FM-102はFM専用チューナーですが、FM放送の黎明期の時代背景からモノラル出力しか実装されていません。そのため、FM-102を好んでオーディオチューナーとして使ってる人はほとんどいないと思います。モノラルのFM放送では機能や音質面で満足できませんから骨董的な価値で飾っておくしかないと思われています。
6U8×2、6AU6×3の構成で検波はダイオードが採用されています。FMステレオチューナー(春日二郎著 昭和45年)には、「2連バリコンでは高感度であるにもかかわらず混信妨害が大きく、実際の受信状態のS/Nが悪く・・・・」との記述かあり、FMチューナーとして使用に耐えうる評価は3連バリコン 以上とのことです。そのためなのかTRIOのチューナーには初期の頃から3連バリコンが採用されています。TRIOのチューナーに対する強い拘りが感じられます。内部配線を見るとコンデンサーなどが交換されているようです。
補修されているチューナーですが、最後にブロック電解コンデンサの状態だけは確認する必要があります。幸い液漏れはないので電源試験をしてみます。 約0.35A流れ、電流値が微妙に変動しましたがしばらくすると安定しました。ブロック電解コンデンサを触っても発熱もありません。当分は現在のブロック電解コンデンサで大丈夫そうです。
上の図はFM-102の検波回路を書き起こしたものです。ダイオードが同じ向きに実装されていたのでフォスター・シーレー検波を採用している事に気づきました。FM-101やこれ以降のチューナではレシオ検波しか採用されていませんのでTRIO製品では珍しい検波方式になります。また、他社でフォスター・シーレー検波を採用しているチューナーは山水ぐらいだったと思います。
回路図を眺めていたらFM-102でFMステレオ放送を聴いてみたくなりました。FMステレオ放送を聴くためにはMPX出力回路を付加する必要があります。上の図がMPX OUTを付加した回路図です。バランス抵抗1.5kと前段との間に47pFと出力には5.6kの抵抗を追加した標準的なフォスター・シーレー検波に変更してあります。上の写真がMPX出力を組み込んだ検波回路です。このチューナーにはRCA端子のモノラル出力が2つありますので、左側をMPX OUTとして使用します。
モノラル出力をスペクトルアナライザーで観測すると、周波数が高くなるに従い減衰していることがわかります。19KHzのパイロット信号も見ることができますが、当然ですがMPX出力には使えそうにありません。
MPX出力をスペクトルアナライザーで観測すると、周波数が高くなっても緩やかな減衰特性になっていることがわかります。38KHz付近では(L-R)信号も見ることができるので、ステレオ再生が期待できそうです。実際にFM放送がステレオ再生できているかセパレーションを観測してみます。FM-102のMPX OUTにはTRIO AD-5(FMアダプタ)を接続して試験をします。上の図では、約25dB のセパレーションを観測することできました。FM-102のMPX OUTは正常に出力できたみたいです。チューナーをステレオ装置に接続してヒヤリングです。フォスター・シーレー検波方式を搭載したFM-102がどんな音を聴かせてくれるのか気になります。 FM放送にはノイズもなく正常のようです。音質は中音が充実したバランスの良いステレオ放送を聴かせてくれました。60年以上経ったチューナーから聴こえてくるFMステレオ放送には感慨深いものがあります。この音質ならFM-102を使ってもらえると思います。マニア向けの骨董的な価値だけで保管するにはあまりにも惜しい真空管チューナーだと思います。