2025/08/19

日立 KS-1700 ステレオ形ポータブルラジオ

日立 KS-1700の紹介です。1968年の製品です。当時、世界最小のステレオ・ボータブル・ラジオと宣伝されていました。従来の日立製品ではトランジスタラジオにFMアダプターMH-1230を接続してFMステレオ放送を聞く必要がありました。高密度実装や外部スピーカーなどさまざまな工夫により実現したFMステレオラジオです。

 

左右のスピーカーは背面に折りたたみます。この状態でもラジオを聞くことができます。

 

スピーカーを左右に広げた状態でステレオ放送を聞くことができます。背面には左右のTUNER OUT JACKと6V ACアダプター用ジャックが設けてあります。

裏蓋を開くと単2×4本とラジオ基板です。

 
上の写真はKS-1700のサービスマニュアルの1ページ目です。SAMS PHOTOFACT TRANSISTER RADIO SERIES TSM-137にKS-1700Hとして掲載されています。調整方法、部品リスト、回路図、プリント配線図など修理には必要不可欠な情報が満載です。

KS-1700のプリント基板を取り出します。機能毎に上下2段のプリント基板間をピンで接続するブロック基板方式です。修理のため分解作業に必要となるのがサービスマニュアルです。サービスマニュアルのプリント配線図にはピン番号と位置が記載されています。プリント配線図のピン位置を確認しながらピンのハンダを取り除きプリント基板を分離することができます。

取り外したFM RF BLOCK(フロントエンド)です。 フロントエンドはトランジスタも交換します。

STEREO ADAPTER(マルチプレクス)です。全てのプリント基板の劣化部品を交換します。

スピーカーボックス内にアンプのプリント基板もあるので忘れずに劣化部品を交換します。

ラジオの動作テストをします。セレクタの接触不良です。

大変な作業ですがセレクタを取り外して分解清掃します。組み戻して動作良好です。

ボリュームは最小にしても大音量なのでボリュームを交換します。

ステレオランプが点灯しません。ランプ切れと駆動用トランジスタ 2SC281の故障です。トランジスタは規格が近い2SC350と交換します。豆球も交換です。ステレオランプが点灯するように受信感度や19kHzを検出するように調整します。左上の黒いボタンを押しながら選局すると少しチカチカしますがステレオランプが点灯します。

各種操作を確認します。 AMは受信良好です。FM(モノラル)はチューニングをしっかり合わせればノイズ感もなくクリアな音質です。FMステレオはチリチリと微かにノイズが混じって聴こえます。受信レベルが高いほど音質は向上しますので外部アンテナが欲しいところです。ノイズの原因は受信感度だけではなくMPX回路のバランスが崩れているのかもしれません。いずれにしてもKS-1700の修理は作業が大変なのでお勧めできません。しかしトランジスタによる初期のステレオラジオは魅力的です。懲りずにサンヨーとナショナルのステレオラジオを修理しています。

2025/08/17

TRIO KA-4000 プリメインアンプ(スピーカー保護回路を付加)

 TRIO KA-4000 プリメインアンプの紹介です。1968年頃、49,800円の製品です。このシリーズはシンプルですが気品が漂うパネルデザインです。当時はサイドウッドで高級感のあるアンプやチューナーが多かったです。

背面パネルはごく一般的な端子類が実装されています。

内部は電源、プリアンプ基板、パワーアンプ基板、パワートランジスタが整然と並んでいます。シールド板を外すと取り外し可能なスロットタイプのプリント基板が見えます。

 

基板の電解コンデンサにも劣化がみられます。プリアンプ、パワーアンプ、他基板の全ての電解コンデンサを交換します。

5A電源ヒューズが溶断しています。 動作確認のためプリアンプ基板とパワーアンプ基板を抜いたままで電源ONにするとヒューズが瞬時に溶断します。 電源部の故障です。切り分けた結果はブリッジ整流器の故障です。新しい整流器に交換して電源が正常になりました。音出し試験では、L側の音が小さいです。入口から順にトレースしたところ、PRI OUTとPOWER INのプラグの接触不良です。プラグを清掃して正常です。

KA-4000は構造的にポップノイズがでます。電源ON時にスピーカー端子のサージ電圧を測定すると0.7V以下になるのに15秒以上かかります。スピーカーに悪影響がありそうです。対策としてダミー抵抗も考えましたが、今回はスピーカー保護回路を入れます。電源ON時の遅延回路だけでなくスピーカー端子のサージ電圧が0.7V以下にならなければリレーは動作せずにスピーカーを保護します。また、スピーカー端子のショート時にはリレーが断となりアンプを保護します。上の写真のように保護回路はシャーシ下に空スペースがなくシャーシ上のプリアンプ基板横に設置します。

アンプの電源回路から取り出せる電圧はDC68Vです。ツェナーダイオードによる簡易な定電圧回路を組み込みスピーカー保護回路を動作させます。上の写真はツェナーダイオード×3と680Ω×2によるスピーカー保護回路用の定電圧回路です。スピーカー保護回路の動作時間は実測して18秒でした。

パワーアンプのセンター電圧を34Vにうまく調整できません。左右の半固定抵抗(30kΩ)VR3,VR4の劣化です。VR3,VR4を交換しセンター電圧を34Vに調整できました。 これで調整も終了です。

USB DACを接続してヒヤリングします。上下の帯域はやや抑え気味ですがそれなりに広く奥行も感じられる良い音です。全体にクリアでスッキリした音質です。少し華やかな傾向で音の重心がもう少し低いと厚みや深みがでると思いますが贅沢なのかもしれません。レコードを聞いてみますが同じバランスの音がします。KA-4000はパネルデザインと音がマッチした良質のプリメインアンプです。電源ON時のポップノイズもなくなり安心して音楽を楽しむことができるアンプに仕上がりました。

2025/08/10

PIONEER TX-70 AM/FMステレオチューナー(バラクタ方式)

PIONEER TX-70 AM/FMステレオチューナーの紹介です。1969年、39,800円の製品です。正面右側の5個のプリセットチューニングが最大の特徴で当時としては斬新な機能です。パネルは賑やかですが整然と配置されています。操作が楽しく照明が美しいチューナーです。前面パネルの両サイドが木製で高級感があります。

背面にはセパレーションボリュームと音声ボリュームがあります。アンプを経由しないで直接テープレコーダーと接続できる音声出力端子が設けてあります。

FM局をプッシュボタンで選局できるプリセットチューニング付のAM/FMステレオチューナーです。プリセットチューニングの一番左のMANUALボタンを押すとダイヤル針の照明が点灯して本体側のダイヤルでチューニングできます。プリセットチューニングは1番~5番のボタンを押しツマミで選局をセットできるユニークな機構です。

内部を覗いてみます。フロントエンド、IF、MPX、電源と機能毎にプリント基板が配置されてています。

このチューナーはバリコン が印象的です。2連AM用バリコンのみでFM用バリコン がありません。

プリセットチューニングを実現させるためにFM用バリコンなしのボリュームでFM選局させるバラクタ方式です。 AM用バリコンの回転を歯車につたえボリュームと連動させています。FM受信周波数はこのボリュームを変化させてバラクタダイオード(バリキャップダイオードや可変容量ダイオードの名称でも呼ばれる)で選局させるユニークな仕組みです。

劣化部品は全て交換します。消費電流を確認しますが0.45Aも流れています。電源トランスも徐々に熱くなってくるので過電流のようです。ラジオは受信できるのでそれ以外の箇所で漏電していると思われます。AF UNITの3番端子を切り離すと0.25A程度に下がります。ただし、3番端子はPUSH SWITCH UNITの5番端子とステレオランプにつながっているだけで0.2Aも流れるはずのない回路です。PUSH SWITCH UNITの1μFの電解コンデンサの不良でした。過電流を想定していない危険な回路設計かと思います。対策として高耐圧160Vの1μFと交換します。過電流はなくなり0.25Aで安定しました。

次に動作確認をします。受信レベルが小さく放送局が混信します。調整してみますがフロントエンドのLoフェライトコアが破損して回りません。コイルの底が基板なのでフェライトコアを砕いてから逆さまして取り出します。新しいフェライトコアに交換すると受信周波数が調整できるようになります。

受信レベルが低いのはフロントエンドの性能劣化が疑われます。フロントエンドのカバーを取り外すと、2SK19×1、SE3001×2が使われています。FETとトランジスタを交換ます。2SK19は2SK192aに交換します。SE3001は代替事例がみつかりませんがSE3001の代わりに2SC1675に交換しました。FETとトランジスタの交換により受信レベルは正常になります。

次に高い周波数の放送局の受信調整が指定範囲に収まりません。フロントエンドのトリマーコンデンサが不良です。20pFのトリマーコンデンサを交換して高い周波数の放送局も調整出来るようになりました。

トラッキングのバンド幅が広すぎるのですが調整方法が不明でした。フロントエンド横のVRでバンド幅を調整できることが判り調整します。

このチューナーはランプの種類と数が多いです。ダイヤル針の豆球、両側のガラス管ヒューズ型電球×2、シグナルメーターのE10電球が切れていたので交換します。

上の写真は交換した部品です。電解コンデンサは底のゴムが膨らんで劣化していものが多数です。フロントエンドに電源供給する外観では劣化がわからない電解コンデンサ220μFを交換するとステレオランプのチラつきなくなり動作が安定します。この年代のチューナーは全ての電解コンデンサを交換するのがよさそうです。

測定器を入れて音声出力を確認しますが調整してもモノラルでステレオになりません。MPX回路の19k Hz出力はOKですが38k Hz出力がNGです。1N60の故障です。交換して38k Hz出力がOKになり音声は正常にステレオ出力するようになりました。

次にステレオなのですがRight側の音声波形が小さいです。FM IF基板の出力トランジスタのベースで波形が小さいです。マトリックス回路のダイオードOA79が故障しています。4本中2本が故障です。1N34Aに全て交換します。Right側の波形出力は正常になりました。最後にセパレーションを調整して終了です。

操作感ですが、ダイヤルノブは小さいですが小型フライホイールを採用していて操作は良好です。ダイヤルスケール幅は短くややチューニングしにくいです。プリセットチューニングのツマミは小さくチューニングしにくいですがボタンを押した感触はとても良いです。ミューティングはややきつめに動作し、AFCは穏やかに効く感じです。ヒヤリングします。音質は上下の帯域が広く感じます。パイオニアらしいあざやかな高音です。低域はダンピングが効いたように気持ちよく弾むような音がします。全体として上手くまとまった良い音がするチューナーです。

今回は 故障箇所が多く修理に苦労したせいか少しレトロなTX-70が気に入っています。微妙な調整が必要で作業が大変なチューナーですが完成したチューナーはとても良い音がします。当時のデザインやプリセットチューニング、バラクター方式などアナログ・チューナーの魅力が満載です。TX-70は多くの特徴があり使っても眺めても楽しいチューナーです。