2026/07/23

ゲルマニウムラジオの基礎の基礎

1.概要

ゲルマニウムラジオとマグネチックレシーバー

マグネチックレシーバーを入手したのでゲルマニウムラジオに使用する予定です。ゲルマニウムラジオのアンテナや同調回路は繊細で非常に難しいです。そこは回避して検波方式と負荷の組み合わせに着目してマグネチックレシーバーを活かせないか検討しました。

本記事では、

クリスタルイヤホン/マグネチックレシーバー/トランスの検波方式の違い

・平均値検波と包絡線検波の音量差(約8〜10dB)

・ マグネチックレシーバーを使う際の“落とし穴”

 を体系的に整理しています。

2.クリスタルイヤホン(C)系

ご存知のとおり、クリスタルイヤホンはロシェル塩などの圧電素子で構成された高インピーダンスなコンデンサ(C)素子です。 クリスタルイヤホン自体が持っている静電容量(約1000pF〜3000pF)をコンデンサ(C)として検波方式を比べてみます。

(1)① C直結(抵抗なし)

① C直結(抵抗なし)回路図

ダイオード検波からクリスタルイヤホンに直結する回路の動作は、ダイオードを通ってイヤホン(C)に溜まった電荷の「逃げ道」がなくなります。

イヤホンに電荷が溜まりっぱなしになり、ダイオードの両端電圧が同等(または逆バイアス)になって「ダイオードが整流動作を停止」します。

その結果、音が出なくなってしまうか、極めて歪んだ小さな音になってしまいます。

例外的にラジオが鳴ることがあります。これは、クリスタルイヤホンの数十MΩクラスの内部抵抗に流れた漏れ電流により辛うじてラジオが鳴っている状態です。

(2)② C+負荷抵抗(包絡線検波)

イヤホンと並列に接続した負荷抵抗(47kΩ〜100kΩ)が、ダイオードの整流電流(直流)をアースへ逃がす経路(R)になります。

② C+負荷抵抗(包絡線検波)回路図

この イヤホン(C)並列の抵抗(R)が組み合わさることで、整流された高周波の「山(ピーク)」の電荷を抵抗(R)からジワジワと放電させ、振幅の変化(包絡線)になめらかに追従する波形=音声信号(AF)を作り出しています。

包絡線検波の波形
 この検波方式は包絡線検波と呼ばれています。

① C直結(抵抗なし)よりレベルが高い包絡線検波を使用して下さい。

3.マグネチックレシーバー(L)系

(1)③ L直結(Cなし=平均値検波)

マグネチックレシーバーの内部には、細い電線を何千回も巻いた大きなインダクタンス(L成分)を持ったコイルが入っています。

L直結(Cなし=平均値検波)回路図


コイルには「電流の変化を拒み、一定に保とうとする(平滑化する)」という電気的性質があります。
  • ダイオードの出力: 高周波のON/OFF(プラスの半波の連続脈流)

  • コイルの反応: 高周波の激しい変化についていけず、脈流の電流の平均的な太さ(直流〜音声周波数成分)だけをなめらかに流そうとします。

つまり、コイル自身がチョークコイル(高周波阻止コイル)として働き、高周波成分をシャットアウトして「平均電流」だけを抽出します。

平均値検波の波形

この様な検波方式を平均値検波と呼んでいます。

平均値検波は波形のピーク値Vpの1/πのレベルになります。

(2)④ L+C(包絡線検波)

マグネチックレシーバーによる平均値検波に並列で高周波バイパスコンデンサ(1000pF〜4700pF)を入れることで包絡線検波になります。

LC(包絡線検波)回路図

包絡線検波の波形

「② C+負荷抵抗(包絡線検波)」は平均値検波に比べて、理論上および実際の回路動作でおおむね「2.5倍〜3倍(約 +8dB 〜 +10dB)」ほどのレベルが向上しますが、「④ L+C(包絡線検波)」はインダクタンスの影響により「② C+負荷抵抗(包絡線検波)」よりレベルは低下します。

8項、参考(6パターンの実測データ)をご確認ください。  

4.インピーダンス変換トランス(L)系

マグネチックレシーバーの包絡線検波は興味深い内容です。マグネチックレシーバー(L)を、そのままインピーダンス変換トランス(L)に置き換えてみました。

市販されていた昔のゲルマニウムラジオキットや、インピーダンス変換トランス(ST-32やST-71など)を使ってローインピーダンスのクリスタルイヤホンや現代のイヤホンを鳴らす回路で、トランスの一次側(ダイオード側)にコンデンサが並列に入っているのをよく見かけます。

結論からいうと、トランス(ST-12A)はインダスタンスが大きく検波方式(包絡線検波)が成立しません。並列コンデンサ(C)は高周波フィルターとして機能します。

8項、参考(6パターンの実測データ)をご確認ください。 

(1)⑤ トランス一次側Cなし(平均値検波は成立する)

⑤ トランス一次側Cなし回路図

(2)⑥ トランス一次側Cあり(包絡線検波は成立しない)

⑥ トランス一次側Cあり回路図

5. 検波方式理解への疑問

検波方式という概念は、日本のラジオ文化の中で体系的に定着してこなかった印象があります。これは単なる知識の不足ではなく、歴史的背景として必然だったと考えています。以下にその理由を整理します。

(1)鉱石ラジオ時代の強電界文化では、方式の違いが問題化しなかった

戦後の強電界環境では、鉱石ラジオは 平均値検波でも包絡線検波でも「鳴ればよい」 という実用性が最優先されていました。

そのため、検波方式の分類はラジオ文化として深く意識されず、 「とにかく受信できること」 が価値として継承され、現在に至っています。

(2)昭和の教材は実用技術中心で、方式名の体系化が行われなかった

昭和のラジオ雑誌や教科書を確認しても、 平均値検波・包絡線検波といった方式名はほとんど登場しません。

当時の教材は、

  • ダイオード検波

  • ダイアゴナルひずみ

  • AVC など、現象と調整技術を中心にした“実用技術者育成”の教育文化の中で作られていました。

一方、現代の大学教科書では通信工学の体系化が進み、 復調方式として平均値検波・包絡線検波が明確に分類されています。

この差は、 昭和の実践技術文化と、現代の国際標準に基づく理論体系との間にある教育文化のギャップ として理解できます。

(3)参考資料

いずれも実用技術者育成を目的とした教材であり、方式名の体系化は見られません。

  • 文部省認定 通信教育 ラジオ工学講座  『ラジオ工学教科書 第1部第1巻』 昭和23年

  • NHK 『ラジオFM技術教科書』 日本放送協会編 昭和46年  

6.マグネチックレシーバーを使う際の“落とし穴”

本記事の目的は、検波方式の観点からマグネチックレシーバーの活用を整理することです。

マグネチックレシーバーはコイル(L)なので、クリスタルイヤホンで使われていた並列抵抗をそのまま使うと平均値検波に戻り、音量が大きく低下します。

そのため、クリスタルイヤホンで包絡線検波(並列に抵抗あり)を行っていた回路にマグネチックレシーバーを接続する場合は、並列抵抗をコンデンサ(1000〜4700pF)に置き換える必要があります。

8項、参考(6パターンの実測データ)をご確認ください。  

参考までに、最初から並列に抵抗とコンデンサを入れておけば、クリスタルイヤホンとマグネチックレシーバーのどちらでも利用できそうに思えます。しかし、クリスタルイヤホン、マグネチックレシーバーのどちらも中途半端な動作になりレベル低下します。負荷にあわせて適切な検波回路を選択して下さい。

7.まとめ

検波方式の記事はいかがだったでしょうか。理論だけの少し堅い記事です。ゲルマニウムラジオの製作では、皆さんが微細な信号レベルを確保するのに苦労してラジオを組まれています。それにもかかわらず、平均値検波回路が散見されます。少しでもお役に立てればと思い包絡線検波を推奨する旨を本記事で書かせて頂きました。

8. 参考(6パターンの実測データ)

当初、検波出力の波形観測としようと思いましたが、オシロスコープのプローブには静電容量(10pF~20pF)があり、これが検波方式に干渉して測定出来ませんでした。

ゲルマニウムラジオは繊細なため非接触型測定方法に急遽変更しました。

スマホのマイクにクリスタルイヤホンを取り付けた測定方法

スマホアプリ(音量測定ソフト)とスマホのマイクにクリスタルイヤホンを押し付けた、ハイテク+ローテクを組み合わせ方法です。クリスタルイヤホンをセロテープでスマホに固定したなんともローテクな測定方法です。

最初の測定は失敗しました。原因は電子ブロックのダイオード不良で、真逆の測定結果となってしまいました。 新しい1N60を直接基板に刺して対応しました。

(1)クリスタルイヤホン(C)系

 ① C直結(抵抗なし):52dB

 ② C+負荷抵抗(包絡線検波):56dB

56-52dBの相対的なレベル差です。 

理論的には、 包絡線検波は平均値検波に対して 約 +8〜10 dB(2.5〜3倍) とされています。 今回の実測では +4 dB なので、理論値より少し小さいけれど、 「包絡線検波のほうが明確に大きい」 という方向性はきちんと一致しています。 

(2)マグネチックレシーバー(L)系

・最初(1回目)の測定結果 

③ L直結(Cなし=平均値検波):39dB

④ L+C(包絡線検波):40dB

40-39=1.0dBの相対的なレベル差です。

クリスタルイヤホン(C)系より明らかにレベル差が小さくなっています。スマホのマイクとマグネチックレシーバー間の距離が大きく物理的にも密着が難しいことが測定レベルの低下の一因です。また、マグネチックレシーバーのインダクタンスの大きさが影響してレベルが低下しています。

レベルは小さいですが「包絡線検波のほうが明確に大きい」 という方向性はきちんと一致しています。

・2回目の測定結果

 1回目の測定結果では差異が1dBと小さかったため、測定方法を改善して再度測定しました。

スマホスタンドを使いマイクとレシーバーを密着
1回目はスマホのマイクにマグネチックレシーバーを押し当てただけの測定方法が原因でレベルが低かったことを反省して改善しました。

スタンドにスマホを固定してマイクの真下にレシーバーを配置、周囲をブチルゴムのテーブで塞いだ密閉構造の測定方法にしました。前回のセロテープ固定ではセロテープが動くとパチッとノイズが入り密閉も甘く測定が難しかったです。スタンドにテープでぐるぐる巻きにしたローテクの極みですが、短時間での製作や短期利用には実用的かなと思います。

また、特定周波数のテスト信号では、検波回路の周波数依存に対応できていないかと思い、ラジオ放送の変動するレベル幅をアプリのアナログメーターで測定しました。

・テスト信号:AM変調波 

③ L直結(Cなし=平均値検波):54dB

④ L+C(包絡線検波):56dB

56-54=2.0dBの相対的なレベル差です。

・テスト信号:ラジオ放送

③ L直結(Cなし=平均値検波):42dB~48dB

④ L+C(包絡線検波):48dB~55dB(振れ幅を測定)

 48-42=6dB、55-48dB=7dB(振れ幅を測定)

6~7dBの相対的なレベル差です。

1回目よりも明らかにレベルが上がっています。物理的な改善とテスト信号にラジオ放送を加えたことにより、検波方式の違いがより鮮明になったかと思います。 

レベル差により「包絡線検波のほうが明確に大きい」 という方向性はきちんと一致しました。

マグネチックレシーバーの仕様:495Ω、122mH 

(3)インピーダンス変換トランス(L)系 

⑤ トランス一次側Cなし(平均値検波は成立する):55dB

⑥ トランス一次側Cあり(包絡線検波は成立しない):39dB

39-55=-14dB の相対的なレベル差です。

包絡線検波が成立していません。側的にはAM変調(1kHz)を使いました。実際のラジオを受信して確認したところ、ほぼ同じレベルであること確認しています。このことは、コンデンサ(C)は包絡線検波にはなんら影響がなく、高調波コンデンサとしてフィルターの役割を果たしている模様です。スマホアプリのスペクトルアナライザでテスト用周波数がコンデンサ挿入によりフィルターとして働き急激に減衰するのを確認しました。

電流の流れを必要とする包絡線検波は電圧増幅を目的とする高インダクタンスのトランス(L)には適用できないことがわかりました。

SANSUI ST-12A 1.39kΩ:51.2Ω、358mH 

(4) マグネチックレシーバーを使う際の“落とし穴”

・クリスタルイヤホンの条件(平均値検波)でマグネチックレシーバーを使用

 テスト信号:ラジオ放送  45dB~50dB(振れ幅を測定)

・マグネチックレシーバーの条件(包絡線検波)に変更

 テスト信号:ラジオ放送  50dB~55dB(振れ幅を測定)

 50-45=5dB、55-50=5dB 

 5dBの相対的なレベル差になります。

マグネッチクレシーバーは平均値検波から包絡線検波(並列にC)に変更することでレベルが上がることがわかります。  

(5)前編:ブログ  

ゲルマニウムラジオに関係する前編のブログです。 

ゲルマニウムラジオ用アクティブ・アンテナの製作