2023/04/22

TRIO トリオ FX-5 真空管FMステレオ・チューナー

1964年、19,500円の製品です。FX-5の魅力は真空管サウンドを堪能できるオール真空管(8球)のFMステレオ・チューナーであることです。当時のTRIOらしいパネル・デザインで左右にアルミ無垢のツマミと中央にAFCスイッチ、信号レベル・メーターが装備されています。全面のMONITORランプ(緑)はSELECTORがMONITORのときに点灯し、FM放送がステレオかモノラルかを実際に放送を聞いて確認するためのしくみです。FMステレオ放送の初期のチューナーにはよくみられるMONITOR機能です。STEREOランプ(赤)はSELECTOR位置がRECEIVEとNOISE FILTER のときに点灯しますのでこの位置でステレオ放送を聞くことができます。ただし、19kHzを検出してステレオ放送を自動判別する機能ではありません。ステレオ放送とモノラル放送が混在していた時代背景のチューナーなので、現在の人はこの機能の必要性が理解しにくいかと思います。

チューナーの背面です。シャーシはサビ止め塗装をしてあります。

電波技術社から出版された「電波技術 臨時増刊号 1964年(昭和39年)11月号増刊」にFX-5の回路図が掲載されています。真空管FMチューナは同じ製品でも出荷時期により回路が1台1台で微妙に異なるところも面白いと思います。今回のFX-5は雑誌の回路図より簡素化されていたので後期の製品かと思います。

電源回路は6×4の整流管、6AQ8×2と6BA6×3のフロント~IF、MPXは6AU6,6BL8で構成されています。

底板を外すと電源トランス付近の電解コンデンサーが破裂して中身のアルミ拍と絶縁紙が散乱していました。目視確認しただけで5つの補修が必要のようです。①サビ(シャーシ、全面パネル、トランスカバー、底板)、②ACコード切断 、③MPX改造、④電解コンデンサー不良(見た目で3個が破裂)、⑤ダイヤル糸のゆるみ、など満身創痍のチューナーです。最初にシャーシや底板のサビを落としてサビ止め塗料で補修します。電源トランスのカバーもサビが出ているので塗装をはがして再塗装します。全面パネルもサビが出ているので表面を地金がでるまで研磨します。 その後、クリアラッカーで表面を保護します。ダイヤルスケールのガラス板やその周辺を清掃すれば外観の補修は終了です。この作業により見違えるような姿のチューナーに変身します。

次に回路の修理にとりかかります。劣化部品を全て交換します。交換後にようやく電源試験です。電源試験では0.6Aですぐに安定しました。チューナーの動作を確認します。受信確認するとメーターも振れます。モノラルの音出しは正常ですがステレオ選択しても音が小さく歪んでいます。AFCは動作しません。セレクタの接触不良によりランプ点灯不良や音切れが発生します。

動作不良の個所を1つずつ修理します。①AFCスイッチは分解清掃して正常にアースが出るようになりました。②セレクタの接触不良は接点のロータリー面のひどい汚れを丹念に清掃します。清掃でランプ点灯不良や音切れは解消しました。

③モノラルは正常ですがステレオ時は音が小さく歪んだ故障の修理です。MPX回路を見ると改造されています。ざっと見ただけで電源の配線と信号経路の配線の欠損や改造が見られます。波形観測すると完全にマトリクスのバランスが崩れてステレオ分離も正常にできていません。回路をオリジナルどおりに元に戻します。しかし、歪みはなくなりません。電圧を確認したところ、6AU6の47V⇒120Vで真空管不良のため交換します。交換した後の電圧は47V⇒20VでまだNGです。カーボン抵抗が劣化して22kΩが30kΩになっています。劣化した抵抗を交換して42Vまで回復して波形出力や調整も正常動作するようになりました。最後に受信感度やセパレーションなどを再調整して修理は完了です。

ヒヤリングをしてみます。部品交換してすぐの音出しでは高音よりの少々神経質な音です。エージングにより高音の粗さが取れます。 低音は少し硬い音ですが、これもエージングにより低音の硬さがとれて量感がアップして奥行も出てきます。エージング後はやや高音よりですが聴きやすい音に落ち着きました。同じTRIO製品でも機種ごとに個性があり、前回のFX-46Kとは明らかに違う音質です。1台1台が個性が感じられる真空管FMチューナーは何台修理しても楽しいものです。