PIONEER TX-70 AM/FMステレオチューナーの紹介です。1969年、39,800円の製品です。正面右側の5個のプリセットチューニングが最大の特徴で当時としては斬新な機能です。パネルは賑やかですが整然と配置されています。操作が楽しく照明が美しいチューナーです。前面パネルの両サイドが木製で高級感があります。
背面にはセパレーションボリュームと音声ボリュームがあります。アンプを経由しないで直接テープレコーダーと接続できる音声出力端子が設けてあります。
FM局をプッシュボタンで選局できるプリセットチューニング付のAM/FMステレオチューナーです。プリセットチューニングの一番左のMANUALボタンを押すとダイヤル針の照明が点灯して本体側のダイヤルでチューニングできます。プリセットチューニングは1番~5番のボタンを押しツマミで選局をセットできるユニークな機構です。
内部を覗いてみます。フロントエンド、IF、MPX、電源と機能毎にプリント基板が配置されてています。
このチューナーはバリコン が印象的です。2連AM用バリコンのみでFM用バリコン がありません。
プリセットチューニングを実現させるためにFM用バリコンなしのボリュームでFM選局させるバラクタ方式です。 AM用バリコンの回転を歯車につたえボリュームと連動させています。FM受信周波数はこのボリュームを変化させてバラクタダイオード(バリキャップダイオードや可変容量ダイオードの名称でも呼ばれる)で選局させるユニークな仕組みです。
劣化部品は全て交換します。消費電流を確認しますが0.45Aも流れています。電源トランスも徐々に熱くなってくるので過電流のようです。ラジオは受信できるのでそれ以外の箇所で漏電していると思われます。AF UNITの3番端子を切り離すと0.25A程度に下がります。ただし、3番端子はPUSH SWITCH UNITの5番端子とステレオランプにつながっているだけで0.2Aも流れるはずのない回路です。PUSH SWITCH UNITの1μFの電解コンデンサの不良でした。過電流を想定していない危険な回路設計かと思います。対策として高耐圧160Vの1μFと交換します。過電流はなくなり0.25Aで安定しました。
次に動作確認をします。受信レベルが小さく放送局が混信します。調整してみますがフロントエンドのLoフェライトコアが破損して回りません。コイルの底が基板なのでフェライトコアを砕いてから逆さまして取り出します。新しいフェライトコアに交換すると受信周波数が調整できるようになります。
受信レベルが低いのはフロントエンドの性能劣化が疑われます。フロントエンドのカバーを取り外すと、2SK19×1、SE3001×2が使われています。FETとトランジスタを交換ます。2SK19は2SK192aに交換します。SE3001は代替事例がみつかりませんがSE3001の代わりに2SC1675に交換しました。FETとトランジスタの交換により受信レベルは正常になります。
次に高い周波数の放送局の受信調整が指定範囲に収まりません。フロントエンドのトリマーコンデンサが不良です。20pFのトリマーコンデンサを交換して高い周波数の放送局も調整出来るようになりました。
トラッキングのバンド幅が広すぎるのですが調整方法が不明でした。フロントエンド横のVRでバンド幅を調整できることが判り調整します。
このチューナーはランプの種類と数が多いです。ダイヤル針の豆球、両側のガラス管ヒューズ型電球×2、シグナルメーターのE10電球が切れていたので交換します。上の写真は交換した部品です。電解コンデンサは底のゴムが膨らんで劣化していものが多数です。フロントエンドに電源供給する外観では劣化がわからない電解コンデンサ220μFを交換するとステレオランプのチラつきなくなり動作が安定します。この年代のチューナーは全ての電解コンデンサを交換するのがよさそうです。
測定器を入れて音声出力を確認しますが調整してもモノラルでステレオになりません。MPX回路の
19k Hz出力はOKですが38k Hz出力がNGです。
1N60の故障です。交換して38k Hz出力がOKになり音声は正常にステレオ出力するようになりました。
次にステレオなのですがRight側の音声波形が小さいです。FM IF基板の出力トランジスタのベースで波形が小さいです。マトリックス回路のダイオードOA79が故障しています。4本中2本が故障です。1N34Aに全て交換します。Right側の波形出力は正常になりました。最後にセパレーションを調整して終了です。
操作感ですが、
ダイヤルノブは小さいですが小型フライホイールを採用していて操作は良好です。ダイヤルスケール幅は短くややチューニングしにくいです。プリセットチューニングのツマミは小さくチューニングしにくいですがボタンを押した感触はとても良いです。ミューティングはややきつめに動作し、AFCは穏やかに効く感じです。ヒヤリングします。音質は上下の帯域が広く感じます。パイオニアらしいあざやかな高音です。低域はダンピングが効いたように気持ちよく弾むような音がします。全体として上手くまとまった良い音がするチューナーです。今回は 故障箇所が多く修理に苦労したせいか少しレトロなTX-70が気に入っています。微妙な調整が必要で作業が大変なチューナーですが完成したチューナーはとても良い音がします。当時のデザインやプリセットチューニング、バラクター方式などアナログ・チューナーの魅力が満載です。TX-70は多くの特徴があり使っても眺めても楽しいチューナーです。