2025/07/17

東芝 6FT-265 真空管FMチューナー(MPX OUT付加)

 東芝 6FT-265 真空管FMチューナーの紹介です。1959年、8,900円の真空管FMモノラル・チューナーです。当時のFM周波数の割り当てから80MHz~90MHzのダイヤル目盛りとなっています。正面パネル左上のマツダの文字が古さを感じます。

背面は、アンテナ端子、ピンジャックケーブル(モノラル出力)、電源ヒューズになります。

底面には、仕様、配線図、糸掛け図が張り付けてあります。また、ゴム足4つのネジで本体シャーシを固定しています。

 

ケースを取り外すと、6AQ8,6BA6×2,6AU6,6AL5,5M-K9の真空管です。検波~電源まで6球の真空管で構成されています。バリコンは2連式です。

前面と底板を一体にしたL字型の独特のつくりです。

プラスチックパネルを取り外すとL字型カバーに黒い厚紙で出来たシートが張り付けてあります。厚紙は経年劣化で少しでも触るとボロボロに破けて砕けるので交換します。上の写真は色付画用紙で作成したシートです。この黒いシートはダイヤル目盛りのランプの光がプラスチックパネルから透けて漏れ出すのを防いでくれます。 

背面にむき出しで危険なヒューズフォルダはカバー付きに交換します。

劣化部品は全て交換します。ダイヤル糸が断線していたので張替えします。受信感度とダイヤル目盛りを調整して修理は完了です。

このFMチューナーはレシオ検波です。時代背景からモノラル出力のみのFMチューナーです。

上の写真は実際のレシオ検波の回路です。


 現在ではFMモノラル出力では実用的ではないのでステレオ化を目指します。上の図は6FT-265にMPX OUTを付加した回路図です。MPX OUTがあれば6FT-265でFMステレオ放送を聞くことができます。

ラグ板を使いレシオ検波によるMPX OUT回路を組み込みます。上の写真はMPX OUTを付加した様子です。セパレーションを測定します。約20dBを確保することができました。 TRIO AD-5のディメンションコントロールがあるFMアダプタであれば、セパレーションはもっと良い数値になったと思います。

MPX OUTをFMアダプタに接続してFMステレオ放送をヒヤリングします。音の重心は低めで奥行も感じます。高域がやや少ないマイルドで穏やかな音です。FMアダプタの影響なのか中低音はダンピングが効いたような粘りがあります。FM放送を穏やかに安心して聴けるチューナーのようです。

初期のFMチューナーは教科書に載っているような検波回路なので容易にMPX OUTを付加することができます。古いモノラルFMチューナーは飾って置くだけでは勿体ないと思います。少し手間をかけMPX OUTを付加してFMステレオ放送を聞いてみるのも一考かと思います。

2025/07/13

SILKLINE T8 フルデジタルチューナー(同軸出力端子を付加)

SILKLINE T8 フルデジタルチューナーの紹介です。FMチューナーでデジタル出力できる機種を探していました。国内ではアキュフェーズ T-1000~T-1300(羨望の製品です)、港北ネットワークスCD-P750などで種類も少なく高額です。一番安価なTEAC PD-301は定価43,780円ですが、残念なことにCDプレーヤーとチューナーの一体型でFM専用機ではありません。海外製を探したところ唯一使えるFMチューナーがSILKLINE T8です。FM/DAB/DAB+が受信できるデジタル出力(光出力端子)を搭載したチューナーです。AliExpressではtonemax T8などの名称で販売されています。FM受信周波数も日本仕様76~108MHzです。現時点でSILKLINE T8がデジタル出力端子を搭載した最も安値なFM専用チューナーになります。参考までにYL-530Sという受信機もありますがDSPフルバンドですがケース形状も小さくオーディオ向きではないため購入を断念しました。

荷物は中国から送られてきます。段ボールを開けるとチューナー本体と付属品が入っています。付属品は電源コード、簡易アンテナ、リモコン、オーナーズマニュアルです。

 チューナー本体のサイズはW:430mm、H:44mm、D:200mmで、重量は3kgです。

T8の背面パネルを見てみます。RCA出力端子(アナログ)と光出力端子(デシタル)の2系統を持っています。アンテナ端子は簡易的なもので中心の軸が最初から曲がった状態でした。機械的に弱い作りなのでアンテナ端子はあとで交換したいと思います。

内部を覗いて見ると、チューナー部と電源トランス、ディスプレイ側に制御部が組み込まれた簡単な構成です。

チューナー部はKeystone T4B-6620CDBで汎用タイプのラジオモジュールです。光端子はT4B基板から直接配線してデジタル出力(S/PDIF)を可能としているようです。シールドカバーがあり採用されているIC型番は確認できませんでした。

RCAアナログ出力には、汎用オペアンプ5532DDが搭載されています。アナログ出力の音にこだわる方は交換したほうが良いかと思います。

開梱した状態ではFMモード98MHzに初期設定されています。電源とアンテナをつなげばすぐに選局してFM放送が聴ける状態です。 上の写真はBayFM78.0MHzを受信した画面です。

矢印を押してマニュアル選局できます。矢印を長押しすればAutoで選局になります。SCANボタンを押すと自動選局した放送局を順々にメモリにプリセットしてくれるので便利です。従来のFMチューナーに標準搭載されていたレベルメーター、フィルター、ステレオランプもないシンプルな機能です。付属品としてチューナーと同じ操作ができる便利なリモコンがついています。

T8の仕様ではセパレーションは50dBです。測定器で確認すると約45dBでした。測定器の影響か不明ですが1kHzの高調波は一つしか観測できませんでした。優秀です。測定器出力を上げるとある時点で無数の高調波がいきなり出現するのでT8側で高調波を抑制する能力を持っているようです。また、電源ONにしてから10分〜20分程度は高音が歪んで聞こえました。長期間稼働しなかったデジタル製品では電源投入時しばらく誤動作が発生するケースがあります。購入時には最低でも10~20分間程度はエージングが必要な製品です。

チューナーの光出力端子をTopping DX3proと接続してヒヤリングします。今まで聴いていたアナログチューナーとは全く異なり戸惑いました。 エコーキャンセラーの利いたヘッドホンを聞いているような感覚です。S/Nが良いのか余分な音を含んでいないためなのか不明ですが無音から立ち上がる様な鮮烈でクリアな音です。混濁せずに一音、一音が分離して聞こえます。音の粒子は細かいですがツブツブ感はデジタル臭さを感じます。音は良いのですが高音寄りのバランスのため、しばらく聞いていると疲れてしまいます。

音の傾向が今一つ掴めないのでSONY ST-SA50ESと聞き比べをします。T8の音の特徴は、①低音は出ているが音のバランスが高域寄り、②音が混濁せずに余分な音がしないクリアな音などが特徴です。ST-SA50ESではわずかに音の混濁を感じます。FM音源が新しいものほど、両者の音質は差が明確に感じられます。古い音源では、両者とも同じ傾向の音質です。ST-SA50ESは音の出方が完成された製品、T8は音のポテンシャルは高いが音の出方が未完成の製品のように感じます。少しマイルドですがバランスの良い音が出せるST-SA50ES、どこまでもクリアな音ですがバランスを欠いたT8のどちらがいいのか判断に迷います。今回のフル・デジタル・FMチューナーの音質は期待外れの結果に終わりました。

2025.7.27 同軸出力端子を付加して高音質

SILKLINE T8は光出力端子しかありません。音質的にはジッタの影響を受けやすい光出力端子より同軸の方が優れていると言われています。現状の音質には不満があるので同軸出力端子の搭載を検討しました。例えば、光出力端子のS/PDIFから簡易回路で同軸出力する方法があります。簡易回路ではUSB DACとアースなどが共通になりノイズなどの不安定要素が気になり採用は見送りました。

今回の目的にあった製品を見つけました。デジットから光同軸インターフェイスDHI-B-sのキット基板が発売されています。この製品はSILKLINE T8の電源5VとS/PDIF を接続すれば同軸出力できます。同軸出力端子はパルストランスで分離されていますのでUSB DAC接続時の不要なトラブルも回避できそうです。キット製品なので工作の難易度も一気に下がります。

キットを組み立てます。DHI-B-sを組み込むにはチューナー本体から取り出せる消費電流が足りるか心配です。 SILKLINE T8の光出力端子DLT1160の消費電流は5.5mA~10mAです。DHI-B-s基板の消費電流を下げるため光出力端子GP1F32TとLEDを取り外します。上の写真ではDHI-B-s基板の消費電流は実測して8mAでした。SILKLINE T8の光出力端子DLT1160も取り外してチューナー本体の消費電流を削減します。以上の対策により消費電流の増加もなくSILKLINE T8にDHI-B-s基板を追加できます。

上の写真のように光同軸インターフェイスDHI-B-s基板をチューナー本体に取り付けます。ただし、デジタル出力は同軸出力端子のみです。

 

FMチューナー基板の光出力端子DLT1160の端子跡からDHI-B-s基板へ電源と信号、GNDを接続すれば完成です。

 
背面パネルでは光出力端子の穴を塞ぎ、同軸出力端子(COAX OUT)を新たに配置します。 

SILKLINE T8の電源を入れるとTopping DX3proが同軸信号を正常に認識します。ヒヤリングします。 一聴してすごく良い音です。上下の帯域のバランスも良く同じチューナーの音とは思えません。高域も刺激は強すぎず上品で繊細な響きです。音全体がクリアで透明感があります。帯域は広く中低域の音の厚みや豊かさも感じられる素晴らしい音です。光出力と同軸出力による音の差がここまで決定的に違うとは意外です。半日程度の工作で高品質のフル・デジタル・FMチューナーの完成です。

その後、テスト用同軸ケーブルをMOGAMI2964に交換しました。更に一皮むけたクリアで豊かな音に変わります。デジタル接続でもケーブル品質の影響の大きさを実感します。

最後にアンテナ端子は良質のF型同軸コネクタに交換します。元のアンテナ跡の穴が大きいのでワッシャを入れて同軸コネクタを固定します。これで作業は全て終了です。改修したSILKLINE T8はFM放送が心地よく響きます。音楽だけでなくコマーシャルや交通情報など何を聴いても気持ち良い音がします。一度聴いてしまったらアナログチューナーに戻れそうにありません。

2025/07/12

ゲルマニウムラジオ用アクティブ・アンテナの製作

ゲルマニウムラジオ用アクティブ・アンテナをご紹介します。近頃はゲルマニウムラジオや鉱石ラジオを製作する機会が多くなりました。自宅は電波環境が悪く、かなりしっかりした鉱石ラジオ用のアンテナとアースが必要です。ラシオを製作するたびにアンテナとアースを用意するのが面倒なので、テスト用アクティブ・アンテナを製作してみました。

上の構成により電波の弱い地域でもゲルマニウムラジオが聞けるようにしたいと思います。 この構成は真空管時代の古典ラジオの高周波増幅+検波器の回路構成と同じ発想かもしれません。

今回は手元にあるループアンテナ(TECSUN AN-200)を使います。AN-200は場所を取らずどこでも持ち運べます。しかし自宅ではTECSUN AN-200だけでは電波が弱くゲルマニウムラジオや鉱石ラジオで受信することが出来ませんでした。

 
高周波増幅(ブースター)には「ループアンテナ100kHz-30kHz中波短波用ブースター基板」を使います。安価なキット製品ですが十分に使えそうなので早速注文します。

送られて来たブースターキットはビニール袋に上の写真の部品が入っているだけです。説明書はありません。販売ページのプリント基板の部品配置の写真を参考に組みたてます。

組み立てたプリント基板はカードケースに入れて、ループアンテナ入力にはミニジャック、ゲルマニウムラジオのアンテナへの出力にはRCA端子を付加しました。元々あるループアンテナ接続用ネジはそのまま残しておきます。

ゲルマニウムラジオには電子ブロックSRを使用し、電波強度の確認用に50μAの電流計を追加してあります。結線はAN-200とアンテナブースターをピンジャックで接続し、アンテナブースターの出力をゲルマニウムラジオのアンテナとアースにワニグチで接続します。

アンテナブースターのボリュームは最大にします。AN-200にはポリバリコンが内蔵されておりループアンテナにアンテナチューナーの機能も搭載されています。AN-200のツマミを左いっぱいでAM放送の下限、右いっぱいでAM放送の上限と想定して、受信したい放送局のおおよその位置にツマミを調整しておきます。最後にゲルマニウムラジオで放送局を受信します。受信できたらAN-200とラジオの双方で最大の音量になるように調整すれば終了です。

受信音量が最大のとき、電流計を見ると上の写真では12μAと読むことができます。弱電界地域ですが立派に受信できていることがわかります。ただし、電流計の数値が最大でもアンテナブースターでは雑音も同時に増幅されるのでラジオ放送の音が大きな時に読み取ります。電流計の振れ幅はゲルマニウムラジオの抵抗値もしくはブースターのボリュームを変更することで増減させることができるので、お住まいの電波強度に合わせて変更してください。

 

ループアンテナ用ブースターとAN-200の組合せによる簡単な工作です。弱電界地域でのゲルマニウムラジオ・テスト用アンテナとして十分な性能です。弱電界地域でゲルマニウムラジオや鉱石ラジオ、鉱石検波器などの工作を断念せざるを得なかった方には特にお勧めかと思います。