2022/11/18

NATIONAL ナショナル RF-620

NATIONAL PANASONIC MODEL RF-620 トランジスタ・ラジオの紹介です。ナショナルのカタログに掲載されているので1968年頃の製品かと思います。当時、7900円の販売価格なので小型ですが高額なラジオです。私は短波(SW)で株価など聞かないので、FM-AM 2BAND搭載が当時からほしかったラジオでした。意外にFM-AM 2BANDのみのラジオは少ないと思います。2BANDに機能を限定したおかげで、FMの受信感度は高く良好です。ナショナルは1つ1つの機能も高く丈夫で壊れない製品のイメージです。オーソドックスですが洗練されたデザインの製品をテレビCMやスポンサー番組で紹介していました。ナショナル・ブランドの人気と知名度は絶大で、他社製品と比較するための一つの目安になっていました。また、製品に遊び心はあるのですが未成熟な機能提供やデザインでの冒険は絶対やらない手堅さがどの製品からも感じられます。

チューニングは大きなローラー式ダイヤルで操作感は非常にいいです。ダイヤル目盛りも大きく選局しやすいですね。

左サイドにはスイッチ付きボリュームとイヤホン端子、DC9V外部電源端子まで付いていました。ロッド・アンテナは折りたたんでラジオの高さを10cmになんとか収めたようです。

 背面には昔のラジオに多くみられたFM-AM切り替えスイッチがあります。

 

NATIONAL PANASONIC のブランド文字があるので海外へ輸出もしていたのでしょうか。乾電池006P(9V)を使いますが、ナショナルハイトップと自社製品を記載しているのが面白いです。電気屋さんにナショナルハイトップの006Pくださいと言えばよかったのでしょうね。最後にMADE IN JAPANが当たり前だった懐かしい文字です。

 

電池交換には裏蓋を開ける必要があります。バリコンの両脇にはメタルのFETが見えるので初段はFETで好感度なのでしょう。メタルのゲルマニウム・トランジスタも見えるので昔のラジオだと一目瞭然ですね。小型IFTを採用して部品を高密度に実装できるように頑張ってます。

 
真横から見るとバリコンと006P電池でラジオの厚みが決まったようです。空いた空間を利用してスピーカーの上に電解コンデンサ2個を無理やり実装しています。
 
ラジオを分解すると、こんな感じです。

小いさくてもダイヤル針は糸掛け構造で巧妙に動かしてます。

このラジオは故障が少ないのですが、FM-AM切り替えスイッチの接触不良で使えなくなりました。

スイッチをプリント基板から取り外します。スイッチの足が12本もあるので取り外しは大変です。スイッチを分解してコンタクトスプレーを綿棒に付けて接点を磨きます。接点に汚れが固着していて、実装したままスプレーしても接触不良は治りません。修理には分解清掃が必要です。

折角なのでボリュームも保護カバーを外してコンタクトスプレーを綿棒に付けて接点を磨きます。これでボリュームのガリは解消します。

簡単な分解修理でRF-620が復活しました。古さを感じさせない軽快な操作感です。丈夫なところはさすがナショナル製品です。この時代のラジオにはそれぞれ個性があり、見て触って楽しい製品が多いから好きです。ただラジオを見て昔が懐かしいだけではありません。当時のラジオ品質の高さを今になってしみじみ感じるからです。

2022/11/04

TRIO トリオ FX-46K FMマルチステレオチューナー(痛恨の製作ミス)

1966年頃(17,900円)に販売されたTRIO トリオ FX-46K FMマルチステレオチューナーです。

 プリメインアンプW-46とペアになるFMチューナーFX-46のキット製品になります。ラジオ雑誌の46シリーズの広告記事です。当時、このような広告をみたら誰でも欲しくなります。FX-46Kはオーディオ機器として見栄えのするフロントパネルで、AFC、ノイズフルター、レベルメータ、ステレオランプなど必要十分な機能を搭載した完成されたFMチューナーです。

背面にはアンテナ端子とステレオ出力端子があります。赤いRCAケーブはオリジナルにありませんので、内部回路を見てどんな改造をしたのか確認する必要がありそうです。

 

右側は6AQ8×2による3連バリコンのフロントエンドです。プリント基板には6BA6×4から構成されるIF部です。左下はMPX部で6AW8A,6AN8で構成されています。

内部回路はプリント基板のおかげでスッキリした配線になっています。

謎だった赤いRCAケーブルの接続先には可変抵抗とコンデンサ等が接続されていて、MPX出力回路を構成しているようです。ステレオチューナーにわざわざMPX出力回路を追加したのは更に謎です。

まずはシャーシの清掃からです。

次にフロントパネルを外してダイヤルスケールのガラスなどの清掃をします。ガラス板を保護するゴムがボロボロになっているので交換します。

  

最後に劣化部品を全て交換します。ここで製作当時のミスを発見しました。上の写真をご覧ください。特に整流回路のダイオードと端子板のハンダ付けに注目です。 一見正しくハンダ付けされていように見えます。

 
1本のダイオードは端子板に巻き付けてあるだけで、ハンダ付けがされていませんでした。TRIOのキットでは多くみられるハンダ付け不良です。このハンダ付け不良は劣化部品を交換している最中に部品がグラグラするので気づきました。端子板の真横からみてもハンダ付けされているように見えます。FX-46Kの製作者さんの痛恨の製作ミスのようです。ワット数が小さな半田ごてを使用して熱がよく伝わらなかったのだと思います。電源回路は半波整流となって電圧が下がりチューナーの音質に大きな影響を与えたのだと想像しました。製作者さんはFX-46KのMPX回路不良を疑ってMPX出力回路を追加したのだと思います。MPX回路は規定の電圧でないと正しく動作せず、セパレーションが悪化します。
MPX回路は取り外し、劣化部品は全て交換しました。

ここまでの作業をしてから初めて電源を入れます。0.6A流れ安定しました。各回路の電圧を測り正常のようです。チューニングとして受信感度、トラッキング、セパレーションなどを調整します。

FMステレオ放送をヒヤリングしてみます。FX-102Kとは違った落ち着きのあるFM放送を聴かせてくれます。同じTRIOの製品でも音質は機種ごとに個性があるのがおもしろいところです。

完成後の真空管チューナーの姿はいつも見ても美しいです。当時は高額だった真空管FM専用チューナーの製作ミスにより思い描いたFM放送を聴くことができなかった製作者さんを思うと気の毒な限りです。今まで数多く修理をしていると以前のオーナーさんの使い方がなんとなくわかるときがあります。今回の修理したFX-46KでFM放送を聴かせてあげたかったと思う気持ちは私だけでしょうか。

2022/10/10

CROWN クラウン Melody Coins HT-430S

 

 CROWN クラウン Melody Coins HT-430Sの紹介です。レトロなデザインのラジオで今でもオークションなどで入手できます。海外のサイトによると1963年頃の製品のようです。6石トランジスタ、1ダイオードのトランジスタ・ラジオです。

このラジオの最大の特徴は、メロディ・コインの製品名のとおりコインを入れるとラジオが聞ける貯金箱であることです。実際にはコインを完全に入れないで挟まった状態にするとラジオのスイッチがONになりラジオを聴くことができます。ラジオを止めるときはOFFボタンを押すことでコインが貯金箱に入りラジオがOFFになる仕組みになっています。

 

私の持っている1965年ラジオ雑誌の新製品コーナーでは、HT-430が紹介されていました。デザインが若干異なる型番なのでしょうか。

HT-430SではありませんがHT-430のサービス・マニュアルに載っている回路図です。ほぼ同じ構成かと思います。

私が入手したHT-430Sは外観はいいのですが貯金箱の鍵がありません。鍵は昔の木製の引出しの鍵を少し削ることで代用できます。また、鍵がなくても貯金箱のネジ2本を外すことで蓋を取ることもできます。そして、貯金箱の蓋をロックしている平たいバーを手で押せば鍵は開錠できます。鍵を開けたら10円玉がでてきました。元オーナーも鍵失くしていたみたいです。その隣の蓋は電池ボックスです。単3×4本(6V)で動作します。

上蓋を開けラジオ・パネルの2本のネジを外すと本体を取り出せます。本体を裏返すと左がコインを挟むスイッチ機構、中央がボリューム、右がラジオ本体です。

 
コインのスイッチ機構です。わかりやすいように10円玉を挟んであります。先に半球のバネ付きの棒でコインを挟むことでラジオのスイッチがONになります。OFFボタンを押すと半球のバネ付きの棒が開きコインは落下してラジオがOFFになる仕組みです。
6石トランジスタ・ラジオの基板です。音響機器メーカ・クラウンが製作しただけのことはあり、HT-430Sはラジオの感度が非常に良いです。
ボリュームにガリがあるので分解清掃をします。ふたを開けコンタクト・スプレーを綿棒につけて黒いカーボン面に塗りながら清掃します。あまり、こすり過ぎるとカーボンが摩耗してボリュームを壊すので注意してください。清掃でボリュームのガリはなおりました。
電池ボックスにサビがあり、このような状態の場合はスプリング交換もしくは電池ボックス本体ごと交換します。今回は電池ボックスを交換しました。
上蓋には締めたとき接触面の傷がつかないように丸いシールが上蓋の隅に貼られています。シールが摩耗して役目をはたしていなので、ボックス用4足シールタイプを2か所張り付けて補修しました。最後に上蓋の蝶番にサビが出ているので黒く再塗装して終了です。
クラウンさんはHT-430S以外にもユニークなラジオを多く製造しています。現在ではレトロな雰囲気のHT-430Sのようなラジオは製造されていないのが残念です。HT-430Sは誰が見てもかわいいらしく届いて修理してから半日もたたないうちに家内にさらわれて行きました。

2022/10/09

TRIO トリオ 真空管FMチューナー FM-106(ワイドFMが聴ける)

 

今回は、TRIO トリオ 真空管FMチューナー FM-106の修理です。1960年頃、当時で9100円のFMモノラルチューナーです。上位機種にはFM-105があり基本性能はそのままで低価格化した下位機種になります。今回のチューナーは全面パネルやボンネットにサビや傷もなく良好な状態のものです。FM-106はシグナルメーターもなく2連バリコン の廉価版のイメージがあるせいか人気がないようです。性能はFM-105に近く若干機能を減らした(2連バリコン )だけです。操作感は全く同じですし、安定感がありお気に入りのチューナーのひとつです。

 

 FM-106の受信可能なバンド幅は76MHz~108MHzです。当時のFM放送は76.1MHz~89.9MHzです。90.0MHz~108MHzまではテレビ地上波のch1、ch2、ch3に使われていてテレビの音声を聴くことができました。世界的にはFMバンド幅80MHz~108MHzが多く、日本の76.1MHz~89.9MHzが特殊だったようです。現在ではテレビ地上波は廃止されワイドFM(FM補完放送)90.0MHz~94.9MHzに割り振られています。このFM-106はワイドFMに対応できるところがうれしい機能になります。時代がめぐって本来のバンド幅で利用できるようになったわけです。

 

背面には300Ωのアンテナ端子、MPX 、OUTPUT(モノラル出力)、PU(FM-106をセレクタとして使うための外部入力端子)で構成されています。

 
内部を覗いて見るとシャーシにひどい錆があり外観に比べて内部の状態は良くありません。コストダウンのためなのか2連バリコンを採用しているのが残念なところです。

裏蓋を外して配線内部に損傷がないか入念に確認します。ブロック電解コンデンサが劣化して液漏れしています。真下の抵抗にも液漏れした跡が残っています。それ以外は目視では不良個所はなさそうです。

シャーシをさび止め塗料で再塗装します。

劣化部品を交換してFM-106にはヒューズがないので電源部にヒューズを実装させます。

ここまで修理してからようやく電源試験です。電源を入れるとやや多めですが0.5A流れて安定しました。各箇所の電圧を測定しますが正常のようです。異音や発熱もなくランプも点灯しました。

受信してみますが音がでません。全面のセレクタースイッチ を何度もスライドさせるとたまに音がでます。不安定です。スイッチ は分解して清掃、最後にコンタクトスプレーを綿棒につけて接触面にだけ塗り汚れを落とします。分解修理でスイッチ はスムーズに切替わるようになりました。再度テストします。受信感度は良好です。トラッキングの調整も不要のようです。FM-106のMPXとTRIO FMアダプターAD-5と接続します。FMステレオ放送の音質確認をします。非常にバランスのとれた美しい音がします。当然ですがAD-5とは相性がとてもいいようです。

FM-106は60年以上前のFMチューナーですが修理すると非常に安定した動作をしてくれます。このFM-106などのチューナーでFM波を受信するほうがradikoなどのネットを利用するFM放送より遥かに高品質の音を聴かせてくれます。しかもワイドFMが普及することでFM-106にはもう一度活躍の場がありそうです。この貴重な真空管式FMチューナーがこれから先何十年も生き延びることを願って止みません。