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2026/09/29

東芝 RH-506F ラインアンテナの構造美と昭和技術の美学 ― 修理記録

1.概要

RH-506F(正面)

RH-506F(裏面)

東芝 RH-506F AM/FMラジオは1972年、8,700円のホームラジオです。

・経緯

このラジオにはとても惹かれています。それはラジオ本体ではなくラインアンテナ(電源線アンテナ)が残っているからです。 

ラインアンテナ用カップラ

ラインアンテナは、電源コードとラインアンテナ用カップラで構成されています。ラインアンテナ用カップラは電源コードの留め金具ではありません。正真正銘のラジオ用アンテナです。多くのラジオでは捨てられて、残っているラジオが珍しくなっています。

ラインアンテナ用カップラを見たとき、昔のゲルマニウムラジオのアンテナ線を電源コードにぐるぐる巻きにしていたことを思い出しました。 

原理は同じです。電源コードとカップラ間の静電容量で、ラジオ波を拾いアンテナとして機能させています。

ラインアンテナ用カップラが気になって仕方がないので、すぐに静電容量を測定しました。

約20pF。予想通りの値です。

では、この静電容量がどれほど効果を持つのか。DSPラジオのレベル表示機能を使ってでAM/FMの感度を測定してみました。FM放送の改善があまりにも劇的で、思わずあぜんとしました。 こんな簡単な構造が、ここまで合理的に働くとは信じられませんでした。

しかも従来の電灯線アンテナより安全面では格段にすぐれた方式です。

今回は、最初にラインアンテナをご紹介してから修理作業に入りたいと思います。 

2.ラインアンテナ

ラインアンテナ用カップラ
ラインアンテナの原理は電源コードとカップラ(結合金具)間の静電容量をアンテナに応用したものです。ラインアンテナの静電容量、インピーダンス、効果について確認します。 

 (1)静電容量

①実測

電源コードとRH-506F付属するカップラ(結合金具)間の静電容量を測定すると約20pFです。

②カップラの長さと静電容量

20mmは18.1pF
40mmは25.5pF

カップラを長くすれば静電容量が増えるのではと思い実験してみました。

ラインアンテナの試験用カップラとして長さを変えたアルミ板を電源コードに巻いて静電容量を測定します。

横幅20mmと40mmを比較します。20mm:18.1pF、40mm:25.5pFと横に長く伸ばしても長さに比例して静電容量が大きくなるわけではありませんでした。

③25mmカップラの意味

横幅25mmのカップラ

ラインアンテナ用カップラの幅が約25mmという設計は、高周波結合の観点から非常に絶妙なバランスの上に成り立っています。

対向面積を広げて長さを25mm以上に伸ばしても、電線被覆(PVC等)の誘電率や密着性の限界から結合容量は単純に比例して増えにくくなります。むしろ、シールドやシャーシグランドとの不要な浮遊容量が増大し、同調回路のQ値を下げたりノイズを増やす原因になります。

(2)波長とアンテナ長(電源コード長)のマッチング 

RH-506F の電源コードの長さは1.8mです。この長さ1.8mが、どう影響するのか考察します。

①FM(VHF帯):約3mの波長

FMの波長はλ≒3.7m(80MHz)です。1/2波長(ダイポール)で約1.8m、1/4波長で約0.9m(90cm)となります。 

一般家庭の電源コード(ACライン)は全長1.5m〜3m程度ありRH-506Fは1.8m、電源コードそのものがFM波の波長に対して理想的な「1/2波長または1/4波長アンテナ」としてジャストサイズで共振・動作します。

②AM(中波帯):約300mの波長

AMの波長はλ≒300m(1000kHz)です。電源コードの数メートル程度の長さでは波長に対してあまりにも短すぎるため、微弱な効果にとどまります。 

 (3)インピーダンス 

20pFの結合コンデンサ(電源コードとカップラ間の静電容量)と周波数によるインピーダンスの関係は以下のとおりです。

①FM(80MHz)でのインピーダンス

・結合容量 C=20pFのリアクタンスXcは次のようになります。 

 Xc=1/2πfC=1/(2π×80×10^6×20×10^-12)≒99.5Ω

 ・FM高周波領域ではわずか約100Ωの非常に低いインピーダンス(信号が素通りする状態)になり、電源コードに誘導したFM波のRFエネルギーがロスなくFMチューナーの同調回路(高周波段)へ流れていきます。

②AM(1MHz)でのインピーダンス

・ 一方、AM帯では Xc≒8kΩと高いため、高周波エネルギーを引き込む効率としては疎結合(信号の減衰が大きい)になります。

2バンド(AM/FM)ラジオにおいて、ラインアンテナはAMのためというよりも、実は「室内でFM放送をロッドアンテナなしでクリアに受信させるための主目的回路」として極めて緻密に設計されていると言えます。 

(4)効果の確認

DSPラジオのレベル表示機能でRH-506Fのラインアンテナの効果を確認します。

・AM放送

カップラ未接続 37dB

カップラ接続 37dB  0db改善

・FM放送

カップラ未接続 14dB

カップラ接続 25dB  11db改善 

ラインアンテナはAMよりFM放送の感度向上に劇的に効果があります。今までAM用アンテナ用だとすっかり信じて誤解していました。

FM放送であれば電源ノイズの影響も受けにくく、FMアンテナのないホームラジオには非常に適したアンテナです。 外部アンテナの設置が不要で場所を取らずスマートな構造です。

(5)自作カップラ

ラインアンテナ用カップラは簡単に自作できるのでご紹介します。

横幅40mm目玉クリップ

横幅40mmの目玉クリップをカップラとして使います。目玉クリップのはさみ口を平らに加工して電源コードをしっかり挟めるようにします。

目玉クリップの静電容量

自作カップラ(40mm目玉クリップ)で電源コードを挟んだ時の静電容量は20pFでした。自作カップラが同じ静電容量を持ちラインアンテナとして利用できることがわかります。

ラジオのアンテナに自作カップラ未接続

ラジオのアンテナに自作カップラ接続

DSPラジオ(RAD-T941N)のレベル表示を使い自作カップラの効果を確認します。 電源コードを自作カップラ(40mm目玉クリップ)で挟み込み、自作カップラ(目玉クリップ)とラジオのアンテナ間はワニ口クリップで接続する構成とします。

80M㎐受信、自作カップラ未接続 :8dBμ

80M㎐受信、自作カップラ接続:26dBμ

26-8=18dB改善

自作カップラを接続すると80M㎐受信時に18dB改善しました。FM放送は良好に受信出来るようになりました。

しかし、PCやUSB DACなどのデンジタル機器の電源ONだと、受信レベルが改善してもFM放送はノイズだらけの音で聞くに堪えません。ラインアンテナは効果的ですが、電源からのノイズの影響を受けやすことがわかりました。

3.無電源ラジオと増回路付ラジオの違い

ラインアンテナ(20pF)がゲルマニウムラジオに使えないか気になり調べてみました。

(1)ゲルマニウムラジオで100pFの電灯線アンテナが効く理由

 ・AM帯(1MHz)でのインピーダンス低下

 結合容量が20pF(約8kΩ)から100pF約1.6kΩ)に増えると、結合インピーダンスが約5分の1に低下します。

 これにより、建物全体の電灯線に載っている高周波のAM信号エネルギーが、減衰することなく回路へしっかりと引き込まれます。

 ・無電源(無増幅)回路との相性

 ゲルマニウムラジオは外部電源やトランジスタによる増幅が一切できないため、アンテナから入る高周波エネルギーの大きさがそのままイヤホンの音量に直結します。

選択度(Q値)の低下や電源ノイズ(ブーンというハム音など)を引き換えにしてでも、インピーダンスを下げて微弱な高周波エネルギーを多く取り出すという意味で、100pFの電灯線結合は無電源回路にとって極めて都合が良いわけです。 

 (2)増幅回路付ラジオ(トランスジスタ/真空管)との違い

 ・トランスジスタ/真空管ラジオ(20pF)

 後段に十分な増幅回路があるため、アンテナ側で無理にエネルギーを稼ぐ必要がありません。むしろ20pF程度の疎結合にしてインピーダンスを高く保ち、同調回路のQ値(選択度)を上げて隣接局の混信を防ぐ方が有利になります。

 ・ゲルマニウムラジオ(100pF)

 択度やノイズ耐性を多少犠牲にしてでも、100pF等で低インピーダンス化して「とにかく信号パワー量を最大化する」ことが最優先されます。

 「20pF=高インピーダンスで疎結合(感度より選択度・安全重視)」「100pF=低インピーダンスで密結合(選択度より感度・パワー重視)」という使い分けの理屈が、ゲルマニウムラジオの動作特性と完璧に合致しますね。

(※ただし、やはりAC100Vへの直接接続はコンデンサのショート破壊時のリスクが非常に高いため、実験される際はくれぐれも安全対策にご注意ください。)

(3) 用途別の適正容量(C)

・ゲルマニウムラジオ

適正値:100pF 〜 470pF

・真空管・トランジスタラジオ

適正値:20pF 〜 100pF(推奨は33pF〜50pF程度)

4.ラインアンテナの性能

①強電界地域での使用

元々が電界強度が極めて高い「強電界地域(送信所の近く)」でローカル局を聞くだけのものです。弱電界地域での受信にはT型フィーダーアンテナの方が性能が良いです。

②電波環境の変化

  

FM多局化時代を迎え、電波環境が大きく変化したことがラインアンテナが使われなくなった大きな要因です。

・ラインアンテナの性能限界

電源コードの不特定の引き回しによる周波数範囲の変動や無指向性のためマルチパス混信を防ぐことができないなど、FM環境に適合できなくなりました。

・外部アンテナ併用の悪影響

外部アンテナとラインアンテナを併用して使うと、インピーダンス不整合と信号の反射や同調回路のQ値の低下、更にはラインアンテナからの電源ノイズが入るなどの悪影響がでます。

 

そのため、ホームラジオへのカップラの標準装備は次第になくなりました。

4.修理作業

前置きが長くなりましたが、修理作業に入ります。 

・内部の状態確認 

ラジオ内部の様子

基盤は上下に綺麗に機能が分かれています。上部はAM/FMラジオ回路で左から右へ信号が流れます。下部はアンプ回路で同様に左から右へ信号が流れる素直な構造です。

・回路の理解

トランジスタ応用例”9石 AM-FM ラジオ”

RH-506Fは接続集やテクニカルガイドがなくても回路の理解は十分可能です。「実用トランジスター回路集 無線と実験編 成文堂新光社 昭和34年5月1日初版発行、昭和42年8月1日第6版発行」のP.192:トランジスタ応用例の”9石 AM-FM ラジオ” の回路図はRH-506Fとほぼ同じ構成として読むことが出来ます。また、チューナー回路やプッシュプル回路についてトランジスタ種別の適用事例(P.61-P.65を参照)が詳しく解説されています。RH-506Fはトランジスタ初期の頃から実績のある定番回路を採用していることがわかります。

・ケースの修理

ラジオを分解した様子
木製ケースはかなり汚れているのでサッと水洗いします。

錆びで汚れたネットと新しいネット材料

張り替えたスピーカーネット

スピーカーネットは、スピーカー固定のネジが錆びてネットの布にシミになり取れません。ネジは錆び止めしてスピーカーネットを張替えしました。 

・劣化部品の交換

取り外した劣化部品

雑音でラジオが受信できませんので、劣化部品を交換して様子を見ます。

 ・動作確認試験(1回目)

AM,FM共に受信できるようになりましたが、AMとFM共通のブツブツと音がする雑音が入ります。

AM/FMバンド切替のスライドスイッチが接触不良です。 

ダイヤル目盛りのランプが切れています。

AC100Vでの試験は煩わしいので006P9V乾電池を繋いて試験をしています。

・スライドスイッチ修理

AM/FMバンド切替のスライドスイッチ

AM/FMバンド切替のスライドスイッチは、スイッチのL型の足をプリントパターン表面にハンダ付けする特殊な構造で取外しが非常に難しいです。修理する方にはお勧めできな作業です。プリントパターンを剥がさない様にスイッチを取り外して分解・清掃します。この清掃作業により、切替動作は正常になりました。

・トランジスタ不良による雑音

2段目の2SB54
 アンプ回路を切り分けて2段目の2SB54不良で交換して解消です。ランプも交換します。

 ・動作確認試験(2回目) 

AM,FMとも受信レベルなどを調整します。AMは良好です。FMはホワイトノイスが多いです。調整中にいきなり音が徐々に小さくなって最後は無音になりました。このアンプの不具合は通電していると不定期に何回も発生します。 

・ヒートシンクによる接触(ショート)

入力トランス2次側のサーミスタと抵抗

アンプ回路の入力トランス2次側のサーミスタを導通して指の温度に反応するので正常です。

サーミスターに平行する抵抗100Ωが173Ωと劣化して電流が流れ過ぎるので予防で交換しました。

正常に戻したヒートシンク(故障時は右下が接触)

修理作業中に出力トランジスタのヒートシンクが不自然に傾いているのに気づきました。ヒートシンクはトランジスタの足を左側に上から押倒して、ヒートシンクとトランジスタの足が接触しています。道理でヒートシングがやけに熱いと思いました。ヒートシンクをトランジスタも一緒に上に引き上げて正常な状態に戻します。 

・動作確認試験(3回目) 

電源を入れてもヒーシンクはほんのりとしか熱くならず正常です。アンプの音が小さくなる故障も2度と再発しなくなりました。ヒートシンクの接触が原因で間違いなさそうです。 

FMのホワイトノイズを解消できないかとフトントエンドやIFを2SC1675に変えてみましたが徒労でした。このラジオの性能限界のようです。

・ヒアリング

ヒアリング風景
AMは感度も高く音質も良好です。FMは受信感度は低めでホワイトノイズが目立ちます。良く受信できる放送局ならあまりノイズは気にならないです。 

・FM外部端子の意味 

FM用外部アンテナ端子

当時の東芝ホームラジオにはFMアンテナだけ外部端子があり、ラインアンテナ装着を前提に設計されていたことを、修理の過程でようやく理解しました。 

オークションではラインアンテナのカップラが紛失したホームラジオをよく見かけます。カップラがないと、まるでロッドアンテナが折れたポータブルラジオのように見えてしまいます。しかし本来カップラは、ホームラジオに最適化された合理的なFMアンテナでした。 

この“アンテナに見えず、誤解されながら消えていった技術”こそ、今回ラインアンテナに強く惹かれた理由です。

5.まとめ 

「身近すぎるのに、深すぎる」──ラインアンテナはまさにそういう構造物です。普段はただの金具。ただの電源コード。ただのホームラジオです。

しかも、何の説明もしない「見ればわかるだろう」という暗黙の文化を感じます。 

ところが、その“ありふれた日常の部品”の裏側に、「高周波工学・安全設計・コスト最適化・波長マッチング・静電容量結合 」という、とんでもなく深い技術が潜んでいます。

このギャップこそが、ラインアンテナの魅力です。

ラインアンテナは「構造が美しすぎるのに見た目は地味すぎる存在」です。

昭和技術の本質をみたようです。

現代であれば見た目重視で金ぴかのロゴ入りで性能はそこそこで作られます。 

昭和のラインアンテナは今見ると異様に美しいです。

何も説明しないが構造が美しい武骨な昭和の技術者達の息吹を感じさせます。 

2025/07/17

東芝 6FT-265 真空管FMチューナー(MPX OUT付加)

 東芝 6FT-265 真空管FMチューナーの紹介です。1959年、8,900円の真空管FMモノラル・チューナーです。当時のFM周波数の割り当てから80MHz~90MHzのダイヤル目盛りとなっています。正面パネル左上のマツダの文字が古さを感じます。

背面は、アンテナ端子、ピンジャックケーブル(モノラル出力)、電源ヒューズになります。

底面には、仕様、配線図、糸掛け図が張り付けてあります。また、ゴム足4つのネジで本体シャーシを固定しています。

 

ケースを取り外すと、6AQ8,6BA6×2,6AU6,6AL5,5M-K9の真空管です。検波~電源まで6球の真空管で構成されています。バリコンは2連式です。

前面と底板を一体にしたL字型の独特のつくりです。

プラスチックパネルを取り外すとL字型カバーに黒い厚紙で出来たシートが張り付けてあります。厚紙は経年劣化で少しでも触るとボロボロに破けて砕けるので交換します。上の写真は色付画用紙で作成したシートです。この黒いシートはダイヤル目盛りのランプの光がプラスチックパネルから透けて漏れ出すのを防いでくれます。 

背面にむき出しで危険なヒューズフォルダはカバー付きに交換します。

劣化部品は全て交換します。ダイヤル糸が断線していたので張替えします。受信感度とダイヤル目盛りを調整して修理は完了です。

このFMチューナーはレシオ検波です。時代背景からモノラル出力のみのFMチューナーです。

上の写真は実際のレシオ検波の回路です。


 現在ではFMモノラル出力では実用的ではないのでステレオ化を目指します。上の図は6FT-265にMPX OUTを付加した回路図です。MPX OUTがあれば6FT-265でFMステレオ放送を聞くことができます。

ラグ板を使いレシオ検波によるMPX OUT回路を組み込みます。上の写真はMPX OUTを付加した様子です。セパレーションを測定します。約20dBを確保することができました。 TRIO AD-5のディメンションコントロールがあるFMアダプタであれば、セパレーションはもっと良い数値になったと思います。

MPX OUTをFMアダプタに接続してFMステレオ放送をヒヤリングします。音の重心は低めで奥行も感じます。高域がやや少ないマイルドで穏やかな音です。FMアダプタの影響なのか中低音はダンピングが効いたような粘りがあります。FM放送を穏やかに安心して聴けるチューナーのようです。

初期のFMチューナーは教科書に載っているような検波回路なので容易にMPX OUTを付加することができます。古いモノラルFMチューナーは飾って置くだけでは勿体ないと思います。少し手間をかけMPX OUTを付加してFMステレオ放送を聞いてみるのも一考かと思います。

2023/12/05

TOSHIBA 東芝 FMT-100 真空管FMチューナー(MPX OUTを付加)

TOSHIBA 東芝 FMT-100 真空管FMチューナーの紹介です。発売時期はTRIO FM-108と同時期の1963年頃でしょうか。小型の真空管FMモノラル・チューナーです。

背面はアンナナ端子とモノラルのOUT PUT端子のみになります。

FMチューナーパック FM-011P3Aが使われています。17EW8を使ったμ同調方式のチューナーパックです。

チューナーの底には、回路図、配置図、糸掛け図が張り付けてあります。

ペーパーコンデンサを交換します。電源試験で0.4Aですぐに安定しました。発熱もなくブロック電解コンデンサはまだ使えるようです。機能試験をしますが音がでません。各電圧を確認しますが正常です。よく見るとボリュームの配線が切断していました。この配線を直して音ができるようになりました。受信感度を調整します。受信周波数はズレていませんでした。

これで修理は終了です。修理と言えるような作業ではありません。時間があるのでMPX OUT端子を追加してみることにしました。 

上の図は標準的なレシオ検波回路です。この検波回路でディエンファシス回路を回避してMPX OUTを取り出し、FMアダプターに接続してみましたが動作はNGでした。この検波回路の構成だとスペアナで見てもパイロット信号19kHzが取り出せないようです。

トリオのチューナーを参考にします。FMT-100の回路では検波出力をコンデンサから抽出していますが、上の図の様に検波回路のコンデンサ中点と抵抗中点の間に抵抗を入れて抽出するように回路を変更すれば動作はOKです。この回路変更によりパイロット信号19kHzも出力できるようになります。

FMアダプターと接続してセパレーションを測定します。約12dBほどしか確保できません。しかし、ステレオ放送を聞くことは出来そうです。最初はパイロット信号を止めてモノラル状態でヒヤリングしてみます。上下の帯域が狭い中音のみ強調された音です。ノイズ感はなく良好です。次にステレオでヒヤリングします。全体に透明感が出て高域と音の広がりが改善されたことがはっきりわかります。聴感上のノイズ感はありません。FMステレオ放送の片鱗は聴くことが出来たようです。

1963年頃のFMステレオチューナーは高価ですから、モノラルで聴くのが普通のことだったと思います。当時のオーナーさんはFMT-100でFMステレオ放送が聴きたかったはずです。60年後に実現できました。FMT-100はFMチューナーパックの高い性能によりMPX OUTを実装できました。簡単な変更ですが、TRIO FM-108に対抗できる実力をもったFMT-100です。