TRIO トリオ 真空管MA・FMマルチ・ステレオチューナー AFX-3を手に入れました。1963年頃の販売で価格は27800円の製品です。この頃になるとMPX機能を内蔵してFMステレオを出力できるチューナーへと進化しています。前面には連続可変のAFCコントロール(弱い電波の局の選局時、接近する強い電波の局がAFCの作用により引き込まれるのを防ぎ、適度にAFCをかける)、ビーム・インジケーター(マジックアイ)EM84によるFMステレオ・インジケーターの表示、ノイズ・フィルター機能が搭載されているのが特徴です。また、3連バリコンが採用されていますので、混信妨害やS/Nもそこそこの性能が期待でき、質の良いステレオ放送を聞くことができるFMチューナーです。
背面にはフェライト・バーが採用されていてAMの受信環境に合わせフェライト・バーの角度を変えることができとても便利です。
修理のために回路図は無線と実験 1964年5月号に掲載されていました。これで事前準備は万全です。
今回は冒険してAC電源コードが切断された AFX-3を購入してみました。オークションでAC電源コードが切断された製品を見ることがあるかと思います。製品の通電確認時に発熱・煙・音などの異常があり電源投入には危険が伴うと判断されると暗黙のルールでAC電源コードは切断して危険であることを知らせます。 経験則としてAC電源コードが切断されたトランジスタ製品の場合は内部に大きなダメージがあることが多いので購入することはありません。また、この当時のTRIOの製品には電源部にヒューズがないものが多く、故障には気がつかず部品の損傷に至ることがあるので要注意です。今回のような真空管製品だと電源投入から真空管が温まるまでの時間があり回路へのダメージが少ないうちに電源断できるので損傷は小さいとの期待値で購入してみました。
内部配線や部品類に異常がないかを入念に目視により確認します。
電源トランス117Vに接続された電解コンデンサが見事に破裂しているのを発見、側面が焼け焦げていますので劣化して内部ショートしたようです。それともう1つ電解コンデンサに小さな破裂がありました。このチューナーに通電した人は電解コンデンサの破裂音と煙を見て、躊躇なくAC電源コードを切断したのだと思います。ただし、今回の故障個所が電源トランス出力部だったのが非常にラッキーで、この個所なら他の回路に影響はほとんどないかと思います。
TRIOのチューナーはダイヤル目盛りのガラス板の両端を金物で固定しているので、取り外しが簡単で非常にありがたい作りになっています。ダイヤル目盛りのガラス板の両端がゴム製で固定している場合はゴムが劣化して取り外したら最後で修復が難しいものが多いのですが、TRIOの製品は細部まで良く考えて作られています。固定金物からダイヤル目盛りのガラス板を取り外して清掃します。そのほか、前面パネルにはサビが出ていますので研磨してアクリルスプレーで保護します。
シャーシとアンテナ支持金物にサビ止め塗装して補修すると見違えるようにきれいになります。外観の補修はこれくらいにして、次に回路の修理作業を始めます。
このFMチューナーは部品点数が多いですが劣化部品はすべて交換します。交換作業中に抵抗68kΩが内部で断線しているのを見つけたのでこれも交換します。抵抗の表面の色がわずかに焼けたように変色しているので、触ったところリード線がグラグラして内部で断線していました。見た目にはつながっているように見えるわかりにくい故障が早期に発見できたことで修理作業がひとつ楽になりました。また、糸掛けが黒い糸でめずらしいですが滑ってうまく選局できませんので久しぶりに糸の張替をしました。最後にリードタイプのヒューズボックスを取り付けて交換作業は終了です。電源装置に接続して一瞬だけチューナーに通電します。電流計は0.7Aで安定しました。電源関係で大きなトラブルはなさそうなので、各箇所で電圧を測定して異常がないか確認します。FMアンテナを接続して受信確認をします。受信感度はまずまずですがトラッキングがズレているの調整します。ビーム・インジケーター(マジックアイ)EM84による表示も写真のとおり正常に動作しました。
ステレオ装置に接続してFM放送のヒヤリングをすると変調したような歪んだ発振音が聞こえました。そこで、プリント基板のMPX回路に半固定抵抗がありましたので、これを調整して音出しは正常となりました。とても良い音です。次に我が家のAM電波環境はあまり良くありませんが、それなりに受信できるので調整してすべての作業は終了です。
ラジオ機器を修理していていつも思うのですが、民放のAM放送は2028年に廃止されワイドFMへ移行してしまいラジオを作る楽しみが大きく損なわれるのが残念です。AMラジオは製作が容易で入門には最適なので残念です。今回はACコードが切断されたチューナー修理でしたが、大きな損傷もない機器でいつもの修理と同じで無事終了できました。個人的に気に入っているTRIO初期型ステレオチューナーの名機AFX-3の修理は、何回やっても時を忘れさせてくれます。