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2026/07/23

ゲルマニウムラジオの基礎の基礎

1.概要

ゲルマニウムラジオとマグネチックレシーバー

マグネチックレシーバーを入手したのでゲルマニウムラジオに使用する予定です。ゲルマニウムラジオのアンテナや同調回路は繊細で非常に難しいです。そこは回避して検波方式と負荷の組み合わせに着目してマグネチックレシーバーを活かせないか検討しました。

本記事では、

クリスタルイヤホン/マグネチックレシーバー/トランスの検波方式の違い

・平均値検波と包絡線検波の音量差(約8〜10dB)

・ マグネチックレシーバーを使う際の“落とし穴”

 を体系的に整理しています。

2.クリスタルイヤホン(C)系

ご存知のとおり、クリスタルイヤホンはロシェル塩などの圧電素子で構成された高インピーダンスなコンデンサ(C)素子です。 クリスタルイヤホン自体が持っている静電容量(約1000pF〜3000pF)をコンデンサ(C)として検波方式を比べてみます。

(1)① C直結(抵抗なし)

① C直結(抵抗なし)回路図

ダイオード検波からクリスタルイヤホンに直結する回路の動作は、ダイオードを通ってイヤホン(C)に溜まった電荷の「逃げ道」がなくなります。

イヤホンに電荷が溜まりっぱなしになり、ダイオードの両端電圧が同等(または逆バイアス)になって「ダイオードが整流動作を停止」します。

その結果、音が出なくなってしまうか、極めて歪んだ小さな音になってしまいます。

例外的にラジオが鳴ることがあります。これは、クリスタルイヤホンの数十MΩクラスの内部抵抗に流れた漏れ電流により辛うじてラジオが鳴っている状態です。

(2)② C+負荷抵抗(包絡線検波)

イヤホンと並列に接続した負荷抵抗(47kΩ〜100kΩ)が、ダイオードの整流電流(直流)をアースへ逃がす経路(R)になります。

② C+負荷抵抗(包絡線検波)回路図

この イヤホン(C)並列の抵抗(R)が組み合わさることで、整流された高周波の「山(ピーク)」の電荷を抵抗(R)からジワジワと放電させ、振幅の変化(包絡線)になめらかに追従する波形=音声信号(AF)を作り出しています。

包絡線検波の波形
 この検波方式は包絡線検波と呼ばれています。

① C直結(抵抗なし)よりレベルが高い包絡線検波を使用して下さい。

3.マグネチックレシーバー(L)系

(1)③ L直結(Cなし=平均値検波)

マグネチックレシーバーの内部には、細い電線を何千回も巻いた大きなインダクタンス(L成分)を持ったコイルが入っています。

L直結(Cなし=平均値検波)回路図


コイルには「電流の変化を拒み、一定に保とうとする(平滑化する)」という電気的性質があります。
  • ダイオードの出力: 高周波のON/OFF(プラスの半波の連続脈流)

  • コイルの反応: 高周波の激しい変化についていけず、脈流の電流の平均的な太さ(直流〜音声周波数成分)だけをなめらかに流そうとします。

つまり、コイル自身がチョークコイル(高周波阻止コイル)として働き、高周波成分をシャットアウトして「平均電流」だけを抽出します。

平均値検波の波形

この様な検波方式を平均値検波と呼んでいます。

平均値検波は波形のピーク値Vpの1/πのレベルになります。

(2)④ L+C(包絡線検波)

マグネチックレシーバーによる平均値検波に並列で高周波バイパスコンデンサ(1000pF〜4700pF)を入れることで包絡線検波になります。

LC(包絡線検波)回路図

包絡線検波の波形

「② C+負荷抵抗(包絡線検波)」は平均値検波に比べて、理論上および実際の回路動作でおおむね「2.5倍〜3倍(約 +8dB 〜 +10dB)」ほどのレベルが向上しますが、「④ L+C(包絡線検波)」はインダクタンスの影響により「② C+負荷抵抗(包絡線検波)」よりレベルは低下します。

8項、参考(6パターンの実測データ)をご確認ください。  

4.インピーダンス変換トランス(L)系

マグネチックレシーバーの包絡線検波は興味深い内容です。マグネチックレシーバー(L)を、そのままインピーダンス変換トランス(L)に置き換えてみました。

市販されていた昔のゲルマニウムラジオキットや、インピーダンス変換トランス(ST-32やST-71など)を使ってローインピーダンスのクリスタルイヤホンや現代のイヤホンを鳴らす回路で、トランスの一次側(ダイオード側)にコンデンサが並列に入っているのをよく見かけます。

結論からいうと、トランス(ST-12A)はインダスタンスが大きく検波方式(包絡線検波)が成立しません。並列コンデンサ(C)は高周波フィルターとして機能します。

8項、参考(6パターンの実測データ)をご確認ください。 

(1)⑤ トランス一次側Cなし(平均値検波は成立する)

⑤ トランス一次側Cなし回路図

(2)⑥ トランス一次側Cあり(包絡線検波は成立しない)

⑥ トランス一次側Cあり回路図

5. 検波方式理解への疑問

検波方式という概念は、日本のラジオ文化の中で体系的に定着してこなかった印象があります。これは単なる知識の不足ではなく、歴史的背景として必然だったと考えています。以下にその理由を整理します。

(1)鉱石ラジオ時代の強電界文化では、方式の違いが問題化しなかった

戦後の強電界環境では、鉱石ラジオは 平均値検波でも包絡線検波でも「鳴ればよい」 という実用性が最優先されていました。

そのため、検波方式の分類はラジオ文化として深く意識されず、 「とにかく受信できること」 が価値として継承され、現在に至っています。

(2)昭和の教材は実用技術中心で、方式名の体系化が行われなかった

昭和のラジオ雑誌や教科書を確認しても、 平均値検波・包絡線検波といった方式名はほとんど登場しません。

当時の教材は、

  • ダイオード検波

  • ダイアゴナルひずみ

  • AVC など、現象と調整技術を中心にした“実用技術者育成”の教育文化の中で作られていました。

一方、現代の大学教科書では通信工学の体系化が進み、 復調方式として平均値検波・包絡線検波が明確に分類されています。

この差は、 昭和の実践技術文化と、現代の国際標準に基づく理論体系との間にある教育文化のギャップ として理解できます。

(3)参考資料

いずれも実用技術者育成を目的とした教材であり、方式名の体系化は見られません。

  • 文部省認定 通信教育 ラジオ工学講座  『ラジオ工学教科書 第1部第1巻』 昭和23年

  • NHK 『ラジオFM技術教科書』 日本放送協会編 昭和46年  

6.マグネチックレシーバーを使う際の“落とし穴”

本記事の目的は、検波方式の観点からマグネチックレシーバーの活用を整理することです。

マグネチックレシーバーはコイル(L)なので、クリスタルイヤホンで使われていた並列抵抗をそのまま使うと平均値検波に戻り、音量が大きく低下します。

そのため、クリスタルイヤホンで包絡線検波(並列に抵抗あり)を行っていた回路にマグネチックレシーバーを接続する場合は、並列抵抗をコンデンサ(1000〜4700pF)に置き換える必要があります。

8項、参考(6パターンの実測データ)をご確認ください。  

参考までに、最初から並列に抵抗とコンデンサを入れておけば、クリスタルイヤホンとマグネチックレシーバーのどちらでも利用できそうに思えます。しかし、クリスタルイヤホン、マグネチックレシーバーのどちらも中途半端な動作になりレベル低下します。負荷にあわせて適切な検波回路を選択して下さい。

7.まとめ

検波方式の記事はいかがだったでしょうか。理論だけの少し堅い記事です。ゲルマニウムラジオの製作では、皆さんが微細な信号レベルを確保するのに苦労してラジオを組まれています。それにもかかわらず、平均値検波回路が散見されます。少しでもお役に立てればと思い包絡線検波を推奨する旨を本記事で書かせて頂きました。

8. 参考(6パターンの実測データ)

当初、検波出力の波形観測としようと思いましたが、オシロスコープのプローブには静電容量(10pF~20pF)があり、これが検波方式に干渉して測定出来ませんでした。

ゲルマニウムラジオは繊細なため非接触型測定方法に急遽変更しました。

スマホのマイクにクリスタルイヤホンを取り付けた測定方法

スマホアプリ(音量測定ソフト)とスマホのマイクにクリスタルイヤホンを押し付けた、ハイテク+ローテクを組み合わせ方法です。クリスタルイヤホンをセロテープでスマホに固定したなんともローテクな測定方法です。

最初の測定は失敗しました。原因は電子ブロックのダイオード不良で、真逆の測定結果となってしまいました。 新しい1N60を直接基板に刺して対応しました。

(1)クリスタルイヤホン(C)系

 ① C直結(抵抗なし):52dB

 ② C+負荷抵抗(包絡線検波):56dB

56-52dBの相対的なレベル差です。 

理論的には、 包絡線検波は平均値検波に対して 約 +8〜10 dB(2.5〜3倍) とされています。 今回の実測では +4 dB なので、理論値より少し小さいけれど、 「包絡線検波のほうが明確に大きい」 という方向性はきちんと一致しています。 

(2)マグネチックレシーバー(L)系

・最初(1回目)の測定結果 

③ L直結(Cなし=平均値検波):39dB

④ L+C(包絡線検波):40dB

40-39=1.0dBの相対的なレベル差です。

クリスタルイヤホン(C)系より明らかにレベル差が小さくなっています。スマホのマイクとマグネチックレシーバー間の距離が大きく物理的にも密着が難しいことが測定レベルの低下の一因です。また、マグネチックレシーバーのインダクタンスの大きさが影響してレベルが低下しています。

レベルは小さいですが「包絡線検波のほうが明確に大きい」 という方向性はきちんと一致しています。

・2回目の測定結果

 1回目の測定結果では差異が1dBと小さかったため、測定方法を改善して再度測定しました。

スマホスタンドを使いマイクとレシーバーを密着
1回目はスマホのマイクにマグネチックレシーバーを押し当てただけの測定方法が原因でレベルが低かったことを反省して改善しました。

スタンドにスマホを固定してマイクの真下にレシーバーを配置、周囲をブチルゴムのテーブで塞いだ密閉構造の測定方法にしました。前回のセロテープ固定ではセロテープが動くとパチッとノイズが入り密閉も甘く測定が難しかったです。スタンドにテープでぐるぐる巻きにしたローテクの極みですが、短時間での製作や短期利用には実用的かなと思います。

また、特定周波数のテスト信号では、検波回路の周波数依存に対応できていないかと思い、ラジオ放送の変動するレベル幅をアプリのアナログメーターで測定しました。

・テスト信号:AM変調波 

③ L直結(Cなし=平均値検波):54dB

④ L+C(包絡線検波):56dB

56-54=2.0dBの相対的なレベル差です。

・テスト信号:ラジオ放送

③ L直結(Cなし=平均値検波):42dB~48dB

④ L+C(包絡線検波):48dB~55dB(振れ幅を測定)

 48-42=6dB、55-48dB=7dB(振れ幅を測定)

6~7dBの相対的なレベル差です。

1回目よりも明らかにレベルが上がっています。物理的な改善とテスト信号にラジオ放送を加えたことにより、検波方式の違いがより鮮明になったかと思います。 

レベル差により「包絡線検波のほうが明確に大きい」 という方向性はきちんと一致しました。

マグネチックレシーバーの仕様:495Ω、122mH 

(3)インピーダンス変換トランス(L)系 

⑤ トランス一次側Cなし(平均値検波は成立する):55dB

⑥ トランス一次側Cあり(包絡線検波は成立しない):39dB

39-55=-14dB の相対的なレベル差です。

包絡線検波が成立していません。側的にはAM変調(1kHz)を使いました。実際のラジオを受信して確認したところ、ほぼ同じレベルであること確認しています。このことは、コンデンサ(C)は包絡線検波にはなんら影響がなく、高調波コンデンサとしてフィルターの役割を果たしている模様です。スマホアプリのスペクトルアナライザでテスト用周波数がコンデンサ挿入によりフィルターとして働き急激に減衰するのを確認しました。

電流の流れを必要とする包絡線検波は電圧増幅を目的とする高インダクタンスのトランス(L)には適用できないことがわかりました。

SANSUI ST-12A 1.39kΩ:51.2Ω、358mH 

(4) マグネチックレシーバーを使う際の“落とし穴”

・クリスタルイヤホンの条件(平均値検波)でマグネチックレシーバーを使用

 テスト信号:ラジオ放送  45dB~50dB(振れ幅を測定)

・マグネチックレシーバーの条件(包絡線検波)に変更

 テスト信号:ラジオ放送  50dB~55dB(振れ幅を測定)

 50-45=5dB、55-50=5dB 

 5dBの相対的なレベル差になります。

マグネッチクレシーバーは平均値検波から包絡線検波(並列にC)に変更することでレベルが上がることがわかります。  

(5)前編:ブログ  

ゲルマニウムラジオに関係する前編のブログです。 

ゲルマニウムラジオ用アクティブ・アンテナの製作 

2025/05/17

後編:さぐり式鉱石検波器の製作(二作目とシリコン結晶)

さぐり式鉱石検波器の二作目の製作です。

今回の製作には上の写真の鉱石検波器を参考にしました。鉱石をネジ止めで検波針の調整しやすい構造です。

似た様な部品は入手できないのでスピーカー端子×4個を中心に製作します。全長50mm、直径10mm、M5ネジの金メッキのスピーカー端子を使用します。横穴を通したスピーカーケーブルを上のネジで締め付けるタイプの端子です。
2つのスピーカー端子を組み合わせると何となく探り式鉱石検波器の支柱部品として使えそうなのがわかります。
上の写真が部品一式です。木板×1、丸棒×2、スピーカー端子(金メッキ)×4,ワンタッチスピーカー端子×1、ゴム足×4、銅キャップ(直径10mm)×1、内径10mmのリング×1。
写真のタングステン線は使用しませんでした。ハンダ付けもできず取り付けが難しかったの今回はパスしました。
木版の穴あけと丸棒に穴をあけた支柱台を取り付けます。上の写真は塗装まで加工済みの状態です。

2本の支柱にはスピーカー端子を使います。取り付け後は横穴の高さを確認します。

 
スピーカー端子に鉱石を格納する銅製キャップを取り付けます。
上の写真は取り付けた様子です。

スピーカー端子に真鍮でコイル状のヒゲを取り付けます。ハンドル部分には黒い熱収縮チューブを被せてみました。
探り式鉱石検波器を組み上げた配線前の状態です。
配線は木版の裏が基本ですが銅製キャップだけは直接配線しています。

探り式の構造はネジを回すことで微妙な接触を調整できるのが良かったです。ただし、M5のネジと横穴で遊びがなく針先の可動域が小さいのが難点でした。

鉱石の受け皿は改善の余地がありそうです。鉱石の固定はハンダ付けではなくネジ式による挟み込みがよいのかもしれません。

鉱石の受け皿はすぐに取り外せる構造なので再度作り直しです。22mmの銅製キャップを使います。カップ状ですが深すぎるので5mm程カットしました。銅の加工は硬くて大変です。銅製キャップの底から支柱に固定するM5ネジを出します。鉱石の固定用にはM5ネジ1本で上から締め付ける構造です。鉱石の挟み込みにはネジが使えるようにM5ナットを銅製キャップとハンダ付けしました。

鉱石の受け皿の変更で鉱石の入替と見た目が各段に良くなった気がします。

電子ブロックのゲルマニウムラジオのダイオードと探り式鉱石検波器を入れ替えて実験します。①検波器の端子にダイオードを接触させてラジオ放送が聞こえることを確認します。②ラジオ放送が聞こえる状態でダイオードを外します。③探り式鉱石検波器で検波できるように調整します。以上の手順でラジオ放送が受信できます。製作したさぐり式鉱石検波器の操作感や感度もまずまずのようです。

一作目(左側)、二作目(右側)と並べてみました。性能は同じですが二作目は見た目だけが少しは進歩したのかもしれません。

DSPやSDRが全盛の時代に探り式鉱石検波器はレトロすぎると感じるかもしれません。しかし、小さなダイオード1個の検波機能を実現するために多種多様の探り式鉱石検波器を作り出した先人の知恵と努力には頭が下がる思いです。それらの鉱石検波器も技術遺産の一つとして見ていただければと思います。二作目は既存部品(スピーカー端子×3個 )を使い複雑な支柱構造を簡単に作れるようにしました。誰でも1日程度で製作できるかと思いますので是非お試しください。

2025.5.24 高純度シリコン結晶 

高純度シリコン結晶を使ってみます。上の写真の左がシリコン結晶です。右側はハンマーで叩いて丁度良い大きさに加工したものです。 

 

シリコンと聞くとPN接合のダイオードが頭をよぎり無停電ラジオには向かないイメージがあります。しかし、点接触ダイオードやさぐり式鉱石検波器はショットキー接合で順方向電圧(Vf)特性が低いのが特徴です。そのため、シリコン結晶を使ってもさぐり式鉱石検波器の構造により無停電ラジオの検波には良好な動作となります。しかも、シリコン結晶はどの部分に針を当てても音の大小はありますが検波するのて通常の鉱石よりはるかに扱いやすいです。1900年初頭の頃からシリコン結晶は知られていましたが現在の鉱石ラジオに使っている人は少ないかと思います。通販やオークションても入手できますし、Amazonでも「Si ≧99.99% 原石 結晶 高純度 ポリシリコン テラヘルツ波 高純度シリコン」の名称で50g約1300円ぐらいで購入できます。黄鉄鉱や方鉛鉱と比べてシリコン結晶は感度が高いので、さぐり式鉱石検波器に使ってみては如何でしょうか。鉱石ラジオから大きな音で放送が聞こえるので驚かれると思います。

2025.5.18 前編:さぐり式鉱石検波器の製作

一作目の前編:さぐり式鉱石検波器の製作も合わせてご覧ください。

2026.1.30 最後に

今回のシリコン結晶は動作が優秀すぎて、最初の製作につかうと経験先行型技術に触れる実感が薄れるので後編にしました。鉱石によって検波性能が大幅に改善することを驚いてほしいからです。さぐり式検波器が初めての方は、前編:さぐり式鉱石検波器の製作を先に読んで頂けたらと思います。

部品の入手先 

高純度シリコン鉱石:Amazonへのリンク 

2025/02/16

米国製の鉱石ラジオ:American Leader Pocket Radio

ラジオの前面写真

1937年(昭和12年)の米国製の鉱石ラジオ:American Leader Pocket Radioの紹介です。ラジオは木製の箱で横に扉をつけてレシーバーを保管できるようにしています。ポケットラジオの名前のとおり小型で軽いので持ち運びには便利なラジオです。

ラジオのダイヤルツマミとパネル
ラジオの背面はアンテナ端子とアース端子

裏側はアンテナ端子とアース端子です。A:アースとG:グランドのシールの文字が逆さまです。端子への内部配線が逆だったためシールを逆さまに貼ったのだと思います。配線を直さずシールを逆さに貼っていた、細かいことは気にしない時代だったのかなと想像してしまいます。(1937年は世界恐慌ですから大変な時期ですが・・・・)

ラジオの裏から内部を覗いた様子

ラジオの動作確認をしますが全くの無音です。 ラジオの裏蓋がクギで止められていて、過去に開けた様な形跡がみられます。蓋を外すと四角いコイルが上下に紙を詰めて固定された面白く大らかな作りです。

取り外した同調コイル

とりあえず、コイルを外してみます。コイルは角材にエナメル線を巻き付けています。コイルにバーをスライドさせてインダクタンスを変えてチューニングする方式です。

ラジオの裏蓋を取り外して分解した様子

最初に導通を確認するとレシーバーと本体間の導通がありません。

マグネチック・レシーバーの蓋を開け分解した様子

マブネチック・レシーバーの解説資料

レシーバーの蓋を開けてみると2つのコイルが見えます。古いラジオ教科書に書かれたマグネチック・レシーバーの構造です。レシーバーの導通を確認します。代替えのない大切な2つのコイルの導通はOKです。1つのコイルで抵抗が600Ωあり、2つ直列で1200Ωの高インピーダンス・タイプであることがわかります。レシーバーの綿編コードが断線していました。コードの内部での断線なのでコード全体を交換します。レシーバー単体は正常なので修理で音が聴こえるようになりました。

探り式検波部の様子

同調コイルの通電はOKです。しかし検波器がみあたりません。コイルを巻いた角材の横に直径5mmほどの穴があり黒いタール状の物質の中へ裸線が伸びています。導通確認しましがNGで片側の行先が不明です。慎重にタール状の物質を取り除いてみました。中から探り針と鉱石がでてきました。鉱石の形状や色合いから方鉛鉱を使っているようです。探り針は真鍮製でしょう。予想外の探り式鉱石検波のラジオです。検波器の導通のNGが故障の原因です。元オーナーさん達が修理を断念したのも頷けます。

ラジオの実体配線図
上の図は、このラジオのしくみです。もう少し詳しく説明すると、角材の横に穴をあけ、鉱石を穴の奥に設置して探り針で検波します。ポケットラジオなので持ち運べるように調整後の探り針を黒いタール状の物質で固定しています。黒い物質は完全に硬化しないので、棒などで上から押せば探り針の針圧ぐらいは調整できたかと思います。また、湿度などから検波器を封止する役割もあったのでしょうか。探り式鉱石検波器はすごく不安定なのでこの状態で何年も使えたとは思えません。屋外にラジオを持ち歩きたいとの要望に応えた意欲的な製品なのでしょう。

鉱石ラジオの回路図

上の図が、このラジオの回路図です。部品点数が少ない基本的なラジオです。同調コンデンサがないので電灯線アンテナとアースをしっかり接続することが大前提のラジオです。

探り式検波部をダイオードで仮修理

復元はかなり細かい作業になるので探り式鉱石検波器は大事に保存するだけにします。オリジナル性が損なわれるので賛否が分かれますが仮復旧してみます。このラジオには固定式鉱石検波器を入れるスペースもないので、高感度のゲルマニウム・ダイオードを使いました。但し、いつでも探り式鉱石検波に戻せる状態にしてあります。

ラジオからレシーバーを取り出した様子

仮修理したのでテストしてみます。電灯線アンテナとアースを接続します。音は小さいですがNHKが1局受信できました。受信できる周波数は約500~750kHzぐらいです。マグネチック・レシーバーはクリスタルイヤホンより音が小さく聴こえます。ラジオを聞けるレベルには仮修理できたようです。

レシーバーをラジオに格納した様子

このラジオはマグネチック・レシーバーを収納して本体を耳にあてながらチューニングしてラジオ放送を聞くことが出来ます。こんな使い方もあるんだと感心します。ラジオ本体のスピーカー窓は飾りではなく実用的な機能です。

交換した古い部品は大切に保管

壊れて鳴らないので骨董的なコレクションとして保管されていたラジオです。取り外した部品(綿編コードとクギ)は大事に保管してあります。いつでも復元できるかと思います。コレクションとして復元しても良いですし、古典鉱石ラジオの雰囲気を味わいながら使ってみるのもいいかと思います。米国でラジオが普及して日常生活に大きな影響を与えた時代の製品の紹介でした。

2025.2.15

壊れた探り式鉱石検波器を修理します。 

探り針を引く出すと底に方鉛鉱が見える様子

探り針の先端を磨いてみますが導通がありません。

取り外した探り針

しかたなく探り針を取り外してみたところはんだの根本で断線していました。このまま戻してもいいのですが、新しく探り針を作成することにします。

新たな探り針を取り付けた様子

上の写真は製作した探り針です。真鍮0.5mmなのでオリジナルより太いです。何回か方鉛鉱の上を針で探るとラジオが聞こえてきます。修理はできたようです。ただし、このままだと本体に振動を与えるとすぐに針がズレて検波できなくなります。固定してもその後、継続的に正常のまま保持出来ず不安定です。固定しないでダイオードと並行して接続しておくことにしました。 探り式でラジオを聞きたい場合は、裏蓋を開けてダイオードの片側を外します。方鉛鉱による探り式検波は不安定で固定して無調整にすることは断念しました。今回はオリジナルの状態に戻すのが難しい探り式鉱石ラジオの修理でした。

2026.1.20 修復作業の再開

修理してから、すでに1年ほど経過したことになります。
American Leader Pocket Radio について少し理解が深まったこともあり、再度の修復作業を進めてみました。

この鉱石ラジオには、以前から大きな疑問がありました。
それは、探り針を固定するためにタールが詰められている理由です。

当初は、製造元が最初からタールで固定したものと解釈していました。しかし、次の三点から見直すことで、購入者自身が検波状態を保持するためにタールで固定したのではないかと考えるようになりました。

・裏蓋はクギで固定されており、製造側は再度ラジオを開けることを想定していない。
・タールがあることで、一度調整した探り針は二度と調整できない。
・裏蓋が一度外された形跡が残されています。

以上のことから、オリジナル状態では探り針はタールで固定されていなかったと考えられます。さらに、ここから American Leader Pocket Radio の実際の使用方法も見えてきます。

当時の調整方法の推測

1.調整方法
レシーバーを格納する窓から検波部をのぞき、棒や針金などで探り針を調整します。鉱石ラジオを聞くたびに、毎回この調整が必要です。

2.探り針の要件
探り針は非常に細く、調整しやすい材料である必要があります。実際に非常に細い真鍮線が使用されており、修理で使った0.5mmの太い真鍮線では窓越しの調整は固くて困難でした。

3.付属品
探り針の調整を行うためには、ヘッドセット付きレシーバーが必要になります。また、アンテナとアースのスプリングプラグには、専用のラインプラグ付きコードも必要です。これらは当初は付属品として存在していたのではないかと推測しています。

ヘッドセット付きレシーバー

ラジオのスプリングプラグ
スプリングブラグと接続するラインプラグ

American Leader Pocket Radio の弱点

ここまでの内容から当時の利用方法が見え、同時にこのラジオの弱点も明確になります。

それは、使用するたびに探り針を調整しなければならないことです。

実際に窓をのぞきながら方鉛鉱に探り針を当てて調整する作業は、かなり大変です。
一度調整したら、その後は調整不要にしたい――利用者がタールを入れたくなった気持ちもよく理解できます。

方鉛鉱は感度が良い反面、検波の頂点範囲が非常に狭く、調整が難しい鉱石です。
探り針による調整の難易度と煩雑さが、American Leader Pocket Radio 最大の弱点と言えます。

2鉱石方式の採用

この弱点を克服するため、2つの鉱石を直列に接続する方式を取り入れることにしました。

方鉛鉱はすでに固定されており変更できないため、
紅亜鉛鉱を探り針側に配置する構成とします。

方鉛鉱と紅亜鉛鉱の組み合わせは、探り式鉱石検波の中でも感度と安定性を両立できる方法として知られています。

方鉛鉱は感度が高い反面、検波点の範囲が非常に狭く調整が難しい鉱石です。
一方、紅亜鉛鉱は感度こそやや劣りますが、検波特性がなだらかで安定しています。

この二つを直列に接続することで、検波点は一点ではなく帯状に広がり、探り針の調整が格段に容易になります。

今回の構成では、

  • 方鉛鉱が検波の立ち上がりを担当

  • 紅亜鉛鉱が検波の安定性と調整余裕を担当

という役割分担になります。

その結果、探り針の位置が多少ずれても、検波状態を維持しやすくなります。

紅亜鉛鉱+方鉛鉱の探り式検波のイメージ図

構造上の課題

紅亜鉛鉱を使用する上で最大の問題は、検波部への取り付けです。

コイル木片の穴は、方鉛鉱が固定されている直径5mm、奥行7mmの非常に小さな空間です。その狭い空間に紅亜鉛鉱の探り機構を収める必要があります。

イメージ図の構成を元に、紅亜鉛鉱固定用スプリングを作成しました。

紅亜鉛鉱を固定するためのスプリング

真鍮線をコイル状に加工し、先端には滑り止め付きワッシャーを取り付けています。
紅亜鉛鉱は約4mm角に加工したものを使用しています。

紅亜鉛鉱とコイルを取り付けた様子

この状態では、紅亜鉛鉱はコイル内でわずかに動けるようにしてあります。

調整方法 

探り式検波部を調整する様子

ラジオ横から覗いた検波部の様子

調整方法は非常に単純です。

細い棒をコイル中心に差し込み、左右に数回ゆすります。
その後、受信できるか確認します。

受信できなければ、コイルを上から押して鉱石を圧迫し、再度受信できるか確認します。
この作業を数回繰り返すと、ラジオは安定して受信できるようになります。

通常の探り式検波器のように神経質な調整は不要です。
紅亜鉛鉱+方鉛鉱方式のメリットが、調整の容易さにもはっきり表れています。

受信結果

紅亜鉛鉱+方鉛鉱方式では、

  • NHK第一(音量大)

  • NHK第二(音量大)

  • AFN(音量中)

  • TBSラジオ(音量小)

  • 文化放送(音量小)

  • ニッポン放送(音量小)

の6局が受信できました。
音質はやわらかく、角のない優しい音です。

一方、方鉛鉱のみでは、NHK第一のみが小音量で受信できる程度でした。

総合評価

紅亜鉛鉱+方鉛鉱方式は、

  • 検波調整の容易さ

  • 受信可能局数

  • 音量

  • 音質

すべての面で優れていることが分かります。

特に操作感の違いは圧倒的です。

方鉛鉱のみの方式では、暗いラジオ内部をのぞき込みながら、レシーバーの音に集中して細い棒で探り針を調整する必要があり作業には時間がかかり、かなりの根気を要します。調整してもすぐにズレてしまい、再調整が必要になる、少しつらいラジオだったことがよく分かります。

そこで今回は、多少乱暴でも、細い棒を数回上下左右に動かせば誰でも受信できるような構成を目指して作成しました。

American Leader Pocket Radio は、少しだけ使いやすいラジオになったのではないかと思います。

2026.1.21 受信状態の安定性の確認

安定性の試験 

1週間ほどラジオを使いラジオの受信状態の安定性(または検波状態の保持)を確認します。前日にラジオを受信できる状態にしておき、翌日にラジオの受信状態を確認します。 2つの鉱石による探り式検波が受信したままの状態をどのくらい保持できるかを確認します。測定条件は、NHK第一放送、室内同一設置場所、1日1回の受信状態確認と5分から10分程度ラジオを手にもってのヒヤリングと数回のダイヤル操作を実施します。

前日 :ラジオの設置場所を決め受信調整。

1日目:受信できす検波部を再調整。同じ場所に設置。

2日目:受信可能、やや音が小さいので検波部を再調整。同じ場所に設置。

3日目:受信良好、ラジオを手にもってダイヤル操作。検波部の調整なしで同じ場所に設置。

4日目:同調がズレていてやや音割れあり、ダイヤル操作で同調させて受信良好。検波部の調整なしで同じ場所に設置。

5日目:受信良好、ラジオを手にもってダイヤル操作。検波部の調整なしで同じ場所に設置。

6日目:受信良好、ラジオを手にもってダイヤル操作。検波部の調整なしで同じ場所に設置。

7日目:受信良好、ラジオを手にもってダイヤル操作。検波部の調整なしで同じ場所に設置。

最後にラジオを手にもって、大型ドイラバーのゴムの持ち手部分で前後左右からコツコツと50回以上たたきましたが、受信には全く影響ありませんでした。 

以上が7日間の検波部の安定性の試験結果です。

2つの鉱石による探り式検波は1~2日程度安定すれば十分と思っていましたが、驚くほど長期間、安定した状態を保持してくれました。紅亜鉛鉱を真鍮のスプリングで保持させる機構が有効だったのか、偶然最適な検波点になり試験した結果なのかもしれません。今回の試験結果から、2つの鉱石による探り式検波が、条件次第では長期間安定して動作する可能性を確認できました。鉱石検波は不安定という先入観を持っていましたが、その印象が大きく変わる結果となりました。

2026.1.30 最後に 

American Leader Pocket Radioを購入したものの、どう付き合えばいいかわからない異端のラジオでした。調整は高難度で感度低いのでラジオを受信するのが天文学に難しいラジオです。そしてすぐに調整がズレて鳴りません。

単純な構成なのに、ラジオを鳴らす気がない、こんな頑固なラジオは初めてです。ラジオを改造したくなった人が過去に沢山いたはずです。

私も同じ道を辿り2石鉱石検波まで組み込んでしまいました。予想を覆しうまく動作したのてすが釈然としません。2石鉱石検波にして、良かったのか悪かったのか複雑な心境です。

2026.5.28 ラジオ本来の姿

American Leader Pocket Radio について、調査と試行を重ねる中でいくつかの前提条件が見えてきました。

本機は、1930年代アメリカの「強電界地域」を前提にした簡易ポケットラジオとして設計されていた可能性が高いです。当時は郊外の農場地帯にも巨大な送信アンテナが建ち、非常に強い電界が得られたため、感度の低い鉱石ラジオでも受信が成立していました。日本でも鉱石ラジオが普及した時代は同様で、放送局は強電界で送信していました。

現代の弱電界環境では、当時の前提が失われているため、本機単体では受信が難しいです。自作のアンテナブースターやインピーダンスコイルを併用すると急に安定して鳴り出すのは、当時の強電界環境を補っているためと考えられます。

また、今回試した 2石検波方式は、微弱信号でも検波が成立しやすくなる“現代向けの弱電界補正”として有効でした。しかし、当時の強電界環境では不要な技術であり、本来の設計思想とは異なっています。

元オーナーさんが調整や固定を繰り返した痕跡は、内部の問題を疑った結果と思われますが、実際には「環境の変化」によって鳴らなくなった可能性が高いです。強電界という前提が欠けたことで、本来の性能を発揮できなくなったと考えると整合性があります。

本機は、遠くに巨大な送信アンテナが見えるような強電界地域でこそ成立した、当時としては“個人用の小型ラジオ”でした。家族向けの実用品というより、技術に興味を持つ人が自分だけのラジオとして楽しむための製品だったのかもしれません。