PIONEER パイオニア SX-70T AM/FMマルチ総合ステレオアンプの紹介です。1967年に発売されたトランジスタによるディスクリート設計されたレシーバーです。SX-70Tのデザインを見ていると同じ時期に販売されたプリアンプSC-100、パワーアンプSM-100を思い出します。当時のパイオニアらしさを感じさせる懐かしいデザインです。機能は豊富で必要とする機能は一通り用意されています。スイッチ類はわかりやすく配置してあり使いやすいコンパクトなレシーバーです。
背面はAMアンテナバーとアンテナ端子、各種入力端子 、スピーカー端子はパイオニア独特のT型端子が採用されています。セパレーションコントロールの調整ネジがあるのは珍しいです。
SX-70Tの内部配置はわかりやすく機能ごとに基板化されています。FMフロントエンド、AMバリコン、AM基板、FM IF基板、MPX基板などから構成されています。
本体下部の基板も同様に機能ごとです。電源基板、パワーアンプ基板、プリアンプ基板、イコライザー 基板で構成されています。この製品にはスピーカーの保護回路(リレーやヒューズ)がありませんのでボリュームを絞ってから電源を入れたほうが良いと思います。それでも電源ONの時のPOP音(ボコッやキュ)がスピーカーから漏れてきます。また保護回路がないのでスピーカー端子のショートは故障原因になるので要注意です。
このレシーバーは音がでないジャンク品です。最初の故障診断では電源回路をチェックします。9番端子:12V⇒0V 不良、8番端子:19V⇒12V 電圧が低いようです。9番端子は2SC367の故障です。交換することで9番の電圧が正常になりました。電源基板の電解コンデンサーは全て交換します。8番端子はコンデンサ交換で正常な電圧になりました。
外部入力で音出しの試験をしてみます。左右の音は出るようになりました。しかし音が割れてノイズもありひどい状態です。パワーアンプの入力側をモニターすると正常に聞こえます。ノイズの原因はパワーアンプ基板のトランンジスタのバイアス用電解コンデンサー不良でした。電解コンデンサー劣化しているので全て交換します。
パワーアンプを修理してもプリアンプ出力でまだ少しノイズがあります。プリアンプ基板の電解コンデンサーを全て交換してノイズは解消しました。次にFMの動作を確認します。
FM放送を聞くとステレオ時にノイズがあります。MPX基板の電解コンデンサーを交換しますがノイズが消えません。更にトランジスタを交換してようやくノイズが消えました。しかし、長時間ヒヤリングするとまだ僅かなノイズと時々音が途切れたりします。最後に残ったのはスチロールコンデンサーです。交換してみたところノイズ音は完全に消えました。
しかし、この時点でも長時間試験すると音が出たりでなかったりの不安定な状態は変わりません。MPX基板に原因があることは間違いありません。基板を軽く叩くと音切れが再現しました。原因はMPX出力バランス用の1kΩ半固定抵抗です。昔のワット数の大きな半固定抵抗でスライド接点のカーボン部分が摩耗してカーボンが殆ど残っていません。暫定ですが2本の抵抗に交換して様子をみます。数日間、音出しや電源ON/OFFなど繰り返し試験しましたが不安定な動作が完全になくなりました。音にも影響があり安定感ある音に変わったようです。
50年以上前のトランジスタ・レシーバーは繊細ですから、長期利用を考えると電源のサージ電流を軽減して回路を保護したいと思います。サイリスタを電源トランスの一次側に入れてサージ電流を軽減させることにしました。最後に19kHz同期や受信感度やセパレーション等を調整して修理作業は終了です。
上の写真は交換した部品です。トランジスタ製品の古いレシーバーは交換部品が多くなり修理が大変です。しかし、この部品交換がレシーバーの安定した動作に欠かせない大切な作業になります。
修理したSX-70Tですがスピーカー用T型端子で接続に困った方は多いと思います。製品にT型プラグが偶然ついてくるケースは稀にありますが市販もされていません。
そのため私の場合はT型プラグを自作しています。1個100円程度のACプラグを加工して作成します。ACプラグの端子部分を長さ10mm、幅5mmに加工します。ACプラグの端子は90度根元で捻ってあるのでこれを元に戻して垂直プラグを作成します。もう1本は平行プラグなのでそのまま利用します。垂直プラグではケースのフタができません。プラグの厚み分を削ると完成です。
実際に使ってみると大きさも程よく脱着がしやすくて非常に便利です。パイオニアのT型端子用プラグの自作はおすすめかと思います。
スピーカーを接続してヒヤリングするとバランスの良い音です。キラキラとした華やいだ雰囲気を持っています。低音は出にくいですがトーンコントロールやラウドネススイッチにより好みに合わせて楽しめます。夜、SX-70Tから聴こえるFM放送のジャズが一番似合っています。昭和のビンテージ・オーディオは少しレトロな雰囲気で気持ちが和む空間を提供してくれます。