1.概要
| JA-S51 プリメインアンプ |
ビクター JA-S51 プリメインアンプの修理記録です。ビクター JA-S51は、1975年、59,800円の製品です。同年にJA-S71,JA-S31が発売されています。翌年1976年には名機JA-S41が発売されています。JA-S51とJA-S41は同じデザインであること以外は大きく異なるアンプです。JA‑S51は「レコード再生に特化した、時代に埋もれた名機」です。今回の修理とヒアリングで、その実力を明らかにします。
2.機能説明(カップリングコンデンサと4連ボリューム)
2章では、JA‑S51が“レコード再生に特化したアンプ”である理由を、 回路構成と設計思想から解説します。
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| カップリングコンデンサと4連ボリュームの概要図 |
回路図(ラジオ技術 1975年7月号)とプリント基板を眺めていたら、2つの特徴に気が付きました。
2-1.カップリングコンデンサ(無極性化の意図)
| EQ回路のオレンジ色の電解コンデンサ10μFが2個直列の様子 |
一つ目は、EQ出力とプリアンプ出力には電解コンデンサ10μFを2個直列にして無極性コンデンサとしていることです。コンデンサの歪を低減するためのものと思います。当時は無極性コンデンサもなく2個組み合わせていたようです。また、パワーアンプの入力には0.082μFのフィルムコンデンサが使われていて、出力には電解コンデンサを使用しないOCL構成が採用された音質重視となっています。
2-2.4連ボリューム(トリミング・ツイン・ボリューム)
| 4連ボリューム(トリミング・ツイン・ボリューム) |
二つ目は4連ボリュームの採用です。プリアンプの前後にそれぞれ2連ボリュームが入っているのが特徴です。ビクターのカタログによれば4連ボリュームをトリミング・ツイン・ボリュームとの名称で呼ばれています。
プリアンプ回路の入力側の1段目ボリュームは、EQからの信号レベルによるクリッピングを防止して歪のないクリアな音を提供します。また、プリアンプ回路のノイズをそのままのレベルでパワーアンプに送るよりも、プリアンプ回路の出力側に2段目のボリュームを入れることで信号だけでなくノイズも同時に調整することができS/Nを改善します。
更にPhono入力には100kΩ、47kΩ、33kΩのカートリッジ・ロード切替スイッチもあり、JA-S51はレコードを聴くために注力したアンプであることがわかります。
トリミング・ツイン(4連)・ボリュームの採用は、これ以降の製品では採用されておらず高価で貴重な機能となっています。
2-3.高級感ある外装パーツ
JA-S51は高級感あふれるツマミ類を採用しています。
①ボリュームツマミ:直径43mm、長さ30mm、重さ103g、材質:アルミ無垢
②セレクタツマミ:直径26.5mm、長さ22mm、重さ14g:材質:アルミ無垢
③トーンとバランス用ツマミ:直径22mm,長さ22mm、重さ12g、材質:2mmアルミとプラスチック製軸受け
④フロントパネル:厚さ4mmのアルミ無垢
⑤レバー用ツマミ:アルミとプラスチック製軸受け
アルミ類の合計重量は870g、全重量10kgの1割弱を占めています。デザインと操作時の質感を重視していますが、この物量ではアンプは重いはずです。また、トーンとバランス用ツマミはアルミ無垢ではないため、触感で重量感がないと違いがわかるのが残念です。
3.入力レベルの注意点
JA-S51にレコードプレーヤー以外のチューナーやデジタル機器(CDプレーヤーやUSB DACなど)を接続するときの注意事項です。
・なぜ160mVなのか
JA-S51のプリアンプへの入力レベルは160mVが基準です。入力レベルに敏感なアンプなので、接続するチューナーやデジタル機器(CDプレーヤー、USB DACなど)の出力レベルは160mV基準に合わせる必要があります。
・許容範囲
実際にはある程度の許容範囲があり、JA-S51への入力レベルは160mV(基準)~320mV(2倍程度が許容範囲内)に収める必要があります。
・過入力時の症状
入力レベルを低く適正にしないと、本来の音質が得られないのアンプです。入力レベルが高すぎると音全体にクリアさをうしない曇ります。また、音に広がりや奥行がなくなります。
・実例(チューナー600mV → -6dB)
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| 機器別入力レベル表 |
アナログチューナーの出力レベルを600mVとすると最低でも-6dB以下に減衰させ320mV以下にする必要があります。USB DACの出力レベルが2000mVとすると最低でも16dB以下に減衰させ320mV以下にする必要があります。
4.電源投入前の修理
| アンプを上から見た内部の様子 |
故障個所の列記
・スピーカー端子の損傷
| 破損したスピーカー端子のツマミ |
経年劣化でプラスチックのツマミが欠けて取れていますので新しいスピーカー端子に交換します。
| スピーカー端子の内側はカバーなしの電源ヒューズ |
スピーカー端子の内側には電源ヒューズがあり端子と接触しては危険なので、カバーなしの電源ヒューズを絶縁型ヒューズフォルダーに変更して対策します。
| 古いスピーカー端子を加工 |
| 新しいスピーカー端子 |
| スピーカー端子と絶縁性の電源ヒューズ |
新しいスピーカー端子を実装して終了です。
・RCA入力端子の損傷
| 破損したRCA入力端子 |
TUNERとAUXのRCA入力端子のプラスチックが割れてネジ止め固定できません。保管してあるジャンクパーツのRCA入力端子と交換します。
| 交換したRCA入力端子 |
・セレクタ(ロータリースイッチ)の端子清掃
ロータリースイッチ(3個)は端子が黒くなっているので清掃します。
目視ではわからない事前修理
・劣化部品の交換
| 底のゴムが膨らみ劣化した電解コンデンサ |
古い年代の電解コンデンサは劣化しているので全て交換します。電源関係だけで28個あります。外観からはわからない電解コンデンサの底のゴムが膨らみ膨張して劣化していました。
| 部品交換後の内部の様子 |
・スイッチの分解・清掃
大型のトグルスイッチを取り外して分解清掃します。
| 接点復活剤で内部がドロドロの様子 |
スイッチを分解したところ内部が接点復活剤の大量散布でドロドロでした。接点復活剤だけでは接触不良が改善しないばかりかショートもするので良くない修理方法です。分解して丹念に汚れを拭き取り清掃すればスイッチは蘇ります。Phonoのカートリッジ・ロード切替用のスライドスイッチも忘れずに分解清掃します。
・パワートランジスタの放熱用シリコングリスの交換
| 放熱用シリコン交換後のパワートランジスタ |
パワートランジスタを取り外します。予想通り放熱用シリコンが乾き固まっています。古いシリコンを丹念に拭き取り、新しいシリコングリス(サンハヤト:SCH-30)に塗り替えます。
5.動作試験
5-1.初回電源投入
スピーカー保護リレーは正常にカチッと動作しますが、この時点では導通は確認できていません。電源回路の電圧も正常です。
5-2.アイドリング電流調整
アイドリング電流は以下のとおりです。0.22Ω×2の両端で測定します。
L側:8.4mV(18.5mA)
R側:11.4mV(25.9mA)
・アイドリング電流(調整後)
| アイドリング電流調整は左上:R325と右上:R324 |
アイドリング電流は半固定抵抗のR325とR324を以下のとおり調整しました。
アイドリング電流は10~40mAの範囲で調整が必要です。今回はLR共に11.0mV(25mA)で調整しました。
5-3.DCオフセット調整
| DCオフセット調整は左下:R313と右下:R314 |
DCオフセット調整は半固定抵抗のR313とR314でスピーカー端子が0Vになる様に調整しました。
5-4.不具合の発生
結論:原因はスピーカー保護リレーの接触不良だった。
スピーカーから音はでますが、次第に小さくなり歪んでいます。そして最終は音が聞こえなくなります。
5-5.原因の特定(リレー)
・正弦波の変化
| 最初はきれいな正弦波を観測した画面 |
| しばらくするとレベル低下した画面 |
| 最終的にはノイズだけになった画面 |
1kHzのテスト信号を入力しながらスピーカー端子にダミー抵抗8Ωを接続してオシロスコープで観測します。最初はきれいな正弦波が出ています。時間がたつと次第に信号レベルが低下します。最終的には1kHzのテスト信号は聞こえずノイズだけになります。
・パワーアンプ直結で正常
パワーアンプ出力にオシロスコープを直接接続すると波形は正常で信号レベルの変動もありませんでした。
・リレーを叩くと変動
| 接触不良のスピーカー保護リレー |
以上のことからスピーカー保護リレーが接触不良の模様です。1kHzのテスト信号を流しながらリレーをコツコツ叩くと信号レベルが明らかに変動します。リレーの接点が酸化被膜で導通不良になったと思われます。分解清掃で導通は復活はしますが再発する可能性が高いのでリレーは交換します。
5-6.リレーの修理と導通測定
・リレーの修理
OMRON MY3-0-NB DC24Vが使われていますが既に生産終了しています。代替推奨品はMY3-02 DC24Vを使用します。
| MY3-0-NBのカバーを外した様子 |
MY3-02 DC24Vの納品が遅く、仮修理としてリレーの接点の清掃で対応します。
・導通測定の数値
デジタルテスターを下記のリレー端子番号につなぎ、手でリレーをONにすることで清掃前後の導通状態を確認します。
清掃前
4-7端子: 300Ω~10Ωで変動して不安定
5-8端子:8kΩ~300Ωまで変動して不安定
6-9端子: 18kΩ~300Ωまで変動して不安定
清掃後
4-7端子:3.1Ωで安定
5-8端子:3.2Ωで安定
6-9端子:20Ω~3Ωまで変動して3.2Ωで安定
リレーの清掃時に端子から黒いスス状の汚れがでました。
リレーを基板に取り付けで動作確認したところ、左右の導通は正常になり、小信号での再生でも音切れや不安定、ノイズもなく良好です。
ただし、6-9端子は変動して数値が安定するまでに時間がかかる挙動のため接点が修復できないダメージがあるとの徴候を示しています。10Ω未満の抵抗値ても変動があるリレーは廃棄して新しいリレーへの交換が必要です。
新しいリレーが到着しだい、メンテナンス用底板を外して交換する予定です。
・メンテナンス用の開口部
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| 赤枠がメンテナンス範囲 |
上の写真で底板からのメンテンアンス範囲を赤枠で示します。パワーアンプ基板の部品やリレーなどの故障や劣化しやすい部品は底板を外すだけで交換できます。
6.ヒアリング
修理後のJA‑S51が本来の性能を発揮できているか、 入力レベルを適正化したうえでヒアリングを行います。
・事前準備(レベル調整用アッテネーター 製作)
チューナーにはSONY ST-SA50ESを使いますが、出力レベルが固定で調整できません。そのため、レベル調整用のアッテネーター を製作します。
計算例
SONY ST-SA50ES:出力レベル:600mV⇒160mV、20log10(160/600)=-11.5dB
11.5dBのアッテネーターを入れて160mV出力とする
11.3dBアッテネーター(163mV)を製作:L型アッテネーター 直列:15kΩ、並列5.6kΩ
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| 基準レベル・早見表 |
アッテネーター製作
市販されているアッテネーター製品を利用すればいいのですが、今回は11.3dBアッテネーターを自作しました。構造が簡単で音質も良い固定式アッテネーターを製作します。
| アッテネーター製作に必要な材料一式 |
15kΩ(1W)×2、5.6kΩ(1W)×2、RCA端子×4、円筒プラケース×2を材料として使用します。
| 完成した11.3dBL型アッテネーター |
ケースに穴を開けて配線と11.3dB ATTのテプラを貼って完成です。
・ヒアリング
以下の通り、接続機器の信号レベルを合わせてからヒアリングをします。
なお、EQ回路などのオレンジ色の音響用電解コンデンサ(10µF×2直列)は、 低電圧動作で劣化が軽微だったため交換せず、オリジナルのままとしました。 この部分はJA‑S51の音質に直結するため、当時の音を残す意図もあるからです。
アナログチューナー(SONY ST-SA50ES)
ATTなし(600mV): 中低音がやや膨らみ、全体のクリアさが失われて少し曇った音がします。
ATTあり(160mV):バランスも良くクリアで繊細な音かします。明らかに奥行や深みが加わります。
USB DAC(ToppingDX3Pro)
-10dB(600mV):音はエコーがかかったようで不自然です。バランスはとれているが音が平坦に聞こえ奥行が不足しています。
-16dB(300mV):全体にクリアだが中低域が出て音に力強さが加わり元気な音がします。音は繊細さもあるが奥行はやや後退しますが、これはこれでありの音かと思わせる音です。
-22dB(160mV) :濁りの無い中低音と少し線は細いが高域が繊細です。消えゆく音を最後まで聞かせる。奥行は一番深く余韻が美しい。
レコード:XL-1550、AT-10E、カートリッジ・ロード47k
チューナーやUSB DACでは感じられなかった圧倒的な空気感をまとったボーカルが浮かび上がる。JAZZの“存在感のある盤”では、録音現場の空気がそのまま立ち上がり、 JA‑S51がレコード専用機として作られたことを強く実感します。
なお、修理直後は高域がやや元気に感じられたが、エージングが進むにつれて高域の暴れは収まり、最終的には中低域とのバランスが整いました。現在は落ち着いた自然な音調で、長時間聴いても疲れない仕上がりとなっています。
7.まとめ
JA‑S51を初めて修理しましたが、内部構成や回路設計を追うほどに、当時のビクターがどれほど真剣にレコード再生へ向き合っていたかを思い知らされました。エージングが進むにつれて音は落ち着きを増し、JA‑S51が本来持つ“静かで深いレコード再生能力”が姿を現します。EQカップリングをあえて残したことで、JA‑S51が本来持つ“レコードの空気感”がそのまま蘇りました。JA‑S51は、適正レベルで駆動したときにだけ本領を発揮する、極めて繊細で唯一無二のレコード再生機です。
1970年前半は、オーディオ機器がまだ低出力で、微細信号の扱いに高度な技術が求められた時代でした。JA‑S51はその技術の集大成として生まれましたが、翌年には高出力化へ転換したJA‑S41が登場し、時代の潮流は一気に変わります。高出力機器を前提とした評価軸では、JA‑S51は本来の性能を発揮できず、正当に評価される機会すらなかったのかもしれません。
低出力から高出力へと技術が移り変わる“狭間”に置き去りにされたアンプです。しかし、その繊細さと精密さは、レコード再生において今なお圧倒的な存在感を放ちます。
JA‑S51は、レコード再生のためだけに作られた、時代に埋もれた名機です。
8.JA-S51型規格
ビクターJA-S51カタログ(昭和50年5月20日現在)より抜粋
・パワーアンプ部
回路方式=全段直結ピュア・コンプリメンタリーOCL
実効出力=52W+52W(8Ω・THD 0.25%)
20Hz~20kHz出力=47W+47W (8Ω・THD 0.25%)
高調波歪率=0.05%(47W出力時・1kHz)、0.05%以下(1W出力時)
混変調歪率=0.25%(実効出力時)、0.05%(1W出力時)
パワーバンド・ウェス=15Hz~40kHz(IHF t用CH動作・THD 0.25%)
周波数特性=20Hz~70kHz +0dB、-1dB
ダンピング・ファクター=30以上(20Hz~20kHz・8Ω負荷
負荷インピーダンス=4~16Ω
入力感度=1V(50kΩ)
・プリアンプ部
周波数特性= 20Hz~50kHz +0dB、-1dB
トーン・コントロール=BASS ±8dB(100Hz)、TREBLE ±8dB(10kHz)
入力感度=PHONO 1、2 2.5mV(100k,47k,33k)、TUNER AUX他 160mV(50kΩ)
SN比=PHONO 65dB以上(RMS)、75dB以上(IHF、Aネットワーク、ショートサーキット)
TUNER,AUX 85dB以上(RMS)、95dB以上(IHF、Aネットワーク、ショートサーキット)
イコライザー特性=20Hz~15kHz ±0.5dB(RIAA偏差)
PHONO最大許容入力=180mV RMS(1kHz)
出力レベル=PRE OUT 1.1V(2.2kΩ)
TAPE REC 160mV、TAPE REC(DIN)30mV(80kΩ)
フィルターHIGH=9kHz(-6dB/OCT)
ミューティング=-20dB
ラウドネス=+10dB(100Hz)、+4dB(10kHz)、(-30dBポイント)
・その他
電源=AC100V(50/60Hz)
定格消費電力=110W(〶安全規格)
ACアウトレット=電源スイッチ連動2個、非連動1個
寸法=(H)162×(W)420×(D)342mm
重量=10.0kg



