2025/02/16

米国製の鉱石ラジオ:American Leader Pocket Radio

1937年(昭和12年)の米国製の鉱石ラジオ:American Leader Pocket Radioの紹介です。ラジオは木製の箱で横に扉をつけてレシーバーを保管できるようにしています。ポケットラジオの名前のとおり小型で軽いので持ち運びには便利なラジオです。


裏側はアンテナ端子とアース端子です。A:アースとG:グランドのシールの文字が逆さまです。端子への内部配線が逆だったためシールを逆さまに貼ったのだと思います。配線を直さずシールを逆さに貼っていた、細かいことは気にしない時代だったのかなと想像してしまいます。(1937年は世界恐慌ですから大変な時期ですが・・・・)

ラジオの動作確認をしますが全くの無音です。 ラジオの裏蓋がクギで止められていて、過去に開けた様な形跡がみられます。蓋を外すと四角いコイルが上下に紙を詰めて固定した面白い作りです。

とりあえず、コイルを外してみます。コイルは角材にエナメル線を巻き付けています。コイルにバーをスライドさせてインダクタンスを変えてチューニングする方式です。

最初に導通を確認するとレシーバーと本体間の導通がありません。


レシーバーの蓋を開けてみると2つのコイルが見えます。古いラジオ教科書に書かれたマグネチック・レシーバーの構造です。レシーバーの導通を確認します。代替えのない大切な2つのコイルの導通はOKです。1つのコイルで抵抗が600Ωあり、2つ直列で1200Ωの高インピーダンス・タイプであることがわかります。レシーバーの綿編コードが断線していました。コードの内部での断線なのでコード全体を交換します。レシーバー単体では正常になり音が聴こえるようになりました。

同調コイルの通電はOKです。しかし検波器がみあたりません。コイルを巻いた角材の横に直径5mmほどの穴があり黒いタール状の物質の中へ裸線が伸びています。導通確認しましがNGで片側の行先が不明です。慎重にタール状の物質を取り除いてみました。中から探り針と鉱石がでてきました。鉱石の形状や色合いから方鉛鉱またはシリコン結晶を使っているようです。探り針は真鍮製でしょう。予想外の探り式鉱石検波のラジオです。検波器の導通がNGが故障の原因です。元オーナーさん達が修理を断念したのも頷けます。

上の図は、このラジオのしくみです。もう少し詳しく説明すると、角材の横に穴をあけ、鉱石を穴の奥に設置して探り針で検波します。ポケットラジオなので持ち運べるように調整後の探り針を黒いタール状の物質で固定しています。黒い物質は完全に硬化しないので、棒などで上から押せば探り針の針圧ぐらいは調整できたかと思います。また、湿度などから検波器を封止する役割もあったのでしょうか。探り式鉱石検波器はすごく不安定なのでこの状態で何年も使えたとは思えません。屋外にラジオを持ち歩きたいとの要望に応えた意欲的な製品なのでしょう。

上の図が、このラジオの回路図です。部品点数が少ない基本的なラジオです。同調コンデンサがないので電灯線アンテナとアースをしっかり接続することが大前提のラジオです。

復元はかなり細かい作業になるので探り式鉱石検波器は大事に保存するだけにします。オリジナル性が損なわれるので賛否が分かれますが仮復旧してみます。このラジオには固定式鉱石検波器を入れるスペースもないので、高感度のゲルマニウム・ダイオードを使いました。但し、いつでも探り式鉱石検波に戻せる状態にしてあります。

仮修理したのでテストしてみます。電灯線アンテナとアースを接続します。音は小さいですがNHKが1局受信できました。受信できる周波数は約500~750kHzぐらいでした。マグネチック・レシーバーはクリスタルイヤホンより音が小さく聴こえます。ラジオを聞けるレベルには仮修理できたようです。

このラジオはマグネチック・レシーバーを収納して本体を耳にあてながらチューニングしてラジオ放送を聞くことが出来ます。こんな使い方もあるんだと感心します。ラジオ本体のスピーカー窓は飾りではなく実用的な機能でした。

壊れて鳴らないので骨董的なコレクションとして保管されていたラジオです。取り外した部品(綿編コードとクギ)は大事に保管してあります。いつでも復元できるかと思います。コレクションとして復元しても良いですし、古典鉱石ラジオの雰囲気を味わいながら使ってみるのもいいかと思います。米国でラジオが普及して日常生活に大きな影響を与えた時代の製品の紹介でした。

2025.2.15

壊れた探り式鉱石検波器を修理します。 

探り針の先端を磨いてみますが導通がありません。

しかたなく探り針を取り外してみたところはんだの根本で断線していました。このまま戻してもいいのですが、新しく探り針を作成することにしました。

上の写真は製作した探り針です。真鍮0.5mmなのでオリジナルより太いです。何回か方鉛鉱の上を針で探るとラジオが聞こえてきました。修理はできたようです。ただし、このままだと本体に振動を与えるとすぐに針がズレて検波できなくなります。固定してもその後、継続的に正常のまま保持できるか不安です。固定しないでダイオードと並行して接続しておくことにしました。 探り式でラジオを聞きたい場合は、裏蓋を開けてダイオードの片側を外します。探り式は不安定で固定して無調整にすることは断念しました。今回はオリジナルの状態に戻すのが難しい探り式のラジオ修理でした。

2025/01/25

さぐり式鉱石検波器の製作

さぐり式鉱石検波器の紹介です。日本では1925年にラジオ放送がはじまりました。さぐり式鉱石検波器は当時のラジオ技術です。今回は100年前のラジオ技術の追体験になります。

部品棚を整理していたら昔に購入した黄鉄鉱のビン詰めがでてきました。なつかしい黄鉄鉱です。これを使って鉱石ラジオが作れます。今回は何十年ぶりかでさぐり式鉱石検波器を作ってみました。

材料を用意します。木板、ワンタッチスピーカー端子(L,R)、ネジ式スピーカ端子(端子に穴あり)、銅製キャップ、金属リング、ビス・ナット、ワッシャー、ゴム足、鉱石(黄鉄鉱、方鉛鉱)、真鍮ワイヤーなどを用意します。

上の写真では、木板に穴あけ加工後に塗装を施して台座を作成します。

最初に銅製キャップにはんだを流し込みます。上の写真のように後から鉱石(黄鉄鉱)を入れキャップ内のはんだに沈めて固定したら完成です。黄鉄鉱と方鉛鉱の2種類を作成します。はんだのフラックスで鉱石が黒くなることがあります。そのときは鉱石を磨いてください。

次にさぐり針を作成します。 ヒゲの形は様々ありますので自分の好みの形状に加工します。上の写真は作成したさぐり針です。毎回、代り映えしない同じ形状です。私はこの形でしかうまく作成できません。

全ての部品を取り付けます。さぐり針は金色のスピーカー端子の穴を通してから最後にビスで固定します。台座の裏側で見えない様に配線します。銅製キャップの底からスピーカ端子(+)へ、さぐり針の根元からスピーカー端子(-)に配線します。最後にさぐり針の形を整えて金色のスピーカー端子でさぐり針の針圧を調整すれば完成です。スピーカー端子のネジがグラグラするので気になる人はスプリングを噛ませた方が良いかと思います。

自作したさぐり式鉱石検波器を試験します。試験にはゲルマニウム・ラジオを使います。トランジスタ・ラジオでは回路によりトランジスタ検波することがあり、ダイオードなしのただの銅線でもラジオが聞こえることがあるので試験用ラジオとしては使いません。

ラジオの簡単な実験には電子ブロックが便利です。電子ブロック:DR-ⅡAのゲルマ検波ラジオを使用します。電子ブロックのダイオードをさぐり式鉱石検波器と入れ替えて試験します。

電波環境を確認するために検波電流を測定します。検波電流を測定するにはアナログ・テスターを使用します。テスター(電流計)はダイオードとクリスタルイヤホンの間に直列に挿入します。デジタル・テスターでは内部損失が大きく検波電流をうまく測定できないことがあります。通常のアナログ・テスターで60μAまたは100μAポジション(上の写真は60μA)があれば測定可能です。我が家の受信電波は弱く、ダイオード(1N60)で測定できた検波電流は3μAでした。

鉱石検波器を作成する前に検波電流の測定をした方が良いです。ゲルマニウムラジオの検波電流が1μAも測定できない環境では、鉱石検波器ではラジオの受信は無理かと思います。検波電流が小さすぎる場合は電灯線アンテナやアースを事前に改善しておく必要があります。

   

ダイオードでラジオ放送が聞こえたらさぐり式鉱石検波器と入れ替えます。さぐり針をセラミックドライバーで少しづつ移動させて音量が最大になる点を探ります。最大の音量で検波電流を測定します。

 

黄鉄鉱の表面は比較平らで針をスライドしての検波がしやすいです。しかしテスターで針1本分のほんのわずかしか振れません。1μA未満です。 それでも放送内容をじゅうぶんに聞き取れる音量です。もう一つの方鉛鉱の表面は凸凹しているため針の移動はやり難いです。但し方鉛鉱に変えると1μA程度と黄鉄鉱より感度は良いです。鉱石検波器は簡単に自作できて誰が作成しても動作すると思います。

さぐり式鉱石検波器は壊れやすいので保管がむずかしいです。そのため、白木の箱を用意して箱に入るサイズに検波器を作成します。

 

久しぶりにさぐり式鉱石検波器を作成しました。なつかしいです。ゲルマニウム・ラジオも魅力的ですが、鉱石を針でさぐってラジオを聞くことは毎回新鮮で楽しい体験です。古典的ですが簡単に製作できるさぐり式鉱石検波器を作成してみてはいかかでしょうか。何気なく聴いていたラジオに新たな魅力を感じることは間違いありません。

2025. 5.24

さぐり式鉱石検波器の製作(二作目とシリコン結晶)のブログもアップしましたので参考にしてください。 

2025/01/18

Topping DX3Proのコンデンサ交換

今回はTopping DX3Proのコンデンサ交換の紹介です。上の写真はTopping DX3Proから取り出したプリント基板です。このプリント基板のコンデンサを交換します。Topping DX3Proは2018年発売の少々古いUSB DACです。現在は、Topping DX3Proには音質向上のためエーワイのアナログ電源と自作したデータ専用USBケーブルを使っています。この2つの対策でも十分に満足のいく音がでています。しかし、まだまだ音質改善の余地があるのでご紹介します。

早速、Topping DX3Proを分解してみます。最初に背面パネルを取り外します。アンテナのナットも取り外します。

次にTopping DX3Proの前面パネルと本体ケースを連結する左右2つの六角穴付きボルトを外す必要があります。特殊な工具(軸長が16cm以上ある2mm六角ドライバー)を差し込み取り外します。私は”BONDHUS(ボンダス) 六角ループ・T-ハンドル ロング 2mm [全長:249mm 軸長:229mm ハンドル長さ:70mm]  No.46552”が安いのでAmazonで購入しました。

 

上の写真が分解した様子と取り出したプリント基板です。

Topping DX3proのプリント基板には、”DX3prp_V4.1”とバージョンが記載されています。海外ではV2バージョンと呼ばれる製品です。

RCA出力のオペアンプにはOPA1612Aが実装されています。

AK4493Sアナログ出力とOPアンプ入力の間は電解コンデンサが採用されています。

ヘッドホン用オペアンプはTPA6120Aです。V1バージョンのOPA2140の方が音が良いと人気のようです。

次に部品交換する箇所について説明します。

上の図はD/Aコンバータ AK4493Sのdatasheetからの抜粋です。AK4493Sアナログ出力とOPアンプ入力の間には100μF×4(赤丸印)のコンデンサ容量が推奨されています。

実際のプリント基板を見ると推奨値とは異なる47μFのニチコンFG電解コンデンサです。

 

次に、これもD/Aコンバータ AK4493Sのdatasheetからの抜粋です。アナログ電源1.8Vに10μF×1、アナログ電源5.0Vに10μF×2、基準電圧5.0Vに470μF×2のコンデンサ容量が推奨されています。

実際には、アナログ電源1.8Vに10μF×1、アナログ電源5.0Vに10μF×2、基準電圧5.0Vに100μF×2が実装されています。

上の表にまとめてみました。アナログ出力のコンデンサは47μFと小さく推奨値どおりの100μF(6.3V)へ変更します。アナログ電源は推奨値と実装が同じですが、100μF(6.3V)に容量を増やして改善します。基準電圧5.0Vには470μFと大容量が推奨されていることから、かなり重要な基準電圧のようです。実装では100μFと1/4以下の小さな容量です。手持ちの部品から一番容量の大きな220μF(10V)へ変更します。最初にD/Aコンバータ AK4493Sの電源部強化の実施です。

 

上の写真が交換部品のチップコンデンサです。一番上が100μF(6.3V)、下2段が220μF(10V)です。

交換対象のチップコンデンサを取り外します。ホットピンセットがあれば作業は楽なのですが2本のはんだゴテで取り外します。チップコンデンサの両端に少しハンダを追加すればハンダが溶けて簡単に取り外せます。次に上の写真のように全てのチップコンデンサを取り付けて完成です。チップコンデンサ交換後の動作は良好です。電源部強化までで一度ヒヤリングしてみます。交換前のTopping DX3Proは少し高域よりのバランスです。チップコンデンサ交換により全体的に音の重心が下がり深みのある音質に変化しました。高域はややキラキラした印象でしたがシルクタッチできめ細やかな音に変わります。たったこれだけのチップコンデンサ交換で音に大きな影響があることに驚きます。

残りはAK4493Sアナログ出力とOPアンプ入力の間のカップリング用電解コンデンサ47μFを100μFに置き換えです。ニチコンMUSE ESへの置き換えが評価された例が多くあり、帯域と透明感の改善を期待して47μFのFGから100μFのMUSE ESに置き換えてみました。ただし、ケースに接触しないように隅の2個はやむなく横に寝せて実装します。

次はカップリング・コンデンサ交換後は1日以上のエージングが必要です。最初のころは音に霞がかかりぼんやりした不明瞭な音がします。エージングが終了したらヒヤリングです。いままでより透明感があり豊かで深みのある音です。ほんの少しベールのように薄い膜が1枚あるような音でエッジが取れて少し丸なって聴こえます。この音の傾向が長所か欠点かは個人の好みの世界です。どちらにしても音のグレードは向上します。Topping DX3proは高音がきれいで抜けのいい音がしますが低音がやや薄く不満でした。低域を補強することにはじゃうぶんに出来たようです。

Topping DX3Proの改造は海外サイトのフォーラムを参考にしています。 取り組み易く改造内容に納得できるものに限定しました。OPアンプを交換する筋金入りのマニアも多く、大いに盛り上がっているようです?性能や測定したデータに基づき議論するフォーラムなどもあります。中国製のオーディオ機器は安価で高性能なので利用者が多く、フォーラムが盛況な理由かもしれません。日本語のサイトでは事例が少ないのでご紹介しました。作業は楽しかったですが参考になりましたでしょうか。ただし、改造は自己責任でお願い致します。

2025.2.15

Topping DX3Proを使いこんだことで、バランスもよく豊かで奥行きのある音ができるようになりました。前回、ほんの少しベールのように薄い膜が1枚ありましたがエージングでその影響もなくなったように聴こえます。