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2026/10/25

SANYO SFT-1 FMチューナー MPX OUT付加と修理記録

SANYO SFT-1 FMチューナー MPX OUT付加と修理記録

1.概要 

SFT-1正面

SFT-1背面

SANYO SFT-1 FMチューナーの紹介です。 1958年、9,500円の三洋電機から初のFMチュ-ナーです。

横幅370mmの大きな堅牢な鉄製筐体のFMチューナーです。全面が鉄板で囲まれたここまで堅牢なFMチューナーは初めてです。

ナショナルES-901のような家庭に置いて似合うラジオではありません。デザインが武骨なため家庭の和室や洋室にも合わず、会社の事務所などに置くと似合いそうです。当時はSANYOの製品は一般家庭では見ませんでしたので業務用機器が多かったのかもしれません。 

・回路図

SFT-1 回路図
SANYO SFT-1の回路図は、「FMラジオの解説と製作 オーム社 昭和33年8月20日初版発行、昭和41年6月30日第9版発行」に掲載されています。

真空管は、6DT8,6BA6,6BA6,6AL5,6X4の構成です。ナショナルES-901と瓜二つの回路構成です。 ナショナルもSANYOも標準的で破綻のない手堅い回路を採用しています。回路図の手堅さは社風が大きく影響しているものと思います。

初段がナショナルES-901は6AQ8でSANYO SFT-1は6DT8との違いはあります。互換性はありますが、ヒーター電流は6DT8(0.3A)から6AQ8(0.43A)、6AQ8の方が僅かに高ゲイン(高感度)かつ低ノイズ(S/N比向上)かと思います。6AQ8への差し替え後はフロントエンドの再調整は必要です。 

2.修理作業

・分解

SFT-1を分解した様子 

分解すると本体カバーの剛性がよくわかります。通常はコの字型カバーを上から被せますが、 SFT-1は両側がコの字型で、前後の金属板と底板を組み合わせると箱型形状になっています。この形状は、両端のネジで天板からの圧力をコの字で受け止める従来の構造とは剛性が段違いです。

剛性の高いケース

背面板も鉄製メッシュで、ES-901のようなパーチクルボードの破損などは一切ない構造です。 

通気は天板、底板、背面の3方向にメッシュ構造として、筐体全体が鉄製で放熱するため発熱対策が万全です。この発熱対策により各部品の経年劣化もすくなく、剛性筐体により部品へのストレスも少ない理想的な筐体かと思います。その証拠に本体カバー内側のススは薄く全体についているだけで、局所的に激しく焼けるような痕跡は皆無です。

高さ20mmの足

1点角忘れてました、筐体の4本の足が特徴的です。通常のゴム足ではなく、高さ20mmもある細いくて硬い円錐状の足です。 これば底板からの通気性を考慮したものと思います。徹底した発熱対策が施されています。

SFT‑1の円錐状の高足は、昭和の民生機ではほぼ見られず、 同様の構造を採用していたのは TRIO の初期チューナーだけです。 これは両社が家庭向けデザインよりも、通信機的な剛性・放熱構造を優先した 共通の設計文化を持っていたためと思われます。 

状態の良いケースの塗装

更にもう一つ、この本体カバーを水洗いして激しい汚れを落としました。その下から現れたのは当時のままの美しい塗装です。表にも裏にも一切のサビがない優秀な塗装です。

・目視確認 

前オーナーさんからは、「コンデンサを入替したが音がでませんでした」 との販売コメントのある製品です。

内部を覗いて見ます。

裏側の配線の様子

SFT-1は劣化する部品点数が少ないチューナーで、その劣化すると思われる部品が交換されていました。

ブロック電解コンデンサは撤去され電解コンデンサ×2個に置き換わっています。ペーパーコンデンサはフィルムコンデンサに交換されています。意味は不明ですが何故か数十pFのコンデンサが数点交換されています。

重要なフロントエンドの同調回路にまで手を加えていました。部品交換による影響がなければよいのですが。 

・配線チェック 

配線を全数チェックしましたが正しい配線です。ただ気になるのは、電源トランスの表面に油が染み出て固着して光っています。電源トランスが発熱(過電流)した形跡だと思います。

配線が正しく、電源トランスが発熱する過電流であると想定すると疑わしいのはショートです。 

6X4の4ピンがショート

配線をチェックしているときに、6X4の4ピンの配線がソケットの固定リベットに接触しています。 ヒーターがショートしています。音が出るはずもありません。電源電圧をチェックしなかったのでしょう。この部分を再度ハンダすれば修理は完了です。

・電源試験 

電源試験で電流を測定

原因らしき箇所を発見・修理したので、電源を入れてみます。 電流は0.32Aで安定しています。各箇所の電圧を測定して正常です。

・動作確認

OUT PUTにモニター接続してSFT-1の音だし試験をします。あっさり、FM放送が受信できました。拍子抜けです。6X4のヒーター配線のショートを直しただけです。 

・トラッキング

 トラッキングが大幅にズレています。トリマやコイルを調整しますが、78~83MHz近辺しか受信できません。同調回路のコンデンサを交換した影響です。

同調回路の二次側コンデンサが交換されている
写真では青いコンデンサが交換されたものです。回路図では23pF、交換されたコンデンサは22pFでした。周波数のズレ幅が非常に大きいので容量差1pFではないかと思います。 また、同調回路の一次側コンデンサも交換されています。回路図どおりのコンデンサに交換しても回復できそうにない繊細な回路です。

ためしに、23pFにしてみましたがもっとズレ幅が広がります。元の部品が残っていないのが悔やまれます。

トリマへの交換
仕方なく、20pFトリマを取り付けての実機調整としました。調整はある程度できたのですが、ダイヤルスケール目盛り幅で上限は2MHzほど短かくなってしまいました。受信できる周波数範囲は78MHz~90MHzです。但し、80M㎐のダイヤル目盛に針を合わせても90M㎐で、ダイヤル目盛は88M㎐で、これ以上はツマミは回せません。
このチューナーは調整幅が極端にすくないので、繊細なバランスが崩れてしまったことまでは修理出来ませんでした。直して直せないでもありませんが、部品交換しながらの調整で時間もかかりそうなのでここまでの修理とします。

3.MPX OUT付加

MPX OUTを付加した回路図

モノラルFMチューナーですから、FMステレオ放送を聞くためにMPX OUTを付加します。

MPX回路に改造

部品点数も少なく簡単に配線することができました。

ヒアリング風景

TRIO AD-5と接続して音だし試験をします。これも簡単に左右から音がでます。動作にも不具合や不安定さはなさそうです。

・セパレーション 

セパレーションを測定します。

セパレーション(1kHz): 15dB

・ヒアリング

FMステレオ放送は、上下の帯域は欲張らずにバランスの良い音ですがやや高域よりでしょうか。音質は真空管チューナーではあまり聞いたことのない、やや硬めのタイトな音がします。ノイズはほんの僅か電源ノイズのブーンとホワイトノイスのサーッの2種類が混じります。ホワイトノイズはAD-5のフィルターONで消すことができます。MPXは十分に実用になる範囲で改造できたようです。このチューナーの構造の影響を思わせるタイトで硬めの音が印象に残ります。

4.まとめ

SFT‑1は、私の生活圏の民生機文化とはまったく異なる構造のFMチューナーです。筐体は必要以上に大きく、内部の本体シャーシも民生機では見たことがないほど余裕を持って作られています。この“ゆとりのある構造”が、剛性・放熱・劣化の少なさ・改造の容易さのすべてを支えており、民生機では絶対に感じられない「気配のなさ」を生んでいるのだと思います。

分解しても、修理しても、触っても、民生機のような文化的な匂いや癖がほとんど感じません。製品としての方向性が完全に民生機から外れていて、通信機や業務機の系統に属するチューナーです。鉄製の箱型筐体、3方向メッシュの放熱構造、高足による底面通気、合理的すぎる端子配置──どれもが家庭用ラジオの文化とは別の世界の設計思想です。

内部構造は単純な回路なのに、部品配置の自由度が異様に高く、ラグ板なしでどんな回路でも組めそうな合理性を持っています。これは民生機ではまず見られない構造で、私には理解しきれません。触ってようやく少しだけ感触がつかめる程度で、普通に見ただけでは気配すら感じない機種です。

今回の修理作業で、業務用機器が過酷な環境に耐えるために持つ構造の強さをまざまざと感じました。民生機にもこの剛性と放熱構造がほしくなる、そんな修理記録でした。

5.定格 

型   式 : 高周波1段付スーパー・ヘテロダイン

受信周波数帯:FM帯 80~90Mc

中間周波数 :10.7Mc

使用真空管 :6DT8 高周波増幅および局部発振混合

       6BA6×2 中間周波増幅

       6AL5 FM レシオ検波

       6X4 電源整流

ダイヤルライト:6.3V 0.2A

感    度 :25μV/30mV、S/N 30dB

出 力 電 圧:500μV 入力 30% 変調 0.5V

        500μV 入力 100% 変調 1.1V

電    源 :50~60c/s 90~100~110V(ヒューズ切替式)

消 費 電 流:20VA

形    状 :370×120×150mm


2026/09/14

ナショナル ES-901 FMチューナーの修理記録(MPX付加)

 1.概要

ES-901(表側)

ES-901(裏側)

ナショナルのFMチューナーES-901の修理記録です。 1958年、9,800円の真空管モノラル・FMチューナーです。FM黎明期に発売されたナショナル初のFMチューナー1号機です。当時のFM周波数割り当てから受信できる周波数は80MHz~90MHzとなっています。

2.ES-901の変遷 

ES-901は発売時期により、若干の違いがあります。

・初期

初期型は電源トランスの上にヒューズ
電源トランスの上にヒューズ、背面のFM/PUスライド・スイッチ 、電源スイッチ付きボリューム

・中期

中期からヒューズフォルダは電源トランスから分離
電源ヒュースは独立して電源トランス後ろに設置、背面のFM/PUスライド・スイッチ 、電源スイッチ付きボリューム

・後期

電源スイッチ

今まで電源スイッチ付きボリュームでしたが、左下に電源スイッチが配置されるようになりました。

ボリュームをOFFにするとPUに切り替わる

電源スイッチ付きボリュームからPU切替スイッチ付きボリュームに変更になっています。 

3.回路図、駆動図と配置図

(1)回路図 

ES-901回路図「FMラジオの解説と製作」

回路図は昭和33年発行「FMラジオの解説と製作」からの抜粋です。

ES-901回路図「ケース内側より」

ES-901の木製ケースの内側の回路図と全く同じです。ただし、各箇所の電流値が記載されている違いはあります。 

(2)駆動図と配置図

仕様、駆動図、配置図がケース内側に貼られている
ケース内側には回路図以外に使用、駆動図、配置図を一枚にした図面が貼られています。

4.構造

ダイヤル針の背面はアイボリー

木製ケースから出すとダイヤル針の背面板の色がRE-510と同じナショナルが好んで使ったアイボリーです。 

真空管などの配置

6AQ8、6BA6、6BA6、6AL5、6X4の構成です。V3で増幅とリミッタを兼ねていますので、TRIOなどの製品より1球少ないシンプルな構成です。

レシオ検波は、2つの検波器を高精度で揃える必要があります。この時期のダイオードのペアリングではなく、真空管内に同一製造の2つ検波器がある6AL5を品質面では有利と判断して真空管を採用したのだと思います。

フロントエンド

フロントエンドを見ると、後のFM専用ワイヤードパックFM-P1の原型の面影があります。 

小ぶりの2連バリコンでTRIOのような大型3連バリコンではありません。その後のFM多局化には耐えられない混信に弱い宿命をもった過渡期の製品の位置づけです。 

 5.内部 

裏側の状態を確認

裏側を覗いてみます。丈夫な作りで経年劣化で交換が必要になる部品が少ないです。ブロック電解コンデンサ×1、ペーパーコンデンサ×1、電解コンデンサ×2、ボリューム×1ぐらいしか劣化するおそれのある部品が使われていません。

劣化した電源トランスからの配線

ただし、電源トランスからの配線の被覆が劣化して剥がれ落ちで危険な状態なので何本か張替えが必要です。 

6.修理作業

(1)ケース修理

ケース上部の化粧板が剥がれたので修復

木製ケースの化粧板がはがれボロボロなので修復します。 ケースは金属製より木製の方が温度上昇が緩やかで優れた面もありますが強度と耐久性に難があります。

折れたパーチクルボードを補強して修復

背面のパーチクルボードのネジ穴上が左右ともに折れていますので補強を入れ修理します。

ツマミはアイボリーに再塗装

ツマミのアイボリーの塗装が剥げていますので再塗装します。

 (2)劣化部品の交換

修理後の裏側の様子

ブロック電解コンンデンサは劣化の兆候があるので交換します。ペーパーコンデンサ、電解コンデンサを交換すれば終了です。

交換したボロボロに劣化した配線
電源トランス一次側の配線が劣化していて触ると「ポキッ」と音がして被覆が剥がれるほどの重症でした。一次側配線を全て張り替えます。

ダイヤル操作したら糸が切れたので、新しく糸掛けをしました。

これで全ての修理作業は終了です。

(3)試験 

電源試験機で電流を確認
電源試験でAC100V,0.4Aで正常、各箇所の電圧も正常でした。
受信試験の様子

モニターを接続して受信テストをします。FM放送はすぐに受信できましたがトラッキングがずれています。

受信感度とトラッキングを調整すれば全て終了です。なんともあっけなく修理作業はおわりです。

 7.MPX付加

当然、FMステレオ放送開始以前の製品なのでモノラル出力のみです。現代のFMステレオに対応させるためMPX OUT端子を付加してFMステレオ放送を聞けるように改造したいと思います。

(1)検波方式

・レシオ検波の考察

何故、技術的に優れたフォスターシーレー検波ではなく、レシオ検波を選んだのでしょうか。

フォスターシーレー検波はAMノイズに弱く、高精度で調整も大変なリミッターが必要なため高価でもあります。

一方のレシオ検波はリミッターの精度は低くくて安価です。リミッターで抑圧しきれなかったノイズを検波回路の電解コンデンサで除去します。

ナショナルのFMチューナー一号機ですから、失敗は許されません。技術的に確実で信頼性の高いレシオ検波を選定したのだと思います。

・10μFへの違和感

ES-901のレシオ検波回路の10μFにも違和感があります。

FMステレオ・標準化前(1950年代)にもレシオ検波で5μFのFMチューナーはありました。どんな環境条件でもノイズを出さない音質重視の考えから10μFにしたのだと思います。また、コンデンサが経年劣化しても10μFあれば多少容量が減っても音質への影響がないからだと思われます。

レシオ検波や10μFの採用など、どの箇所を見ても「石橋を叩いて渡る」ナショナルの企業風土が色濃く反映しています。

(2)MPX付加

前置きが長くなりましたので本題に入ります。

MPX回路図
 

MPX回路への改造は何通りかためしましたが、上図の回路図が一番良かったので掲載します。

また、10μFでは19kHzのパイロット信号や38kHzのコンポジット信号が取り出せません。ノイズ抑制とMPX信号の取り出しのバランスがとれる5μFに交換してあります。

検波回路を組みなおした様子
付加したMPX OUTケーブル
 ・セパレーション

TRIO AD-5を接続してセパレーションを測定します。

計測中に波形が増減して変動が始まり、レベル低下でリミッターが効かない様子です。初段6AQ8を交換して正常動作になっています。

左右共に1kHz:10dB(6AQ8交換前)⇒20dB(6AQ8交換後)

8.ヒアリング

ヒアリング風景

TRIO AD-5に接続してFMスレテオ放送をヒアリングします。チューニングはシビアです。少しでもズレると音質が劣化しますので精密な選局が必要です。

中低域が厚く量感のある良い音です。奥行はあまりありません。長時間聴いてもつかれない音です。無音状態のときはホワイトノイズが若干聞こえます。スペアナで高調波だらけの出力波形を観測していましたが、音にはそんな気配は微塵も感じられません。AD-5のフィルター・スイッチをONすると音がわずかにクリアになります。想像していたよりずっと良い音のチューナーでした。

9.まとめ 

ES-901は触るとわかる慎重な設計のナショナルらしいFMチューナーです。真逆のTRIOは新進気鋭の最先端ベンチャー企業のように新しい技術を次々投入する攻めの姿勢を見せていました。この時代の多種多様な企業風土が1960年以降のFM文化を育て発展させたのだと思います。

10.定格

受信周波数:80~90Mc

中間周波数:10.7Mc

使用真空管:6AQ8/ECC85 高周波増幅および周波数変換管

      6BA6 中間周波増幅管

      6BA6 中間周波増幅(リミター)管

      6AL5 レシオ検波管

      6X4  整流管

感   度:30μV/30mV(S/N 30db)

電   源:50~60c/s 100~110V(ヒューズ差替式)

消費電力 :20VA

型   状:間口 311mm、高さ 121mm、奥行 160mm

重   量:2.51kg 

2026/05/26

ナショナル TA-90 AM-FM オールバンド型 ハイファイチューナー

 1.概要(外観・仕様)

ナショナル TA-90

ナショナル TA-90 AM-FM オールバンド型 ハイファイチューナーの修理記録です。ナショナル TA-90は、1962年発売・14,900円の3バンド(MW/SW/FM)真空管チューナーです。 黒を基調とした端正なデザインで、通信機を思わせる精悍さと高性能を感じさせます。

背面の端子類

背面には、音声出力OP端子、外部機器入力端子PUとTAPE,MPX端子M/Xとアンテナ端子、ヒューズボックスがあります。ヒューズボックスは入力電圧によって100Vと110Vの片方のみにガラス管ヒューズを装着します。 

2.特徴(配置図・糸掛け図・回路構成)

2-1.配置図と糸掛け図 

仕様、配置図、糸掛け図

チューナーのボンネット裏には、仕様、配置図、糸掛け図が貼り付けてあります。

・仕様

TA-90 仕様
仕様として下記の内容が記載されています。

受信周波数帯:MWバンド 535~1605KC

       SWバンド 3.9~12MC

       FMバンド 80~90MC

中間周波数:AM 455KC,FM 10.7MC

使用真空管:6AQ8、6BA6、6AJ8、6DC8、6BX6、6AL5、6ZE1、6X4

ダイヤルライト:6.3V、0.25A、2個

感   度:MWバンド 50μV/30mV

      SWバンド 50μV/30mV

      FMバンド 30μV/30mV(S/N 30db)

電   源:50~60c/s 100~110V(ヒューズ差替式) 

・ 糸掛け図

糸掛け図

この糸掛け図にはダイヤル目盛りも併記されており、初見では調整方法が分かりにくい構成です。 しかし、ナショナル独自の方式を理解すると、短時間で正確に調整できる合理的な方法であることが分かります。
  
①この糸掛け方式は“FM 89MHz を絶対基準にする”のが最大のポイントです。 
 そのうえで、以下のように寸法で位置決めを行います。 

②そこから 93.2mm がスタート地点

③さらに 8.6mm が SW 4MHz(糸掛けの正しさを確認する点)

④MW はトラッキング調整で合わせる(糸掛けでは決まらない)

⑤SW がズレている場合は糸掛けのやり直し(巻き量・初期位置の誤差)

以上の方法で糸掛けと調整をすれば正しい受信周波数になります。

工場向けに単純な糸掛け方法の説明ですみ、なおかつ誰でも短時間で正確に調整できるメリットが重要だったのではと推察しました。大量生産向けのナショナル独自方式です。

・配置図

配置図
真空管などの配置図です。ただし、(誤)6AB6⇒(正)6BA6と誤記があるので要注意です。

・工業所有権のシール

ボンネット裏の反対側には、「当社ガ有スル工業所有権」のシールが貼られています。特許侵害への警告と技術の高さをアピールするためのものでしょうか。昔の秋葉原ではコピー商品であふれていました。SONYのカセットテープそっくりのパッケージでよく見るとSANYの文字の商品などです。当然、中のテープは粗悪品でした。そんな経験から特許侵害への警告かなとも思えます。

2-2.回路図

ラジオ技術1962年9月号 回路図(抜粋)

ラジオ技術 1962年9月号に回路図が掲載されています。

2.3.回路構成

TA-90の機器配置

FM 系:

アンテナ → 6BA6(RF) → 6AJ8(MIX/OSC) → 6DC8(IF×2) → 6BX6(LIM) → 6AL5(FM DET) → AF OUT+ 検波出力 → 6ZE1/6BA6 → AFC → 局発へフィードバック

AM 系:

アンテナ → 6BA6(RF) → 6AJ8(MIX/OSC) → 6DC8(IF) → 6AL5(AM DET) → AF OUT+ NAR/WIDE で IF 帯域切替

共通:

6X4 電源、6ZE1 マジックアイ、PU 入力・出力切替

3.修理プロセス(事前作業 → 電源試験 → 不具合 → 再修理)

3-1.事前作業

電源を入れて試験する前に実施する修理作業です。 

・目視確認

修理前の内部の様子
内部を目視しますが、焦げや損傷、ハンダなどの異常もなく良好です。

修理したヒューズカバー

ヒューズ断とヒューズカバー破損しています。ヒューズ(1A)交換とカバーを修理します。

・劣化部品

交換して取り外した劣化部品

ペーパーコンデンサは全てフィルムコンデンサと交換します。

ペーパーコンデンサ交換後の内部

ペーパーコンデンサの片側ハンダなし

この位置の0.05μFは“音声出力のカップリング”という重要な役割を持つため、 片側が無ハンダのまま出荷されていたのは驚きでした。手前の抵抗の陰に隠れていて、抵抗を取り外さないとハンダ箇所が見えない場所です。あまり見たくなかった製造ミスです。なお、音声が完全に途切れなかったのは、近接する配線や部品との間に生じる浮遊容量(数 pF 程度)による微小な AC カップリングによって、IF 信号がわずかに漏れ込んでいたためと考えられます。

・清掃

AFC用のスライドスイッチ

AFC用のスライドスイッチは分解、清楚します。セレクタの端子も黒くなっているので清掃します。

ダイヤル目盛りの背面の黒板を清掃

清掃後の綺麗になったダイヤル目盛り

ダイヤル目盛りのガラス板を慎重に清掃します。背面の黒い板は汚れが酷くコンパウンドで磨くと綺麗になります。背面の黒い板を清掃しておくとダイヤル目盛の仕上がりの美しさに大きな差がでます。

4.調整(RF/IF・AFC・MPX)

4-1.電源試験

まず、電源投入後に主要ポイントの電圧を測定し、回路図値と比較しました。 結果を以下にまとめます。 

電源装置で100Vで0.6Aと表示
電圧測定の様子

回路図に記載されている電圧を参考にします。□内の電圧はAM、()内はFMの電圧です。

電源回路(抜粋)

測定電圧一覧表
 ・電源トランス100V端子接続 

電源回路の1kΩ両端(電源トランス側とチューナー側)の電圧を測定(測定電圧一覧を参照)します。

FMの電圧は+32Vと少し高めです。また、電流値は+8mAですが電圧が高い影響のためで、ブロック電解コンデンサは過電流もなく良好と判断できます。 

・電源トランス110V端子接続 

給電電圧が高いため、電源トランスの一次側タップを100V⇒110V接続に変更して二次側電圧を下げて測定(測定電圧一覧を参照)します。(背面のヒューズホルダのヒューズを110V側にします。)

測定した結果からFMおよびAM受信で給電電圧が適正な電圧の電源トランス一次側は110Vタップで通常使用とします。

・短絡(ショート)

このTA-90は購入時に電源ヒューズが溶断していました。修理中も電源トラブルもなく良好に動作していました。それが、突然6AQ8付近から小さな白煙で、ヒューズ線は白熱電球のように光っています。 電源ヒューズが溶断していたのでおかしいとは思っていました。

ヒーターの5番端子とシールド板の接触あり
2P(プレート)1番端子とシールド板もショートの危険性あり

すぐに電源落として裏返して確認します。6AQ8のソケットのシールド板と端子が接触してショートしていました。6AQ8のヒーター用の5番端子とシールド板がショートしたのが原因です。6AQ8を揺すると2P(プレート)用の1番端子もシールド板と接触します。シールド板を少し上に位置をずらし、端子から遠ざかるように横に曲げて接触しないように修復します。本来はシールド板の下に端子が来ても接触しないようにシールド板がカットされています。シールド板の設置位置が低すぎてカット面が端子に接触していました。これも見たくなかったもうひとつの製造ミスです。 

4-2.受信確認(1回目)

AM,FM共に正常に受信できます。ジーッとノイズが入り耳障りです。一番疑わしいのはブロック電解コンデンサで交換する必要がありそうです。

4-3.再修理(ジーッ音のノイズ)

受信時にジーッとノイズが入ります。ブロック電解コンデンサが疑わしいので確認します。電源回路にモニターを入れて直接ノイズ音を確認します。 ブロック電解コンデンサに近いほどノイズが大きくノイズの質も音声出力と同じです。ブロック電解コンデンサがノイズ源で確定です。

外観はそのままのブロック電解コンデンサ

新しい電解コンデンサと交換し、黄色いカバーのブロック電解コンデンサはくり抜きそのまま設置して再利用すれば、外観は全く変わりません。

ヒヤリング試験をしますが、嘘のように電源ノイズは消え音声がクリアになり修理は成功です。 

4-4.受信試験(2回目)

再修理でブロック電解コンデンサを交換して電源ノイズもなくなりました。しかし、FMステレオ放送を聴くと背景にサーッと違うノイズが聞こえて気になります。

FMシグナルジェネレータとスペアナを接続して波形を観測します。チューナーを裏返しにするなど本体を動かすと波形が変形したり、うねったり不安定です。ノイズレベルは-50dBとかなり悪い状態で、これがサーッという消したいノイズです。高調波も全帯域で発生しています。ノイズの解消というよりは、波形の不安定さを解消するのが先決のようです。

4-5.再々修理(サーッ音のノイズ) 

部品のひとつひとつのハンダ付けや配線、容量など地道にチェックします。原因はセラミックコンデンサのリード線が6AQ8の端子に接触しており、 微小な容量変化が局発周波数に影響して波形が不安定になっていました。

セラミックコンデンサのリード線にエンパイヤチューブを被せて6AQ8端子と接触しないように対策します。対策後のスペアナを見ると高調波も少ない綺麗な波形です。

スペアナで見たノイズもなく正常な波形と帯域

この状態でRFやIFなど調整します。調整したことによりノイズレベルも-70dB以下になりました。もう少しノイズレベルが低いといいのですが、FM黎明期のMPX出力の限界かと思います。

4-6.受信試験(3回目) 

サーッ音のノイズも低減したので、マジックアイの機能を確認します。 

マジックアイ・AFC OFF(緑) 

マジックアイ・AFC ON(赤)

マジックアイの受信状況の変化は良好です。このマジックアイ(6ZE1)はAFC機能OFF:緑、AFC機能ONで赤く点灯が変わります。また、AFC機能の受信周波数に引き込む動作は良好でした。 

4-7.MPX出力(FMステレオ放送)

TA-90のMPX出力とFMマルチプレックスアダプターには同じナショナルのSH-300がよかったのですがSH-300の調子が悪く、TRIO AD-5を接続してFMステレオ放送を試験します。

TRIO AD-5とTA-90でFMステレオ試験

FMステレオのセパレーションは右25dB、左23dBでした。 FM黎明期の真空管チューナーとしてりっぱな数値です。

5.ヒアリング

TA-90とAD-5でヒアリング

・感度: 

 AMとFMは受信感度も高く良好に受信できます。

・AM:

  音質はノイズも少なく聴きやすい音質です。 

・FMモノラル:

  中域が前面にでた音のバランスです。全体的に厚みのある音がします。音質はクリアでノイズ感はありません。高音も程よくでています。

・FMステレオ:

  中低音が厚く、全体的にエネルギー感のある音がします。奥行も良好でやわらかな高音です。全体がなめらかな音質で、ボーカルに艶や色気があります。

・ノイズ:

  ステレオ時にサーッ音が入りますが、激しい曲では判りません。静かな曲などではノイズは聞こえますが、さほど気にならない範囲かと思います。 

6.デザイン考察

TA-90の黒を基調としたデザイン

TA-90は、黒を基調としたパネルに中央のゴールドのツマミを配置した、通信機そのものの面構えをしています。家庭用チューナーとしては武骨で、好みが分かれるデザインです。なぜナショナルは、このような通信機的デザインを採用したのでしょうか。

結論として、通信機を作りたかったのではなく、“通信機の信頼性と精密さ”を外観で表現したかったと考えられます。

1960年代前半はFM放送が始まったばかりで、FMチューナーはまだ新しい高周波機器でした。ナショナルとしては、「高周波技術に強いメーカーである」という印象を市場に示す必要があり、その象徴として通信機のデザイン言語を取り入れたと考えられます。

実際、TA-90の内部構成は家庭用ラジオより通信機寄りで、RF → MIX/OSC → IF×2 → LIM → DETという本格的な高周波構成や、AFC・MPX出力など、当時としては先進的な要素が多く含まれています。外観と中身が一致しているわけです。

また、松下電器は当時、通信機器部門と家庭用ラジオ部門を並行して持っており、高周波技術者がチューナー開発に関わった可能性も十分にあります。

つまりTA-90の武骨な外観は、単なるデザインではなく、「精密な高周波機器である」という技術的メッセージを込めた意図的な選択だったと考えられます。マニア好みの外観になったのも、その結果と言えるでしょう。

TA-90のデザインは、1960年代前半の技術観とナショナルの姿勢がそのまま外観に表れた製品です。デザインには、その時代の空気と気配が満ちています。

7.まとめ(総評)

TA-90 は、FMステレオ放送開始前に MPX 出力を搭載した先進的な設計で、 ナショナルが FM 時代を強く意識していたことが分かります。 修理後は動作も安定しており、60年以上前の製品とは思えない完成度です。 当時の技術思想と設計品質を今に伝える、非常に魅力的なチューナーだと感じました。