2023/06/28

TRIO トリオ FX-5 真空管FMステレオ・チューナー(高級パーツへの交換と性能)

 

TRIO トリオ FX-5 真空管FMステレオ・チューナーの紹介です。1964年、19,500円のFMステレオ・チューナーです。TRIOの真空管式チューナーの中でも、数多く修理した製品です。

背面はアンテナ端子と出力端子だけですが、RCA金プラグに交換されいます。

電源部に6X4、IF回路は6AQ8,6BA6,6BA6,6BA6、AFC回路に6AQ8、MPX回路に6AU6,6BL8の真空管と1N60×4のマトリクスで構成されています。

このFMチューナーは凄い改造がしてあります。まず最初は高級なマイカコンデンサや抵抗に交換してあります。次にFMチューナーでは初めて見ましたが真空管ヒーターを直流点火しています。徹底的に拘って改造してある思い入れがすごいチューナーに出会ったものです。

高級な部品まそのまま使い、ブロック電解コンデンサを交換します。

今回も1箇所、はんだ不良を発見しました。配線がグラグラしています。

修理後に通電試験をします。0.6Aで安定しましたので正常のようです。各電圧を測定します。MPX回路の6AU6の電圧が高く真空管不良のため交換します。受信感度、セパレーションを調整します。セパレーション感度を上げるとサッーというノイズが発生するようです。MPX回路のバランスが崩れている模様です。MPX回路はダイオードも含めて全て部品交換した関係で正確にステレオ変換できずにノイズが発生したものかと思います。また、B電源がやや高い電圧であることも影響していると思います。故障以外ではMPX回路は触ってはいけなかったかと思います。高級なパーツへの交換が性能を落とす残念な結果になったようです。これ以上の修理は、時間と気力が持ちそうにありませんので断念です。セパレーションはそこそこ確保できるので、このまま使用しても問題ないかと思います。

ヒヤリングしてみます。中低音が厚く落ち着いた音色のチューナーに仕上がっています。もう少しはなやかな高域と奥行がでていればよかったかと思います。改造の内容を見ると前オーナーさんは真空管アンプの製作が得意の方だったのではと想像しています。FMチューナーは通信機なので忠実に復調してマトリクス回路で正確にステレオ変換させる必要があります。正しい動作を第一優先として、部品交換による音質改善には2の次だと思っています。せっかく拘り抜いて改造されたチューナーでしたが、回路が正確に動作せず非常に残念な気持ちです。音質を確認しながら少しづつ改造していただけたら、すばらしいチューナーになっていたかと思います。

2023/06/04

SONY ソニー TA-1150 プリメインアンプ(ボリュームの修理)

 SONY ソニー TA-1150 プリメインアンプの紹介です。1973年、49,800円の製品です。前回修理したTA-1150はCX0462,CX0461が故障したジャンク品でした。2代目のTA-1150ははどんな状態なのか気になります。

内部を見ると前回の製品より状態は良さそうです。ただし、ホコリをふき取った跡や熱保障のトランジスタ が交換されています。修理したのにどうして手放したのか不安がよぎります。

電源を入れてこれ以上のダメージを与えたくないので、パワーアンプの劣化部品を交換します。交換後にトーンコントロール用IC CX0462が故障してないか確認します。CX0462の出力が正常のようです。レコードプレーヤーを繋ぎCX0461の出力を確認すると、このICも正常です。この2つの重要なICが正常なので本格的に修理します。TONE回路、EQ回路の劣化部品を交換します。左右のバイアスを調整します。

ヘッドホンでは音出しは正常なのでスピーカーをつないでみます。 電源ON時にスピーカーが激しく揺れるほどの爆音がでます。その後は何事もなかったように正常に復帰します。しかし、電源ONのたびに爆音では使えません。この現象は過去の経験から思い当たる節があります。接点復活剤を過剰にスプレーして絶縁不良で内部ショートすることで爆音がでます。全面パネルからボリューム基板を取り外すと、ボリューム前面や下に滴るほどの接点復活剤がスプレーされていました。バランスボリュームもベタベタです。この状態ではショートするのも当たり前です。また、ボリュームを操作すると大きなノイズが発生して不安定です。


重症なのでボリュームをプリント基盤から取り外して分解します。内部も接点復活剤でベトベトです。部品1つ1つを丁寧にふき取ります。清掃中に端子とカーボン抵抗のハトメが折れているのに気づきました。この箇所はハンダは乗らないので再度ハトメで圧着するしかないのですが、プリント配線が完全に切れています。これでは修理できません。

散々考えたあげく、ふと気づいたのかTA-1150のスライド・ボリュームはなぜ4連なのかと言うことです。通常のアンプであれば2連で事足ります。4CHサラウンドのために4連になっているようです。

回路図を見ると前面パネルのMODEスイッチを4CH MASTERに選択して背面パネルの4CH BACKのINとOUTをボリュームとラウドネス回路を介して接続するだけの機能のようです。4CH側の回路は他とは切り離されていて独立していますので、4CH側のボリュームを故障したボリュームに流用して修理することにしました。今の時代ではTA-1150で4CHスイッチを使う人は皆無だと思いますので使い勝手に影響はでないかと思います。4CH用ボリュームに配線を変更します。

ヒヤリングしてみます。ボリューム流用による修理は成功したようです。電源ON時の爆音やボリューム操作時の大きなノイズや不安定さもなくなりました。TA-1150の音質は上下に帯域も広く高域がキラキラした特徴があります。奥行きもしっかり表現するいいアンプです。個人的にはもう少し低音の量感が出たバランスのほうが良かったかと思います。TA-1150のパネルデザインのイメージの音なのかもしれません。通常、プリメインアンプでボリュームの故障は致命的です。TA-1150に関してはレアケースですが内部部品との交換で修理可能でした。改造の難易度も低くボリューム故障にお悩みの方には参考になるかと思います。

2023/05/07

PIONEER パイオニア A-X730 プリメインアンプ(ジャンパーピンの製作)

PIONEER パイオニア A-X730 プリメインアンプの紹介です。1987年の製品です。パイオニアのプライベート・プロシリーズのシステムコンポのプリメインアンプです。プライベート・プロは単体コンポの性能をそのままに小型化したシステムコンポです。そのためA-X730はW360×H135×D315mmですが重さ11kgと重量級です。 

このアンプは全面パネルと背面パネルを取り外さないと中の基板が取り出せない構造になっています。購入時は埃がいっぱいなので分解して清掃します。内部を確認しますが部品の劣化や損傷はない様に見えます。ヒューズも切れていません。

試しに電源を入れてみます。保護回路のリレーは正常に動作します。チューナーを接続しますが音が出ません。プリアンプ部とパワーアンプ部の接続箇所で故障の切り分けをします。背面パネルのジャンパーピンがありません。応急処置としてRCAステレオケーブルで接続します。正常に音が出ます。ノイズもありません。ボタン類の動作も正常です。「音が出ません」とのジャック品を購入したのですが修理する箇所もなく拍子抜けです。

材質が2種類のジャンパーピンを製作します。ホームセンターでは3mmのアルミ製丸棒しか販売していないのでアルミ製を購入しました。後日、3mmの銅製丸棒はAmazonで見つけたので購入しました。 RCAピンジャックの間隔に合わせ丸棒を折り曲げて製作します。アルミ製丸棒は柔らかいので加工しやすいですが、銅製丸棒は固く作業が大変です。

製作後、念のためにテスターで抵抗を測定します。アルミ製1.2Ω、銅製1.2Ωと差はありませんでした。

 
上の写真は銅製ジャンパーピンを挿入した様子です。

最初に銅製ジャンパーピンでヒヤリングします。高音はきめが細かく繊細で気持ちの良い音がします。響きもよく量感も十分感じられます。次にアルミ製ジャンパーピンをヒヤリングします。高音のきめ細かさは減少して粒子が粗くなった印象です。量感も大幅に減少して痩せた音がします。 短い配線ですがジャンパーピンは音質に大きく影響するようです。もしくはA-X730が優秀なので聴き比べすることが出来たのかもしれません。

前回のSANSUI AU-207IIとは音の出かたが全く異なります。AU-207IIは音楽性重視、A-X730は余分な音を徹底して排除した原音重視なのでしょう。音づくりの方向性が全く違うように感じられます。どちらのアンプも音楽を楽しく聴かせてくれます。何が正しいのか迷うところがオーディオの奥深いところです。80年代末期のA-X730は純粋なオーディオ機器の流れを汲む良質の製品かと思います。

TRIO トリオ FX-7T(初代トランジスタ式FMチューナー)

TRIO トリオ FX-7Tの紹介です。1965年、43,900円の製品です。トリオの初代トランジスタ式・FMチューナーになります。外観はFX-6などと似たデザインを採用したアルミパネルが美しいチューナーです。当時は真空管式とトランジスタ式が乱立して登場していた技術の節目の時期にあたります。トランジスタを採用した多くのアンプやチューナーが雑誌を賑わしていました。FX-7Tはアナログ・チューナーとしては古い製品です。大型で性能の劣るチューナーと思われているのか安価で人気がありません。私にとっては貴重なチューナーなので修理したいと思います。 

ブロック電解コンデンサの液漏れや電解コンデンサの発熱によるカバーのめくれがみられます。アンテナ用同軸ケーブルの切断とAC100V端子によるケーブル被覆の絶縁破壊による短絡などの危険な故障もみられます。

劣化部品は全て交換します。ブロック電解コンデンサは4700μFに容量を増やして交換します。アンテナ用同軸も新しく張り直しします。 照明のガラス管ヒューズ電球もガラス面が黒く変色しているので交換します。

劣化部品等の修理も終わり次は電源試験です。0.27Aで正常です。受信感度やセパレーション、トラッキング等を調整します。

 MUTING(スケルチ)ツマミをまわしても局間ノイズが消えません。MUTING基板の半固定抵抗を回しても反応なしです。プリント基板の半固定抵抗をよく見ると回転ブラシの接触面が曲がり断線状態です。 半固定抵抗を交換します。交換後はMUTINGの感度調整ができるようになり局間ノイズを消すことができました。ただし、MUTING回路の影響でチューナーは再調整する必要があります。

前面パネルの文字がほとんど残っていません。アルミパネルに文字を彫り込むタイプではないため摩耗したようです。文字の修復にはレタリングより簡単な透明黒字のテプラを使います。上の写真は文字をテプラで修復したものです。

修理が終わりヒヤリングです。中音に厚みのある落ち着いた雰囲気を持っています。エージングが進むと音の見通しが良くなります。不思議と真空管式チューナーと似たような音の傾向です。このチューナーはもう少し高音寄りのバランスでも良かったと思います。当時のTRIOはチューナーに限っては真空管よりトランジスタの方が優位性があると全面的に移行しています。その後、トランジスタ式チューナーはFX-7T以降に機能・性能を大幅に改善されてゆきます。技術の変遷期に登場したTRIOの記念すべき初代トランジスタ式・FMチューナーです。貴重なFX-7Tは修理して大切に使ってほしいものです。

2023/05/05

SANSUI サンスイ AU-207Ⅱ プリメイン・アンプ

SANSUI サンスイ AU-207Ⅱ プリメイン・アンプの紹介です。1979年 34,000円の製品です。昔、SANSUIのアンプを使っていたことがあり懐かしくなり購入しました。ブラック・パネルは定番です。さすがにこのクラスではツマミはプラスチック製が採用されています。しかしツマミの感触は良く操作感も良好です。

薄型のアンプなので内部のつくりに興味津々です。大型の電源トランスにパワートランジスタ(2SB545A/2SD188A)、アルミ製ヒートシンクでシャーシを補強する構造になっています。回路はシンプルでもう少し凝った回路を想像してたので意外でした。しかし個人的には好感のもてる回路構成です。

 
電源回路は目的別にフォノイコライザー、プリアンプ、パワーアンプに区分されています。内部を見ても触った痕跡はありません。ヒューズ切れはなく見た目には損傷はなさそうです。プリント基板の電解コンデンサの一部に被覆が熱でめくれているものがあります。劣化部品は全て交換します。

劣化部品を交換してから電源を入れてみます。電流値は0.3Aで正常のようです。保護回路のリレーが正常に動作します。電源回路の出力電圧も正常です。AUX1kHzを入力してみるとRchはきれいな正弦波で正常ですがLchは波形も小さく大きく歪んでいます。Lch回路の各電圧を測定しますが微妙に全ての数値が違います。なかなか故障箇所が特定できません。

結論から言うとLchの82Ωの抵抗が断線と10kΩに劣化しています。抵抗を交換して波形が正常に出力しました。念のためRchの抵抗を取り外して測定すると同じく断線と2kΩに劣化しています。抵抗が断線でもRchから出力していたのが理解不能です。更にRchとLchの220Ωは4本とも全て断線を確認しました。この抵抗を交換すると低音がでるようになり音質が激変です。バイアスは7mVに合わせます。回路図には故障した抵抗に赤丸マークを入れてあります。経年劣化で回路が不安定になりトランジスタに大きな電流が流れてW数の小さい抵抗が損傷した模様です。

次に音質の確認をします。左右ともにノイズが出ています。ノイズはプリアンプ部の2SC1845のトランジスタ交換で解決しました。更に長時間ヒヤリングしていると右側の高域で滲みでるような歪みが聴こえます。基板を良く見ると右端奥の3.3μF電解コンデンサの交換を忘れていました。すぐに交換して歪みは完全になくなりました。

修理が終わりヒヤリングをします。AU-207IIは音のバランスも良く過不足は感じられません。バイアス調整により音に深みが出ています。ジャンルを選ばす良質の音楽を聴かせてくれます。上位機種と比べれば音全体に不満は感じます。しかしAU-207II単体だけのヒヤリングで不満を感じる人は少ないと思います。AU-207IIは低価格帯ですが音楽性をもった良く出来たアンプです。

2023/04/28

NATIONAL ナショナル SH-300 真空管FMマルチプレックス・アダプタ

 NATIONAL ナショナル SH-300 真空管FMマルチプレックス・アダプタの紹介です。1964年頃、6,500円の製品です。ナショナル家具調ステレオSE-8800、SE-7500DSE-7700などのスピーカー内側の底板の上にSH-300を設置することでFMステレオ放送を聴くことができました。また、SE-8800などの高級機種には最初から内蔵されています。SH-300本体をオークションで見るのは大変珍しいので購入しました。上の写真で右側がSH-300、左側は今回自作した専用ケースになります。

ナショナル RD-511と酷似した回路を採用しています。RD-511はプリント基板ですがSH-300は全て手配線なので音の違いに興味が沸きます。また、RD-511は6BA6,12AT7,12AX7でSH-300は6BA6,12AX7,12AU7と真空管の構成にも違いがあります。

今回、入手したのはSH-300本体のみでUSプラグも取り外されているジャンク品です。コイルの端子破損(コイル切断)、ネジ付きフェライトコアを強引に引き抜いたのか座金の残骸とコアなしでボビン破損など多くの修理が必要な製品です。今回は、SH-300を修理して外付けFMマルチプレックス・アダプタを製作したいと思います。

写真左側の端子が破損したコイルです。補強用の軸を入れて破損した端子をボンドでボビンに固定します。切断されていた極細のエナメル線の被膜を紙やすりで慎重にはがして端子にハンダ付けします。コイルから外れている配線は回路図をみながら巻線方向を間違えないようにハンダ付けすれば終了です。次に写真右側の固定金物とネジ付きフェライトコアが欠損しているコイルには、手持ちの部品を移植しました。SH-300の一番重要な箇所の修理は終了です。 

内部を見ると電解コンデンサが発熱で被覆がめくれています。シャーシの側面の金属板の欠損もみられます。その他ペーパーコンデンサーなどの劣化部品は全て交換します。

SH-300本体と電源回路を組み込むには、高さ12cm以上で通気の良いケースが必要になります。市販品で程よい大きさのケースが見つからず自作することにしました。部品配置を決めてから500円の板を裁断して底板、側板を切り出します。全面はアルミ板、天板はパンチ穴のあるステンレス板を使います。側板は水性の着色剤でマホガニーブラウンで仕上げてみました。底板は無垢のままで、全面パネルと底板は1cmほど離して下からの空気穴を確保します。

手持ちの電源トランス、電解コンデンサ64μF×2、整流用ダイオードと抵抗をラグ板に配置してヒューズを付けた電源回路を製作します。全面パネルには、真空管ラジオから取り外した回転式の電源スイッチとネオンランプを取り付けます。全面にOUTPUT端子を設置したのは、SH-300の構造ではOUTPUT(前)とMPX IN(後)がシャーシの両端に位置する関係からです。B電源とヒーターの電源配線と入出力の配線をすれば完成です。回路をよく見るとセパレーション調整用の半固定抵抗の配線が欠損しています。また、行先不明の電解コンデンサーが1個、B電源の誤配線などを見つけました。これらを回路図どおりに修理して本当の完成です。

電源試験では0.39Aで安定しました。B電源は120Vの想定のところ135Vなのですが後で修理とします。次に動作確認をします。MPX INとFMチューナーのMPX OUTを接続してOUTPUT端子に簡易モニターを入れてみます。Lch,RchともにFM放送を聞くことができます。修理に大きな間違いはなかった模様です。SH-300に測定器を入れてコイルの調整をします。セパレーションは10dBほどしか確保できません。B電源の電圧の影響かもしれません。135Vから120V(回路図の規定の数値)に変更します。再度、セパレーションを調整すると35dB以上を確保することができました。電源電圧の影響は大きかったです。

調整も終わりヒヤリングです。ややエコーがかかった様な音質が不自然です。RD-511では外部のオーディオ機器との接続には100kΩの抵抗をOUTPUTに付加する必要があります。SH-300も同じかもしれません。OUTPUTに並列で100kΩの抵抗を挿入してから再度ヒヤリングです。ややエコーがかった音は解消しました。出力はやや小さくもう少し音量は大きいほうが使いやすと思います。RD-511と同じ傾向の音色です。ノイズは感じられずS/Nは良好です。スッキリした音で高音がシャープで気持ちの良い響きです。中音は繊細で充実しています。低音は締まっていますがう少し量感がほしいところです。音に艶があり音楽を美しい響きで聴かせてくれるFMアダプタです。セパレーションの調整により奥行が感じられるように変化しました。動作には安定感があります。SH-300は優秀なFMアダプタだと思います。

コイルなどの補修部品や回路図をもっていないと修理が難しい製品です。ジャンク品が蘇り同じ年代のTRIO AD-5と並べて眺めているのは楽しいものです。管式FMアダプタは流通している品数が少なく今では貴重な製品だと思います。