2025/06/13

STAR(富士製作所)FM-121 真空管FMチューナー(MPX OUTを付加)

 

 STAR FM-121真空管FMチューナーの紹介です。1958年、9,100円のSTAR(富士製作所)のキット製品です。シンプルなデザインと堅牢なシャーシのFMチューナーです。前面パネルを見ると当時のFM周波数は狭く80MHz~90MHz対応です。パネルのダイヤルスケールにはランプ照明があり夜間操作や電源ランプ兼用で使いやすい作りです。

 

6CB6,6AQ8,6U8,6AU6×2,6AL5の6球で3連バリコンの真空管式FMモノラル・チューナーです。キット製品とは思えない作りの本格的なFMチューナーです。内部シャーシはサビも少なく状態は良好です。

 
修理のため底板を外します。大きな損傷はみられませんが、一部回路が改造されていました。
1958年発売の「無線と實験 401回路集」にFM-121の回路図が掲載されています。また、付属として「実体配線図」と「実態配線写真」のA2資料が同梱されていました。この資料により改造されたチューナー修理が非常に楽になります。
 

FM-121にはセレン整流器が使われていますが、耐用年数を大幅に過ぎているので交換します。
何故か検波回路がフォスターシーレー方式からレシオ方式に変更されていたのが気になります。オリジナルはフォスターシーレー方式です。 
改造箇所を回路図どおりに修復します。修理中に3箇所ハンダ不良で断線を発見してました。過去のキット製品でもハンダ不良が多いです。また、配線をむき出しで途中接続している箇所が数か所あります。接触の危険があるので配線は張り直しです。部品取付けにエンパイアチューブが使われていないので裸線が交差する危険な箇所が見受けられます。
上の図はFM-121の検波回路の抜粋です。FM-121が発売された当時はモノラルFM放送しかない時代の回路構成です。
上の回路図はMPX OUTを付加しています。FMマルチプレックス・アダプターを接続してFMステレオ放送を聞けるようになります。FMチューナーにMPX OUTを付加するのは非常に簡単で5.6kΩ抵抗を1本追加するだけです。

PU端子は空き端子としてTAPE端子をMPX OUT端子として利用します。

MPX OUTにTRIO AD-5を接続して試験します。セパレーションは良好で30dB以上を確保できます。思った以上に優秀な性能です。ヒヤリングします。FM特有のクリアな音質でサッーというノイズは感じられません。少しサ音が気になります。奥行や深みもありステレオ感は良好でした。出力波形を観測すると正弦波が少し変形しているのがサ音が強く感じる要因かと思います。IF段のコンデンサなど回路の微調整の余地がありそうです。

 
1958年のキットですが技術的に完成された製品です。外観はシンプルですが、自作の製品とは違いガッシリした鉄製のカバーやパネルによ洗練された雰囲気を持っています。FM-121のようにケースを含めたFMチューナー・キットは今でも欲しい製品です。60年以上経過しても状態も良く大切に使い保管されていたチューナーかと思います。修理により10年先、20年先と使えるようになったSTAR FM-121の紹介でした。

2025/06/07

SANSUI MP-2 FMマルチプレックス・アダプタ

 

 SANSUI MP-2 FMマルチプレックス・アダプタの紹介です。1963年頃、11,000円の製品になります。当時はチューナーFM-8とMP-2のセットでFMステレオ放送を聞くことができました。

最初にカバーを外してみます。見た目でコンデンサが劣化しています。

 

 電源入れてみたところ、数値が落ち着くまで時間がかかりすぎます。電源部の修理も必要のようです。

カバーの裏には回路図が貼られています。初期のMP-2の回路図で実際の回路図とは異なります。

 

 電波実験・新ステレオ回路集(昭和39年)にMP-2回路図が掲載されています。ステレオランプの点灯方法が、前期は直接ネオンランプ点灯、後期はリレーによるランプ点灯と機能が異なることです。

ただし、この新しい回路図と実回路を比較すると更に相違点があります。回路図の真空管構成は、12AX76BL8、12AX7ですが実回路では12AT7、6BL8、12AU7の構成でした。

修理のため劣化部品を全て交換します。

試験しますがディメンション・ボリュームのガリがひどいです。 また、ディメンション・ボリュームの影響で19kHzパイロット信号のレベルが低すぎてモノラルしか出力できない状態です。

 

故障したディメンション・ボリュームは10kΩ(A)へと過去に交換されたものです。修理のため回路図どおりの500kΩ(A)に交換します。ディメンション・ボリュームの交換によりパイロット信号レベルが10dB以上高くなりステレオ出力できるようになります。MP-2のディメンション・ボリュームを右に回すと全体のレベルが下がります。一定のレベルに下がるとパイロット信号が検出できなくなり、ステレオからモノラルに切替ります。癖の強いディメンションなので操作には注意が必要です。

 

 コイルでセパレーションを調整します。

ステレオ出力はするのですがステレオランプが点灯しません。パイロット信号のレベルが低すぎてリレーが動作しないです。調整だけでは改善出来ませんでした。

 

そこで、初段の12AT7を12AX7に交換します。レベルが上がりステレオランプが点灯するようになります。

レベルを上げるもう一つの方法があります。上の写真はTU-70の回路図です。MP-2はTU-70の回路とほぼ同じです。違う点はTU-70の6BL8カソードに5μFが入っていることです。MP-2にも同様に5μFを入れることで全体のレベルが上がり動作が安定します。 

 

ステレオランプの動作で悩みました。FM放送受信時にステレオかモノラルか判別できますが、FM放送がない周波数でもステレオランプは点灯したままになります。たぶん、当時はこれが正常動作なのだと思われます。但し、局間ノイズでリレーがON/OFFを繰り返すことがあるので、リレーにコンデンサを入れて対策します。

修理が終わったのでヒヤリングです。FMステレオ放送の音はすばらしいの一言です。ノイズ感は全く感じさせずクリアでみずみずしい高域と奥行のある豊かな音質です。調整を誤るとつまらない音になるので注意が必要です。製品を発売してから改良を重ねたMP-2ですが、音楽性豊かな製品に仕上がっています。今まで聞いた中で一番良い音のFMアダプタの修理でした。

2025/05/17

さぐり式鉱石検波器の製作(二作目とシリコン結晶)

さぐり式鉱石検波器の二作目の製作です。

今回の製作には上の写真の鉱石検波器を参考にしました。鉱石をネジ止めで検波針の調整しやすい構造です。

似た様な部品は入手できないのでスピーカー端子×4個を中心に製作します。全長50mm、直径10mm、M5ネジの金メッキのスピーカー端子を使用します。横穴を通したスピーカーケーブルを上のネジで締め付けるタイプの端子です。
2つのスピーカー端子を組み合わせると何となく探り式鉱石検波器の支柱部品として使えそうなのがわかります。
上の写真が部品一式です。木板×1、丸棒×2、スピーカー端子(金メッキ)×4,ワンタッチスピーカー端子×1、ゴム足×4、銅キャップ(直径10mm)×1、内径10mmのリング×1。
写真のタングステン線は使用しませんでした。ハンダ付けもできず取り付けが難しかったの今回はパスしました。
木版の穴あけと丸棒に穴をあけた支柱台を取り付けます。上の写真は塗装まで加工済みの状態です。

2本の支柱にはスピーカー端子を使います。取り付け後は横穴の高さを確認します。

 
スピーカー端子に鉱石を格納する銅製キャップを取り付けます。
上の写真は取り付けた様子です。

スピーカー端子に真鍮でコイル状のヒゲを取り付けます。ハンドル部分には黒い熱収縮チューブを被せてみました。
探り式鉱石検波器を組み上げた配線前の状態です。
配線は木版の裏が基本ですが銅製キャップだけは直接配線しています。

探り式の構造はネジを回すことで微妙な接触を調整できるのが良かったです。ただし、M5のネジと横穴で遊びがなく針先の可動域が小さいのが難点でした。

鉱石の受け皿は改善の余地がありそうです。鉱石の固定はハンダ付けではなくネジ式による挟み込みがよいのかもしれません。

鉱石の受け皿はすぐに取り外せる構造なので再度作り直しです。22mmの銅製キャップを使います。カップ状ですが深すぎるので5mm程カットしました。銅の加工は硬くて大変です。銅製キャップの底から支柱に固定するM5ネジを出します。鉱石の固定用にはM5ネジ1本で上から締め付ける構造です。鉱石の挟み込みにはネジが使えるようにM5ナットを銅製キャップとハンダ付けしました。

鉱石の受け皿の変更で鉱石の入替と見た目が各段に良くなった気がします。

電子ブロックのゲルマニウムラジオのダイオードと探り式鉱石検波器を入れ替えて実験します。①検波器の端子にダイオードを接触させてラジオ放送が聞こえることを確認します。②ラジオ放送が聞こえる状態でダイオードを外します。③探り式鉱石検波器で検波できるように調整します。以上の手順でラジオ放送が受信できます。製作したさぐり式鉱石検波器の操作感や感度もまずまずのようです。

一作目(左側)、二作目(右側)と並べてみました。性能は同じですが二作目は見た目だけが少しは進歩したのかもしれません。

DSPSDRが全盛の時代に探り式鉱石検波器はレトロすぎると感じるかもしれません。しかし、小さなダイオード1個の検波機能を実現するために多種多様の探り式鉱石検波器を作り出した先人の知恵と努力には頭が下がる思いです。それらの鉱石検波器も技術遺産の一つとして見ていただければと思います。二作目は既存部品(スピーカー端子×3個 )を使い複雑な支柱構造を簡単に作れるようにしました。誰でも1日程度で製作できるかと思いますので是非お試しください。

2025.5.24 高純度シリコン結晶 

高純度シリコン結晶を使ってみます。上の写真の左がシリコン結晶です。右側はハンマーで叩いて丁度良い大きさに加工したものです。 

 

シリコンと聞くとPN接合のダイオードが頭をよぎり無停電ラジオには向かないイメージがあります。しかし、点接触ダイオードやさぐり式鉱石検波器はショットキー接合で順方向電圧(Vf)特性が低いのが特徴です。そのため、シリコン結晶を使ってもさぐり式鉱石検波器の構造により無停電ラジオの検波は良好な動作となります。しかも、シリコン結晶はどの部分に針を当てても音の大小はありますが検波するのて通常の鉱石より扱いやすいです。1900年初頭の頃からシリコン結晶は知られていましたが現在の鉱石ラジオに使っている人は少ないかと思います。通販やオークションても入手できますし、Amazonでも「Si ≧99.99% 原石 結晶 高純度 ポリシリコン テラヘルツ波 高純度シリコン」の名称で50g約1300円ぐらいで購入できます。黄鉄鉱や方鉛鉱と比べてシリコン結晶は感度が高いので、さぐり式鉱石検波器に使ってみては如何でしょうか。鉱石ラジオから大きな音で放送が聞こえるので驚かれると思います。

2025/02/24

GE P740A ポケットラジオ(リードスピーカー搭載)

GE P740A ポケットラジオの紹介です。 1965年頃の8石トランジスタ、1ダイオードのラジオです。

内側にP740Pと印刷されています。

前面パネルには厚いアルミが使われていて触った感触がとても良いです。アルミメッシュのスピーカーカバーも厚手で凹みもなく綺麗な状態です。

プリント基板を見てもはんだ付けした後もなく、オリジナルの部品のままであることがわかります。保存状態も良くネジが1本錆びているだけでした。電池ボックスの金具は少しサビがある程度で良好です。 トランジスタにはRS3826などRS型番が搭載されています。

 

この頃のGEのラジオにはマグネチックスピーカーが搭載されています。回路図も公開されており、最終段がプッシュプルで出力トランスなしで高インピーダンス・スピーカーを駆動しています。

スピーカーを横から見ると振動棒が見えます。日本ではマグネチックスピーカーなどと言われていますが、海外のフォーラムを覗くとリードスピーカー(reed speaker)と呼ばれています。フォーラムに投稿されている方の情報によれば、 当時のGEからは高インピーダンスのリードスピーカーのラジオが130機種以上発売されていたそうです。おまけに該当機種の一覧まで掲載してくれているのには感謝です。

GEの高インピーダンススピーカーのインピーダンスが知りたかったので測定してみました。スピーカー端子の両端の直流抵抗は約16kΩです。

スピーカー片端とセンター間の直流抵抗は約8kΩです。

LCRテスターELC-121の機能は特殊でRレンジは1kHzのインピーダンスが測定できます。スピーカー片端とセンター間のインピーダンスは約44.6Ωです。

スピーカー片端とセンター間のインピーダンスは約17.1Ωです。

 

 再調整したラジオの受信性能は高く、電波難民の我が家でも楽々受信できるレベルです。最近のDSPラジオ以外で我が家で普通に受信できるラジオはほとんどありませんから、P740Aの性能はすばらしいの一言です。 

国内のラジオとは違いGE製は堅牢でしっかりした真面目な作りのラジオで個人的には気に入っています。

GEのラジオが入手できたら最初にスピーカーのマグネットの形状を確認してみてください。四角だったらマグネチックスピーカー(リードスピーカー)です。マグネチックスピーカーの独特の音色によるラジオを楽しむことが出来ます。