2024/07/30

USB DACのバッテリー駆動

USB DACTopping D3)のバッテリー駆動の紹介です。Topping D3の電源はDC9V~15Vで動作します。過去にトランス式ACアダプターからエーワイ電子・オーディオ機器用高音質化アナログ電源(27,000円)に変更して大幅に音質は向上しました。オーディオ機器の電源の最終形態はバッテリー駆動です。自作してオーディオ機器のバッテリー駆動を実現するのは普通の人にはハードルが高すぎます。そこで、市販品で誰でも入手可能なモバイルバッテリー電源のDC出力をオーディオ用に利用できないか試験してみました。

上の写真が今まで使っていたエーワイ電子・オーディオ機器用高音質化アナログ電源です。

エーワイ電子・オーディオ機器用高音質化アナログ電源の低ノイズで優秀です。平均48mVの低ノイズのDC電源です。これより低いノイズをバッテリー電源には期待しています。

 

今回は(株)富士倉のパワーモバイルバッテリーBA-155を使用します。BA-155は幅90mm×奥行195mm×高さ171mm、重さ1580g、42,000mAhの充電式リチウムイオンバッテリーです。2018年頃に発売開始され現在でもAmazonで16,500円程度で販売されています。この種類のバッテリー電源は内蔵コンバータがノイズ源となりオーディオ用途には不向きではないかと思っていました。BA-155の取扱説明書にはDCジャック出力時にUSBポートとコンセント出力は各スイッチをONにしないと電源出力しない仕様と書いてあります。オーディオ用バッテリー電源として使えそうです。次に連続使用時間ですがTopping D3(3.3W DC12V)でバッテリー容量42,000mAhとすると、毎日2.5時間使用しても約2ケ月動作する計算です。バッテリー容量も十分です。机上での問題は解決しました。実際に説明書どおりの動作でDCジャック出力がオーディオ用に使えるのか実験を通して確認します。

①DCジャック出力のみ:BA-155のDCジャック出力をオシロで見てみます。上の写真を見てわかるように16mVと低ノイズです。バッテリー電源は、エーワイ電子・オーディオ機器用高音質化アナログ電源の平均48mVより低ノイズの優秀なDC出力であることがわかります。
②DCジャック出力(USBポート動作):次にUSBポートにスマホを接続して充電する環境とします。USBポートに接続しただけではUSB給電は出力されません。Batt.Checkボタン(バッテリーチェックスイッチ兼USB出力スイッチ)を押すとUSBポートから給電されます。上の写真を見ると、USBポートへの給電開始直後からノイズが増加します。USB給電用のDC-DCコンバータの影響だと思います。DCジャック出力はUSBポート接続の環境では約52mVとエーワイ電子・オーディオ機器用高音質化アナログ電源より大きなノイズが発生しています。
③DCジャック出力(コンセント動作):次はコンセント(AC100V)に機器を接続してみます。AC OUTPUTスイッチを押してコンセントからAC100Vが出力させると、DCジャック出力で平均91mV、ピークtoピークで200mV程度のエーワイ電子・オーディオ機器用高音質化アナログ電源より数倍大きなノイズが発生してます。DC-ACコンバータからのノイズ発生と思われます。

④DCジャック出力(ACアダプタで充電):ACアダプタでBA-155を充電します。DCジャック出力は平均231mV,ピークtoピークで500~600mVのパルス状の大きなノイズが発生します。これはACアダプタ内蔵のAC-DCコンバータのノイズの影響と思われます。

⑤DCジャック出力(コンセント動作+ACアダプタで充電):最後に ACアダプタでBA-155を充電しながらコンセント(AC 100V)に機器を接続してみます。DCジャック出力には平均231mV,ピークtoピークで500~600mVですが、連続したノイズが周期的に発生しています。この組み合わせがDCジャック出力に一番大きなノイズを発生させます。

今までの結果をノイズの大きさ順に並べてみます。①DCジャック出力のみ(16mV)<②USBポート(52mV)<③コンセント(91mV)<④ACアダプタで充電(231mV:疎な間隔のパルス波形)<⑤コンセント+ACアダプタで充電(231mV:密な間隔のパルス波形) の順になります。オーディオ用電源として使用するには、BA-155の内蔵コンバータを動作させないDCジャック出力のノイズが一番すくない①の方法が最適です。BA-155は低ノイズ電源としてオーディオ用に利用できそうです。最後は実際にバッテリー駆動させた時の音質を確認します。

ただし、ノイズ試験では空冷ファンが動作した環境でのDC電源のノイズを測定できていません。バッテリーが高温になった場合に動作する空冷ファンです。今回のような使い方では空冷ファンは動作しないと思います。動作するような機会があればノイズ測定してみたいと思います。

エーワイ電子・オーディオ機器用高音質化アナログ電源との比較になります。エーワイ電子・オーディオ機器用高音質化アナログ電源によるUSB DACの音質はかなり優秀です。バッテリー電源との比較で、本当に音質が向上するのか期待と不安が入り混じります。ヒヤリングします。バッテリー電源への変更により余分な音が消え引き締まりキレがある低音に変化します。高音は粗さが取れてより繊細に聴こえます。音と音の間の静寂が深まり無駄な音が消えて音の混濁がなくなります。音全体の見通しが良くなる印象です。バッテリー電源を使ったオーディオ機器はやはり一味も二味も違います。はっきりとした違いを生み出します。元の電源に戻すと音全体にやや粗さと1音1音が不明瞭に感じられます。今まで十分に良い音質だと感じていたのですが人間は贅沢なものです。音のいい環境にすぐに耳が適応します。

今回は我が家の防災用モバイルバッテリーを流用した実験ですが、音質改善の効果はたしかです。自作によるバッテリー駆動の導入と運用のハードルは高くなかなか実現しにくい面を持っています。市販のバッテリー電源であれば誰でも簡単に導入できます。BA-155の導入により、ACアダプターを使う電源部が弱い機器が、逆にバッテリー駆動で電源部を強化して音質改善できる機器に生まれかわります。大雑把な実験でしたが市販のバッテリー電源の導入について参考にして頂けたらと思います。

2024/07/14

TEAC A-R630 プリメインアンプ

TEAC A-R630 プリメインアンプの紹介です。2011年製、42,250円の製品になります。大きなダイヤルを左右に配置した大胆なデザインのプリメインアンプです。従来のプリメインアンプにリモコンによる電子制御を付加した構造です。この年代のアンプ修理は初めてなので楽しみです。

POWER ONでアンプは待機状態になり手動もしくはリモコンでSTANDBAY/ONスイッチを操作してアンプの電源をON/OFFします。STANDBAY/ONスイッチは重要です。リモコン操作だけでなく前回操作したセレクタ位置などの情報を保持します。POWER OFFで前回操作したセレクタ位置などの情報は消えて初期状態に復帰します。POWERスイッチは常時ONで使用することが前提のアンプです。

ボリュームがdB表示のアンプ は久々に見ました。昔からdB表示のアンプはありましたが、音量の大小とdB表示に違和感があり判りにくいです。昔のオーディオ雑誌にも同じ意見のレビューがあったのを覚えています。

中央に配置されたパワートランジスタのヒートシンクは真四角のアルミパイプに冷却ファンを取り付けて強制排気して冷却する方式です。冷却ファンはある一定の温度以上になると動作する仕組みで常温では停止しています。 パワートランジスタには2SA1186-O/2SC2837-Oが採用されていました。

異常がないか観察するとSUB TRANS BOADの5Aヒューズが溶断しています。現状のままとりあえず動作確認をします。一見動作しているように見えますが、この状態だとPREAMP BOARDやFRONT PREAMP BOARDなどにしか給電されてません。MAIN BOARDへの給電は断です。ヒューズが飛んだ原因の故障切り分けのためパワーアンプ回路に電源供給しているMAIN BOARDのコネクタ:CN74を抜きます。5Aヒューズを装着して電源をONにします。ヒューズは溶断しませんのでパワーアンプ回路の故障が濃厚です。

 

故障原因と思われるパワートランジスタをヒートシンクから全て取り外します。一つ一つトランジスタを試験するとRchの2SC2837の端子間がショートして故障していました。今回はパワートランジスタを4つとも交換します。交換後、電源を入れるとスピーカーリレーがカチッと正常に動作します。アンプの各機能を確認しますがリモコンも含めて全て正常です。

A-R630にはKoshin製の音響用電解コンデンサ KR3が全ての回路に使われいます。A-R630のカップリングコンデンサは全て10μF/50Vを使用しています。手持ちの電解コンデンサはニチコンFGです。KR3とFGの規格を単純に比較するとtanδは同じです。ただし長時間使用(耐久性)するとKR3の方がtanδが劣化しやすいようです。2010年発売のA-R630であれば、劣化したと思われるKR3をFGに交換する意味がありそうです。

MAIN BOARDのパワーアンプ回路へニチコンFGを実装
PREAMP BOARDのプリアンプ回路へニチコンFGを実装

FRONT PREAMP BOARDのTONE回路へニチコンFGを実装

MAIN BOARDのPHONO・ EQ回路へニチコンFGを実装

音質に大きく影響するカップリングコンデンサはPREAMP BOARDのTONE回路×4個、FRONT PREAMP BOARDのTONE回路×6個、MAIN BOARDのパワーアンプ回路×2個とPHONO回路×4個が使用されています。入力ソース毎の片チャネルが通過するカップリングコンデンサの数は次の通りです。①SOURCE DIRECT OFF:CD(7個)、PHONO(9個)。② SOURCE DIRECT ON:CD(4個)、PHONO(6個)。入力~出力までにかなりの数のコンデンサを通過するので交換による改善が期待できそうです。Koshin KR3からニチコンFGに対象のコンデンサを全て交換します。

次にAMP POWER SUPPLY BOARDの6000μF×2個を10000μF×2個に交換します。USB DACを接続して再度ヒヤリングします。電源回路の影響は大きく音の重心がさがり量感が増します。奥行が感じられ中低音は豊かに響きます。高域もバランス良く出ています。交換した部品のエージングが進むと音のつながりが滑らかになります。

 

±15V電源回路には1000μF×2個が実装

レコードを聴いてみます。PHONOの音には癖があり違和感を覚えます。海外仕様の回路図を眺めているとPHONOへ供給される±15V電源回路には3300μF×2が実装されているはずです。実際のMAIN BOARDで確認すると小さな1000μF×2が代わりに実装されていました。

この電源回路はPHONO以外にTONE回路へも供給されていて、レコードの音の違和感は非力な電源回路の影響かもしれません。1000μFを交換のため取り外すと大きさの違う電解コンデンサーを差し替えできるようにプリント基板に穴まで準備されいます。これはAMP POWER SUPPLY BOARDの6000μFを10000μFに交換したときと同じです。プリアンプ用の電源回路も同じかと思います。意図的にダウングレードしています。A-R650(海外仕様のみ)とA-R630との価格帯毎に部品を使い分けていたのだと思います。

 


±15V電源回路の電解コンデンサーを3300μF×2に交換します。プリアンプ用の電源回路も2000μF×2から3300μF×2に交換します。そのほか劣化が進んでいると思われる電解コンデンサーを10個ほど交換します。

再度ヒヤリングします。結論から言うとPHONOに感じた違和感は解消しませんでした。A-R630の固有の音なのでしょうが不自然です。CDやUSB-DACは音質の改善がみられます。帯域は上下に広くクリアで引き締まった鮮烈な音です。音場の広がりや量感も十分に感じられます。優秀なプリメインアンプかと思います。但し、A-R630は音場の広がりを意図的に作り込んだ製品のように感じます。

A-R630は音はいいのに操作の感触や質感で損をしているアンプです。左右のツマミはアルミ製でいいのですが、ツマミの重さが感じられず回した時の滑らかさもありません。中央の3つのツマミと前面パネルはプラスチック製で感触が悪くオーディオを操作する楽しみを半減させます。また、操作時の質感の悪さと派手なデザインが災いしてなのか安い手抜き製品の様な印象を受けます。真面目に回路設計した実力のあるアンプを組み込んでいるだけに残念です。このアンプの価格帯では限界なのかもしれません。

今回は劣化部品交換時に部品をアップグレードしてオリジナルより良い音に改善できました。本機は高音質のアンプをリモコン操作で手軽に楽しむ製品です。本体の質感よりも音と利便性が優先されています。個人的には、もう少しオーディオ機器として操作する楽しみを追求してほしかった製品です。気づかないところまでの品質や機能にこだわっていた頃の製品が懐かしくなります。

2024/07/12

ONKYO D-202A ネットワーク用コンデンサー交換

ONKYO D-202A のネットワーク用コンデンサー交換の紹介です。1975年、1本32,000円の製品です。スピーカーのサイドエッジを交換して使っています。毎日、音楽を聴いていますが最近は今一つもの足りない音に聞こえます。高音で何か詰まったように音の伸びが足りないのが不満なところです。スーパーツィーターの追加もいいですが音全体のバランスをとるのが難しいです。ほんの僅か高音が欲しいだけですから余計に難しいです。そのため現状のスピーカーに手を加える方が早道だと思います。

 左:D-202Aのコンデンサ、右:PARC 4.7μF

ネットワーク用コンデンサーをPARC Audio 4.7μF/400Vのフィルムコンデンサーに交換することにします。PARC Audioは、愛知県にある(株)ドリームリクエーションのブランドです。スピーカー関係を主に製造、販売しているようです。黄色い 4.7μF/400Vのフィルムコンデンサーです。ホームページには「高品位な金属蒸着ポリプロピレンを採用したフィルムコンデンサー。しっかりとケースに封入固定をしており、クセの少ない素直な音色を実現しています」と掲載されています。外形サイズは、幅= 38mm、高さ= 28mm、奥行= 18mm、リード間隔= 31mmとかなり大きいです。

早速、作業にかかります。ウーファーを取り外すと奥にネットワーク用のプリント基板が見えます。 作業しやすようにツィーターも取り外します。

ネットワークのプリント基板はプラスチックのスペーサー3か所で固定されます。プラスチックのスペーサの小さな爪をラジオペンチで抑えながらプリント基板を引っ張ると抜くことが出来ます。
ネットワークにつながる配線は短いのでスピーカー端子のナットを取り外します。ナットを内側から固定してスピーカー端子を回せば簡単に取り外せます。
ネットワーク基板には、コイル、コンデンサー、抵抗だけの簡単なものです。コンデンサーはブチルゴムが巻かれて防振対策しています。配線も同様に防振テープが巻かれて線鳴きを防止しています。今回はフィルムコンデンサーの交換だけです。コイル交換も考えましたがコストと効果を考えて今回は見送りです。フィルムコンデンサー×2個で1300円ぐらいなら手軽に交換できます。
右側の黄色いPARC Audio 4.7μF/400Vのフィルムコンデンサーに交換します。左の青いフィルムコンデンサーのどこを金属棒で叩いてもカチッと音がして空洞はなく中が充填されています。PARCを同様に金属棒で叩くと両側面と上面はカチッと音がしますが、前面と背面は鈍くポコッと音が違います。コンデンサー内部に一部空洞があるようです。コンデンサーの防振対策が弱いのかもしれません。同じPARC Audioで黒いフィルムコンデンサーは2重構造で防振対策してあるそうです。価格は2倍なのでどちらがいいか迷うところです。少なくとも黄色いフィルムコンデンサーはブチルゴムで防振対策する必要がありそうです。
取り外したフィルムコンデンサーの容量を測定してみます。4.7μFのところが4.9μFです。左右とも4.9μFです。経年劣化はないようです。

ネットワーク用のプリント基板には穴がたくさんあるのでコンデンサの大きさにあった位置で配線することができます。フィルムコンデンサーの底面はボンドで固定しました。後でコンデンサー全体をブチルゴムで防振対策をする予定です。

プリント基板をもとの位置に戻しスペーサーに固定します。次にスピーカー端子のボルトとナットでネットワークの配線と接続します。最後にツイーターとウーファーを配線すれば終了です。

フィルムコンデンサーの交換作業は2時間もかかりません。部品代も安くお手軽なアップグレードかと思います。ヒヤリングします。フィルムコンデンサーの交換により高域がスッーと音が伸びるのがハッキリわります。最初は高音の粗さが少し気になりますが、しばらく聞いていると高音の暴れがなくなり落ち着きます。音全体の見晴らしが良くなりました。当初の目的は達成できたようです。オリジナルの音質を大幅に変更することもなく導入しやすいアップグレードかと思います。オーディオはほどほどで留めることが出来れば、苦労せずに楽しむことができると年齢を重ねてから知りました。

2024/07/07

PIONEER F-005 (クォーツロック・タッチセンサーシステム搭載)

PIONEER F-005 FMステレオ・チューナーの紹介です。1979年、58,000円のクォーツロックとタッチセンサーを搭載したFM専用チューナーです。当時、F-005を愛用していました。5素子のFMアンテナを建ててFMエアチェックに使っていた懐かしいチューナーです。

上の写真はF-005の回路図です。電波新聞社 AUDIO別冊ステレオコンポ回路図集にPIONEER F-003、F005、F-007、F-26の回路図が掲載されています。 F-005のプリント基板には何故か部品番号が書かれていません。修理作業で回路の把握に少し時間がかかりそうです。

最初に劣化部品を交換します。交換後に動作確認をします。FMは受信できているようです。左右のOUTPUT端子からは音声が聞こえます。ただし、受信レベルメーターとチューニングメーターは調整要、STEREOとTUNE、LOCKEDランプは不点灯、トラッキングは大幅なズレがある状況です。受信レベルを調整してレベルメーターは正常に振れるようになりSTEREOランプも点灯します。しかし、TUNEとLOCKEDランプは不点灯のままです。チューナー部分は正常に修理できましたがクォーツロック回路に不具合がありそうです。

 
TUNEランプの動作を確認します。APC回路の同期出力:7番端子とチューニングノブのON/OFF検出が関係しています。APC回路の各電圧および周波数を調整しますが、TUNEランプが点灯しません。調べた結果、1つ目の原因はAPC10番端子に入力する中間周波数の波形が周期的に崩れていました。基盤側のQ4:2SK19の不良で交換して正常に波形出力します。
2つ目の原因はAPC7番端子出力により制御されるQ21、Q22(2SC945A×2)およびチューニングノブON/OFFを制御するQ12、Q14、Q15、Q17(2SC945A×4)を交換して正常に動作するようになりました。また、TUNEランプが正常になるとともにLOCKEDランプも正常に動作するようになっていました。

最後に音声出力の波形が歪んでいるので原因の切り分け作業をします。OUTPUTではFMジェネレータからの信号が大きいと波形がつぶれて歪んでいます。PA3001出力のHORIZ出力で波形正常。PA1001 L.P.F出力:68番、69番端子で波形正常。PA1002A出力:51番、54番端子で歪ありNGでした。PA1002Aの故障の模様です。PA1002Aを交換して波形は正常です。PA1002A交換により雑音を消しきれなかったミューティング機能も正常に動作するようになりました。スペアナ(19kHz)を見ながらパイロット・オート・キャンセラー調整用のVR5で最小になるように調整すれば終了です。

ヒヤリングしてみます。帯域も広く感じられクリアで明るい音質です。音にサラサラ感があり気持ちがいい音質です。また音のバランスも良く奥行も感じられる良質な音作りです。パイオニアらしい音を持ったチューナーかと思います。

今回のようなF-005の修理前提の購入はあまりお勧めできません。オートロックが故障していた場合、調整だけですめばいいですが故障していると原因特定が難しいです。パイオニアのFM用ICも入手が難しいです。しかも回路図が必要です。修理して再調整できれば、このチューナーは完成度も高く操作感も格別な製品に生まれ変わります。懐かしいチューナーです。F-005が発売された当時はオーディオ全盛期の穏やかでいい時代でした。

2024/07/06

AIWA TPR301 FM/MW/SWラジオカセット

AIWA TPR301 FM/MW/SWラジオカセットの紹介です。1974年、40,800円のラジカセです。このラジカセの特徴はダブル・ダイヤルスケールです。とてもレアな機能ですが、真空管チューナーの頃にはダブル・ダイヤルスケールが既に搭載されています。FM、AMなど一度選局しておけばバンドが変わるたびにいちいち選局の必要がない便利な機能です。コストは2倍かかるので高額な上位機種での採用になるかと思います。しかしデジタルチューナーのワンタッチ選局の登場により、ダブル・ダイヤルスケールは無用の長物となってしまいました。今頃になってダブル・ダイヤルスケールのラジカセが70年代に発売されていたことを知りました。誘惑には勝てずジャンクのTPR301を買わせてもらいました。

TPR301はSWの変調方式別にFMとMWの2つにダイヤルスケールが分かれています。AIWAのラジカセLL350TMR350TMR355にも採用されていますが他メーカーでは見つかりませんでした。AIWAだけかもしれません。

 TPR301ではダブル・ダイヤルスケールを使ったダブル・オペレーション機構を搭載しています。ラジオをカセット録音しながら他のラジオ局を聞くことができる機能です。左上の真四角(DUAL)がその機能ボタンです。

 もう一つの特徴はワイヤレスマイク搭載です。70年代には多数のラジオやラジカセにワイヤレス機能が搭載されて一種のブームのようになっていました。TPR301もその1台です。

マイク左の白いボタンを押すと蓋が30度ぐらいまで開いて。4ウェイ・コンデンサマイク(WM-206)が取り出せます。。4ウェイ・コンデンサマイク(WM-206)を格納するときには電源のスライドスイッチが自然にOFFになるよう蓋に出っ張りが設けてあります。
上の写真は取り出した4ウェイ・コンデンサマイク(WM-206)です。4ウェイ・コンデンサマイクとの名称のとおり以下の4通りの使い方があります。① ラジカセ内蔵・コンデンサマイク、②コード・コンデンサマイク、③ワイヤレス・コンデンサマイク、④ワイヤレス・トランスミッター 。このワイヤレス・マイク単体(WM-206)にはアンテナがありません。ワイヤレス・マイク利用時には付属コード(アンテナに相当)接続する必要があります。知らずに付属コードなしでワイヤレスマイクのテストをしていました。送信できる距離が極端に短くておかしいと思っていました。アンテナが無ければ当然です。
このラジカセの取扱説明書には回路図が掲載されています。AIWAさんには感謝の言葉しかありません。

故障修理するためケースから本体を取り出します。スピーカーも一体で取り出せる修理しやすい構造です。
このラジカセの故障はラジオ(AM,FM)から音が出ないことです。いろいろなスイッチをON/OFFすると時々雑音やラジオ放送が瞬間きこえるだけです。故障の原因はDUAL切替用スライドスイッチの接触不良でした。スライドスイッチを取り外して分解清掃すると音がでるようになります。そのほかプリント基板の劣化部品は全て交換します。

DUAL表示ランプが切れているので赤く塗装した麦球ランプと交換します。ラジオの受信感度とトラッキングを調整します。カセットのゴムベルトを交換しましたがモーターの回転が弱く残念ながらカセットテープ再生は無理のようです。

このラジカセはケースの損傷が激しいです。上の写真の左側アルミの淵に沿ってL字型にプラスチックが7~8cmほど裂けてハンドルでラジカセを持ち上げることも出来ません。内部では裏蓋をビスで止めるプラスチックの円筒形のスペーサーが根本から折れて、開いたままの裏蓋右上ビスが締めらません。ボンドで補修してビス止めで裏蓋を閉められる様になり、ハンドルで持ち運びも出来るようになりました。

電池の蓋がないので他のラジカセの蓋を黒で塗装して代用します。プラスチックの爪が折れて蓋の固定が出来ません。スペーサー取り付け場所が確保できたので蓋をビス止めにしました。これですべての修理作業は終了です。

AIWA TPR-301のダブル・ダイヤルスケールは個性的なデザインで見ているだけで楽しくなります。70〜80年代のラジカセにはワイヤレスマイク、2Wayスピーカー、BCL、ステレオ、ダブルカセット、デジタルメーター、CDなどの機能が時代とともに次々搭載されています。ラジカセを見ると懐かしいその頃の技術や出来事を思い出します。TPR301は70年代の旺盛な製品開発から生まれたレアな機構を持ったラジカセです。デジタルが主流の今では二度と製品化されることのないアナログ技術の一端を感じることが出来る製品です。