2022/06/21

TRIO 真空管FMチューナー FM-111(整流管6X4の不良)

 今回は初めて修理するTRIO 真空管FMチューナー FM-111になります。FMシリーズでFM-111があるとは知りませんでした。本体は堅牢なケースと前面パネルの色は違いますがデザインはFM-105と同じでツマミが金属製に代わっていました。POWER OFF/FM/FM AFCと記載のある電源のセレクタ-も若干異なります。

背面は同じでモノラル端子とMPX OUT端子、ボリューム、アンテナの構成はFM-105と同じです。

TRIOの管式FMチューナーの種類はわかりにくいです。上の一覧(2022.12.4更新)は私が使っているTRIO管式FMチューナー一覧です。自作の一覧なので抜けている機種や年代、系統などに誤りがあると思いますがご容赦ください。この一覧で私も修理したことがあるのは12機種ぐらいです。一覧を眺めてみるとTRIOさんがFMステレオ放送の普及のために多くのチューナーを世に送り出したことがわかります。今回のFM-111はFM-105の流れをくむFMシリーズのモノラル・FMチューナーだと思います。

6AQ8×2、6BA6×2、6AU6×2、6AL5、6X4の構成・配置はFM-105と全く同じです。FM-105の後継機種がFM-111のようです。

このチューナーは「通電できますが受信できないジャンク品」とのことで購入しました。内部を見てみましたが目視からは損傷個所は見つかりませんでした。
 
ためしに通電試験をしてみます。電源を入れると0.38Aで安定しました。電流値が少ない感じがします。各箇所の電圧を測るとB電源で0V、ここで電圧がでていません。トランスの電圧は正常なので整流管6X4の不良と思われます。
上の写真は故障したと思われる整流管6X4です。整流管の中心部がぐると一周ガラスが黒くすすけています。整流管はこのチューナーの中で一番寿命の短い真空管なので故障しても納得です。
 
最初に劣化部品の交換です。ブロック電解コンデンサーは配線を外して外観上の見栄えのために残します。その他の劣化部品は全て交換しました。 念のために故障と思われる6X4を交換して確認します。B電源は0Vなので6X4の故障に間違いありません。整流管6X4を交換します。
修理後、電源を入れると0.45Aで安定します。B電源出力で約100Vの電圧が出ました。電源部は正常になりました。
ここで受信確認をしてみます。受信感度は良好でメータも振れます。AFCもよく機能します。また、トラッキングはズレていましたので調整しました。
最後にTRIO AD-5(FMマルチプレックス・アダプター)と接続してFMステレオ放送を受信してみます。受信感度も高く、いつも通りの管式FMチューナーのいい音です。FM-111はFM-105の後継機種としてお勧めのチューナーだと思います。今回のFM-111もこの時代の製品として性能・信頼性などが群を抜いて優れた製品だと思っています。この製品以降、2~3年するとトランジスタ方式に置き換わってゆくことになります。管式FMチューナーは1960年代前半~中頃までの短い期間の製品ですが今でも色あせない音でFM放送を聴かせてくれます。

2022/06/16

スター FM-200 真空管FMチューナー(珍しいμ同調方式)

 

スターFM-200形の真空管FMチューナーです。アイボリーの本体にシルバーのパネルと大きな文字と茶色の目盛りが印象的です。いままでスター製品を触る機会がなかったので購入してみました。 写真のとおりかなりジャンクなFMチューナーです。

 
スターFM-200は1963年ごろの雑誌に特集記事や広告がのっていますので、発売時期は1963年頃だと思います。 TRIO FM-106が機能面で近い機種になるので価格も10,000円前後ではないかとないかと想像しています。

背面はパーチクルボードで真空管ラジオみたいです。パーチクルボードは湿気を吸うとボロボロになるので高価になりますがアルミにしてほしかったです。また、背面の端子にMPX出力を持ったモノラルFMチューナーになります。

上から見ると何か違和感ありませんか?このチューナーにはバリコン がないんです。バリコン を使わないμ同調方式のFMチューナーなんです。6AQ8,6AU6×3,6AL6の構成で、左側にある6AQ8を搭載したスター製のμ同調方式/FMチューナー・ユニット:FU-36Bにより安定した受信性能を確保しています。このチューナーの全面パネルはアルミの削り出しではなく型抜きした1mmのアルミで、背面パーチクルボード、整流管ではなくシリコン・ダイオード、バリコン なしのμ同調方式などの徹底したコストダウンをしてます。それにもかかわらずデザインや性能は落とさずによく出来た製品だと思います。また、このころのトリオのチューナーもそうですが、なぜかヒューズがないつくりはいただけません。

FM-200を手持ちの資料から探したところ電波科学 1963年4月号で機能・回路図・性能など詳しく解説されていました。

また、FMチューナー・ユニット:FU-36Bについてはラジオ技術1962年9月号「FMチューナー・ユニットの構造」で解説されています。上の写真はFU-30Bシリーズ一覧を抜粋したものです。真空管FMチューナーを使う楽しさもありますが、これらの資料によりFM-200を深く知ることで楽しさが何倍にもなるんです。

μ同調方式のユニットでは糸を直線に引いて糸巻きしますので、糸を引っかける穴のあるリング状の固定金物(名前を知りません)を使います。FM専用なので土台の軸とリング状の固定金物とプーリーの構成になります。これにAMが加わるとバリコンの軸にカップラを取り付けて同調する構成になります。

 

内部の配線ですがきれいな状態です。特に見た目には損傷らしき痕跡はみあたりませんでした。


 
最初は外観から補修してみました。上の写真のように本体はアイボリーで再塗装しツマミのゴールドの金属部分は他のツマミから移植してみました。アイボリーのFMチューナーはめずらしいですが、見た目もよく今にもFM放送が聴けそうな雰囲気に仕上がりました。
トランスの手前にヒューズ・ボックスを追加してみました。
通常はいきなり通電試験をしませんが損傷もなさそうなのでテストする気になりました。通電試験すると電流は0.8Aから1~2分もかかって0.6Aまで下がりましたが電流が流れすぎで不安定です。私の感覚では0.4~0.5Aぐらいが適正だと思っています。1~2分通電してブロック・電解コンデンサを手で触ってみると非常に熱くなっています。本来はあたたかい程度で熱くなることはありませんので劣化した末期症状のブロック電解コンデンサーのようです。やはり、見た目だけで判断するのは危険だと改めて実感しました。
 
上の写真のように劣化部品はすべて交換しました。ブロック電解コンデンサーの配線をはずし残置して外観を確保します。その下に代替の電解コンデンサーで電源部を作り込みました。
再度、通電試験をします。電流値は思った通り0.45Aぐらいにすぐに落ち着きました。電源部の電解コンデンサーもまったく熱くなっていません。修理は成功のようです。他に修理が必要な箇所もないのでこれで終了です。
 
TRIOのFMアダプター:AD-5と接続してステレオでFM放送を受信してみます。受信感度は良好ですがトラッキングが大幅にずれていたので調整します。AFCもよく機能しています。真空管チューナーのFM放送の音が好きなオーディオ愛好家も多く私のその一人です。真空管チューナーは本当にいい音がしますので一度お聴きになってはいかかでしょうか。スター製FMチューナー・ユニットは雑誌に載っているので知っていましたが、今まで取り扱った真空管ラジオやチューナーではμ同調方式に出会えませんでした。FM-200を使ってみてFMチューナー・ユニットがあれば受信感度の良いチューナーを簡単につくれそうです。
 
余談ですが実は私もアルプス製のμ同調方式・FMチューナー・ユニット(上の写真)とリング状の固定金物を大切に保管しています。今回、とてもいい経験をしたので近々にでも製作に取組んでみようかと思います。

2022/06/10

ナショナル テープレコーダー RQ-202(フライホイールのゴム張替)

 今回、ご紹介するのは前回よりさらに1年古い1965年製・RQ-202  ナショナル・テープレコーダー・スナップ 10,000円です。RQ-202は当時としては小型のオープンリールでナショナル家電らしい雰囲気があり購入してしまいました。本体のみでリモコンマイクはありませんし、もちろん動作不良のジャンク品です。

3号(3.5インチ)約9cmのリールを使っていて、テープスピードは4.8cm/sec、片側で30分程度の録音ができたと思います。

操作パネルは左から、小窓のランプ:Level Indicatorランプ(ネオンランプ)、R:Record Safetyボタン、P:Playbackボタン、S:Stopボタン、RW:Rewindボタンです。その下がリモコンスイッチ付マイク入力端子、ボリュームになります。巻き戻しボタンはありませんでした。

スピーカーが裏面にあるためレコーダー本体は縦置きまたはスタンド利用することになります。電池ボックスは本体下の白いケースで単2電池×4本の6Vになります。屋内利用に便利なACアダプタ入力端子(6V)も装備されています。

せっかく購入したので回路図が欲しくなります。上の写真はRQ-202Aの回路図でプリント基板のパターンが同じなのでほぼ同じ回路図かと思います。

プリント基板を見ると回路図のとおりゲルマニウム・トランジスタ2SC172,2SC175を使った簡単な構成なので、メカさえ何とかなれば修復できると思います。また、青紫色の古いナショナルの電解コンデンサーはできれば交換したほうがいいと思います。

まずは、電池ボックスのスプリングの修理をします。次にゴムベルトは伸びきっていてテープが回りません。ゴムベルトの交換をします。交換時にフライホイールを固定するネジ3本をはずしますが、ベアリングボール1個を紛失しなように注意が必要です。ゴムベルトを交換して単2電池×4本(6V)を入れての動作確認です。音はでますがテープ速度が遅すぎて何を言っているのかまったくわかりません。

回転が遅すぎるので、モータ軸の先端についている白い三角すいを前後させて回転数は調整します。今回のケースではモータの回転軸が滑べってフライホールをうまく回転できていません。このケースはモータ軸をフライホイールに押しつける力が弱すぎるためでモーターを押し付けるスプリングを交換してみました。軸の滑りはある程度は解消しましたが、モータ軸の三角錐を調整しても回転むらが大きく回転数も遅すぎます。

回転数を上げるためできる限りのことをしてみました。①フライホイールのベアリングと軸に油をさす。②上の写真:ピンチローラを外し清掃して油をさす。➂モータ後ろのカバーを外し電気を供給する回転ブラシに極少量のコンタクトクリーナーを添付。④電気系統で電源に関係するACアダプターのコネクタ清掃、内部接点の清掃などをためしてみたところ、テープ速度があがりモータ軸の三角錐で速度調整できるようになりました。 

テープ速度は解消したのですが再生ボタンを押したまま放置されていたのでしょうか、フライホイルとモーター軸の接触する箇所に大きな凹みが残されていました。この凹みにモーター軸がはまるとモーターが上下に動いてカタン・カタンと周期的に音がでます。当然、音はひどい回転むらが発生して聞くに堪えません。

経験はありませんがフライホイールに追加のゴムを張り付けるしか方法はなさそうです。ゴムリングを ネットで探して上の写真の直径50mm×厚さ1.5mmのゴムパッキン「あふれなし排水栓用パッキンセット M2VPS」を350円で購入しました。直径50mm×厚さ1.5mmのゴムパッキンが2枚入っています。

ゴムパッキンをフライホイールにボンドで張り付けます。不器用なので出来上がりはよくありません。

ゴムパッキンの厚みでモーターの回転軸が停止状態でもフライホイールに接触したままです。また、フライホイールのゴムに凹みができてしまいます。そこでモーター横の上下調整用の金物で停止状態のモーター軸の高さを調整しました。 ゴムパッキンのおかげで回転ムラは大幅に減らすことができました。乱暴な方法ですがうまくいったみたいです。

 RQ-202購入時についていたテープを再生してみます。レコーダーからは藤圭子さんの「圭子の夢は夜ひらく」や野村 正樹さん「一度だけなら」などの70年初頭の歌謡曲が入っていました。ラジオからマイクで音を拾って録音したみたいです。音は悪いですがラジオ放送のアナウンサーの喋りが昭和の雰囲気を感じさせます。むかし聞いたことはあっても名前がわからない歌手や歌でいっぱいのテープです。今回出会ったのは昭和の記録を色濃く残したナショナル製品でした。