2026/09/14

ナショナル ES-901 FMチューナーの修理記録(MPX付加)

 1.概要

ES-901(表側)

ES-901(裏側)

ナショナルのFMチューナーES-901の修理記録です。 1958年、9,800円の真空管モノラル・FMチューナーです。FM黎明期に発売されたナショナル初のFMチューナー1号機です。当時のFM周波数割り当てから受信できる周波数は80MHz~90MHzとなっています。

2.ES-901の変遷 

ES-901は発売時期により、若干の違いがあります。

・初期

初期型は電源トランスの上にヒューズ
電源トランスの上にヒューズ、背面のFM/PUスライド・スイッチ 、電源スイッチ付きボリューム

・中期

中期からヒューズフォルダは電源トランスから分離
電源ヒュースは独立して電源トランス後ろに設置、背面のFM/PUスライド・スイッチ 、電源スイッチ付きボリューム

・後期

電源スイッチ

今まで電源スイッチ付きボリュームでしたが、左下に電源スイッチが配置されるようになりました。

ボリュームをOFFにするとPUに切り替わる

電源スイッチ付きボリュームからPU切替スイッチ付きボリュームに変更になっています。 

3.回路図、駆動図と配置図

(1)回路図 

ES-901回路図「FMラジオの解説と製作」

回路図は昭和33年発行「FMラジオの解説と製作」からの抜粋です。

ES-901回路図「ケース内側より」

ES-901の木製ケースの内側の回路図と全く同じです。ただし、各箇所の電流値が記載されている違いはあります。 

(2)駆動図と配置図

仕様、駆動図、配置図がケース内側に貼られている
ケース内側には回路図以外に使用、駆動図、配置図を一枚にした図面が貼られています。

4.構造

ダイヤル針の背面はアイボリー

木製ケースから出すとダイヤル針の背面板の色がRE-510と同じナショナルが好んで使ったアイボリーです。 

真空管などの配置

6AQ8、6BA6、6BA6、6AL5、6X4の構成です。V3で増幅とリミッタを兼ねていますので、TRIOなどの製品より1球少ないシンプルな構成です。

レシオ検波は、2つの検波器を高精度で揃える必要があります。この時期のダイオードのペアリングではなく、真空管内に同一製造の2つ検波器がある6AL5を品質面では有利と判断して真空管を採用したのだと思います。

フロントエンド

フロントエンドを見ると、後のFM専用ワイヤードパックFM-P1の原型の面影があります。 

小ぶりの2連バリコンでTRIOのような大型3連バリコンではありません。その後のFM多局化には耐えられない混信に弱い宿命をもった過渡期の製品の位置づけです。 

 5.内部 

裏側の状態を確認

裏側を覗いてみます。丈夫な作りで経年劣化で交換が必要になる部品が少ないです。ブロック電解コンデンサ×1、ペーパーコンデンサ×1、電解コンデンサ×2、ボリューム×1ぐらいしか劣化するおそれのある部品が使われていません。

劣化した電源トランスからの配線

ただし、電源トランスからの配線の被覆が劣化して剥がれ落ちで危険な状態なので何本か張替えが必要です。 

6.修理作業

(1)ケース修理

ケース上部の化粧板が剥がれたので修復

木製ケースの化粧板がはがれボロボロなので修復します。 ケースは金属製より木製の方が温度上昇が緩やかで優れた面もありますが強度と耐久性に難があります。

折れたパーチクルボードを補強して修復

背面のパーチクルボードのネジ穴上が左右ともに折れていますので補強を入れ修理します。

ツマミはアイボリーに再塗装

ツマミのアイボリーの塗装が剥げていますので再塗装します。

 (2)劣化部品の交換

修理後の裏側の様子

ブロック電解コンンデンサは劣化の兆候があるので交換します。ペーパーコンデンサ、電解コンデンサを交換すれば終了です。

交換したボロボロに劣化した配線
電源トランス一次側の配線が劣化していて触ると「ポキッ」と音がして被覆が剥がれるほどの重症でした。一次側配線を全て張り替えます。

ダイヤル操作したら糸が切れたので、新しく糸掛けをしました。

これで全ての修理作業は終了です。

(3)試験 

電源試験機で電流を確認
電源試験でAC100V,0.4Aで正常、各箇所の電圧も正常でした。
受信試験の様子

モニターを接続して受信テストをします。FM放送はすぐに受信できましたがトラッキングがずれています。

受信感度とトラッキングを調整すれば全て終了です。なんともあっけなく修理作業はおわりです。

 7.MPX付加

当然、FMステレオ放送開始以前の製品なのでモノラル出力のみです。現代のFMステレオに対応させるためMPX OUT端子を付加してFMステレオ放送を聞けるように改造したいと思います。

(1)検波方式

・レシオ検波の考察

何故、技術的に優れたフォスターシーレー検波ではなく、レシオ検波を選んだのでしょうか。

フォスターシーレー検波はAMノイズに弱く、高精度で調整も大変なリミッターが必要なため高価でもあります。

一方のレシオ検波はリミッターの精度は低くくて安価です。リミッターで抑圧しきれなかったノイズを検波回路の電解コンデンサで除去します。

ナショナルのFMチューナー一号機ですから、失敗は許されません。技術的に確実で信頼性の高いレシオ検波を選定したのだと思います。

・10μFへの違和感

ES-901のレシオ検波回路の10μFにも違和感があります。

FMステレオ・標準化前(1950年代)にもレシオ検波で5μFのFMチューナーはありました。どんな環境条件でもノイズを出さない音質重視の考えから10μFにしたのだと思います。また、コンデンサが経年劣化しても10μFあれば多少容量が減っても音質への影響がないからだと思われます。

レシオ検波や10μFの採用など、どの箇所を見ても「石橋を叩いて渡る」ナショナルの企業風土が色濃く反映しています。

(2)MPX付加

前置きが長くなりましたので本題に入ります。

MPX回路図
 

MPX回路への改造は何通りかためしましたが、上図の回路図が一番良かったので掲載します。

また、10μFでは19kHzのパイロット信号や38kHzのコンポジット信号が取り出せません。ノイズ抑制とMPX信号の取り出しのバランスがとれる5μFに交換してあります。

検波回路を組みなおした様子
付加したMPX OUTケーブル
 ・セパレーション

TRIO AD-5を接続してセパレーションを測定します。

計測中に波形が増減して変動が始まり、レベル低下でリミッターが効かない様子です。初段6AQ8を交換して正常動作になっています。

左右共に1kHz:10dB(6AQ8交換前)⇒20dB(6AQ8交換後)

8.ヒアリング

ヒアリング風景

TRIO AD-5に接続してFMスレテオ放送をヒアリングします。チューニングはシビアです。少しでもズレると音質が劣化しますので精密な選局が必要です。

中低域が厚く量感のある良い音です。奥行はあまりありません。長時間聴いてもつかれない音です。無音状態のときはホワイトノイズが若干聞こえます。スペアナで高調波だらけの出力波形を観測していましたが、音にはそんな気配は微塵も感じられません。AD-5のフィルター・スイッチをONすると音がわずかにクリアになります。想像していたよりずっと良い音のチューナーでした。

9.まとめ 

ES-901は触るとわかる慎重な設計のナショナルらしいFMチューナーです。真逆のTRIOは新進気鋭の最先端ベンチャー企業のように新しい技術を次々投入する攻めの姿勢を見せていました。この時代の多種多様な企業風土が1960年以降のFM文化を育て発展させたのだと思います。