2024/08/11

ナショナル RF-787 サウンドスコープ

ナショナル RF-787 サウンドスコープの紹介です。1972年、16,500円、FM-AM2バンド・FMステレオポータブルラジオです。 以前、ご紹介したサンヨー IC-ST71と同じFMステレオ放送が聞けるラジオですがサラウンド機能搭載が特徴のラジオになります。

中央にフィルム式ダイヤルスケールとステレオランプ、TONEは2段階でSOFTとMUSICです。右側にSE CONTRIL、ボリューム、チューニングツマミがあるシンプルな構成です。

サウンドスコープのサラウンド機能はL+△R、R+△Lを左右のスピーカーから出力します。L,RそれぞれにL成分の一部:△L,R成分の一部:△Rを加えることでサランド効果を得ることができます。

 

SE CONTROLツマミをMONOから右に回し真上ぐらいの位置でFMステレオのセパレーションが最大になります。この位置まではサランド効果はなく通常のFMステレオ放送です。

更にSE CONTROLツマミを右いっぱいに回すとサラウンド効果が最大になります。

SE CONTROLツマミで△L,△Rだけを増減させることで、サラウンド効果を増減させる仕組みです。

FR-787の左右のスピーカーは角度を持たせ外側を向いています。江川三郎さんの逆オルソンのスピーカー配置みたいです。左右のスピーカーの音がお互いに漏れないようにするためのスピーカー配置です。ただし、逆オルソンは原音再生を目指すのに対して、RF-787はサラウンド効果を高めるためのスピーカー配置になります。

ラジオの左右スピーカー中央に仕切りを置くと理論通りにサラウンド効果がさらに増すことがわかります。

 

背面の3本のネジを外せばラジオの蓋を開けることができます。IF用IC AN253を採用しているせいでしょうか思ったより簡素なプリント基板です。

 

 

FM/AMのBAND切り替えスイッチが接触不良です。取り外しが大変ですが分解清掃をします。

劣化部品を交換して再調整します。ボリュームなどにガリがあるので洗浄してコンタクトクリーナーを吹き付け処理をします。このラジオはセパレーションだけでなく、サラウンド機能の調整も必要です。Lに△R成分、Rに△L成分を加えますので、その波形の大きさや波形が歪まないように調整すれば終了です。この調整が悪いとノイズが増えるので注意が必要です。

ヒヤリングします。FM受信感度がやや低いのかFMステレオ放送にノイズが乗っています。FMステレオ放送を聴く場合は上の写真のように外部アンテン端子とラジオのアンテナをクリップで結んで聞いています。外部アンテナとの接続により受信感度は数段良くなります。

当初、ノイズまみれだったラジオが生き返りました。FMステレオ放送はノイズ感もなくクリアな音で良好です。TONEスイッチは2段階ありSOFTとMUSICです、SOFTは音の帯域も狭く劣悪な電波環境でしか使うことはないと思います。今回はあくまでMUSICポジションでFMステレオ放送を聴くことにします。SE CONTROLツマミは中央の位置でセパレーションが最大になり、FMステレオ放送の音が広がって聴こえます。TONE MUSICはやや中低音よりの聴きやすい音色で可もなし不可もなしの普通の音です。FR-787の最大の特徴はサラウンド機能です。SE CONTROLツマミを最大にすると音は一気に広がりきめ細やかな高音がサラサラと聞こえてきます。常にサラウンド機能をを最大で聞いていたいラジオです。FMステレオ放送をサラウンド機能最大で聞いてしまうと通常のFMステレオ放送が物足りなくなります。ただし、FM電波の受信感度が弱い環境ではサラウンド機能を大きくするにしたがってノイズも大きくなる傾向です。このラジオで快適にFMステレオ放送を聴くためには、受信環境が良好であることが大前提となります。受信環境さえ整えば、RF-787は自然に広がる質の高いFMステレオ放送が聴ける完成度の高いラジオになります。

2024/08/09

ケミコン・テスター&電圧処理の製作

 

毎日、真夏日が続いています。こんな時期は涼しい夜に部品箱を漁って電子工作が一番です。今更ですがケミコン・テスター製作の紹介です。若い人には馴染みのない名前でしょうが電解コンデンサの漏れ電流を測定するためのテスターです。漏れ電流は電解コンデンサの劣化判定には欠かせない数値です。毎回、安定化電源を使い手配線して測定していましたが煩雑です。安価なデジタル計を使ったデジタル・ケミコン・テスターを製作してみました。

製作するケミコン・テスターの測定可能な電解コンデンサの電圧はDC0V~100Vです。漏れ電流は電解コンデンサに流れる電流を1kΩ抵抗の両端の電圧で測定します。そのため漏れ電流を表示する電圧計の読みは1mV表示=1μAと読み替える必要があります。直列1kΩ抵抗は①電圧処理に使用する抵抗値である、②電圧/電流換算しやすい、③メーター保護のため電圧測定、④回路全体の保護のため、などの理由から採用しました。電解コンデンサの印加電圧および電流はデジタル電圧/電流計で数値を把握します。通常ならアナログ電流値を見ながら漏れ電流がμAオーダーになってからμAアナログ電流計を繋ぎます。今回の測定方法ではテスターが測定範囲を自動判別するので常に漏れ電流を測定できます。いちいちメーターを切り替える手間がなくなります。また、漏れ電流測定と電圧処理は同じ回路としています。

製作には手持ちの機材を流用します。30年前に買ったデジタル・テスターをそのまま配置(ネジで固定)します。それとAmazonで購入した電圧/電流計を使った自作とは呼べないほど簡単なデジタル・ケミコン・テスターです。しかし測定精度は高く操作はいたって簡単です。

漏れ電流検出と電圧処理用の10Wの500Ω×2のセメント抵抗です。安定化電源MAX70Vの関係から測定できる電解コンデンサの電圧は最大63Vになり、1kΩなら約4W以上の抵抗が必要です。もう一つは電源OFF時に使う電解コンデンサ放電用の3W・4.7kΩ抵抗です。

 ケースの内部はほとんど配線です。006P外付け電池は電圧/電流計用の電池になります。電源スイッチON/OFFは006P電源用になります。

簡単な動作テストしたところ、電解コンデンサへの印加電圧を測定するデジタル電圧計で30μAほど電流が流れるようです。漏れ電流と誤認するため、測定時には電圧計をOFF(30μAを遮断)にするスイッチを付加しました。デジタル電流計は0Aしか表示できない精度なので今回の使い方では不要でした。また、デジタルテスターの電圧値は常に変動するのでピーク値を読み取るようにします。

半日で完成です。機能確認して動作はOKのようです。実際の測定を始める前に漏れ電流について整理してみたいと思います。

1.電解コンデンサの漏れ電流
電解コンデンサを無負荷で長時間放置すると漏れ電流が増加している場合があります。漏れ電流が増加する原因は電解コンデンサの陽極箔の酸化皮膜が電解液と化学反応を起こすことにより劣化します。酸化皮膜は漏れ電流の存在によって常時修復され続けます。  
 2.劣化による症状
・長期間放置された電解コンデンサは絶縁性能が低下し漏れ電流が増加します。
・漏れ電流の大きいコンデンサ容量を測定すると表示される容量が大きくなります。
・酸化皮膜が劣化すると耐電圧が低下します。
・酸化皮膜の修復のために大きな漏れ電流が流れ発熱が大きくなります。
3.電圧処理
長期間放置された電解コンデンサは、以下の電圧処理を行うと電解液により酸化皮膜が修復され、漏れ電流は放置前のレベルに戻ります。
①電圧処理は常温(20℃)において電解コンデンサに約1kΩの保護抵抗を直列に接続します。
②定格電圧の80%を1時間印加します。
③定格電圧の90%を1時間印加します。
④定格電圧の100%を1時間印加します。
⑤最後に約1Ω/Vの抵抗を通して充電された電荷を放電します。
以上の概要を頭に入れてから漏れ電流を測定します。
手持ちの古い電解コンデンサを測定します。テスト用に用意した電解コンデンサは左側から未使用①、未使用②、中古③、中古④、中古⑤、中古⑥の6個です。電解コンデンサのは膨らみや発熱によるビニールの撚れ、液漏れ、リード線取り出し口の発熱によるゴムの劣化などの症状が見られず外観からは判断できないものを用意しました。

測定結果は、未使用①、未使用②、中古⑥の漏れ電流は正常です。中古③は4100μFと容量も異常に大きく安定化電源の印加電圧10Vで2300μAもながれています。印加電圧10Vで電解コンデンサの両端で2.5Vの異常値です。漏れ電流改善の兆しもなく完全に故障しています。これ以上は危険なのでテストは中止しました。 中古④、中古⑤は漏れ電流が60μAと230μAとやや多く流れていることがわかります。この2つの電解コンデンサは修理できそうなので電圧処理を実施します。電圧処理後の測定で中古④は60μA⇒25μA、中古⑤は230μA⇒70μAに改善できたようです。

今回のデジタル・ケミコン・テスターはアンプなどの電解コンデンサの劣化判断には重宝するかと思います。真空管ラジオに使用する高電圧の電解コンデンサを測定したい場合は、デジタル電圧/電流計を400V仕様に変更し、1kΩは100Wに変更、DC電源は400V可変出力の整流回路を組んで供給すれば可能かと思います。いろいろ工夫してみるのも面白いと思います。小型デジタル電圧計を応用すれば電解コンデンサの漏れ電流のテスター製作や操作の難易度は大幅に下がるので参考にしていただければと思います。

2024/07/30

USB DACのバッテリー駆動

USB DACTopping D3)のバッテリー駆動の紹介です。Topping D3の電源はDC9V~15Vで動作します。過去にトランス式ACアダプターからエーワイ電子・オーディオ機器用高音質化アナログ電源(27,000円)に変更して大幅に音質は向上しました。オーディオ機器の電源の最終形態はバッテリー駆動です。自作してオーディオ機器のバッテリー駆動を実現するのは普通の人にはハードルが高すぎます。そこで、市販品で誰でも入手可能なモバイルバッテリー電源のDC出力をオーディオ用に利用できないか試験してみました。

上の写真が今まで使っていたエーワイ電子・オーディオ機器用高音質化アナログ電源です。

エーワイ電子・オーディオ機器用高音質化アナログ電源の低ノイズで優秀です。平均48mVの低ノイズのDC電源です。これより低いノイズをバッテリー電源には期待しています。

 

今回は(株)富士倉のパワーモバイルバッテリーBA-155を使用します。BA-155は幅90mm×奥行195mm×高さ171mm、重さ1580g、42,000mAhの充電式リチウムイオンバッテリーです。2018年頃に発売開始され現在でもAmazonで16,500円程度で販売されています。この種類のバッテリー電源は内蔵コンバータがノイズ源となりオーディオ用途には不向きではないかと思っていました。BA-155の取扱説明書にはDCジャック出力時にUSBポートとコンセント出力は各スイッチをONにしないと電源出力しない仕様と書いてあります。オーディオ用バッテリー電源として使えそうです。次に連続使用時間ですがTopping D3(3.3W DC12V)でバッテリー容量42,000mAhとすると、毎日2.5時間使用しても約2ケ月動作する計算です。バッテリー容量も十分です。机上での問題は解決しました。実際に説明書どおりの動作でDCジャック出力がオーディオ用に使えるのか実験を通して確認します。

①DCジャック出力のみ:BA-155のDCジャック出力をオシロで見てみます。上の写真を見てわかるように16mVと低ノイズです。バッテリー電源は、エーワイ電子・オーディオ機器用高音質化アナログ電源の平均48mVより低ノイズの優秀なDC出力であることがわかります。
②DCジャック出力(USBポート動作):次にUSBポートにスマホを接続して充電する環境とします。USBポートに接続しただけではUSB給電は出力されません。Batt.Checkボタン(バッテリーチェックスイッチ兼USB出力スイッチ)を押すとUSBポートから給電されます。上の写真を見ると、USBポートへの給電開始直後からノイズが増加します。USB給電用のDC-DCコンバータの影響だと思います。DCジャック出力はUSBポート接続の環境では約52mVとエーワイ電子・オーディオ機器用高音質化アナログ電源より大きなノイズが発生しています。
③DCジャック出力(コンセント動作):次はコンセント(AC100V)に機器を接続してみます。AC OUTPUTスイッチを押してコンセントからAC100Vが出力させると、DCジャック出力で平均91mV、ピークtoピークで200mV程度のエーワイ電子・オーディオ機器用高音質化アナログ電源より数倍大きなノイズが発生してます。DC-ACコンバータからのノイズ発生と思われます。

④DCジャック出力(ACアダプタで充電):ACアダプタでBA-155を充電します。DCジャック出力は平均231mV,ピークtoピークで500~600mVのパルス状の大きなノイズが発生します。これはACアダプタ内蔵のAC-DCコンバータのノイズの影響と思われます。

⑤DCジャック出力(コンセント動作+ACアダプタで充電):最後に ACアダプタでBA-155を充電しながらコンセント(AC 100V)に機器を接続してみます。DCジャック出力には平均231mV,ピークtoピークで500~600mVですが、連続したノイズが周期的に発生しています。この組み合わせがDCジャック出力に一番大きなノイズを発生させます。

今までの結果をノイズの大きさ順に並べてみます。①DCジャック出力のみ(16mV)<②USBポート(52mV)<③コンセント(91mV)<④ACアダプタで充電(231mV:疎な間隔のパルス波形)<⑤コンセント+ACアダプタで充電(231mV:密な間隔のパルス波形) の順になります。オーディオ用電源として使用するには、BA-155の内蔵コンバータを動作させないDCジャック出力のノイズが一番すくない①の方法が最適です。BA-155は低ノイズ電源としてオーディオ用に利用できそうです。最後は実際にバッテリー駆動させた時の音質を確認します。

ただし、ノイズ試験では空冷ファンが動作した環境でのDC電源のノイズを測定できていません。バッテリーが高温になった場合に動作する空冷ファンです。今回のような使い方では空冷ファンは動作しないと思います。動作するような機会があればノイズ測定してみたいと思います。

エーワイ電子・オーディオ機器用高音質化アナログ電源との比較になります。エーワイ電子・オーディオ機器用高音質化アナログ電源によるUSB DACの音質はかなり優秀です。バッテリー電源との比較で、本当に音質が向上するのか期待と不安が入り混じります。ヒヤリングします。バッテリー電源への変更により余分な音が消え引き締まりキレがある低音に変化します。高音は粗さが取れてより繊細に聴こえます。音と音の間の静寂が深まり無駄な音が消えて音の混濁がなくなります。音全体の見通しが良くなる印象です。バッテリー電源を使ったオーディオ機器はやはり一味も二味も違います。はっきりとした違いを生み出します。元の電源に戻すと音全体にやや粗さと1音1音が不明瞭に感じられます。今まで十分に良い音質だと感じていたのですが人間は贅沢なものです。音のいい環境にすぐに耳が適応します。

今回は我が家の防災用モバイルバッテリーを流用した実験ですが、音質改善の効果はたしかです。自作によるバッテリー駆動の導入と運用のハードルは高くなかなか実現しにくい面を持っています。市販のバッテリー電源であれば誰でも簡単に導入できます。BA-155の導入により、ACアダプターを使う電源部が弱い機器が、逆にバッテリー駆動で電源部を強化して音質改善できる機器に生まれかわります。大雑把な実験でしたが市販のバッテリー電源の導入について参考にして頂けたらと思います。

2024/07/14

TEAC A-R630 プリメインアンプ

TEAC A-R630 プリメインアンプの紹介です。2011年製、42,250円の製品になります。大きなダイヤルを左右に配置した大胆なデザインのプリメインアンプです。従来のプリメインアンプにリモコンによる電子制御を付加した構造です。この年代のアンプ修理は初めてなので楽しみです。

POWER ONでアンプは待機状態になり手動もしくはリモコンでSTANDBAY/ONスイッチを操作してアンプの電源をON/OFFします。STANDBAY/ONスイッチは重要です。リモコン操作だけでなく前回操作したセレクタ位置などの情報を保持します。POWER OFFで前回操作したセレクタ位置などの情報は消えて初期状態に復帰します。POWERスイッチは常時ONで使用することが前提のアンプです。

ボリュームがdB表示のアンプ は久々に見ました。昔からdB表示のアンプはありましたが、音量の大小とdB表示に違和感があり判りにくいです。昔のオーディオ雑誌にも同じ意見のレビューがあったのを覚えています。

中央に配置されたパワートランジスタのヒートシンクは真四角のアルミパイプに冷却ファンを取り付けて強制排気して冷却する方式です。冷却ファンはある一定の温度以上になると動作する仕組みで常温では停止しています。 パワートランジスタには2SA1186-O/2SC2837-Oが採用されていました。

異常がないか観察するとSUB TRANS BOADの5Aヒューズが溶断しています。現状のままとりあえず動作確認をします。一見動作しているように見えますが、この状態だとPREAMP BOARDやFRONT PREAMP BOARDなどにしか給電されてません。MAIN BOARDへの給電は断です。ヒューズが飛んだ原因の故障切り分けのためパワーアンプ回路に電源供給しているMAIN BOARDのコネクタ:CN74を抜きます。5Aヒューズを装着して電源をONにします。ヒューズは溶断しませんのでパワーアンプ回路の故障が濃厚です。

 

故障原因と思われるパワートランジスタをヒートシンクから全て取り外します。一つ一つトランジスタを試験するとRchの2SC2837の端子間がショートして故障していました。今回はパワートランジスタを4つとも交換します。交換後、電源を入れるとスピーカーリレーがカチッと正常に動作します。アンプの各機能を確認しますがリモコンも含めて全て正常です。

A-R630にはKoshin製の音響用電解コンデンサ KR3が全ての回路に使われいます。A-R630のカップリングコンデンサは全て10μF/50Vを使用しています。手持ちの電解コンデンサはニチコンFGです。KR3とFGの規格を単純に比較するとtanδは同じです。ただし長時間使用(耐久性)するとKR3の方がtanδが劣化しやすいようです。2010年発売のA-R630であれば、劣化したと思われるKR3をFGに交換する意味がありそうです。

MAIN BOARDのパワーアンプ回路へニチコンFGを実装
PREAMP BOARDのプリアンプ回路へニチコンFGを実装

FRONT PREAMP BOARDのTONE回路へニチコンFGを実装

MAIN BOARDのPHONO・ EQ回路へニチコンFGを実装

音質に大きく影響するカップリングコンデンサはPREAMP BOARDのTONE回路×4個、FRONT PREAMP BOARDのTONE回路×6個、MAIN BOARDのパワーアンプ回路×2個とPHONO回路×4個が使用されています。入力ソース毎の片チャネルが通過するカップリングコンデンサの数は次の通りです。①SOURCE DIRECT OFF:CD(7個)、PHONO(9個)。② SOURCE DIRECT ON:CD(4個)、PHONO(6個)。入力~出力までにかなりの数のコンデンサを通過するので交換による改善が期待できそうです。Koshin KR3からニチコンFGに対象のコンデンサを全て交換します。

次にAMP POWER SUPPLY BOARDの6000μF×2個を10000μF×2個に交換します。USB DACを接続して再度ヒヤリングします。電源回路の影響は大きく音の重心がさがり量感が増します。奥行が感じられ中低音は豊かに響きます。高域もバランス良く出ています。交換した部品のエージングが進むと音のつながりが滑らかになります。

 

±15V電源回路には1000μF×2個が実装

レコードを聴いてみます。PHONOの音には癖があり違和感を覚えます。海外仕様の回路図を眺めているとPHONOへ供給される±15V電源回路には3300μF×2が実装されているはずです。実際のMAIN BOARDで確認すると小さな1000μF×2が代わりに実装されていました。

この電源回路はPHONO以外にTONE回路へも供給されていて、レコードの音の違和感は非力な電源回路の影響かもしれません。1000μFを交換のため取り外すと大きさの違う電解コンデンサーを差し替えできるようにプリント基板に穴まで準備されいます。これはAMP POWER SUPPLY BOARDの6000μFを10000μFに交換したときと同じです。プリアンプ用の電源回路も同じかと思います。意図的にダウングレードしています。A-R650(海外仕様のみ)とA-R630との価格帯毎に部品を使い分けていたのだと思います。

 


±15V電源回路の電解コンデンサーを3300μF×2に交換します。プリアンプ用の電源回路も2000μF×2から3300μF×2に交換します。そのほか劣化が進んでいると思われる電解コンデンサーを10個ほど交換します。

再度ヒヤリングします。結論から言うとPHONOに感じた違和感は解消しませんでした。A-R630の固有の音なのでしょうが不自然です。CDやUSB-DACは音質の改善がみられます。帯域は上下に広くクリアで引き締まった鮮烈な音です。音場の広がりや量感も十分に感じられます。優秀なプリメインアンプかと思います。但し、A-R630は音場の広がりを意図的に作り込んだ製品のように感じます。

A-R630は音はいいのに操作の感触や質感で損をしているアンプです。左右のツマミはアルミ製でいいのですが、ツマミの重さが感じられず回した時の滑らかさもありません。中央の3つのツマミと前面パネルはプラスチック製で感触が悪くオーディオを操作する楽しみを半減させます。また、操作時の質感の悪さと派手なデザインが災いしてなのか安い手抜き製品の様な印象を受けます。真面目に回路設計した実力のあるアンプを組み込んでいるだけに残念です。このアンプの価格帯では限界なのかもしれません。

今回は劣化部品交換時に部品をアップグレードしてオリジナルより良い音に改善できました。本機は高音質のアンプをリモコン操作で手軽に楽しむ製品です。本体の質感よりも音と利便性が優先されています。個人的には、もう少しオーディオ機器として操作する楽しみを追求してほしかった製品です。気づかないところまでの品質や機能にこだわっていた頃の製品が懐かしくなります。