今回は、TRIO トリオ 真空管FMチューナー FM-106の修理です。1960年頃、当時で9100円のFMモノラルチューナーです。上位機種にはFM-105があり基本性能はそのままで低価格化した下位機種になります。今回のチューナーは全面パネルやボンネットにサビや傷もなく良好な状態のものです。FM-106はシグナルメーターもなく2連バリコン の廉価版のイメージがあるせいか人気がないようです。性能はFM-105に近く若干機能を減らした(2連バリコン )だけです。操作感は全く同じですし、安定感がありお気に入りのチューナーのひとつです。
FM-106の受信可能なバンド幅は76MHz~108MHzです。当時のFM放送は76.1MHz~89.9MHzです。90.0MHz~108MHzまではテレビ地上波のch1、ch2、ch3に使われていてテレビの音声を聴くことができました。世界的にはFMバンド幅80MHz~108MHzが多く、日本の76.1MHz~89.9MHzが特殊だったようです。現在ではテレビ地上波は廃止されワイドFM(FM補完放送)90.0MHz~94.9MHzに割り振られています。このFM-106はワイドFMに対応できるところがうれしい機能になります。時代がめぐって本来のバンド幅で利用できるようになったわけです。
背面には300Ωのアンテナ端子、MPX 、OUTPUT(モノラル出力)、PU(FM-106をセレクタとして使うための外部入力端子)で構成されています。
裏蓋を外して配線内部に損傷がないか入念に確認します。ブロック電解コンデンサが劣化して液漏れしています。真下の抵抗にも液漏れした跡が残っています。それ以外は目視では不良個所はなさそうです。
シャーシをさび止め塗料で再塗装します。
劣化部品を交換してFM-106にはヒューズがないので電源部にヒューズを実装させます。ここまで修理してからようやく電源試験です。電源を入れるとやや多めですが0.5A流れて安定しました。各箇所の電圧を測定しますが正常のようです。異音や発熱もなくランプも点灯しました。受信してみますが音がでません。全面のセレクタースイッチ を何度もスライドさせるとたまに音がでます。不安定です。スイッチ は分解して清掃、最後にコンタクトスプレーを綿棒につけて接触面にだけ塗り汚れを落とします。分解修理でスイッチ はスムーズに切替わるようになりました。再度テストします。受信感度は良好です。トラッキングの調整も不要のようです。FM-106のMPXとTRIO FMアダプターAD-5と接続します。FMステレオ放送の音質確認をします。非常にバランスのとれた美しい音がします。当然ですがAD-5とは相性がとてもいいようです。FM-106は60年以上前のFMチューナーですが修理すると非常に安定した動作をしてくれます。このFM-106などのチューナーでFM波を受信するほうがradikoなどのネットを利用するFM放送より遥かに高品質の音を聴かせてくれます。しかもワイドFMが普及することでFM-106にはもう一度活躍の場がありそうです。この貴重な真空管式FMチューナーがこれから先何十年も生き延びることを願って止みません。