2022/12/21

マグネチック・スピーカー(トランジスタ直結で鳴らす)

 

マグネチック・スピーカーの紹介です。私が中古オーディオショップで偶然みつけたスピーカーです。展示してあるスピーカーの上に何気なくポツンと置かれていました。特に利用するあてはありませんが衝動買いしました。

私がマグネチック・スピーカーを知ったのは、中学生の頃にもっていた「ラジオの初歩から組立まで」という本にラジオ部品として掲載されていたからです。当時、自宅にあった真空管ラジオはダイナミックスピーカーですし、並四ラジオなどの回路図にも出力トランスを使うのがあたりまえでした。今日までマグネチック・スピーカーにお目にかかったことはありません。戦前・戦後のラジオを取り扱うことはないので今回初めて現物を手にしたしだいです。

このスピーカーは金属枠が錆びていますが黒いコーンは良い状態で劣化はみられません。正面から見ると先の尖った小さなセンターキャップで振動片棒とコーンをつなぎ留めています。平坦で大きなセンターキャップのダイナミックスピーカーとは見た目も明らかに違います。

解説本のとおりU字磁石にコイルそこから振動板、振動片棒が伸びてスピーカーコーンに接続されているのがわかります。

スピーカーのメーカー名はどこにも記載や刻印もないので不明ですが、「日本放送協會認定」の痕跡が残っていました。その下には2・・・の認定番号がかすれて見えます。日本ラジオ博物館さんのサイトをみると1934年~1943年もしくは1946年以降に認定を受けたスピーカーのようです。

早速、テスターで抵抗を測ると1.3kΩありスピーカーコイルは断線せずに生きています。真空管ラジオ用のスピーカー出力トランスをトランジスタラジオの出力に逆接続して動作テストをしてみます。スピーカーから放送が聞こえてきましたが、甲高く蚊の鳴くよう小さい音です。マグネチック・スピーカーの音は良くないことは知っていますが、音も変ですし音量もすごく小さくて動作がおかしいようです。

調べているときにコイルの振動板を触ったところ、いきなり大音量で鳴りだしました。 振動板が錆びてコイルを挟むためのコの字型金物との間で固まっていたようです。ドライバーで錆びを落として修復です。音量はラジオに付属するスピーカーと遜色ありませんでした。無事にスピーカーの初期のテストは終了です。

 

 

私が唯一知っているマグネチック・スピーカーを使ったラジオがあります。ゼネラルエレクトリック社のトランジスタラジオです。マグネチック・スピーカーから聞こえてくる独特な音色が魅力のラジオです。

上の図はGE製ラジオの回路図を簡略化したものです。最終段のトランジスタでマグネチック・スピーカーを直結して駆動させています。トランジスタの出力インピーダンスが高いので直接マグネチック・スピーカーを鳴らすことができたようです。

GE製ラジオと同じようにラジオの最終段のトランジスタに直接マグネチック・スピーカーを繋いで鳴らす実験をしてみました。実験ではAce AR-205k:2石ラジオを使いします。上の回路図がAR-205kにマグネチックスピーカーを接続したものです。小さな30mW出力のラジオでどれだけ鳴るのか楽しみです。

上の写真ではAce AR-205kの赤い出力トランスの足を外してトランジスタにスピーカーを直結しています。音を出してみますが大きく鳴り響きます。とても30mWの音量ではありません。音質も低音こそでませんが評判とは違い以外と良い音で放送を聴くことが出来ます。同じマグネチックスピーカーでもトランスが不要な直結のほうが明らかに音声は明瞭です。ラジオの出力段が1石のトランジスタでこの大音量が出せたのが本当に衝撃でした。

今回はここまでで終了です。マグネチックスピーカーの実力を少し知ることができました。小出力でよく鳴ります。特に音色が独特で耳に残ります。スピーカーは気に入ったので箱に入れてレトロな雰囲気のラジオを楽しむことしました。

2022/12/16

TRIO トリオ FM-102 真空管FMチューナー(MPX OUTを付加)

TRIO トリオ FM-102 真空管FMチューナーの紹介です。1959年頃の製品でFM-101C(キット)と同じ時期のチューナーかと思います。241 x 114 x 191 mmの小さな箱型ケースに収納され受信周波数は80MHz~90MHzのFM専用チューナーです。TRIOの古いロゴが印象的です。

 
FM-102はFM専用チューナーですが、FM放送の黎明期の時代背景からモノラル出力しか実装されていません。そのため、FM-102を好んでオーディオチューナーとして使ってる人はほとんどいないと思います。モノラルのFM放送では機能や音質面で満足できませんから骨董的な価値で飾っておくしかないと思われています。
6U8×2、6AU6×3の構成で検波はダイオードが採用されています。FMステレオチューナー(春日二郎著 昭和45年)には、「2連バリコンでは高感度であるにもかかわらず混信妨害が大きく、実際の受信状態のS/Nが悪く・・・・」との記述かあり、FMチューナーとして使用に耐えうる評価は3連バリコン 以上とのことです。そのためなのかTRIOのチューナーには初期の頃から3連バリコンが採用されています。TRIOのチューナーに対する強い拘りが感じられます。

内部配線を見るとコンデンサーなどが交換されているようです。

補修されているチューナーですが、最後にブロック電解コンデンサの状態だけは確認する必要があります。幸い液漏れはないので電源試験をしてみます。 約0.35A流れ、電流値が微妙に変動しましたがしばらくすると安定しました。ブロック電解コンデンサを触っても発熱もありません。当分は現在のブロック電解コンデンサで大丈夫そうです。

上の図はFM-102の検波回路を書き起こしたものです。ダイオードが同じ向きに実装されていたのでフォスター・シーレー検波を採用している事に気づきました。FM-101やこれ以降のチューナではレシオ検波しか採用されていませんのでTRIO製品では珍しい検波方式になります。また、他社でフォスター・シーレー検波を採用しているチューナーは山水ぐらいだったと思います。

回路図を眺めていたらFM-102でFMステレオ放送を聴いてみたくなりました。FMステレオ放送を聴くためにはMPX出力回路を付加する必要があります。上の図がMPX OUTを付加した回路図です。バランス抵抗1.5kと前段との間に47pFと出力には5.6kの抵抗を追加した標準的なフォスター・シーレー検波に変更してあります。

上の写真がMPX出力を組み込んだ検波回路です。

このチューナーにはRCA端子のモノラル出力が2つありますので、左側をMPX OUTとして使用します。

 

モノラル出力をスペクトルアナライザーで観測すると、周波数が高くなるに従い減衰していることがわかります。19KHzのパイロット信号も見ることができますが、当然ですがMPX出力には使えそうにありません。

MPX出力をスペクトルアナライザーで観測すると、周波数が高くなっても緩やかな減衰特性になっていることがわかります。38KHz付近では(L-R)信号も見ることができるので、ステレオ再生が期待できそうです。

実際にFM放送がステレオ再生できているかセパレーションを観測してみます。FM-102のMPX OUTにはTRIO AD-5(FMアダプタ)を接続して試験をします。上の図では、約25dB のセパレーションを観測することできました。FM-102のMPX OUTは正常に出力できたみたいです。

チューナーをステレオ装置に接続してヒヤリングです。フォスター・シーレー検波方式を搭載したFM-102がどんな音を聴かせてくれるのか気になります。 FM放送にはノイズもなく正常のようです。音質は中音が充実したバランスの良いステレオ放送を聴かせてくれました。60年以上経ったチューナーから聴こえてくるFMステレオ放送には感慨深いものがあります。この音質ならFM-102を使ってもらえると思います。マニア向けの骨董的な価値だけで保管するにはあまりにも惜しい真空管チューナーだと思います。

2022/12/05

Technics テクニクス ST-8077(77T):MPX-IC故障

 

 Technics テクニクス ST-8077(77T)は1979年45,800円のクオーツ・シンセサイザーFM/AMステレオチューナーです。スリムで高さ53mmの超薄型アナログチューナーです。

 

 背面は、同軸ケーブルを直接接続するタイプですがF栓が良かったと思います。固定式のステレオOUTPUTとMULTIPATHの出力端子があります。このチューナーは珍しくMULTIPATHに4ch MPX OUTがあるので購入しました。

 

ジャンクで購入したのですがステレオランプが点灯しないため長期間保管していましたが、そろそろ修理することにしました。

 

 ST-8077を開けてみると、よく出来た構造でネジを外すだけでプリント基板と底板を簡単に分離できそうです。また、半固定抵抗VRにはプリント基板に機能名称が書かれているためマニュアルがなくてもある程度の調整をすることができます。非常に便利ですし間違えることもありません。

ST-8077のサービスマニュアルからの抜粋です。これだけの情報があるだけで調整するのが非常に楽になります。

しかし、今回はステレオランプが点灯しない故障なので試行錯誤の確認作業となります。単純にランプ切れもあるので、上の写真右下のLEDへ接続しているフラットケーブル31,35(共通)に電圧をかけてランプ確認します。正常に点灯します。

 
次に19kHzのパイロット信号の検出がズレていないかVCO(VR403)で調整しましす。しかし、この箇所でもなさそうです。ステレオランプが点灯していませんが、一応ステレオに分離しているか音声出力で確認しますがモノラル出力でした。
 
ST-8077はMPX ICにAN363Nを使っていますので、AN363Nを調べるしかなさそうです。だんだん深みにハマっていきそうです。上の写真はAN363Nの周辺の回路図です。
 
FM mode(S4スイッチ)では、AN363Nの10番ピンにアースを出せばモノラルになります。S4-1を操作してon/auto=1.3V、off/mono=0Vが測定できたので正常のようです。また、ランプ点灯の出力はAN363Nの6番ピンになりますが、電圧は0.2Vしかなくランプが点灯するはずもありません。
原因が全くわかりません。ここまでくるとAN363Nを交換してみるしかなさそうです。
 
ネットてAN363Nが100円で販売されていました。即、購入してAN363Nを交換しました。VCO(VR403)を再調整するとステレオランプが点灯しました。やっと、修理できたみたいです。音声出力もステレオに分離しています。トラッキングはズレていたので調整、ついでにセパレーションも調整しました。しかし、どうしてAN363Nが壊れていたのか原因は不明です。

AN363Nを交換修理しなくても本来の目的のTRIO AD-5(FMアダプタ)やSTAR製MU-34(自作FMアダプタ)と接続することができます。 ST-8077の4ch MPX OUTとFMアダプタを接続してFMステレオ放送を楽しんでいます。管式のFMステレオ放送の音が好きなんです。
 
そのため、デジタル・シンセサイザー・チューナーではTechnics S6,ONKYO Integra T-410TGなどを集めて使っています。この管式FMアダプタによるシステムの組み合わせは趣味の世界なので、異論があるかと思いますがご容赦ください。

2022/11/23

SANYO サンヨー TRANS WORLD Groovy M RP-7500

 

SANYO サンヨー TRANS WORLD Groovy M RP-7500の紹介です。1972年製、16300円のMW,SW,FMの3バンドラジオです。RP-7500にはステレオFM放送を聴くためのステレオキャスト(ステレオアダプター)RB9090 4900円も別売で用意されていました。SANYOさんは個性的なラジオが多いですがRP-7500もその1台です。このラジオの特徴はSTEREOCAST端子とFMトランスミッター機能を搭載していることです。FMトランスミッター機能なしはRP-7000となります。

黒にメタリックを多く使用したボディ中央に大型メーターを配置した華やかなデザインです。

右からPOWER,BAND、VOLUME,TREBLE,BASS,AFC、そしてSTEREOCASTが使いやすく配置されています。

中央右の大きくて見やすいメータはTUNE/BATTとLEVELに切り替えることができます。RP-7500の特徴の一つはFMトランスミッター機能で、PRESS TALKボタンを押すと78MHzでFM波を送信することができます。FMトランスミッター機能ではスピーカーをマイクとして使用するためマイクは搭載されていません。ダイヤル目盛りに青字で78とトランスミッターの周波数表示があり、ここにラジオを合わせることで2台をトランシバー的な使い方ができるようになっています。当時はFMワイヤレスマイク搭載のラジオが多く販売されて人気がありました。

ラジオ2台の周波数が混信しないように背面パネルにはトランスミッター周波数を微調整できるトリマが設けてあります。

別売:ステレオキャスト(ステレオアダプター)RB9090は長期保管していましたが使ったことありません。ステレオキャストを試すためにRP-7500のジャンク品を購入してみました。 ステレオキャスト対応機種は私が知っている限り次のとおりです。RP6000,RP6600,RP7000,RP7410,RP7500,RP7600,RP7700,RP8200,RM8200。また、ステレオキャストを内蔵している ステレオマルチ端子つき対応機種は17F-888V,10F-B56になります。これらはステレオラジカセが発売されるまでの過渡期を彩ったラジオ製品群になります。

さっそくRP-7500のSTEREOCASTの上蓋を開けてRB-9090を接続してみました。ラジオの電源を入れてもRB-9090から音がでません。全くの無音です。そして、あろうことかラジオから異臭がして煙が出てきました。慌ててラジオからRB-9090を取り外して、ラジオの電源を入れてみるとラジオは正常で運よく故障を免れました。故障の原因がRP-7500なのかRB-9090なのかわかりませんが、給電にかかわる故障のようです。

ステレオキャストRB-9090を分解してみました。プリント基板やステレオジャックが隙間なく配置されているので取り出しは大変です。SANYOのステレオアダプタRB-9090はSONY STA-50,STA-60と違い接続プラグが2本出ています。まず最初にこのプラグの接続構成を調べてみました。

ラジオからRB-9090へ給電するための+5.5VとMPX信号は上の図のようにプラグと結線されていました。太いプラグは一般的なラジオのMPX OUTに相当します。そのまま、FMアダプタと接続することもできるようです。RB-9090は電源が不要で電池交換しなくていいので非常にありがたいのですが、今回はこの機能があだになったようです。

 
RP-7500のMPX OUT(太いプラグ)をスペアナで観測してみました。L+R(50Hz~15kHz)、パイロット信号(19kHz)、L-R(23kHz~53kHz)のMPX信号が正常に出力されていることがわかります。

ダメージを受けた箇所が判明しました。RB-9090を接続して過電流が流れスピーカー下のトランス左の抵抗から煙がでたようです。

RB-9090を調べてみたところ故障原因は配線が外れ電源がショートしていました。上の写真は絶縁チューブをかぶせて再配線した様子です。

いい機会なのでプリント基板を見てみるとSANYO A3311というMPX-ICか使われていました。トランジスタ2SB187と黄色い出力トランスとコイルで構成されています。ステレオランプは麦球が使われています。

 

 修理が終わりヘッドホンでFMステレオ放送を聴いてみます。ステレオランプがほんのり赤く光っています。電波が弱いとノイズが多くなり使えません。強電界の放送局ではステレオ放送が十二分に楽しめます。しかしステレオ放送なのでセパレーションが調整できているか気になるところです。テスト信号を流して測定してみると少し左右に信号が漏れています。RP-9090のコイルを赤⇒黄色⇒黒の順に測定器を見ながら調整します。調整が終わったラジオのFMステレオ放送は楽しくていつまでも聞いていたくなります。

70年代のトランジスタラジオ 全盛期に発売されたRP-7500は本当に個性豊かな製品です。今でも色褪せることのないデザインや機能そして操作感を十分に堪能することができます。