2026/04/05

SANSUI TU-777 AM/FMチューナー修理記録

1.TU-777という機種の位置づけ(歴史的背景)

正面から見たTU-777
SANSUI TU-777 AM/FMチューナーの紹介です。1968年3月に37,800円で発売されたトランジスタ式AM/FMチューナーです。トランジスタ式チューナーの過渡期に位置する意欲的な製品です。大型フライホイールやFM4連バリコンなど贅沢な機構が盛り込まれています。

TU-555は1968年6月と数ケ月遅れの発売ですが、 FETには2SK19Aが採用され、FM用だけは大型IFTですが、それ以外はトランジスタ用の小型IFTが採用されています。1970年6月発売のTU-666も同様にFETは定番化された2SK19AとFM用だけは大型IFTですが、それ以外はトランジスタ用の小型IFTが採用されています。このことからもTU-777がチューナー技術が変遷する狭間に位置する製品であることがわかります。

しかし今回入手した個体は、**フライホイールの亜鉛崩壊(ジンク・ペスト)**という致命的な問題を抱えていました。さらに、前オーナーによる修理の影響で発振回路にも異常があり、調整不能な状態となっていました。

本記事では、崩壊寸前のフライホイールの修復と、発振回路の再調整を中心に、その修理過程を記録したものです。 

本記事では以下の点を扱います
・ジンクペスト崩壊フライホイールの修復(ほぼ前例なし)
・発振回路のトラッキング不良の実測修正
・前期/後期構造差の実機検証

外観と構造

TU-777の背面

背面にはアンテナ端子のほか、入力感度を切り替えるDIST./LOC.スイッチ、セパレーションおよび出力レベル調整用ボリューム、AMバーアンテナ、RCA出力端子が配置されています。

TU-777の上から見た内部

内部を確認すると、大型のIFTが目を引きます。これはトランジスタ式チューナー黎明期の特徴であり、本機が過渡期の設計であることを示しています。
フロントエンドにはMPF102が採用されており、その後主流となる2SK19A以前の構成である点も興味深いところです。

2.今回の個体の問題点(フライホイール崩壊・発振回路異常)

フライホイールの崩壊 

今回の修理で最初に気が付いたのはフライホイールの劣化でした。TU-777では、フライホイールの亜鉛ダイキャストが経年劣化により崩壊する個体があります。本機はその典型例であり、再利用可能なレベルまで修復できるか検証しました。

フライホイールがひび割れて劣化した様子

上の写真では、直径6cmの大きなフライホイール がひび割れて劣化していることがわかります。フライホイールの素材は亜鉛ダイキャストで湿度や保管状況が悪いと腐食・劣化します。TU-555,TU-666より大きな直径6cmのフライホイールなので異なる機種からの流用はできそうにありません。

取り外したフライホイール

フライホイールを取り外して詳細に状態を確認します。全体的に激しく劣化していて深いクラックが入っていることが判ります。フライホイールを机に置いただけで破片が飛び散るほどの末期症状です。このような状態は亜鉛崩壊(ジンク・ペスト)と呼ばれています。

3,フライホイール修復(材料・工程・注意点)

フライホイール修復 

ガイアノーツ M-07Gn 瞬間カラーパテ
この末期症状のフライホイールを修復してみました。ガイアノーツ(Gaianotes) M-07Gn 瞬間カラーパテ グレー 20gを使用します。このM-07Gnは、着色(グレー)のあるパテ状の接着剤であることが特徴です。また、粘度も低く遅硬度ジェルで深いクラックでも浸透させることができます。通常の接着剤とは異なりパテなので凹みや溝をふさぐことができ、深いクラックでも塞ぎ強度を復元させることができます。また、パテでコーティングすることで湿度から守られるので更なる劣化を防止します。

M-07Gnのジェル状のパテを塗った様子

ガイアノーツ(Gaianotes) M-07Gnをクラックに浸透させ溝が埋まるまで何回も繰り返し塗る必要があります。完全に乾燥するには1日程度は必要です。

円周部の再生と仕上げ 

フライホイールの円周部を研磨した様子

フライホイールの円周部は中央が凹みフライホイール全体が歪んでいます。そのため、円周部を平らに研磨します。電動ドリルにフライホイールを取り付け、#220または#360ぐらいの紙やすりで上の写真にように丹念に平らになるまで研磨します。この作業によりフライホイールの形状が整うことでバランスが戻り回転がスムーズになります。上の写真を見るとクラックの隙間の隅々にパテが浸透していることがわかります。この状態であれば、フライホイール全体の強度もある程度は回復しており、電動ドリルで高速回転させても簡単に崩壊することはありません。
 
作業上の注意:フライホイールの接着剤の乾燥には1日以上かけて完全に乾燥させてください。接着剤の浸透が甘かったり乾燥が足りないと、電動ドリルによる回転でフライホイールが崩壊して破片が飛ぶ可能性があるので十分に注意して作業を進めてください。また、研磨により亜鉛の破片や非常に細かな粉が舞い散るのでマスク、ゴーグルなどを着用して作業をしてください。 
円周部にパテを塗った状態
研磨した円周部は腐食しない様に再度薄くパテを塗ります。パテが硬化するまで、また1日かかります。上の写真はパテが硬化した状態です。円周部に塗ったパテにクラックのパテによる乾燥ムラによるしわができています。クラックに十分パテが浸透していた証拠でもあります。
銀色に塗装したフライホイール
パテだけでは下地などが透けて見えて見栄えが悪いので補強も兼ねて塗装をします。軸部分に塗料が付かないようしっかりとマスキング(養生)をした上で、**油性ラッカースプレー(銀色)**を使用して塗装しました。油性ラッカーは塗膜も強く、金属らしい自然な仕上がりになります。これで、3日間かかったフライホイールの修復は完了です。
 
再組付けと操作感 
 
フライホイールを取り付けた様子
修理したフライホイールを取り付けて、糸掛けを新しく張り直します。フライホイールの直径は、TU-777が6cm、TU-555とTU-666は5cmです。TU-777のダイヤルつまみを回した感触は少し粘るような重みがありますが軽く回すことができます。細かな選局がしやすい操作感です。TU-555とTU-666のダイヤルつまみは回すと軽すぎます。SANSUIさんのチューニングの操作感へのこだわりが感じられます。
 
4.本体修理(電源・IFT・フロントエンド) 

本体修理と電源回路
 
フライホイールの修理にかかりっきりでしたが、ようやく本体の修理です。
取り外した劣化部品
まずは、劣化部品は全て新しい部品に交換します。 
劣化部品交換後の様子
電源回路の1000μF×3
電源回路の基板には200μF×1、400μF×2の構成でしたが、同じ容量の手持ちがなく横型電解コンデンサが1000μF×3本に交換しました。電解コンデンサの容量増加は音質に影響するのでヒヤリング時に確認することとします。
TU-777の消費電流
ここでようやく通電です。TU-777の消費電流は0.18Aで正常のようです。更に電源トランスや大型コンデンサの発熱もなく正常であることを確認します。 最後に電源回路などの電圧も確認して正常でした。
 
5.発振回路のトラッキング異常と原因究明 
 
発振回路の異常 

TC2の破損で外付けでトリマが取り付けてある様子
今回のTU-777は、修理の痕跡はないものと思っていましたが、チューナー裏側のFMバリコンのTC2のトリマを破損したらしく、20pFのトリマを外付けして修理してあります。

初期のTU-777のバリコン用トリマの様子
前期のTU-777のFMバリコンのトリマは、現在のバリコンと一体型ではなく、上の写真のような外付けタイプです。後期になるとFMバリコンに直接ネジで調整できるトリマに改善されています。構造的に弱かったのでしょう、調整しすぎて破損したのだと思います。

TC2のトリマを新しく交換

前オーナーさんが取り付けた斜めのトリマは、新しいトリマと交換して上の写真のように修理しました。

フロントエンドの内部
フロントエンドの蓋をはずして内部を確認してみます。まず気が付いたのはフェライトコアが3個ヒビが入っていて回すことができません。コアを粉々に砕いて新しいコアと交換します。

発振回路のSE3001が2SC1047に交換されている様子
更にフロントエンドの石を確認するとMPF102,SE5050,SE3001までは同じですが、発振回路のSE3001が2SC1047に交換されています。しかも抵抗とセラミックコンデンサも交換されていました。

発振回路の10pFのリード線が外れている様子

よく見ると発振回路の10pFのリード線が外れています。外れるはずがないので不自然です。とりあえず修理します。

AMとFMの受信試験

この状態でTU-777を調整してみます。

フロントエンドの回路図
発振回路の回路図

発振回路のL105コイルとTC104トリマでトラッキング(周波数範囲)を調整します。 AMとFMは受信でき音はでました。FMダイヤル目盛りの周波数を合わせようとしますが、78MHzが受信できると90MHzが範囲外にずれます。90MHzを受信できるようにすると78MHzが範囲外にズレしまいます。発振回路のトリマとコイルでは正常にトラッキング調整できませんでした。前オーナーさんが修理した影響で発振回路の周波数範囲がズレたようです。 

6.回路定数変更によるトラッキング修正 

トラッキング調整の修正 

発振回路の10pFを8pFの交換した様子

先ほどの発振回路のC127の10pFのリード線が外れていたのは、周波数範囲を正常にしようと試みた痕跡だったようです。修理方法としては発振回路のC127を10pFを8pFに容量を減らして修理します。8pFにすることで発振周波数を高くして、トラッキングの周波数範囲を狭くすることができます。この8pFへの変更により、コイルとトリマでダイヤル目盛りどおりの周波数帯域幅での受信できるようになりました。このコンデンサ容量は数点入れ替えて試験した結果、最適な容量として8pFとして選定しました。

右上2番目のAM用IFTのコア破損

 AMがノイズばかりで受信できません。簡易的に順に調整してみると2段目のIFTのコアが破損して回すことができません。一番奥までねじ込んで破損して詰まってしまった模様です。コアを交換して仮調整したところNHKが受信できるようになりました。また、この状態でシグナルメーターも振れるようなりました。

7.最終調整と測定結果

修理が完了したので調整です。サービスマニュアルに沿って調整をします。受信レベルおよびトラキング、シグナルメータの振れを調整します。
Sカーブを測定しますがバランスが崩れていたので1N60×2本の検波用を交換します。Sカーブは正常になりましたが、ノイズが多いのが気になります。
IF波形
IF波形を測定しますが10.7MHzは正常です。 トラキング調整により受信周波数は定格どおり76MHz~90MHzの範囲で受信できるようなりました。セパレーションはカタログでは35dBですが、実測すると30dBでした。ステレオランプの点灯を調整して終了です。
最後にAMも受信レベルを調整します。トラッキングは正常なので調整は不要でした。  
TU-777の調整とヒヤリング
9.音質評価と総括
 
修理後のヒヤリングです。部品を大量に交換したので、最初はややこもって聴こえますので、1時間程度はエージングします。1時間後にヒヤリングします。S/Nは良好ですノイズ感はありません。音のバランスは中低域よりです。繊細ですが厚みのあるやわらかで上品な音質です。高域は過不足なしのバランスですが抜けの良い音ではなく、最新のチューナーのような高域のサラサラ感はないです。予想通り中低音が充実したのは、電源基板の電解コンデンサの容量を増やした影響かと思います。
AMについては付属のアンテナでは受信感度はやや弱いです。音はノイズも少なくバランスの良い聴きやすい音質に仕上がっています。 

今回のTU-777の修理には苦戦しましたがどうにか修理できました。元オーナーさんが苦労しながら修理した痕跡が残り、当時の息遣いまで感じるようなチューナーです。修理後は非常に安定して動作するのはさすがSANSUIです。トランジスタ式の過渡期のチューナーですが、できる限りの機能を盛り込んだ意欲的な製品であることがわかりました。

2026/03/25

ナショナル RE-510 回路図の公開

 

RE-510  FMチューナー

ナショナル RE-510の紹介です。1963年頃の製品で6,800円の製品です。本記事では、これまで未公開だったRE-510の回路図を、実機から新たに起こして公開します。
さらに、1958〜1964年にかけてのナショナルFMチューナーの系譜を一次資料から再構成し、RE-510の技術的・歴史的な位置づけを明らかにします。

RE-510回路図の公開

作成した回路図は以下の計3枚になります。

RE-510回路図(1/3)

RE-510回路図(2/3)

RE-510回路図(3/3)
以上がRE-510の回路図です。回路図はヘラジカ資料室からダウンロード(ナショナル RE-510 回路図 )できます。

回路図が未公開の謎

以前、数台修理をしたことがあるチューナーです。何故かRE-510の回路図は公開されていません。RE-510とセットで使用するFMアダプターRD-511の回路図は公開されています。RE-510の回路図だけが公開されていないのが不可解です。回路図を公開したくない理由があったのでしょうか。

RE-510の特徴

回路図を起こしてまず感じたのは、想像以上に簡略化された構成であるという点でした。この回路図から読み取れるRE-510の特徴は以下の通りです。
•     17EW8
RF増幅とミキサーを1本でまかなうための採用。コストと構成の簡略化が目的。
•     IFTをフロントエンドと一体化
部品点数を減らし、調整箇所を最小限にするための構造。
•     初期IFTで2段構成
必要最低限の選択度を確保しつつ、回路規模を抑えるため。
•     AGCなし
簡易型チューナーとしての割り切り。回路を簡素化しコストを下げるため。
•     2連バリコン
RFと局発の同調のみを行う最小構成。FM-P1の簡略化路線を継承。
•     MPX出力
外付けのFMアダプタRD-511でステレオ化するための出力端子。
RE-510単体ではモノラルですが、FMアダプタRD-511と組み合わせることでFMステレオ放送を受信できます。
当時のFMステレオ普及期に合わせ、必要最小限の構成でステレオ対応を可能にした設計と考えられます。


FMチューナー系譜の変遷

ナショナルのFMチューナーの系譜を追っていくと、1958年のES-901を起点として、
その後のモデルがどのように簡略化され、普及機として整理されていったかが見えてきます。

系譜図 

ES-901(1958)  

 └── AS-907(1958)

     └── FM-P1(1958)

        ├── RE-510(1963)※本作:FM-P1の簡易版 

        └── EUL-FMP2(1964)

 
最初期の ES-901(1958) は、FM黎明期の製品らしく構成が複雑で、高周波・中間周波ともに本格的な設計が採用されています。

同年の AS-907(1958)  はES-901の設計思想を踏襲しつつ、部品点数や構成を見直した整理型のモデルです。

同じ1958年に登場した FM-P1(1958)  は、FM普及を目的として大幅な簡略化が行われたモデルで、以降のナショナルFMチューナーの基礎となる構成がここで確立されます。

RE-510はこの系譜の中でも特に簡略化が進んだモデルであり、FMステレオ普及期における価格帯の調整という役割が強く現れています。FMアダプターRD-511と組み合わせる方式を採用したのも、当時の価格戦略の一環と考えられます。

翌年の EUL-FMP2(1964) では、FMステレオ時代に対応した新しい構成が採用され、
RE-510以前の簡略化路線から、ステレオ対応の本格チューナーへと移行していきます。

1958年から1964年にかけてのナショナルFMチューナーは、複雑な初期構成から簡略化、そしてステレオ対応へと段階的に変化していったことが、一次資料から確認できます。


RE-510の位置付け

RE-510はFM-P1の流れをくんだ簡易型FMチューナーで、FMステレオ放送の普及期に合わせて機能を最小限に抑えた廉価モデルです。FMチューナー部とFMアダプタRD-511を分離した構成も、購入価格を抑えるための設計と考えられます。RD-511と並べて使用することを前提としたデザインで、セットとしての統一感が重視されています。
このように、RE-510は「RD-511のための簡易チューナー」という性格が強いモデルです。
 
回路図が公開されなかった理由(推測)
 
RE-510の回路図は、他のナショナル製FMチューナーと異なり公開されていません。
その理由として、以下の可能性が考えられます。

可能性1:技術的に新しくないため公開価値が低かった
RE-510はFM-P1の簡易版であり、技術的には既存構成の再利用が中心で、新規性が少なかった。
可能性2:RD-511とのセットとして見せるため
技術的には他機種とも接続可能だが、RE-510はRD-511と並べて使用する前提でデザインされており、“専用チューナー”として見せた方が販売上わかりやすかった可能性がある。
可能性3:社内資料の整理上の理由
廉価版モデルは、詳細資料が省略されることが当時のメーカー資料では珍しくない。

これらを総合すると、RE-510は技術資料としての公開よりも、製品としての位置づけが優先されたモデルであった可能性が高いと考えられます。 
以上の点を踏まえると、RE-510は技術的背景だけでなく、当時の市場環境や製品戦略とも密接に結びついたモデルであったことがわかります。 
 
最後に 

RE-510は廉価版でありながら、FMステレオ普及期のナショナルが果たした役割を象徴する製品です。今回の回路図公開により、これまで不明だったRE-510の技術的実像が明らかになりました。本記事が、RE-510の実像を理解するための基礎資料となれば幸いです。
 

参考資料
以下は機能比較に使った資料類になります。 
 
ES-901(1958)
以下の資料は、オーム社編「FMラジオの解説と製作」昭和33年8月20日発行にES-901が掲載されていたものです。また、「無線と実験401回路集」昭和33年発行にES-901が掲載されています。

ES-901仕様(1/2)

ES-901仕様(2/2)

ES-901回路図

AS-907(1958)

AS-907の発売時期(1958)の特定には、ナショナル 電化製品カタログ 昭和33年に ES-901,AS-907が揃って掲載されたことを年代特定としています。 

AS-907回路図
AS-907回路図はFMチューナー本体に掲載されたものです。

FM-P1(1958) 

FM-P1の回路図および詳細はn.p.cを参照してください。以下には参考にしたFM-P1ワイヤードパックの回路図やFMチューナー使用例の回路図です。 

FMステレオ製作読本よりFM-P1回路図と解説

1964.5ラジオ技術よりFM-P1のFMチューナー使用例

FM-P1の発売時期(1958)はn.p.cより特定しています。national parts fan circle(n.p.c) 1958年 No11「FMの理論と実際(第3回)誰でもFM受信機が作れる」にFM-P1の詳細が掲載されています。下記のリンク先でn.p.c.資料が参照できます。

ラジオ工房のFM-P1 n.p.c.資料:5m-2npc 1958-11 ナショナル FM専用チューナーの作り方 FM-P1について 

n.p.cは松下電器・部品事業部がアマチュア向けに発行していた機関誌です。参考として電波科学に掲載していた広報を載せておきます。

n.p.c機関誌の雑誌案内(1/2)

n.p.c機関誌の雑誌案内(2/2)

RE-510(1963)

ナショナル 電化製品 カタログ 昭和38年版に掲載されていることから発売年を特定しています。

EUL-FMP2(1964) 

ラジオ技術(1964.5)に掲載されていた資料です。

EUL-FMP2概要(1/2)
 
EUL-FMP2概要(2/2)

EUL-FMP2回路図
推奨回路例

2026/03/06

SONY 8F-36 AM/FM ソリッドステートファミリ 2バンドホーム型

SONY 8F-36 AM/FM ソリッドステートファミリ 2バンドホーム型ラジオの紹介です。1966年、11,000円の製品です。 312×190×100mm、2.3kg、単一×4個(6V)、10cmスピーカーのホームラジオです。FMにはメサ型トランジスタを採用した高感度設計です。

大きな操作しやすいダイヤルツマミとFM/AM切替スイッチ、トーンコントロール、ボリュームの順に並んだツマミを意識しないで操作できる自然で高級感のあるデザインです。

背面のパーチクルボード
背面パネルの内部と回路図

回路図
電源は電池のみで持ち運びを重視したのか、もしくは電源ノイズを排除したのかったのかもしれません。FMロッドアンテナを採用していますが、外部アンテナ端子はありませんでした。外部出力はイヤホンジャックと録音ジャックが背面にあります。フェライトバーは長さ余裕のある16cmを採用しています。

上の写真の様に修理のため分解・清掃をします。

左上:フロントエンド、右上:アンプ回路、右下:IF回路
FM/AM切替スイッチ
FM/AM切替スイッチは接触が悪いので分解・清掃します。
交換した劣化の激しい電解コンデンサ

劣化部品は全て交換してから動作確認をします。

AM、FMともに受信しますが音が小さすぎます。 アンプ回路に正弦波を入力すると正常にスピーカーから音がでます。IF回路の利得が不足していると推定しました。

IF回路基板

取外した型番不明のNPNトランジスタ

IF回路のトランジスタを交換のため取り外します。回路図ではPNPでしたが、測定するとNPNです。IF回路はトランジスタが極性反転されていました。トランジスタはOEMらしく型番不明です。代替として2SC535×3個に交換します。

2SC535に交換したIF回路

再度、動作確認をします。AM放送の音量は正常になりました。やはり、IF回路の故障でした。FM放送はノイズと音割れです。FMフロントエンドのトランジスタ不良が濃厚です。

メサ型トランジスタ:2SA455

FMフロントエンドには、メサ型トランジスタ2SA455×2個が搭載されています。PNPでは驚異的な高性能トランジスタです。基本、2SA45×以外に代替品はなく、入手困難な絶滅危惧種のゲルマニウムトランジスタです。

2SA376×2個に交換した様子

2SA455:材質Ge、fT=300MHz、Cob=0.6pF、Ic max=10mA

2SA263:材質Ge、fT=180MHz、Cob=2pF、Ic max=5mA

2SA263:fT=180MHzとFM帯域の要件を満たすトランジスタです。 2SA455と交換してみましたが動作はNGでした。利得が足りないのかもしれません。

2SA376: 材質Ge、fT=50MHz、Cob=0.6pF、Ic max=10mA

2SA376は Qと利得は良好ですが、fT=50MHzと帯域が狭くFMのRFやMixには要件を満たさない不向なトランジスタです。手持ちのトランジスタがこれしかなくMixの代替品として試しに交換してみました。動作はOKです。更にRFのトランジスタと交換してみます。驚いたことに十分に実用になりえる動作で感度も十分です。2SA376のスペックはfT=50MHzですが、実際はfT=100MHz程度の性能を持っていたことになります。

2SA455の代替品は下位互換として2SA376に決定しました。

検波用ダイオード
 最後に残ったのはサッーというノイズで調整してもとれません。FMモノラルでノイズが入ることから検波用ダイオードの不良が疑わしいです。検波用ダイオードをIN34A×2個に交換してノイズは解消しました。
修理が完了したラジオ内部

最終的な動作確認をします。AM放送は受信感度、音質などノイズもなく良好な動作です。 FM放送は、隣接チャネルが近くにあると影響を受けやすく不安定になります。ノイズももう少し少ない方が良いと思いますが、この当時の技術では限界です。

外部アンテナを接続した様子

FMフロントエンドにPNPトランジスタでは感度は不足ぎみです。FM用ロッドアンテナでは受信レベルが足りません。FMは強電界地域での使用を前提にしたラジオなのかもしれません。外部のFMアンテナ端子が欲しかったです。上の写真では、ラジオのアンテナ同軸ケーブルに300Ωの外部アンテナを接続したところ受信感度は良好でした。

操作感も良く高級感のあるホームラジオです。あと2~3年経っていればフロントエンドも改良され良質なFM放送が聴けたかと思います。時期尚早で少し残念な製品です。 

SONY 8F-36は、1966年の製品なので回路全体が劣化していました。また、PNPトランジスタでFMフロントエンドを構成した、代替部品が入手困難で修理がむずかしいラジオです。この時代以降は、高性能なNPNトランジスタやFETに置き換わりますが、それ以前の初期のFMラジオです。IF回路のトランジスタは回路図ではPNPですが実際はNPNに極性反転して実装されているとから、急速に半導体技術が進んでいた時代の製品であることがわかります。

同時期に8F-38、8F-48とFMステレオアダプタによりFMステレオラジオが販売されています。真剣にFMステレオを聴きたいユーザー向けの据置型の製品です。8F-36は気楽に毎日ラジオを楽しむためのホームラジオとしてユーザーは棲み分けされています。FM放送はモノラルですが良質のFMを聴かせる大人のラジオです。ホームラジオですが当時の技術を惜しみなく投入したFM時代の幕開けを感じさせる製品です。