2022/07/10

ナショナル RE-510 真空管FMチューナー(普通の修理)


ナショナル RE-510 真空管FMチューナーです。1963年頃の製品で6,800円で販売されいました。現在でもオークションなどで年に何台か出品されているようです。大きさは幅272mm×高さ80mm×奥行149mmのコンパクトなモノラルFMチューナーです。

 
背面には、アンテナ端子、MPX OUT端子、PHONE(L)端子、EXT AMP(L)のRCAコードが配置されています。MPX OUTはFMステレオアダプタ接続してFMステレオ放送を聞くための端子が装備されています。

 

本体の底には、真空管配置図、ダイヤル駆動図があります。残念ながらこのチューナーには回路図は添付されていません。黒いプラスチックの頭のネジは破損しやすいので、必ず手で締めるようにします。ドライバーで締めると非常にもろいので破損させる恐れがあります。

RE-510の中を覗くとすごいほこりでいっぱいです。今まで一度も開けたことはない様子です。本体ケースの汚れやヤニを落とし内部の埃を丁寧に掃除します。

真空管には12BA6×217EW8、2連バリコン、セレン整流器の構成となっています。チューナーのシャーシはケースから電気的に浮いた(絶縁)状態で固定されていました。

ケースから目盛り板が完全に外れていました。きれいに掃除してボンドで固定します。


目盛りの裏板が汚れとサビが出ています。上の写真は再塗装して取り付けた様子です。

はじめに故障個所はないか入念に目視点検します。電源回路の電解コンデンサ端子からの液漏れで使えそうにありません。

同じ径のコンデンサを2個使い絶縁テープで巻いて交換用コンデンサとします。厚紙をコンデンサに巻いて横に固定する方法なので、外観的には交換したことはわからないと思います。

その他の経年劣化した部品を交換します。

一通り修理が終わったので、劣化部品以外に故障個所はないか通電してみます。0.23~0.24Aで安定し正常のようです。

次にFMチューナーの動作確認をします。調整はカバーを外した状態でチューナー部の横から調整することができます。アンテナを接続して受信してみます。受信感度およびトラッキングを調整します。

これで修理は終了です。今回はFM放送の初期に製造された貴重なナショナル FMチューナーRE-510の修理でした。次回はFMチューナーRE-510とセットになるFMステレオアダプター RD-511の紹介および修理です。

2022/07/09

ONKYO Integra T-410DG(電源部の経年劣化を修理)

 

前回、Technics ST-S6の修理で電源部がひどく劣化していました。Technics ST-S6 1981年製、ONKYO Integra T-410DG 1978年製です。T-410DGの電源部も経年劣化していると思ったほうがよさそうです。今回は緊急対応でT-410DGの電源部のリニューアルです。

試験的にT-410DGの消費電流を測定してみます。Power OFFで0.2Aも流れます。しかもPower ONでもなんと0.2Aで電流値が同じでした。電源スイッチの意味ありません。どうりで、使っていないのに左後ろのトランス付近が妙に熱くなるので気になっていたんです。

 
しかもチューナーなのに背面パネルに空気穴が開いています。チューナーで空気穴があるのはT-410DGぐらいだと思います。ONKYOさんは発熱多いことを知ってたんですね。
チューナーを開けてみます。時すでに遅し、金属カバーの裏側がススで真っ黒です。電源部の電解コンデンサからは液が漏れだしていて全滅です。セメント抵抗のプリント基板も焦げています。
チューナー部もよく見ると抵抗が焼けています。この状態で、よくチューナーとして動作してくれていました。
 
電源部の電解コンデンサを全て交換しました。
チューナー部の電源に関わる電解コンデンサを全て交換しました。T-410DGはデジタル時計が内蔵されているので常に電流を流す必要があり、1978年製の部品は更に早く劣化したのかも知れません。T-410DGが中古で品物が少ないのも納得です。電源部が故障するので完全に壊れて中古市場にも出せない物が多かったんだと思います。T-410DGは2台もっていますが、2台とも同じ惨状でした。やはり、1970-1980年代のシンセサイザーチューナーをそのまま使うと重大な故障につながることを学びました。現在、使われているこれらの年代の製品は修理してから使用することを強くお勧めします。

2022/07/05

Technics ST-S6 FM/AMチューナー(quartz lookのランプが不規則に点滅)

Technics ST-S6 クオーツ・シンセサイザー FM/AMチューナー 1981年 59,800円の製品です。初期のシンセサイザー・チューナーですが、操作はとても使いやすく機能的にも完成された製品です。私が永年愛用しているシンセサイザー・チューナーです。

シンセサイザー・チューナーでは、めずらしく4CHマルチ出力の端子が装備されています。Technics ST-S5以上の上位機種もしくはONKYO Integra T-410DGにしかこの端子を装備したシンセサイザー・チューナーを見つけることができませんでした。(他にもあるかもしれませんが私は知りません)

愛用していたTechnics ST-S6ですが先日故障して、quartz lookのランプが不規則に点滅して音声も同時に途切れる症状が出始めました。シンセサイザー・チューナーは修理経験もなく直せるかわかりませんが、とりあえず中を覗いて見ることにしました。上のカバーを外し、全面パネルの下と両脇のネジをはずします。背面のRCA端子盤のネジとアンテナ部のネジ、プリント基板固定のネジをはずせば、プリント基板を裏返すことができます。非常にメンテナンスしやすい作りになっています。 

まず最初に見つけた故障は、スーパーキャパシター(電気二重層コンデンサ)Gold Cap 1.8V 3.3F×3個から液が染み出ていました。このままだとチャネル・メモリを保持できなくなります。そこで交換部品として高さ28mmで同じ電圧と容量を探しますが見つかりません。この製品ではスーパーキャパシターを直列にして使用しています。3個・直列で合計5.4V 1.1Fで使用しています。同じ電圧と容量を2個で構成できるようなスーパーキャパシターを探しました。高さ20mm 2.7V 5.0F×2個を直列で使うと合計5.4V 2.5Fとなるのでこれを購入しました。

上の写真が実装した様子です。裏の配線で2個のスーパーキャパシターを直列にします。

次に見つけた故障はプリント基板の表面が熱で泡立っている箇所です。よく見ると電解コンデンサのハンダも溶けて劣化しています。電源回路の電解コンデンサー不良が疑われます。

電源回路の電解コンデンサーを取外すと、プリント基板が焼け焦げたり液が染み出していました。想像以上にひどい状態です。この電源回路にはヒューズはなく、ヒューズ抵抗で過電流を防止するしくみのようです。このまま使い続けたらヒューズ抵抗が溶断するところでした。

上の写真では、電源回路の電解コンデンサーはすべて交換してあります。この状態でテストしてみます。まだquartz lookのランプは不規則に点滅します。点滅する頻度は少なくなりましたが根本的な原因は解決していません。ただし、FM放送などの音質は透明度が増し交換前より品質がよくなりました。

次に水晶発振子(クリスタル)の近辺の電解コンデンサも疑わしいので交換してみます。これでだめなら、VR101:FM QUARTZ LOOK INDICATOR ADJUSTMENTで調整してみる予定です。再度テストするとquartz lookのランプ点灯のままになり正常になりました。長時間使用してのテストでも良好です。クリスタルの近くでしたが、IC(マイコン)の電源部に入れる電解コンデンサの不良です。電解コンデンサ劣化によるICの誤動作が原因だったようです。
 
最後に残った古い電解コンデンサを交換します。今回は非常に簡単な故障原因だったので部品交換だけで終了です。
Technics ST-S6 クオーツ・シンセサイザー FM/AMチューナーは中古品を安価で入手することができます。しかし、使えても今回のように内部の部品はかなり劣化していますので、安易に購入し使うのは危険かと思います。部品交換を前提で入手するのであれば、非常にコスパの良いチューナーでおすすめです。今回は愛着のあるチューナー修理により、引退させずにしばらくこのチューナーでFM放送が楽しむことができそうです。

2022/06/21

TRIO 真空管FMチューナー FM-111(整流管6X4の不良)

 今回は初めて修理するTRIO 真空管FMチューナー FM-111になります。FMシリーズでFM-111があるとは知りませんでした。本体は堅牢なケースと前面パネルの色は違いますがデザインはFM-105と同じでツマミが金属製に代わっていました。POWER OFF/FM/FM AFCと記載のある電源のセレクタ-も若干異なります。

背面は同じでモノラル端子とMPX OUT端子、ボリューム、アンテナの構成はFM-105と同じです。

TRIOの管式FMチューナーの種類はわかりにくいです。上の一覧(2022.12.4更新)は私が使っているTRIO管式FMチューナー一覧です。自作の一覧なので抜けている機種や年代、系統などに誤りがあると思いますがご容赦ください。この一覧で私も修理したことがあるのは12機種ぐらいです。一覧を眺めてみるとTRIOさんがFMステレオ放送の普及のために多くのチューナーを世に送り出したことがわかります。今回のFM-111はFM-105の流れをくむFMシリーズのモノラル・FMチューナーだと思います。

6AQ8×2、6BA6×2、6AU6×2、6AL5、6X4の構成・配置はFM-105と全く同じです。FM-105の後継機種がFM-111のようです。

このチューナーは「通電できますが受信できないジャンク品」とのことで購入しました。内部を見てみましたが目視からは損傷個所は見つかりませんでした。
 
ためしに通電試験をしてみます。電源を入れると0.38Aで安定しました。電流値が少ない感じがします。各箇所の電圧を測るとB電源で0V、ここで電圧がでていません。トランスの電圧は正常なので整流管6X4の不良と思われます。
上の写真は故障したと思われる整流管6X4です。整流管の中心部がぐると一周ガラスが黒くすすけています。整流管はこのチューナーの中で一番寿命の短い真空管なので故障しても納得です。
 
最初に劣化部品の交換です。ブロック電解コンデンサーは配線を外して外観上の見栄えのために残します。その他の劣化部品は全て交換しました。 念のために故障と思われる6X4を交換して確認します。B電源は0Vなので6X4の故障に間違いありません。整流管6X4を交換します。
修理後、電源を入れると0.45Aで安定します。B電源出力で約100Vの電圧が出ました。電源部は正常になりました。
ここで受信確認をしてみます。受信感度は良好でメータも振れます。AFCもよく機能します。また、トラッキングはズレていましたので調整しました。
最後にTRIO AD-5(FMマルチプレックス・アダプター)と接続してFMステレオ放送を受信してみます。受信感度も高く、いつも通りの管式FMチューナーのいい音です。FM-111はFM-105の後継機種としてお勧めのチューナーだと思います。今回のFM-111もこの時代の製品として性能・信頼性などが群を抜いて優れた製品だと思っています。この製品以降、2~3年するとトランジスタ方式に置き換わってゆくことになります。管式FMチューナーは1960年代前半~中頃までの短い期間の製品ですが今でも色あせない音でFM放送を聴かせてくれます。

2022/06/16

スター FM-200 真空管FMチューナー(珍しいμ同調方式)

 

スターFM-200形の真空管FMチューナーです。アイボリーの本体にシルバーのパネルと大きな文字と茶色の目盛りが印象的です。いままでスター製品を触る機会がなかったので購入してみました。 写真のとおりかなりジャンクなFMチューナーです。

 
スターFM-200は1963年ごろの雑誌に特集記事や広告がのっていますので、発売時期は1963年頃だと思います。 TRIO FM-106が機能面で近い機種になるので価格も10,000円前後ではないかとないかと想像しています。

背面はパーチクルボードで真空管ラジオみたいです。パーチクルボードは湿気を吸うとボロボロになるので高価になりますがアルミにしてほしかったです。また、背面の端子にMPX出力を持ったモノラルFMチューナーになります。

上から見ると何か違和感ありませんか?このチューナーにはバリコン がないんです。バリコン を使わないμ同調方式のFMチューナーなんです。6AQ8,6AU6×3,6AL6の構成で、左側にある6AQ8を搭載したスター製のμ同調方式/FMチューナー・ユニット:FU-36Bにより安定した受信性能を確保しています。このチューナーの全面パネルはアルミの削り出しではなく型抜きした1mmのアルミで、背面パーチクルボード、整流管ではなくシリコン・ダイオード、バリコン なしのμ同調方式などの徹底したコストダウンをしてます。それにもかかわらずデザインや性能は落とさずによく出来た製品だと思います。また、このころのトリオのチューナーもそうですが、なぜかヒューズがないつくりはいただけません。

FM-200を手持ちの資料から探したところ電波科学 1963年4月号で機能・回路図・性能など詳しく解説されていました。

また、FMチューナー・ユニット:FU-36Bについてはラジオ技術1962年9月号「FMチューナー・ユニットの構造」で解説されています。上の写真はFU-30Bシリーズ一覧を抜粋したものです。真空管FMチューナーを使う楽しさもありますが、これらの資料によりFM-200を深く知ることで楽しさが何倍にもなるんです。

μ同調方式のユニットでは糸を直線に引いて糸巻きしますので、糸を引っかける穴のあるリング状の固定金物(名前を知りません)を使います。FM専用なので土台の軸とリング状の固定金物とプーリーの構成になります。これにAMが加わるとバリコンの軸にカップラを取り付けて同調する構成になります。

 

内部の配線ですがきれいな状態です。特に見た目には損傷らしき痕跡はみあたりませんでした。


 
最初は外観から補修してみました。上の写真のように本体はアイボリーで再塗装しツマミのゴールドの金属部分は他のツマミから移植してみました。アイボリーのFMチューナーはめずらしいですが、見た目もよく今にもFM放送が聴けそうな雰囲気に仕上がりました。
トランスの手前にヒューズ・ボックスを追加してみました。
通常はいきなり通電試験をしませんが損傷もなさそうなのでテストする気になりました。通電試験すると電流は0.8Aから1~2分もかかって0.6Aまで下がりましたが電流が流れすぎで不安定です。私の感覚では0.4~0.5Aぐらいが適正だと思っています。1~2分通電してブロック・電解コンデンサを手で触ってみると非常に熱くなっています。本来はあたたかい程度で熱くなることはありませんので劣化した末期症状のブロック電解コンデンサーのようです。やはり、見た目だけで判断するのは危険だと改めて実感しました。
 
上の写真のように劣化部品はすべて交換しました。ブロック電解コンデンサーの配線をはずし残置して外観を確保します。その下に代替の電解コンデンサーで電源部を作り込みました。
再度、通電試験をします。電流値は思った通り0.45Aぐらいにすぐに落ち着きました。電源部の電解コンデンサーもまったく熱くなっていません。修理は成功のようです。他に修理が必要な箇所もないのでこれで終了です。
 
TRIOのFMアダプター:AD-5と接続してステレオでFM放送を受信してみます。受信感度は良好ですがトラッキングが大幅にずれていたので調整します。AFCもよく機能しています。真空管チューナーのFM放送の音が好きなオーディオ愛好家も多く私のその一人です。真空管チューナーは本当にいい音がしますので一度お聴きになってはいかかでしょうか。スター製FMチューナー・ユニットは雑誌に載っているので知っていましたが、今まで取り扱った真空管ラジオやチューナーではμ同調方式に出会えませんでした。FM-200を使ってみてFMチューナー・ユニットがあれば受信感度の良いチューナーを簡単につくれそうです。
 
余談ですが実は私もアルプス製のμ同調方式・FMチューナー・ユニット(上の写真)とリング状の固定金物を大切に保管しています。今回、とてもいい経験をしたので近々にでも製作に取組んでみようかと思います。