2026/03/25

ナショナル RE-510 回路図の公開

 

RE-510  FMチューナー

ナショナル RE-510の紹介です。1963年頃の製品で6,800円の製品です。本記事では、これまで未公開だったRE-510の回路図を、実機から新たに起こして公開します。
さらに、1958〜1964年にかけてのナショナルFMチューナーの系譜を一次資料から再構成し、RE-510の技術的・歴史的な位置づけを明らかにします。

RE-510回路図の公開

作成した回路図は以下の計3枚になります。

RE-510回路図(1/3)

RE-510回路図(2/3)

RE-510回路図(3/3)
以上がRE-510の回路図です。回路図はヘラジカ資料室からダウンロード(ナショナル RE-510 回路図 )できます。

回路図が未公開の謎

以前、数台修理をしたことがあるチューナーです。何故かRE-510の回路図は公開されていません。RE-510とセットで使用するFMアダプターRD-511の回路図は公開されています。RE-510の回路図だけが公開されていないのが不可解です。回路図を公開したくない理由があったのでしょうか。

RE-510の特徴

回路図を起こしてまず感じたのは、想像以上に簡略化された構成であるという点でした。この回路図から読み取れるRE-510の特徴は以下の通りです。
•     17EW8
RF増幅とミキサーを1本でまかなうための採用。コストと構成の簡略化が目的。
•     IFTをフロントエンドと一体化
部品点数を減らし、調整箇所を最小限にするための構造。
•     初期IFTで2段構成
必要最低限の選択度を確保しつつ、回路規模を抑えるため。
•     AGCなし
簡易型チューナーとしての割り切り。回路を簡素化しコストを下げるため。
•     2連バリコン
RFと局発の同調のみを行う最小構成。FM-P1の簡略化路線を継承。
•     MPX出力
外付けのFMアダプタRD-511でステレオ化するための出力端子。
RE-510単体ではモノラルですが、FMアダプタRD-511と組み合わせることでFMステレオ放送を受信できます。
当時のFMステレオ普及期に合わせ、必要最小限の構成でステレオ対応を可能にした設計と考えられます。


FMチューナー系譜の変遷

ナショナルのFMチューナーの系譜を追っていくと、1958年のES-901を起点として、
その後のモデルがどのように簡略化され、普及機として整理されていったかが見えてきます。

系譜図 

ES-901(1958)  

 └── AS-907(1958)

     └── FM-P1(1958)

        ├── RE-510(1963)※本作:FM-P1の簡易版 

        └── EUL-FMP2(1964)

 
最初期の ES-901(1958) は、FM黎明期の製品らしく構成が複雑で、高周波・中間周波ともに本格的な設計が採用されています。

同年の AS-907(1958)  はES-901の設計思想を踏襲しつつ、部品点数や構成を見直した整理型のモデルです。

同じ1958年に登場した FM-P1(1958)  は、FM普及を目的として大幅な簡略化が行われたモデルで、以降のナショナルFMチューナーの基礎となる構成がここで確立されます。

RE-510はこの系譜の中でも特に簡略化が進んだモデルであり、FMステレオ普及期における価格帯の調整という役割が強く現れています。FMアダプターRD-511と組み合わせる方式を採用したのも、当時の価格戦略の一環と考えられます。

翌年の EUL-FMP2(1964) では、FMステレオ時代に対応した新しい構成が採用され、
RE-510以前の簡略化路線から、ステレオ対応の本格チューナーへと移行していきます。

1958年から1964年にかけてのナショナルFMチューナーは、複雑な初期構成から簡略化、そしてステレオ対応へと段階的に変化していったことが、一次資料から確認できます。


RE-510の位置付け

RE-510はFM-P1の流れをくんだ簡易型FMチューナーで、FMステレオ放送の普及期に合わせて機能を最小限に抑えた廉価モデルです。FMチューナー部とFMアダプタRD-511を分離した構成も、購入価格を抑えるための設計と考えられます。RD-511と並べて使用することを前提としたデザインで、セットとしての統一感が重視されています。
このように、RE-510は「RD-511のための簡易チューナー」という性格が強いモデルです。
 
回路図が公開されなかった理由(推測)
 
RE-510の回路図は、他のナショナル製FMチューナーと異なり公開されていません。
その理由として、以下の可能性が考えられます。

可能性1:技術的に新しくないため公開価値が低かった
RE-510はFM-P1の簡易版であり、技術的には既存構成の再利用が中心で、新規性が少なかった。
可能性2:RD-511とのセットとして見せるため
技術的には他機種とも接続可能だが、RE-510はRD-511と並べて使用する前提でデザインされており、“専用チューナー”として見せた方が販売上わかりやすかった可能性がある。
可能性3:社内資料の整理上の理由
廉価版モデルは、詳細資料が省略されることが当時のメーカー資料では珍しくない。

これらを総合すると、RE-510は技術資料としての公開よりも、製品としての位置づけが優先されたモデルであった可能性が高いと考えられます。 
以上の点を踏まえると、RE-510は技術的背景だけでなく、当時の市場環境や製品戦略とも密接に結びついたモデルであったことがわかります。 
 
最後に 

RE-510は廉価版でありながら、FMステレオ普及期のナショナルが果たした役割を象徴する製品です。今回の回路図公開により、これまで不明だったRE-510の技術的実像が明らかになりました。本記事が、RE-510の実像を理解するための基礎資料となれば幸いです。
 

参考資料
以下は機能比較に使った資料類になります。 
 
ES-901(1958)
以下の資料は、オーム社編「FMラジオの解説と製作」昭和33年8月20日発行にES-901が掲載されていたものです。また、「無線と実験401回路集」昭和33年発行にES-901が掲載されています。

ES-901仕様(1/2)

ES-901仕様(2/2)

ES-901回路図

AS-907(1958)

AS-907の発売時期(1958)の特定には、ナショナル 電化製品カタログ 昭和33年に ES-901,AS-907が揃って掲載されたことを年代特定としています。 

AS-907回路図
AS-907回路図はFMチューナー本体に掲載されたものです。

FM-P1(1958) 

FM-P1の回路図および詳細はn.p.cを参照してください。以下には参考にしたFM-P1ワイヤードパックの回路図やFMチューナー使用例の回路図です。 

FMステレオ製作読本よりFM-P1回路図と解説

1964.5ラジオ技術よりFM-P1のFMチューナー使用例

FM-P1の発売時期(1958)はn.p.cより特定しています。national parts fan circle(n.p.c) 1958年 No11「FMの理論と実際(第3回)誰でもFM受信機が作れる」にFM-P1の詳細が掲載されています。下記のリンク先でn.p.c.資料が参照できます。

ラジオ工房のFM-P1 n.p.c.資料:5m-2npc 1958-11 ナショナル FM専用チューナーの作り方 FM-P1について 

n.p.cは松下電器・部品事業部がアマチュア向けに発行していた機関誌です。参考として電波科学に掲載していた広報を載せておきます。

n.p.c機関誌の雑誌案内(1/2)

n.p.c機関誌の雑誌案内(2/2)

RE-510(1963)

ナショナル 電化製品 カタログ 昭和38年版に掲載されていることから発売年を特定しています。

EUL-FMP2(1964) 

ラジオ技術(1964.5)に掲載されていた資料です。

EUL-FMP2概要(1/2)
 
EUL-FMP2概要(2/2)

EUL-FMP2回路図
推奨回路例

2026/03/06

SONY 8F-36 AM/FM ソリッドステートファミリ 2バンドホーム型

SONY 8F-36 AM/FM ソリッドステートファミリ 2バンドホーム型ラジオの紹介です。1966年、11,000円の製品です。 312×190×100mm、2.3kg、単一×4個(6V)、10cmスピーカーのホームラジオです。FMにはメサ型トランジスタを採用した高感度設計です。

大きな操作しやすいダイヤルツマミとFM/AM切替スイッチ、トーンコントロール、ボリュームの順に並んだツマミを意識しないで操作できる自然で高級感のあるデザインです。

背面のパーチクルボード
背面パネルの内部と回路図

回路図
電源は電池のみで持ち運びを重視したのか、もしくは電源ノイズを排除したのかったのかもしれません。FMロッドアンテナを採用していますが、外部アンテナ端子はありませんでした。外部出力はイヤホンジャックと録音ジャックが背面にあります。フェライトバーは長さ余裕のある16cmを採用しています。

上の写真の様に修理のため分解・清掃をします。

左上:フロントエンド、右上:アンプ回路、右下:IF回路
FM/AM切替スイッチ
FM/AM切替スイッチは接触が悪いので分解・清掃します。
交換した劣化の激しい電解コンデンサ

劣化部品は全て交換してから動作確認をします。

AM、FMともに受信しますが音が小さすぎます。 アンプ回路に正弦波を入力すると正常にスピーカーから音がでます。IF回路の利得が不足していると推定しました。

IF回路基板

取外した型番不明のNPNトランジスタ

IF回路のトランジスタを交換のため取り外します。回路図ではPNPでしたが、測定するとNPNです。IF回路はトランジスタが極性反転されていました。トランジスタはOEMらしく型番不明です。代替として2SC535×3個に交換します。

2SC535に交換したIF回路

再度、動作確認をします。AM放送の音量は正常になりました。やはり、IF回路の故障でした。FM放送はノイズと音割れです。FMフロントエンドのトランジスタ不良が濃厚です。

メサ型トランジスタ:2SA455

FMフロントエンドには、メサ型トランジスタ2SA455×2個が搭載されています。PNPでは驚異的な高性能トランジスタです。基本、2SA45×以外に代替品はなく、入手困難な絶滅危惧種のゲルマニウムトランジスタです。

2SA376×2個に交換した様子

2SA455:材質Ge、fT=300MHz、Cob=0.6pF、Ic max=10mA

2SA263:材質Ge、fT=180MHz、Cob=2pF、Ic max=5mA

2SA263:fT=180MHzとFM帯域の要件を満たすトランジスタです。 2SA455と交換してみましたが動作はNGでした。利得が足りないのかもしれません。

2SA376: 材質Ge、fT=50MHz、Cob=0.6pF、Ic max=10mA

2SA376は Qと利得は良好ですが、fT=50MHzと帯域が狭くFMのRFやMixには要件を満たさない不向なトランジスタです。手持ちのトランジスタがこれしかなくMixの代替品として試しに交換してみました。動作はOKです。更にRFのトランジスタと交換してみます。驚いたことに十分に実用になりえる動作で感度も十分です。2SA376のスペックはfT=50MHzですが、実際はfT=100MHz程度の性能を持っていたことになります。

2SA455の代替品は下位互換として2SA376に決定しました。

検波用ダイオード
 最後に残ったのはサッーというノイズで調整してもとれません。FMモノラルでノイズが入ることから検波用ダイオードの不良が疑わしいです。検波用ダイオードをIN34A×2個に交換してノイズは解消しました。
修理が完了したラジオ内部

最終的な動作確認をします。AM放送は受信感度、音質などノイズもなく良好な動作です。 FM放送は、隣接チャネルが近くにあると影響を受けやすく不安定になります。ノイズももう少し少ない方が良いと思いますが、この当時の技術では限界です。

外部アンテナを接続した様子

FMフロントエンドにPNPトランジスタでは感度は不足ぎみです。FM用ロッドアンテナでは受信レベルが足りません。FMは強電界地域での使用を前提にしたラジオなのかもしれません。外部のFMアンテナ端子が欲しかったです。上の写真では、ラジオのアンテナ同軸ケーブルに300Ωの外部アンテナを接続したところ受信感度は良好でした。

操作感も良く高級感のあるホームラジオです。あと2~3年経っていればフロントエンドも改良され良質なFM放送が聴けたかと思います。時期尚早で少し残念な製品です。 

SONY 8F-36は、1966年の製品なので回路全体が劣化していました。また、PNPトランジスタでFMフロントエンドを構成した、代替部品が入手困難で修理がむずかしいラジオです。この時代以降は、高性能なNPNトランジスタやFETに置き換わりますが、それ以前の初期のFMラジオです。IF回路のトランジスタは回路図ではPNPですが実際はNPNに極性反転して実装されているとから、急速に半導体技術が進んでいた時代の製品であることがわかります。

同時期に8F-38、8F-48とFMステレオアダプタによりFMステレオラジオが販売されています。真剣にFMステレオを聴きたいユーザー向けの据置型の製品です。8F-36は気楽に毎日ラジオを楽しむためのホームラジオとしてユーザーは棲み分けされています。FM放送はモノラルですが良質のFMを聴かせる大人のラジオです。ホームラジオですが当時の技術を惜しみなく投入したFM時代の幕開けを感じさせる製品です。