2022/12/05

Technics テクニクス ST-8077(77T):MPX-IC故障

 

 Technics テクニクス ST-8077(77T)は1979年45,800円のクオーツ・シンセサイザーFM/AMステレオチューナーです。スリムで高さ53mmの超薄型アナログチューナーです。

 

 背面は、同軸ケーブルを直接接続するタイプですがF栓が良かったと思います。固定式のステレオOUTPUTとMULTIPATHの出力端子があります。このチューナーは珍しくMULTIPATHに4ch MPX OUTがあるので購入しました。

 

ジャンクで購入したのですがステレオランプが点灯しないため長期間保管していましたが、そろそろ修理することにしました。

 

 ST-8077を開けてみると、よく出来た構造でネジを外すだけでプリント基板と底板を簡単に分離できそうです。また、半固定抵抗VRにはプリント基板に機能名称が書かれているためマニュアルがなくてもある程度の調整をすることができます。非常に便利ですし間違えることもありません。

ST-8077のサービスマニュアルからの抜粋です。これだけの情報があるだけで調整するのが非常に楽になります。

しかし、今回はステレオランプが点灯しない故障なので試行錯誤の確認作業となります。単純にランプ切れもあるので、上の写真右下のLEDへ接続しているフラットケーブル31,35(共通)に電圧をかけてランプ確認します。正常に点灯します。

 
次に19kHzのパイロット信号の検出がズレていないかVCO(VR403)で調整しましす。しかし、この箇所でもなさそうです。ステレオランプが点灯していませんが、一応ステレオに分離しているか音声出力で確認しますがモノラル出力でした。
 
ST-8077はMPX ICにAN363Nを使っていますので、AN363Nを調べるしかなさそうです。だんだん深みにハマっていきそうです。上の写真はAN363Nの周辺の回路図です。
 
FM mode(S4スイッチ)では、AN363Nの10番ピンにアースを出せばモノラルになります。S4-1を操作してon/auto=1.3V、off/mono=0Vが測定できたので正常のようです。また、ランプ点灯の出力はAN363Nの6番ピンになりますが、電圧は0.2Vしかなくランプが点灯するはずもありません。
原因が全くわかりません。ここまでくるとAN363Nを交換してみるしかなさそうです。
 
ネットてAN363Nが100円で販売されていました。即、購入してAN363Nを交換しました。VCO(VR403)を再調整するとステレオランプが点灯しました。やっと、修理できたみたいです。音声出力もステレオに分離しています。トラッキングはズレていたので調整、ついでにセパレーションも調整しました。しかし、どうしてAN363Nが壊れていたのか原因は不明です。

AN363Nを交換修理しなくても本来の目的のTRIO AD-5(FMアダプタ)やSTAR製MU-34(自作FMアダプタ)と接続することができます。 ST-8077の4ch MPX OUTとFMアダプタを接続してFMステレオ放送を楽しんでいます。管式のFMステレオ放送の音が好きなんです。
 
そのため、デジタル・シンセサイザー・チューナーではTechnics S6,ONKYO Integra T-410TGなどを集めて使っています。この管式FMアダプタによるシステムの組み合わせは趣味の世界なので、異論があるかと思いますがご容赦ください。

2022/11/23

SANYO サンヨー TRANS WORLD Groovy M RP-7500

 

SANYO サンヨー TRANS WORLD Groovy M RP-7500の紹介です。1972年製、16300円のMW,SW,FMの3バンドラジオです。RP-7500にはステレオFM放送を聴くためのステレオキャスト(ステレオアダプター)RB9090 4900円も別売で用意されていました。SANYOさんは個性的なラジオが多いですがRP-7500もその1台です。このラジオの特徴はSTEREOCAST端子とFMトランスミッター機能を搭載していることです。FMトランスミッター機能なしはRP-7000となります。

黒にメタリックを多く使用したボディ中央に大型メーターを配置した華やかなデザインです。

右からPOWER,BAND、VOLUME,TREBLE,BASS,AFC、そしてSTEREOCASTが使いやすく配置されています。

中央右の大きくて見やすいメータはTUNE/BATTとLEVELに切り替えることができます。RP-7500の特徴の一つはFMトランスミッター機能で、PRESS TALKボタンを押すと78MHzでFM波を送信することができます。FMトランスミッター機能ではスピーカーをマイクとして使用するためマイクは搭載されていません。ダイヤル目盛りに青字で78とトランスミッターの周波数表示があり、ここにラジオを合わせることで2台をトランシバー的な使い方ができるようになっています。当時はFMワイヤレスマイク搭載のラジオが多く販売されて人気がありました。

ラジオ2台の周波数が混信しないように背面パネルにはトランスミッター周波数を微調整できるトリマが設けてあります。

別売:ステレオキャスト(ステレオアダプター)RB9090は長期保管していましたが使ったことありません。ステレオキャストを試すためにRP-7500のジャンク品を購入してみました。 ステレオキャスト対応機種は私が知っている限り次のとおりです。RP6000,RP6600,RP7000,RP7410,RP7500,RP7600,RP7700,RP8200,RM8200。また、ステレオキャストを内蔵している ステレオマルチ端子つき対応機種は17F-888V,10F-B56になります。これらはステレオラジカセが発売されるまでの過渡期を彩ったラジオ製品群になります。

さっそくRP-7500のSTEREOCASTの上蓋を開けてRB-9090を接続してみました。ラジオの電源を入れてもRB-9090から音がでません。全くの無音です。そして、あろうことかラジオから異臭がして煙が出てきました。慌ててラジオからRB-9090を取り外して、ラジオの電源を入れてみるとラジオは正常で運よく故障を免れました。故障の原因がRP-7500なのかRB-9090なのかわかりませんが、給電にかかわる故障のようです。

ステレオキャストRB-9090を分解してみました。プリント基板やステレオジャックが隙間なく配置されているので取り出しは大変です。SANYOのステレオアダプタRB-9090はSONY STA-50,STA-60と違い接続プラグが2本出ています。まず最初にこのプラグの接続構成を調べてみました。

ラジオからRB-9090へ給電するための+5.5VとMPX信号は上の図のようにプラグと結線されていました。太いプラグは一般的なラジオのMPX OUTに相当します。そのまま、FMアダプタと接続することもできるようです。RB-9090は電源が不要で電池交換しなくていいので非常にありがたいのですが、今回はこの機能があだになったようです。

 
RP-7500のMPX OUT(太いプラグ)をスペアナで観測してみました。L+R(50Hz~15kHz)、パイロット信号(19kHz)、L-R(23kHz~53kHz)のMPX信号が正常に出力されていることがわかります。

ダメージを受けた箇所が判明しました。RB-9090を接続して過電流が流れスピーカー下のトランス左の抵抗から煙がでたようです。

RB-9090を調べてみたところ故障原因は配線が外れ電源がショートしていました。上の写真は絶縁チューブをかぶせて再配線した様子です。

いい機会なのでプリント基板を見てみるとSANYO A3311というMPX-ICか使われていました。トランジスタ2SB187と黄色い出力トランスとコイルで構成されています。ステレオランプは麦球が使われています。

 

 修理が終わりヘッドホンでFMステレオ放送を聴いてみます。ステレオランプがほんのり赤く光っています。電波が弱いとノイズが多くなり使えません。強電界の放送局ではステレオ放送が十二分に楽しめます。しかしステレオ放送なのでセパレーションが調整できているか気になるところです。テスト信号を流して測定してみると少し左右に信号が漏れています。RP-9090のコイルを赤⇒黄色⇒黒の順に測定器を見ながら調整します。調整が終わったラジオのFMステレオ放送は楽しくていつまでも聞いていたくなります。

70年代のトランジスタラジオ 全盛期に発売されたRP-7500は本当に個性豊かな製品です。今でも色褪せることのないデザインや機能そして操作感を十分に堪能することができます。

2022/11/18

NATIONAL ナショナル RF-620

NATIONAL PANASONIC MODEL RF-620 トランジスタ・ラジオの紹介です。ナショナルのカタログに掲載されているので1968年頃の製品かと思います。当時、7900円の販売価格なので小型ですが高額なラジオです。私は短波(SW)で株価など聞かないので、FM-AM 2BAND搭載が当時からほしかったラジオでした。意外にFM-AM 2BANDのみのラジオは少ないと思います。2BANDに機能を限定したおかげで、FMの受信感度は高く良好です。ナショナルは1つ1つの機能も高く丈夫で壊れない製品のイメージです。オーソドックスですが洗練されたデザインの製品をテレビCMやスポンサー番組で紹介していました。ナショナル・ブランドの人気と知名度は絶大で、他社製品と比較するための一つの目安になっていました。また、製品に遊び心はあるのですが未成熟な機能提供やデザインでの冒険は絶対やらない手堅さがどの製品からも感じられます。

チューニングは大きなローラー式ダイヤルで操作感は非常にいいです。ダイヤル目盛りも大きく選局しやすいですね。

左サイドにはスイッチ付きボリュームとイヤホン端子、DC9V外部電源端子まで付いていました。ロッド・アンテナは折りたたんでラジオの高さを10cmになんとか収めたようです。

 背面には昔のラジオに多くみられたFM-AM切り替えスイッチがあります。

 

NATIONAL PANASONIC のブランド文字があるので海外へ輸出もしていたのでしょうか。乾電池006P(9V)を使いますが、ナショナルハイトップと自社製品を記載しているのが面白いです。電気屋さんにナショナルハイトップの006Pくださいと言えばよかったのでしょうね。最後にMADE IN JAPANが当たり前だった懐かしい文字です。

 

電池交換には裏蓋を開ける必要があります。バリコンの両脇にはメタルのFETが見えるので初段はFETで好感度なのでしょう。メタルのゲルマニウム・トランジスタも見えるので昔のラジオだと一目瞭然ですね。小型IFTを採用して部品を高密度に実装できるように頑張ってます。

 
真横から見るとバリコンと006P電池でラジオの厚みが決まったようです。空いた空間を利用してスピーカーの上に電解コンデンサ2個を無理やり実装しています。
 
ラジオを分解すると、こんな感じです。

小いさくてもダイヤル針は糸掛け構造で巧妙に動かしてます。

このラジオは故障が少ないのですが、FM-AM切り替えスイッチの接触不良で使えなくなりました。

スイッチをプリント基板から取り外します。スイッチの足が12本もあるので取り外しは大変です。スイッチを分解してコンタクトスプレーを綿棒に付けて接点を磨きます。接点に汚れが固着していて、実装したままスプレーしても接触不良は治りません。修理には分解清掃が必要です。

折角なのでボリュームも保護カバーを外してコンタクトスプレーを綿棒に付けて接点を磨きます。これでボリュームのガリは解消します。

簡単な分解修理でRF-620が復活しました。古さを感じさせない軽快な操作感です。丈夫なところはさすがナショナル製品です。この時代のラジオにはそれぞれ個性があり、見て触って楽しい製品が多いから好きです。ただラジオを見て昔が懐かしいだけではありません。当時のラジオ品質の高さを今になってしみじみ感じるからです。

2022/11/04

TRIO トリオ FX-46K FMマルチステレオチューナー(痛恨の製作ミス)

1966年頃(17,900円)に販売されたTRIO トリオ FX-46K FMマルチステレオチューナーです。

 プリメインアンプW-46とペアになるFMチューナーFX-46のキット製品になります。ラジオ雑誌の46シリーズの広告記事です。当時、このような広告をみたら誰でも欲しくなります。FX-46Kはオーディオ機器として見栄えのするフロントパネルで、AFC、ノイズフルター、レベルメータ、ステレオランプなど必要十分な機能を搭載した完成されたFMチューナーです。

背面にはアンテナ端子とステレオ出力端子があります。赤いRCAケーブはオリジナルにありませんので、内部回路を見てどんな改造をしたのか確認する必要がありそうです。

 

右側は6AQ8×2による3連バリコンのフロントエンドです。プリント基板には6BA6×4から構成されるIF部です。左下はMPX部で6AW8A,6AN8で構成されています。

内部回路はプリント基板のおかげでスッキリした配線になっています。

謎だった赤いRCAケーブルの接続先には可変抵抗とコンデンサ等が接続されていて、MPX出力回路を構成しているようです。ステレオチューナーにわざわざMPX出力回路を追加したのは更に謎です。

まずはシャーシの清掃からです。

次にフロントパネルを外してダイヤルスケールのガラスなどの清掃をします。ガラス板を保護するゴムがボロボロになっているので交換します。

  

最後に劣化部品を全て交換します。ここで製作当時のミスを発見しました。上の写真をご覧ください。特に整流回路のダイオードと端子板のハンダ付けに注目です。 一見正しくハンダ付けされていように見えます。

 
1本のダイオードは端子板に巻き付けてあるだけで、ハンダ付けがされていませんでした。TRIOのキットでは多くみられるハンダ付け不良です。このハンダ付け不良は劣化部品を交換している最中に部品がグラグラするので気づきました。端子板の真横からみてもハンダ付けされているように見えます。FX-46Kの製作者さんの痛恨の製作ミスのようです。ワット数が小さな半田ごてを使用して熱がよく伝わらなかったのだと思います。電源回路は半波整流となって電圧が下がりチューナーの音質に大きな影響を与えたのだと想像しました。製作者さんはFX-46KのMPX回路不良を疑ってMPX出力回路を追加したのだと思います。MPX回路は規定の電圧でないと正しく動作せず、セパレーションが悪化します。
MPX回路は取り外し、劣化部品は全て交換しました。

ここまでの作業をしてから初めて電源を入れます。0.6A流れ安定しました。各回路の電圧を測り正常のようです。チューニングとして受信感度、トラッキング、セパレーションなどを調整します。

FMステレオ放送をヒヤリングしてみます。FX-102Kとは違った落ち着きのあるFM放送を聴かせてくれます。同じTRIOの製品でも音質は機種ごとに個性があるのがおもしろいところです。

完成後の真空管チューナーの姿はいつも見ても美しいです。当時は高額だった真空管FM専用チューナーの製作ミスにより思い描いたFM放送を聴くことができなかった製作者さんを思うと気の毒な限りです。今まで数多く修理をしていると以前のオーナーさんの使い方がなんとなくわかるときがあります。今回の修理したFX-46KでFM放送を聴かせてあげたかったと思う気持ちは私だけでしょうか。