FMステレオ機能やOTL回路、MFBなど高級機らしい充実した機能を搭載した1960年代の大人のためのステレオです。
まずは背面の板を外します。左右は2wayのスピーカーです。中央には本体シャーシ、左側底板にはFMマルチ基板が配置されています。FMマルチ基板はトランジスタ式で型番は不明でした。背面の底板・角のMDFが湿気でボロボロになっています。破損が広がらないように茶色いコーキング材で仮補修します。
上部の蓋を開けるとレコードプレーヤーとAM/FMチューナー・パネルが見えます。20cmの小型ターテーブルですがLPレコードが収まる空間があります。当時はクリスタルPUで針圧は6gと高めの設定でターンテーブルは四隅のスプリングで浮かせた防振対策をする針飛び防止の構造です。チューナーパネルの右横のスペースにはLPレコードが収納できます。

本体シャーシは左横の4本の太いネジを外せば取り出せます。

手前右4本が30MP27のOTLアンプです。奥がAMとFMのチューナー回路になります。
ハイインピーダンス・ツィーター6.5cm/250Ω/10W

ハイインピーダンス・ウーファー20cm/400Ω/10W
このステレオは30MP27×4のOTLアンプです。今では見られないトランスレスのハイインピーダンス・スピーカーを採用しています。SE-6200AはOTLアンプとハイインピーダンス・スピーカーの組合わせを搭載することによって高音質を目指しています。OTLアンプとトランスレスのハイインピーダンス・スピーカーを搭載した製品は他メーカーからは販売されていません(私の知る範囲では)。ナショナルの上位機種だけに採用されています。それがSE-6200Aの最大の特徴にもなっています。
もうひとつの特徴はMFB回路を採用していることです。当初、MFBスピーカーによるMFB方式と勘違いしていました。SE-6200AではOTL出力段の信号を小型トランス(上の写真の下側に2個並んだETD-24A28A)を経由して入力段へフィードバックする回路方式です。再生帯域の拡大(低音域の拡大)と歪低減の効果があるそうです。出力トランスからのフィードバック回路と同じ原理です。MFBによる音声調整はMOODスイッチのCLEAR(低音小)、NATURE(普通)、DYNAMIC(低音大)の3段階です。NF回路なので歪は常時低減された動作となります。
シャーシの裏面です。前々オーナーさんが修理に出したらしく主要な電解コンデンサとボリュームが交換されています。また、ボリュームが2連2軸から2連1軸に交換しています。劣化して同等品がなくやむ無く1軸に交換したのでしょう。バランスは調整出来ませんが実質使って問題ありませんでした。ただし、2軸用の片方のツマミがガタガタ空回りして傾いたボリュームは操作感が悪すぎます。2軸用ツマミを一体化して再実装しました。
故障修理のみで、その他の電解コンデンサやペーパーコンデンサは交換されていません。劣化の兆候が見られるので交換が必要です。
劣化部品は全て交換します。ここまで半日程度の作業で完了です。
修理後に電源を入れます。各電圧を測りますが正常です。トラッキングはズレていますがFMのステレオランプは正常に点灯します。左右のスピーカーから音が出てノイズもなく正常に動作しています。

30分程度、電源を入れたままにすると出力管の近く中央のブロック電解コンデンサ(写真では灰色の電解コンデンサ)が輻射でかなり熱くなります。構造的によくありません。6cm×10cmのアルミ板で製作した仕切り板を追加しました。
この状態で一度組み立て直してヒヤリングします。無調整のFM放送ですが左右に音が分離してステレオ感はあります。FM放送のチューニングがズレるとサッーとノイズが入りますので注意が必要です。豊かな中低音ですが少しこもって聞こえます。パワーは十分に余裕があり大音量で楽しむことができます。
交換前のネットワーク回路には0.1μFペーパーコンデンサ

交換後のネットワーク回路の0.1μFフィルムコンンデンサ
しかし、期待していた様な抜けの良い音がしません。音がこもり、やたら分厚い中低音と毛布をかぶせた様な高音です。レトロな音と言えばそれまでですがレトロすぎます。回路図を眺めているとツィーターに0.1μFのネットワーク用コンデンサが使われています。実際には0.1μFのペーパーコンデンサです。ネットワーク用としてはペーパーコンデンサは不向きなのでフィルムコンデンサと交換します。再度、ヒヤリングします。音質は激変します。澄んだ高音が聴こえるようになります。高域の影響でしょうか中低音域のダブついてこもった音がメリハリのある締まった音質に変化しました。昔、聴いたSE-6200Aの鮮やかな音が蘇ります。ネットワーク・コンデンサ0.1μFの交換は簡単で効果が高いです。 ただし、SE-6200AのOTL回路ではスピーカー端子やスピーカーフレームにも高電圧(240V~250V)がかかっていますのでAC100Vコンセントを抜いてから作業してください。
SE-6200Aはツィーターがウーファーより下に配置されています。和室で座って聴くことを想定していたのかもしれません。畳に座ってヒヤリングしてみます。上下の帯域が広がって聴こえます。やはり、畳に座った位置がベストポジションです。もしくは洋間でソファーに座ってやや離れた位置で聴くのがいいのかもしれません。OTL回路の音の特徴でしょうか。量感たっぷりの中低音にキラリと高音を添えた音が心地よく響きます。1960年代の家具調ステレオの修理は昔を思い出す懐かしい時間でした。
2024.8.24 追記:FMマルチ基板の改善
FMマルチ基板の劣化した電解コンデンサは全て交換しました。更にFMマルチの回路図を見ていると、使用するコンンデンサ種別が細かく指定されています。実際の基板と比較するとスチロールコンデンサがセラミックコンデンサに置き換わっています。コスト削減のためかと思います。FMマルチ基板のコンデンサを迂闊に変更するとマトリックス回路のバランスが崩れてしまいます。影響が少ないと思われるステレオ出力段のセラミックコンデンサを交換します。1000pF×2個と0.0047μF×2個を交換します。1000pF交換の影響でしょうかFM選局(Q)がシャープになりました。また、音質は薄いベールを1枚はがしたように音の透明度が向上します。
2024.8.25 追記:シャーシ本体の改善
TREBLE回路の47pF×2(赤いコンデンサ)に交換
30MP27グリッドのフィルムコンデンサ0.022μF×2
回路図を眺めながらアンプ本体で音質向上できそうな箇所を探しました。変更箇所は高音調整のTREBLE回路の47pF×2とOTL出力管30MP27グリッドの0.022μF×2です。どちらもセラミックコンデンサなので交換します。全体的に余分な音が消え音にスピード感(キレ)が出てきます。高音のツィーターは決して刺激的ではない綺麗で優しい音です。中低音が締ったことにより高音とのバランスが良くなりました。全体にホールの様な雰囲気の音がしますがSE-6200A固有の音だと思われます。この音で物足りなければMOODスイッチをDYNAMICにすれば高音、低音が強調された少し刺激のある音質になります。TONE回路による調整よりMOODスイッチは自然な音質で味わえます。 FMステレオ放送の音は帯域こそ狭いですが中低音に厚みがあり良い雰囲気で気持ちよく音楽を聴くことができます。
シールド板を外すとPHONO入力のコンデンサが見えます。回路図とは異なり1μF×2のセラミックコンデンサがカップリングとして実装されていました。セラミックコンデンサでは音が悪いのでフィルムコンデサと交換します。レコードはFMステレオより更に引き締まった良質の音がします。全体的に静寂性が増したような印象を受け音量を上げてもうるさくなりません。レコードで聴いた印象は帯域は広く余分な色付けのない音がします。交換したコンデンサの影響が音に大きく影響したのかもしれません。もう少し低域に厚みがあればよいと思います。しかし、本機はクリスタル型ピックアップでRIAAカーブを補正するPhonoイコライザーがないので無理な要求かもしれません。
2024.8.31 CDプレーヤーの接続
SE-6200AでCDを再生したいと思います。入力端子としてはPhono用端子を使用します。接続には3pinコネクタ ~RCAプラグのコードを作成します。SE-6200AはOTL回路入口に2MΩ可変抵抗のハイ・インピーダンスになっています。CDプレーヤーをそのまま接続しても全く問題ありません。早速、CDプレーヤーを接続して再生します。音量は良好ですが厚みのあるドンシャリ気味の音質です。SE-6200Aでは帯域の広いCDよりFMステレオ放送の方がスッキリしたバランスの良い音かもしれません。
2024. 9.1CDプレーヤとSE-6200Aのインピーダンス
オーディオ機器はロー出しハイ入りのインピーダンスです。CDプレーヤーには
YAMAHA CDX-390を使用しています。このCDプレーヤーの出力レベルは、RCA OUT端子がオープン状態で1kHz正弦波で925mVp-pです。RCA OUT端子に並列に1MΩの可変抵抗を取り付け(アンプの入力インピーダンスの代用)出力レベルの変化をオシロスコープで確認してみました。1MΩでも925mVp-pで変化がありません。等価回路の動作どおりCDプレーヤーの出力インピーダンスより低い入力インピーダンスでなければ出力レベルに大きな変化はないようです。入力インピーダンスが変化しても電圧は一定で変化しないので出力インピーダンスの測定は断念しました。その代わり入力インピーダンスに相当する可変抵抗を除々に下げてゆくと6.7kΩ付近から電圧レベルの低下がみられました。このことからCDプレーヤーとの接続には、アンプの入力インピーダンスが10kΩ以上あれば十分であることがわかります。当然、ハイ・インピーダンスのSE-6200Aとの接続には何の支障もないことがわかりました。CDプレーヤーとSE-6200A間のインピーダンスの影響を受けていないか心配でしたが憂慮に終わったようです。この機器の組み合わせは出力レベルや波形の乱れもなく良好な接続形態でした。
2024.9.7 エージング
SE-6200AをCD再生で長時間エージングしてみました。長期間使われていなかったのでしょうか。鳴らせば鳴らすほど音の抜けがよくなります。交換したコンデンサやスピーカーのエージングで落ち着いたのか音のバランスも整ってきました。CDプレーヤーはドンシャリぎみな音でしたが、高音のキンキンした耳障りな音は大人しく繊細に変わります。中低音がダブつい出過ぎでしたがバランス良く締まった音になります。大音量で長時間鳴らすことが必要だったようです。昔の高級ステレオは丈夫です。古い製品だとあきらめずに大事に取り扱えば今でも十分通用する音楽を聴くことが出来ます。
2024.12.21 グランドループ・アイソレータ
CDプレーヤーで音楽を楽しんでいますが、CDプレーヤー本体を触ると電圧を感じます。かなりビリビリするので感触が嫌いです。精神衛生的に良くないので音楽が楽しめなくなります。
CDプレーヤーを触っても電圧を感じないので大丈夫です。これでSE-6200Aに関する当面の不満は解消しました。