1937年(昭和12年)の米国製の鉱石ラジオ:American Leader Pocket Radioの紹介です。ラジオは木製の箱で横に扉をつけてレシーバーを保管できるようにしています。ポケットラジオの名前のとおり小型で軽いので持ち運びには便利なラジオです。
裏側はアンテナ端子とアース端子です。A:アースとG:グランドのシールの文字が逆さまです。端子への内部配線が逆だったためシールを逆さまに貼ったのだと思います。配線を直さずシールを逆さに貼っていた、細かいことは気にしない時代だったのかなと想像してしまいます。(1937年は世界恐慌ですから大変な時期ですが・・・・)
ラジオの動作確認をしますが全くの無音です。 ラジオの裏蓋がクギで止められていて、過去に開けた様な形跡がみられます。蓋を外すと四角いコイルが上下に紙を詰めて固定した面白い作りです。
とりあえず、コイルを外してみます。コイルは角材にエナメル線を巻き付けています。コイルにバーをスライドさせてインダクタンスを変えてチューニングする方式です。
最初に導通を確認するとレシーバーと本体間の導通がありません。
レシーバーの蓋を開けてみると2つのコイルが見えます。古いラジオ教科書に書かれたマグネチック・レシーバーの構造です。レシーバーの導通を確認します。代替えのない大切な2つのコイルの導通はOKです。1つのコイルで抵抗が600Ωあり、2つ直列で1200Ωの高インピーダンス・タイプであることがわかります。レシーバーの綿編コードが断線していました。コードの内部での断線なのでコード全体を交換します。レシーバー単体では正常になり音が聴こえるようになりました。
同調コイルの通電はOKです。しかし検波器がみあたりません。コイルを巻いた角材の横に直径5mmほどの穴があり黒いタール状の物質の中へ裸線が伸びています。導通確認しましがNGで片側の行先が不明です。慎重にタール状の物質を取り除いてみました。中から探り針と鉱石がでてきました。鉱石の形状や色合いから方鉛鉱またはシリコン結晶を使っているようです。探り針は真鍮製でしょう。予想外の探り式鉱石検波のラジオです。検波器の導通がNGが故障の原因です。元オーナーさん達が修理を断念したのも頷けます。
上の図は、このラジオのしくみです。もう少し詳しく説明すると、角材の横に穴をあけ、鉱石を穴の奥に設置して探り針で検波します。ポケットラジオなので持ち運べるように調整後の探り針を黒いタール状の物質で固定しています。黒い物質は完全に硬化しないので、棒などで上から押せば探り針の針圧ぐらいは調整できたかと思います。また、湿度などから検波器を封止する役割もあったのでしょうか。探り式鉱石検波器はすごく不安定なのでこの状態で何年も使えたとは思えません。屋外にラジオを持ち歩きたいとの要望に応えた意欲的な製品なのでしょう。上の図が、このラジオの回路図です。部品点数が少ない基本的なラジオです。同調コンデンサがないので電灯線アンテナとアースをしっかり接続することが大前提のラジオです。
復元はかなり細かい作業になるので探り式鉱石検波器は大事に保存するだけにします。オリジナル性が損なわれるので賛否が分かれますが仮復旧してみます。このラジオには固定式鉱石検波器を入れるスペースもないので、高感度のゲルマニウム・ダイオードを使いました。但し、いつでも探り式鉱石検波に戻せる状態にしてあります。
仮修理したのでテストしてみます。電灯線アンテナとアースを接続します。音は小さいですがNHKが1局受信できました。受信できる周波数は約500~750kHzぐらいでした。マグネチック・レシーバーはクリスタルイヤホンより音が小さく聴こえます。ラジオを聞けるレベルには仮修理できたようです。
このラジオはマグネチック・レシーバーを収納して本体を耳にあてながらチューニングしてラジオ放送を聞くことが出来ます。こんな使い方もあるんだと感心します。ラジオ本体のスピーカー窓は飾りではなく実用的な機能でした。
壊れて鳴らないので骨董的なコレクションとして保管されていたラジオです。取り外した部品(綿編コードとクギ)は大事に保管してあります。いつでも復元できるかと思います。コレクションとして復元しても良いですし、古典鉱石ラジオの雰囲気を味わいながら使ってみるのもいいかと思います。米国でラジオが普及して日常生活に大きな影響を与えた時代の製品の紹介でした。
2025.2.15
壊れた探り式鉱石検波器を修理します。
探り針の先端を磨いてみますが導通がありません。
しかたなく探り針を取り外してみたところはんだの根本で断線していました。このまま戻してもいいのですが、新しく探り針を作成することにしました。
上の写真は製作した探り針です。真鍮0.5mmなのでオリジナルより太いです。何回か方鉛鉱の上を針で探るとラジオが聞こえてきました。修理はできたようです。ただし、このままだと本体に振動を与えるとすぐに針がズレて検波できなくなります。固定してもその後、継続的に正常のまま保持できるか不安です。固定しないでダイオードと並行して接続しておくことにしました。 探り式でラジオを聞きたい場合は、裏蓋を開けてダイオードの片側を外します。探り式は不安定で固定して無調整にすることは断念しました。今回はオリジナルの状態に戻すのが難しい探り式のラジオ修理でした。