2024/07/14

TEAC A-R630 プリメインアンプ

TEAC A-R630 プリメインアンプの紹介です。2011年製、42,250円の製品になります。大きなダイヤルを左右に配置した大胆なデザインのプリメインアンプです。従来のプリメインアンプにリモコンによる電子制御を付加した構造です。この年代のアンプ修理は初めてなので楽しみです。

POWER ONでアンプは待機状態になり手動もしくはリモコンでSTANDBAY/ONスイッチを操作してアンプの電源をON/OFFします。STANDBAY/ONスイッチは重要です。リモコン操作だけでなく前回操作したセレクタ位置などの情報を保持します。POWER OFFで前回操作したセレクタ位置などの情報は消えて初期状態に復帰します。POWERスイッチは常時ONで使用することが前提のアンプです。

ボリュームがdB表示のアンプ は久々に見ました。昔からdB表示のアンプはありましたが、音量の大小とdB表示に違和感があり判りにくいです。昔のオーディオ雑誌にも同じ意見のレビューがあったのを覚えています。

中央に配置されたパワートランジスタのヒートシンクは真四角のアルミパイプに冷却ファンを取り付けて強制排気して冷却する方式です。冷却ファンはある一定の温度以上になると動作する仕組みで常温では停止しています。 パワートランジスタには2SA1186-O/2SC2837-Oが採用されていました。

異常がないか観察するとSUB TRANS BOADの5Aヒューズが溶断しています。現状のままとりあえず動作確認をします。一見動作しているように見えますが、この状態だとPREAMP BOARDやFRONT PREAMP BOARDなどにしか給電されてません。MAIN BOARDへの給電は断です。ヒューズが飛んだ原因の故障切り分けのためパワーアンプ回路に電源供給しているMAIN BOARDのコネクタ:CN74を抜きます。5Aヒューズを装着して電源をONにします。ヒューズは溶断しませんのでパワーアンプ回路の故障が濃厚です。

 

故障原因と思われるパワートランジスタをヒートシンクから全て取り外します。一つ一つトランジスタを試験するとRchの2SC2837の端子間がショートして故障していました。今回はパワートランジスタを4つとも交換します。交換後、電源を入れるとスピーカーリレーがカチッと正常に動作します。アンプの各機能を確認しますがリモコンも含めて全て正常です。

A-R630にはKoshin製の音響用電解コンデンサ KR3が全ての回路に使われいます。A-R630のカップリングコンデンサは全て10μF/50Vを使用しています。手持ちの電解コンデンサはニチコンFGです。KR3とFGの規格を単純に比較するとtanδは同じです。ただし長時間使用(耐久性)するとKR3の方がtanδが劣化しやすいようです。2010年発売のA-R630であれば、劣化したと思われるKR3をFGに交換する意味がありそうです。

MAIN BOARDのパワーアンプ回路へニチコンFGを実装
PREAMP BOARDのプリアンプ回路へニチコンFGを実装

FRONT PREAMP BOARDのTONE回路へニチコンFGを実装

MAIN BOARDのPHONO・ EQ回路へニチコンFGを実装

音質に大きく影響するカップリングコンデンサはPREAMP BOARDのTONE回路×4個、FRONT PREAMP BOARDのTONE回路×6個、MAIN BOARDのパワーアンプ回路×2個とPHONO回路×4個が使用されています。入力ソース毎の片チャネルが通過するカップリングコンデンサの数は次の通りです。①SOURCE DIRECT OFF:CD(7個)、PHONO(9個)。② SOURCE DIRECT ON:CD(4個)、PHONO(6個)。入力~出力までにかなりの数のコンデンサを通過するので交換による改善が期待できそうです。Koshin KR3からニチコンFGに対象のコンデンサを全て交換します。

次にAMP POWER SUPPLY BOARDの6000μF×2個を10000μF×2個に交換します。USB DACを接続して再度ヒヤリングします。電源回路の影響は大きく音の重心がさがり量感が増します。奥行が感じられ中低音は豊かに響きます。高域もバランス良く出ています。交換した部品のエージングが進むと音のつながりが滑らかになります。

 

±15V電源回路には1000μF×2個が実装

レコードを聴いてみます。PHONOの音には癖があり違和感を覚えます。海外仕様の回路図を眺めているとPHONOへ供給される±15V電源回路には3300μF×2が実装されているはずです。実際のMAIN BOARDで確認すると小さな1000μF×2が代わりに実装されていました。

この電源回路はPHONO以外にTONE回路へも供給されていて、レコードの音の違和感は非力な電源回路の影響かもしれません。1000μFを交換のため取り外すと大きさの違う電解コンデンサーを差し替えできるようにプリント基板に穴まで準備されいます。これはAMP POWER SUPPLY BOARDの6000μFを10000μFに交換したときと同じです。プリアンプ用の電源回路も同じかと思います。意図的にダウングレードしています。A-R650(海外仕様のみ)とA-R630との価格帯毎に部品を使い分けていたのだと思います。

 


±15V電源回路の電解コンデンサーを3300μF×2に交換します。プリアンプ用の電源回路も2000μF×2から3300μF×2に交換します。そのほか劣化が進んでいると思われる電解コンデンサーを10個ほど交換します。

再度ヒヤリングします。結論から言うとPHONOに感じた違和感は解消しませんでした。A-R630の固有の音なのでしょうが不自然です。CDやUSB-DACは音質の改善がみられます。帯域は上下に広くクリアで引き締まった鮮烈な音です。音場の広がりや量感も十分に感じられます。優秀なプリメインアンプかと思います。但し、A-R630は音場の広がりを意図的に作り込んだ製品のように感じます。

A-R630は音はいいのに操作の感触や質感で損をしているアンプです。左右のツマミはアルミ製でいいのですが、ツマミの重さが感じられず回した時の滑らかさもありません。中央の3つのツマミと前面パネルはプラスチック製で感触が悪くオーディオを操作する楽しみを半減させます。また、操作時の質感の悪さと派手なデザインが災いしてなのか安い手抜き製品の様な印象を受けます。真面目に回路設計した実力のあるアンプを組み込んでいるだけに残念です。このアンプの価格帯では限界なのかもしれません。

今回は劣化部品交換時に部品をアップグレードしてオリジナルより良い音に改善できました。本機は高音質のアンプをリモコン操作で手軽に楽しむ製品です。本体の質感よりも音と利便性が優先されています。個人的には、もう少しオーディオ機器として操作する楽しみを追求してほしかった製品です。気づかないところまでの品質や機能にこだわっていた頃の製品が懐かしくなります。