2022/10/10

CROWN クラウン Melody Coins HT-430S

 

 CROWN クラウン Melody Coins HT-430Sの紹介です。レトロなデザインのラジオで今でもオークションなどで入手できます。海外のサイトによると1963年頃の製品のようです。6石トランジスタ、1ダイオードのトランジスタ・ラジオです。

このラジオの最大の特徴は、メロディ・コインの製品名のとおりコインを入れるとラジオが聞ける貯金箱であることです。実際にはコインを完全に入れないで挟まった状態にするとラジオのスイッチがONになりラジオを聴くことができます。ラジオを止めるときはOFFボタンを押すことでコインが貯金箱に入りラジオがOFFになる仕組みになっています。

 

私の持っている1965年ラジオ雑誌の新製品コーナーでは、HT-430が紹介されていました。デザインが若干異なる型番なのでしょうか。

HT-430SではありませんがHT-430のサービス・マニュアルに載っている回路図です。ほぼ同じ構成かと思います。

私が入手したHT-430Sは外観はいいのですが貯金箱の鍵がありません。鍵は昔の木製の引出しの鍵を少し削ることで代用できます。また、鍵がなくても貯金箱のネジ2本を外すことで蓋を取ることもできます。そして、貯金箱の蓋をロックしている平たいバーを手で押せば鍵は開錠できます。鍵を開けたら10円玉がでてきました。元オーナーも鍵失くしていたみたいです。その隣の蓋は電池ボックスです。単3×4本(6V)で動作します。

上蓋を開けラジオ・パネルの2本のネジを外すと本体を取り出せます。本体を裏返すと左がコインを挟むスイッチ機構、中央がボリューム、右がラジオ本体です。

 
コインのスイッチ機構です。わかりやすいように10円玉を挟んであります。先に半球のバネ付きの棒でコインを挟むことでラジオのスイッチがONになります。OFFボタンを押すと半球のバネ付きの棒が開きコインは落下してラジオがOFFになる仕組みです。
6石トランジスタ・ラジオの基板です。音響機器メーカ・クラウンが製作しただけのことはあり、HT-430Sはラジオの感度が非常に良いです。
ボリュームにガリがあるので分解清掃をします。ふたを開けコンタクト・スプレーを綿棒につけて黒いカーボン面に塗りながら清掃します。あまり、こすり過ぎるとカーボンが摩耗してボリュームを壊すので注意してください。清掃でボリュームのガリはなおりました。
電池ボックスにサビがあり、このような状態の場合はスプリング交換もしくは電池ボックス本体ごと交換します。今回は電池ボックスを交換しました。
上蓋には締めたとき接触面の傷がつかないように丸いシールが上蓋の隅に貼られています。シールが摩耗して役目をはたしていなので、ボックス用4足シールタイプを2か所張り付けて補修しました。最後に上蓋の蝶番にサビが出ているので黒く再塗装して終了です。
クラウンさんはHT-430S以外にもユニークなラジオを多く製造しています。現在ではレトロな雰囲気のHT-430Sのようなラジオは製造されていないのが残念です。HT-430Sは誰が見てもかわいいらしく届いて修理してから半日もたたないうちに家内にさらわれて行きました。

2022/10/09

TRIO トリオ 真空管FMチューナー FM-106(ワイドFMが聴ける)

 

今回は、TRIO トリオ 真空管FMチューナー FM-106の修理です。1960年頃、当時で9100円のFMモノラルチューナーです。上位機種にはFM-105があり基本性能はそのままで低価格化した下位機種になります。今回のチューナーは全面パネルやボンネットにサビや傷もなく良好な状態のものです。FM-106はシグナルメーターもなく2連バリコン の廉価版のイメージがあるせいか人気がないようです。性能はFM-105に近く若干機能を減らした(2連バリコン )だけです。操作感は全く同じですし、安定感がありお気に入りのチューナーのひとつです。

 

 FM-106の受信可能なバンド幅は76MHz~108MHzです。当時のFM放送は76.1MHz~89.9MHzです。90.0MHz~108MHzまではテレビ地上波のch1、ch2、ch3に使われていてテレビの音声を聴くことができました。世界的にはFMバンド幅80MHz~108MHzが多く、日本の76.1MHz~89.9MHzが特殊だったようです。現在ではテレビ地上波は廃止されワイドFM(FM補完放送)90.0MHz~94.9MHzに割り振られています。このFM-106はワイドFMに対応できるところがうれしい機能になります。時代がめぐって本来のバンド幅で利用できるようになったわけです。

 

背面には300Ωのアンテナ端子、MPX 、OUTPUT(モノラル出力)、PU(FM-106をセレクタとして使うための外部入力端子)で構成されています。

 
内部を覗いて見るとシャーシにひどい錆があり外観に比べて内部の状態は良くありません。コストダウンのためなのか2連バリコンを採用しているのが残念なところです。

裏蓋を外して配線内部に損傷がないか入念に確認します。ブロック電解コンデンサが劣化して液漏れしています。真下の抵抗にも液漏れした跡が残っています。それ以外は目視では不良個所はなさそうです。

シャーシをさび止め塗料で再塗装します。

劣化部品を交換してFM-106にはヒューズがないので電源部にヒューズを実装させます。

ここまで修理してからようやく電源試験です。電源を入れるとやや多めですが0.5A流れて安定しました。各箇所の電圧を測定しますが正常のようです。異音や発熱もなくランプも点灯しました。

受信してみますが音がでません。全面のセレクタースイッチ を何度もスライドさせるとたまに音がでます。不安定です。スイッチ は分解して清掃、最後にコンタクトスプレーを綿棒につけて接触面にだけ塗り汚れを落とします。分解修理でスイッチ はスムーズに切替わるようになりました。再度テストします。受信感度は良好です。トラッキングの調整も不要のようです。FM-106のMPXとTRIO FMアダプターAD-5と接続します。FMステレオ放送の音質確認をします。非常にバランスのとれた美しい音がします。当然ですがAD-5とは相性がとてもいいようです。

FM-106は60年以上前のFMチューナーですが修理すると非常に安定した動作をしてくれます。このFM-106などのチューナーでFM波を受信するほうがradikoなどのネットを利用するFM放送より遥かに高品質の音を聴かせてくれます。しかもワイドFMが普及することでFM-106にはもう一度活躍の場がありそうです。この貴重な真空管式FMチューナーがこれから先何十年も生き延びることを願って止みません。

2022/10/06

ゲルマニウム・ラジオ(譲り受けたラジオ)

 

今回は譲り受けた60年ほど前のゲルマニウム・ラジオをご紹介します。上の写真は補修したラジオの様子です。昔、ゲルマニウム・ラジオは安価で小学生のお小遣いでも買うことができました。アンテナを伸ばしたり引っ込めたりするミュー同調方式のゲルマニウム・ラジオを思い出します。このゲルマニウム・ラジオを見てあまりに懐かしいので放置できず補修することにしました。

上の写真が前オーナーが製作されたゲルマニウム・ラジオです。一番に目立つのが、2連バリコンと2本のコイルで、このゲルマ・ラジオの製作に力を入れていたのがよくわかります。2連バリコンは私が子供の頃でも見たことがない高さ8cmほど古い大きなバリコンです。ロータリースイッチも5cmはある大きな部品です。部品は60年前よりもっと古いかと思います。ツマミは固着して外れませんし、木製の前面パネルは割れ、配線も何本か外れていました。再配線して仮試聴してみました。ラジオの電波難民の地域に住んでいるためか電波が拾えません。アンテナ用の電線を10mとアースを接続して、かろうじて電波を受信できましたが何を言っているのかわからない小さな音量でした。

補修するために 回路図を起こし若干手を加えてみました。前製作者には大変申し訳ないと思いましたが、受信感度がわるく音量も小さすぎるため一部変更した回路図です。コイルとバリコンの基本構成はオリジナルのままです。

 

上の写真は、ゲルマニウム・ラジオを載せ替えたあとの様子です。コイルは一部ほどけたので再度まき直しをしました。ゲルマニウム・ダイオードはショットキー・バリア1SS86へ変更しました。シリコンの1SS86を使用したのでゲルマニウム・ラジオ ではなくなり無電源ラジオです。弱電界地域ではしかたありません。また、出力側には音量を上げるためST-30を入れてあります。

取り外した古い部品です。2連バリコンは同じ型のものを譲り受けたので交換しました。また、ロータリースイッチも接触が悪くコンデンサといっしょに交換してあります。

補修後に試聴したところ、受信感度や音量も上がり放送が聞こえてきます。バリコンのツマミとロータリースイッチで一番音量が大きくなるように調整します。これで数局受信できるようになりました。欠点は他局との混信とハンド幅が狭いことです。直す余地はあるかと思います。ゲルマニウム・ラジオは子供の時に何度も買ったり作ったりしたものでした。アンテナのクリップを挟み、イヤホンに耳を澄ましていると昔がよみがえってきます。今でもたくさんの人が製作している気持ちがよくわかります。

ここで話は脱線しますが、Ace AR-205Kは弱電界地域では感度が悪く受信できません。以前からダイオードを交換しようと思っていました。ゲルマニウム・ラジオを直していて思い出したので実行です。50年以上前のラジオ・キットですから、ダイオードを1N60から1SS86へ交換することでオリジナル性が損なわれると考える人もいるかと思います。聞けないラジオを飾っておくだけではもったいと思い交換させてもらいました。

オリジナルのゲルマニウム・ダイオード1N60です。

プリント基板へ1SS86を実装した様子です。
スピーカー左中央部のダイオードを交換しただけです。電源を入れるといままで受信できなかった高い周波数のラジオ局を聴くことができるようになりました。確かに感度が上がったことを実感できます。AR-205Kが復活しました。ただし、ダイオードを交換したことによりラジオ放送の背景にサッーというホワイド・ノイズのような雑音が若干大きくなったような気がします。2石レフレックス・ラジオでスピーカーを鳴らすのですから、受信感度が低くてもしかたありません。しかし、ダイオード1本で改善できるのあれば飾っておくラジオよりはいいと思いました。今回はゲルマニウム・ラジオの修理で子供時代を思い出したラジオ修理でした。

2022/10/01

HITACHI(日立) 真空管FMチューナー UF-1000

 

今回はHITACHI(日立) 真空管FMチューナー UF-1000の修理になります。日立製で小型FM専用チューナーを出しているとは知りませんでした。初めて見るチューナーです。小型FMチューナーとしてはTRIO FM-108や東芝 FMT-100などと競合する製品になるかと思います。1960年~1965年頃の製品とは思いますが年代は不明でした。FM放送をモノラル出力とMPX出力できるチューナーとなっています。

背面はパーチクルボードで300Ωのアンテナ端子と8ピンUSプラグでMPX接続する仕様になっています。日立製のFMアダプターMA-20などを接続してFMステレオ放送を聴くことができます。USプラグからはB電源やヒーターの給電もされているので日立製以外との接続には注意が必要です。

パネルをはずして覗いてみると糸掛けが外れているのがわかります。それ以外に大きなダメージなさそうです。また、右の側面には回路図が残っていました。

シャーシを取り出します。中央に電源トランスを配置し、2連バリコン、6R-HH2×1、6BA6×2 が実装されています。

 
チューナー内部に残されていた大切な定格、糸掛図、回路図です。
裏側の配線です。見た限りでは大きな損傷はみられませんした。
修理を始めます。糸掛けを直そうと思いますがダイヤル針のレールが外れています。原因は金属レールを連結しているネジが破損しているためです。ネジは透明なプラスチック製なので少し強い力が加わって破損したようです。左右の連結ネジを金属製と交換して糸掛けしなおして終了です。
 
内部の劣化部品は全て交換します。上の写真は部品交換後のようすです。
部品交換後に初めて電源を入れて確認します。0.4A流れ変動もありません。各箇所の電圧も測定したところ正常のようです。最後に受信感度やトラッキング調整して修理は終了です。
MPX OUTは背面の8ピンUSプラグを使用します。日立製以外のFMアダプタとの接続にはMPX OUTとして2番、5番に出力します。USプラグにはFMアダプタに給電するB電源やヒーター電圧がかかるピンがあるので注意が必要です。
モノラル出力は正常です。TRIO FMアダプターAD-5と接続してFMステレオ放送をヒヤリングしてみます。ステレオ放送は聞こえますがハム音がのって使用に耐えられません。

STAR MU-34を搭載した自作のFMアダプターと接続してみます。FMステレオ放送にはノイズもなく正常に聞くことができます。日立製以外と接続する場合は相性があるようで要注意です。TRIO AD-5と接続して正常に動作させるにはUF-1000のMPX OUTに抵抗100kΩ程度を並列に入れることで解決しました。実際に100kΩの抵抗を入れてヒヤリングすると動作は安定し、FM放送をすばらしい 音質で聴くことができました。

※2022.12.20追記 TRIO AD-5との接続トラブルは、AD-5の調整不良が原因でした。スキルの低さを痛感します。