2024/07/07

PIONEER F-005 (クォーツロック・タッチセンサーシステム搭載)

PIONEER F-005 FMステレオ・チューナーの紹介です。1979年、58,000円のクォーツロックとタッチセンサーを搭載したFM専用チューナーです。当時、F-005を愛用していました。5素子のFMアンテナを建ててFMエアチェックに使っていた懐かしいチューナーです。

上の写真はF-005の回路図です。電波新聞社 AUDIO別冊ステレオコンポ回路図集にPIONEER F-003、F005、F-007、F-26の回路図が掲載されています。 F-005のプリント基板には何故か部品番号が書かれていません。修理作業で回路の把握に少し時間がかかりそうです。

最初に劣化部品を交換します。交換後に動作確認をします。FMは受信できているようです。左右のOUTPUT端子からは音声が聞こえます。ただし、受信レベルメーターとチューニングメーターは調整要、STEREOとTUNE、LOCKEDランプは不点灯、トラッキングは大幅なズレがある状況です。受信レベルを調整してレベルメーターは正常に振れるようになりSTEREOランプも点灯します。しかし、TUNEとLOCKEDランプは不点灯のままです。チューナー部分は正常に修理できましたがクォーツロック回路に不具合がありそうです。

 
TUNEランプの動作を確認します。APC回路の同期出力:7番端子とチューニングノブのON/OFF検出が関係しています。APC回路の各電圧および周波数を調整しますが、TUNEランプが点灯しません。調べた結果、1つ目の原因はAPC10番端子に入力する中間周波数の波形が周期的に崩れていました。基盤側のQ4:2SK19の不良で交換して正常に波形出力します。
2つ目の原因はAPC7番端子出力により制御されるQ21、Q22(2SC945A×2)およびチューニングノブON/OFFを制御するQ12、Q14、Q15、Q17(2SC945A×4)を交換して正常に動作するようになりました。また、TUNEランプが正常になるとともにLOCKEDランプも正常に動作するようになっていました。

最後に音声出力の波形が歪んでいるので原因の切り分け作業をします。OUTPUTではFMジェネレータからの信号が大きいと波形がつぶれて歪んでいます。PA3001出力のHORIZ出力で波形正常。PA1001 L.P.F出力:68番、69番端子で波形正常。PA1002A出力:51番、54番端子で歪ありNGでした。PA1002Aの故障の模様です。PA1002Aを交換して波形は正常です。PA1002A交換により雑音を消しきれなかったミューティング機能も正常に動作するようになりました。スペアナ(19kHz)を見ながらパイロット・オート・キャンセラー調整用のVR5で最小になるように調整すれば終了です。

ヒヤリングしてみます。帯域も広く感じられクリアで明るい音質です。音にサラサラ感があり気持ちがいい音質です。また音のバランスも良く奥行も感じられる良質な音作りです。パイオニアらしい音を持ったチューナーかと思います。

今回のようなF-005の修理前提の購入はあまりお勧めできません。オートロックが故障していた場合、調整だけですめばいいですが故障していると原因特定が難しいです。パイオニアのFM用ICも入手が難しいです。しかも回路図が必要です。修理して再調整できれば、このチューナーは完成度も高く操作感も格別な製品に生まれ変わります。懐かしいチューナーです。F-005が発売された当時はオーディオ全盛期の穏やかでいい時代でした。

2024/07/06

AIWA TPR301 FM/MW/SWラジオカセット

AIWA TPR301 FM/MW/SWラジオカセットの紹介です。1974年、40,800円のラジカセです。このラジカセの特徴はダブル・ダイヤルスケールです。とてもレアな機能ですが、真空管チューナーの頃にはダブル・ダイヤルスケールが既に搭載されています。FM、AMなど一度選局しておけばバンドが変わるたびにいちいち選局の必要がない便利な機能です。コストは2倍かかるので高額な上位機種での採用になるかと思います。しかしデジタルチューナーのワンタッチ選局の登場により、ダブル・ダイヤルスケールは無用の長物となってしまいました。今頃になってダブル・ダイヤルスケールのラジカセが70年代に発売されていたことを知りました。誘惑には勝てずジャンクのTPR301を買わせてもらいました。

TPR301はSWの変調方式別にFMとMWの2つにダイヤルスケールが分かれています。AIWAのラジカセLL350TMR350TMR355にも採用されていますが他メーカーでは見つかりませんでした。AIWAだけかもしれません。

 TPR301ではダブル・ダイヤルスケールを使ったダブル・オペレーション機構を搭載しています。ラジオをカセット録音しながら他のラジオ局を聞くことができる機能です。左上の真四角(DUAL)がその機能ボタンです。

 もう一つの特徴はワイヤレスマイク搭載です。70年代には多数のラジオやラジカセにワイヤレス機能が搭載されて一種のブームのようになっていました。TPR301もその1台です。

マイク左の白いボタンを押すと蓋が30度ぐらいまで開いて。4ウェイ・コンデンサマイク(WM-206)が取り出せます。。4ウェイ・コンデンサマイク(WM-206)を格納するときには電源のスライドスイッチが自然にOFFになるよう蓋に出っ張りが設けてあります。
上の写真は取り出した4ウェイ・コンデンサマイク(WM-206)です。4ウェイ・コンデンサマイクとの名称のとおり以下の4通りの使い方があります。① ラジカセ内蔵・コンデンサマイク、②コード・コンデンサマイク、③ワイヤレス・コンデンサマイク、④ワイヤレス・トランスミッター 。このワイヤレス・マイク単体(WM-206)にはアンテナがありません。ワイヤレス・マイク利用時には付属コード(アンテナに相当)接続する必要があります。知らずに付属コードなしでワイヤレスマイクのテストをしていました。送信できる距離が極端に短くておかしいと思っていました。アンテナが無ければ当然です。
このラジカセの取扱説明書には回路図が掲載されています。AIWAさんには感謝の言葉しかありません。

故障修理するためケースから本体を取り出します。スピーカーも一体で取り出せる修理しやすい構造です。
このラジカセの故障はラジオ(AM,FM)から音が出ないことです。いろいろなスイッチをON/OFFすると時々雑音やラジオ放送が瞬間きこえるだけです。故障の原因はDUAL切替用スライドスイッチの接触不良でした。スライドスイッチを取り外して分解清掃すると音がでるようになります。そのほかプリント基板の劣化部品は全て交換します。

DUAL表示ランプが切れているので赤く塗装した麦球ランプと交換します。ラジオの受信感度とトラッキングを調整します。カセットのゴムベルトを交換しましたがモーターの回転が弱く残念ながらカセットテープ再生は無理のようです。

このラジカセはケースの損傷が激しいです。上の写真の左側アルミの淵に沿ってL字型にプラスチックが7~8cmほど裂けてハンドルでラジカセを持ち上げることも出来ません。内部では裏蓋をビスで止めるプラスチックの円筒形のスペーサーが根本から折れて、開いたままの裏蓋右上ビスが締めらません。ボンドで補修してビス止めで裏蓋を閉められる様になり、ハンドルで持ち運びも出来るようになりました。

電池の蓋がないので他のラジカセの蓋を黒で塗装して代用します。プラスチックの爪が折れて蓋の固定が出来ません。スペーサー取り付け場所が確保できたので蓋をビス止めにしました。これですべての修理作業は終了です。

AIWA TPR-301のダブル・ダイヤルスケールは個性的なデザインで見ているだけで楽しくなります。70〜80年代のラジカセにはワイヤレスマイク、2Wayスピーカー、BCL、ステレオ、ダブルカセット、デジタルメーター、CDなどの機能が時代とともに次々搭載されています。ラジカセを見ると懐かしいその頃の技術や出来事を思い出します。TPR301は70年代の旺盛な製品開発から生まれたレアな機構を持ったラジカセです。デジタルが主流の今では二度と製品化されることのないアナログ技術の一端を感じることが出来る製品です。

2024/06/15

DENON PMA-235 プリメインアンプ

 

DENON PMA-235 プリメインアンプの紹介です。 1975年、66,500円の製品になります。シンプルで洗練されたデザインとシルバーメタリックが美しいアンプです。また、PMA-235はアンプを自作していた当時を思い出す懐かしい基本的な回路のアンプです。 

 

背面は中央の電源トランスが印象的です。スピーカー端子はネジ式ですがスピーカーケーブルをホールドできるワッシャーがあり使いやすいです。


中央後には電源トランス、中央に電源および保護回路、左右にはパワーアンプを配置しています。全面のプリント基板は上下2段構成で上部はプリ、TONE・Filter回路、下部は入力セレクタ、EQなどです。全体的に左右対称の美しい配置です。

左右の大容量電解コンデンサー(6800μF)は発熱で被覆が捲れています。劣化している様子なので10000μFと交換です。その他、劣化部品はすべて交換します。 ただし、このアンプは接点がすべてハンダ付けに変更されているので、プリント基板の取り出し作業が大変です。

劣化部品交換後に初めて電源を入れてみます。電源回路からの電圧はすべて正常です。しかし、電源部にある保護リレーが動作しません。オフセット電圧は正常です。PMA-235の回路図はないので手探りでの修理となります

リレーと同じ基板の22番ピン(リレーの左)を抜くとリレーが正常に動作します。リレーが動作しない原因は、22番ピン(リレーの左)に電源ON時に20kΩ程の抵抗があるためです。この22番ピンには、電源スイッチと連動して電源OFF(0Ω:アース)、電源ON(アース解放:抵抗∞)を22番ピンに出力する必要があります。上の写真の電源と連動するスイッチ内部の接触不良です。

スイッチは取り外して分解清掃します。これで、リレーが正常に動作するようになります。

電源ランプも切れていたので麦球を交換します。

次に音声出力を確認します。スピーカー出力で無音、若干のノイズは聞こえるようです。パワーアンプ基板の入力端子でもNGです。原因はTONE基板の一番左にあるlo-cat filterスイッチの接触不良です。スイッチは取り外して分解清掃します。パワーアンプ基板の入力端子までは正常になりました。

 次にスピーカー端子またはヘッドホンでモニターします。Lchは正常、RchはNGです。パワートランジスタ:MJ3001、MJ2501の不良です。交換によりRchも正常に出力するようになりました。動作確認を続けますが、lo-cat filterとmutingスイッチを操作するとリレーが誤動作します。スイッチ切替え時のノイズがパワーアンプ出力に影響して保護回路が動作した模様です。原因はlo-cat filterの出口のタンタルコンデンサ劣化です。タンタルコンデンサを交換してリレー誤動作はなくなり正常になりました。他のタンタルコンデンサ劣化により回路が不安定になっていると思われるため全てを交換しました。修理中のヒヤリングでは音がよかったのでタンタルコンデンサ交換を躊躇したため、修理が二度手間になってしまいました。

余談ですがlo-cat filterのプリント配線がカッターで切断され、再度ジャンパーで元に戻してありました。lo-cat filterスイッチ切替時のリレー誤動作は、前オーナーさんの時代から発生していたのかもしれません。

次はアンプの調整です。パワーアンプ基板のVR1で直流オフセット電圧(DC漏れ)を調整します。VR2はバイアス調整です。しかし、実装した基板の状態では0.45Ωの両端でバイアス電圧を測定できない構造です。

PMA-235のパワーアンプは、PMA-500Z(上の回路図)とほぼ同じ回路構成です。PMA-500Zを参考にしてバイアス調整します。PMA-500Zは+B電源には45mA流れ、パワートランジスタには30mA、そのフロント回路には15mA流れる構造です。

 

PMA-500Zとは少々回路が異なり、PMA-235はフロント回路とパワートランジスタは別電源になっています。+36V端子(右端のオレンジ)と-36V端子(右から3番目のグリーン)はパワートランジスタのみ供給されます。実測して+36V端子の電流が32mAのときに0.45Ωの両端で15mVとなるのを確認しました。そのため、以下の方法でPMA-235のバイアス調整をすることができます。パワーアンプ基板の+36V端子のリード線を取り外して、その間に電流計を挿入します。VR2で32mAになるように調整します。結果的に0.45Ωの両端電圧は15.0mVとなりバイアス調整は終了です。この方法であれば実装したまま電源線の取り外しだけでバイアス調整ができます。

上の写真ではリレー接点が黒く焼けている様子がわかります。リレー、スピーカーセレクター、ボリュームを洗浄および清掃をします。

ヒヤリングしてみます。 色付けのないクリアで透明感のある音質です。高音はシャープですが刺激的にならない品が良い音です。低音はやや控えめですがしっかり出ています。音を聞けばハッタリのない真面目に作られたことがわかるアンプです。出力に余裕が感じられ安心して音楽を楽しめます。クラッシックを聴いても奥行を感じます。個人的は中低域にもう少し厚みがほしかったと思います。修理により安定感のあるアンプの音に仕上がりました。しっかり修理したので永く愛用することが出来ると思います。PMA-235は当時のアンプ回路技術とオーディオの楽しさを凝縮した印象深い製品です。

2024/06/14

SANSUI SAX-250 FM/AMレシーバー

 

SANSUI SAX-250 FM/AMレシーバーの紹介です。1969年、39,900円のレシーバーです。黒とシルバーの落ち着いたデザインの製品です。やや暗いですがグリーンの数字にオレンジのダイヤル針の照明が綺麗なダイヤルスケールです。レシーバーとしては小型の製品になります。

背面のスリットはパワートランジスタの放熱用です。アンテナやスピーカーはワンタッチ接続端子で使いやすいです。

昔のSANSUIの電源トランスが懐かしいです。パワーアンプ基板はソケットを使い狭いスペースに実装されています。バリコンは、AM2連とFM3連です。

底の配線も高密度でEQ、TONE、電源基板なとが実装されていますパワートランジスタと同じ場所にスピーカー保護ヒューズが配置されています。ヒューズの確認や交換がしにくい場所です。

劣化部品は全て交換しますが、基板も小さく込み入った配線で作業には時間がかかります。修理中に気づいたのですが基板の一部に修理した跡が残っていました。大切に補修しながら使っていたのだと思います。

FMの受信感度やトラッキングを調整します。最後にセパレーションを調整します。

 

ヒヤリングをしますがFM放送にサッーとノイズが入ります。フロントエンドを開けて見るとTU-555とほぼ同じ回路のようです。初段のFET 2SK192SK192aに交換します。FM放送のノイズはクリアになりました。

ヒヤリングします。上下の帯域を欲張らないバランスの取れた聞きやすい音です。高音、低音については、少しアクセントをつけてメリハリのある音に仕上げているようです。修理したので音や操作の安定感が違います。前オーナーさんがレシーバーを補修しながら丁寧に使用していたのが感じられた製品です。

2024/05/09

HITACHI Lo-D SR-600 ステレオ・レシーバー

 

 HITACHI Lo-D SR-600 ステレオ・レシーバーの紹介です。1971年頃、56,800円のレシーバーです。シルバーメタリックのフロントパネルが美しいレシーバーです。同時期に発売されたプリメインアンプ(IA-600,IA-1000)もSR-600と同様に評価も高く今でも買い求める人が多い製品かと思います。

背面パネルは全体が利用されて空スペースがありません。パワートランジスタの保護カバーが4つ四角く突き出ているのが印象的です。右上は左右のスピーカーヒューズの保護によるレシーバーのようです。

パワーアンプ基板に大容量コンデンサ×2個を直接配置した作りです。

レシーバーのカバーを外すと、透明のビニールに包まれた自作のスピーカー保護基板(上の写真)が設置・配線されていました。プリント基板は固定もされていないでブラブラの状態です。年代物のリレーとトランジスタ(2SC92,2SC69)で遅延回路の機能を持たせたスピーカー保護回路のようです。電源ONの時に保護回路が必要なほど激しいポップノイズがでたのだと思います。他のレシーバー修理でも保護回路が後付けされていた経験があり前オーナーさんにとっては切実な機能だったかと思います。

 

修理は劣化部品を交換して再調整します。スピーカー保護回路以外は普段と変わらない修理作業です。

SR-600にはシグナルレベルメーターはありますが、チューニングメーターはありません。その代わり最適なチューニングが出来た時点でダイヤル針がオレンジ色に点灯する機能を持っています。修理後に再調整して気づいた便利なチューニング機能です。

試験的にスピーカーを接続してみます。予想どおりの激しいポップノイズです。スピーカー端子の電圧を見ると、電源ONにした時の高い電圧が発生してから減衰するまでに約7~8秒も時間もかかります。スピーカーの故障を誘発する非常に困った症状です。対策として新たにスピーカー保護基板を設置しました。 ポップノイズの原因は不明ですがパワーアンプ基板に実装された大容量電解コンデンサーの影響かもしれません。

上の写真が電源電圧12~24Vのスピーカー保護回路です。レシーバーの電源部から抵抗で少し電圧を落として電源を確保します。左右のスピーカー(+)のみ保護リレーに結線してあります。この保護回路はスピーカ端子が0.7V以上では動作しない仕様です。電源ONすると約10秒ほど経ってからリレーが動作しました。パワーアンプの直流電圧が落ち着くまで時間がかかるレシーバーのようです。また、パワートランジスタの発熱が大きいので専用のヒートシンクは必要だったと思います。

昔、日立さんが管球式の音を持ったレシーバーと広告してたのでヒヤリングが楽しみです。USB DACを接続してヒヤリングしてみます。このレシーバーはすばらしい音の出来栄えです。上下に帯域も広くクリアでキレのある音質です。最新の音楽ソースでも全く遜色ない音を聞かせてくれます。MMカートリッジでレコードを聴いてみますが同じ音の傾向です。Phono入力でのレコードの音がいいレシーバーは少なく貴重な製品です。音の量感、奥行の雰囲気も良好な大人のレシーバーです。SR-600はLo-D のオーディオブランドに恥じないレシーバーの名機かと思います。