミッターで抑圧しきれなかったノイズを検波回路の電解コンデンサで除去します。

ナショナルのFMチューナー一号機ですから、失敗は許されません。技術的に確実で信頼性の高いレシオ検波を選定したのだと思います。

・10μFへの違和感

ES-901のレシオ検波回路の10μFにも違和感があります。

FMステレオ・標準化前(1950年代)にもレシオ検波で5μFのFMチューナーはありました。どんな環境条件でもノイズを出さない音質重視の考えから10μFにしたのだと思います。また、コンデンサが経年劣化しても10μFあれば多少容量が減っても音質への影響がないからだと思われます。

レシオ検波や10μFの採用など、どの箇所を見ても「石橋を叩いて渡る」ナショナルの企業風土が色濃く反映しています。

(2)MPX付加

前置きが長くなりましたので本題に入ります。

MPX回路図
 

MPX回路への改造は何通りかためしましたが、上図の回路図が一番良かったので掲載します。

また、10μFでは19kHzのパイロット信号や38kHzのコンポジット信号が取り出せません。ノイズ抑制とMPX信号の取り出しのバランスがとれる5μFに交換してあります。

検波回路を組みなおした様子
付加したMPX OUTケーブル
 ・セパレーション

TRIO AD-5を接続してセパレーションを測定します。

計測中に波形が増減して変動が始まり、レベル低下でリミッターが効かない様子です。初段6AQ8を交換して正常動作になっています。

左右共に1kHz:10dB(6AQ8交換前)⇒20dB(6AQ8交換後)

8.ヒアリング

ヒアリング風景

TRIO AD-5に接続してFMスレテオ放送をヒアリングします。チューニングはシビアです。少しでもズレると音質が劣化しますので精密な選局が必要です。

中低域が厚く量感のある良い音です。奥行はあまりありません。長時間聴いてもつかれない音です。無音状態のときはホワイトノイズが若干聞こえます。スペアナで高調波だらけの出力波形を観測していましたが、音にはそんな気配は微塵も感じられません。AD-5のフィルター・スイッチをONすると音がわずかにクリアになります。想像していたよりずっと良い音のチューナーでした。

9.まとめ 

ES-901は触るとわかる慎重な設計のナショナルらしいFMチューナーです。真逆のTRIOは新進気鋭の最先端ベンチャー企業のように新しい技術を次々投入する攻めの姿勢を見せていました。この時代の多種多様な企業風土が1960年以降のFM文化を育て発展させたのだと思います。

2026/09/11

6BA6を出力管とした低電圧式アンプの製作(試作機)

1.概要

6BA6を出力管とした低電圧アンプ

高周波(RF)増幅管である 6BA6 を出力管として用い、低電圧でドライブするアンプの試作記録です。6BA6は、低電圧動作において隠れた実力を発揮する真空管ですが、私自身低電圧アンプの製作は今回が初めて。まずはヘッドホン駆動およびデスクトップのニアフィールドリスニングを想定した試作機を仕立ててみました。

製作の経緯

数多くのラジオやチューナーを修理していると、行き場のないジャンク真空管が手元に溜まっていきます。私の部品箱も漏れなく「不要球」で溢れていました。

ジャンク真空管の部品箱

その箱を覗きながら、「6AU6や6BA6を使って、低電圧でアンプが作れないだろうか?」と考えたのが始まりです。とはいえ、低電圧動作のノウハウも経験もゼロ。いきなり本番機をつくるのは無謀なため、事前練習としてこの試作機を立ち上げることにしました。

2.回路図

6BA6低電圧式アンプ回路図

(1)特徴 

回路のB電源は標準で42V。G3(第3グリッド)の接続を工夫した「変形スペースチャージ」と、初段トランジスタによる「ハイブリッド構成」を採用しています。

(2)スペースチャージ方式と変形スペースチャージ

真空管の低電圧駆動といえば、カソードのすぐ外側にある第1グリッド(G1)に正の低電圧を加え、電子を強力に引き出すスペースチャージ方式(空間電荷格子管方式)が定番です。

しかし、この標準的な方式で小型アンプを組んでみたところ完全に失敗しました。6AU6や6BA6は格子(グリッド)が密すぎるため、G1をB電源に接続するとグリッド損失が大きくなりすぎ、音が全く出なかったのです。

そこで今回は、G1を入力(信号)、G2をB電源へ接続し、通常はカソードへ繋ぐG3(第3グリッド)をB電源へ接続する「変形スペースチャージ」を採用しました。

解説:真空管の**スペースチャージ方式(空間電荷格子管方式 / Space Charge Grid)**は、カソード(陰極)のすぐ外側に配置した「第1グリッド(スペースチャージグリッド)」に正(プラス)の低電圧を印加し、カソードから電子を強力に引き出す仕組みです。

(3)初段トランジスタ(2SC1815)によるハイブリッド化

RF管である6BA6を出力管として成立させるため、初段に2SC1815を挿入したハイブリッド回路としました。これには明確な目的があります。

・低ゲインの補正:低電圧動作に伴う増幅率(ゲイン)の低下を初段トランジスタでカバー。

・S/N比の向上:ローノイズなトランジスタで信号レベルをしっかり稼いでから真空管へ流し込むことで、残留ノイズを目立ちにくくする。

・バイアス問題の回避とドライブ能力アップ:6BA6のバイアスが浅すぎる問題を回避しつつ、十分な信号振幅を送り込んで出力トランスをクリップギリギリまでしっかり使い切る。

3.製作

6BA6低電圧式アンプ

両脇は006P×2本、背面は単2×4本

ジャンクパーツをかき集めて組み上げた試作機ですが、見た目だけはそれらしく仕上がりました。

電源構成は以下の通りです。

・ヒーター電源:単2乾電池 × 4本

・B電源(通常時):006P(9V)角型乾電池 × 2本(18V〜)

・テスト時:外付けで006Pを最大3本まで順次追加し、高電圧側までの挙動を確認。

 4.プレート電流の測定結果

低電圧増幅・測定結果

6AU6および6BA6を用い、B電源電圧(24V / 33V / 42V / 51V)と出力トランスの一次インピーダンス(7kΩ / 4kΩ / 3kΩ)を変えながらプレート電流を測定・比較しました。

測定している様子
 (1)出力トランスの選定

低電圧動作では出力トランスの選定が非常に重要であることが分かりました。実験上は4kΩの結果が最も良好で、本番機を組む際には汎用品の5kΩトランスが最適と判断しました。

(2)6AU6と6BA6の明確な特性差

・ 6AU6 のデータ(33Vで1.7mA、42Vで2.7mA)と比較すると、6BA6 の方が低電圧下で約2.3倍〜2.6倍も電流が流れやすいことが一目瞭然です。

・シャープカットオフ管の 6AU6 に比べて、リモートカットオフ(可変ゲイン)特性を持つ 6BA6 の方が、この低電圧領域において内部抵抗が低く抑えられ、出力段として非常に扱いやすいことが実測データによって裏付けられています。 

5.ヒアリング

 

ヒアリング風景

回路として動く感触は得られましたが、オーディオで最も重要なのはスペックではなく「音質」です。

試聴にあたっては、ヘッドホンでは評価が甘くなるのを避けるため、FM放送を音源とし、2Way小型スピーカーを鳴らすという厳しい環境でチェックを行いました。

【条件1】6BA6のみ(単体駆動) 

・条件1-1:G3=カソード接続

音量をボリューム位置12時より上げると高域で歪みを感じます。高音はやわらかな音色で中低音は出ません。音自体はきれいだが量感に乏しいです。音量はやや小さいですが夜間のリスニングには十分です。昼間でもニアフィールドであれば必要十分な音量です。

・条件1-2:G3=B電源接続(変形スペースチャージ)

条件1-1と同様に音量をボリューム位置12時より上げると高域で歪みを感じますが歪は少ないです。少し音がクリアで見通しが良くなっています。こちらの方が中低域で少し厚くなって聞こえます。

 

【条件2】 ハイブリッド構成(2SC1815 + 6BA6)  

 

・条件2-1:ハイブリッド化(初期)

ハイブリッド化は音に安定感があります。音に繊細さとつやがでてきてボーカルに色気が感じられます。出力上限または入力上限を超えなければ音は破綻しないがその範囲は狭いです。中低域は一番でています。 辛めの評価としては、音全体に灰色の膜がかかり透明度とクリアさが不足しています。中低域の厚みがもっと欲しい。S/Nの向上は感じられませんでした。ハイブリッド化によりボリュームに少し余裕がでましたが、まだ初段のゲインが高すぎるようです。

・条件2-2:初段ゲイン最適化 + B電源42V

初段のゲインを2~3倍程度に下げた回路とB電源42Vで再調整後のヒアリングです。 初段トランジスタのバッファ効果でしょうか。6BA6への入力の影響もなくボリューム範囲が広がり12時超えても歪まずに改善しました。高域のざらつきがまだ少し残っていますが時間とともに減少しています。 音に適度の重さとうるおいが出て、それなりの透明度もあります。ただし、突き抜けるようなクリアさや透明度ではなく、空気全体に薄く色がまとっています。少しねばりのある中低音がでているが、気持ちよく聴けます。ボーカルに色気があります。 高域寄りの音を重心を少し下げ、ザラツキを減らせればと思います。オーディオとして音質調整してもいいレベルにようやく到達した音質になりました。ただし、まだ好みではありません。

・最終調整

最後に初段トランジスタのベースとエミッタ間に 47pF、カソードに 450μF を入れてから半固定抵抗で微調整しました。 音のバランスが一気に整いました。音だけを聴いたら6BA6シングルだなんてわかりません。これなら夜間のオーディオ用として使えます。真空管の味も十分味わえる出来上がりです。音楽が楽しいアンプに仕上がりました。

 

【条件3】 B電源電圧の比較テスト(条件2-2の回路ベース)


・条件3-1:B電源 33V

条件2-2の回路構成でB電源33VとしましたがB電源42Vと同じ音がします。驚きですが、音質は42V電源と遜色がありません。最大音量も下がったようには感じらずほぼ同等です。ただし、半固定抵抗の再調整は必要です。

・条件3-2:B電源 24V

条件2-2の回路構成でB電源24Vの音は、全体的に音がおとなしくなった印象です。中低域に重心が下がったバランスで聴きやすい音です。高域のざらつきは極わずかだけ聞こえます。音量も少し小さくはなりましたが、夜間のリスニングでは十分な音量です。十分実用になるレベルの鳴りっぷりです。ただし、過大入力レベルに対する余裕は少なく、半固定抵抗での調整は限界ぎりぎりです。

・条件3-3:B電源 15V

条件2-2の回路構成でB電源15Vの音は、どのように調整しても歪んでNGでした。回路を見直し再設計すれば修正できるかもしれません。限界までの低電圧を目指している訳ではなく、あくまで音質優先なので、低電圧の動作確認はここまでとします。

 

6.まとめ

正直、6BA6で本気のオーディオアンプが製作できるとは思いませんでした。低電圧アンプでは珍しく、スピーカードライブできます。小音量ですが音は良いです。真空管の音が聞けるアンプに仕上がりました。RF管の6BA6ですが低電圧でこそ本領を発揮する真空管でした。はじめた本人も驚く結末でした。

 

7.今後の課題(周波数特性の測定)

今回は聴感上のフィーリングを中心に評価を行いましたが、今後は周波数特性等の測定を行い、6BA6低電圧アンプの電気的な特徴をさらに掘り下げて可視化していく予定です。