2023/05/07

TRIO トリオ FX-7T(初代トランジスタ式FMチューナー)

TRIO トリオ FX-7Tの紹介です。1965年、43,900円の製品です。トリオの初代トランジスタ式・FMチューナーになります。外観はFX-6などと似たデザインを採用したアルミパネルが美しいチューナーです。当時は真空管式とトランジスタ式が乱立して登場していた技術の節目の時期にあたります。トランジスタを採用した多くのアンプやチューナーが雑誌を賑わしていました。FX-7Tはアナログ・チューナーとしては古い製品です。大型で性能の劣るチューナーと思われているのか安価で人気がありません。私にとっては貴重なチューナーなので修理したいと思います。 

ブロック電解コンデンサの液漏れや電解コンデンサの発熱によるカバーのめくれがみられます。アンテナ用同軸ケーブルの切断とAC100V端子によるケーブル被覆の絶縁破壊による短絡などの危険な故障もみられます。

劣化部品は全て交換します。ブロック電解コンデンサは4700μFに容量を増やして交換します。アンテナ用同軸も新しく張り直しします。 照明のガラス管ヒューズ電球もガラス面が黒く変色しているので交換します。

劣化部品等の修理も終わり次は電源試験です。0.27Aで正常です。受信感度やセパレーション、トラッキング等を調整します。

 MUTING(スケルチ)ツマミをまわしても局間ノイズが消えません。MUTING基板の半固定抵抗を回しても反応なしです。プリント基板の半固定抵抗をよく見ると回転ブラシの接触面が曲がり断線状態です。 半固定抵抗を交換します。交換後はMUTINGの感度調整ができるようになり局間ノイズを消すことができました。ただし、MUTING回路の影響でチューナーは再調整する必要があります。

前面パネルの文字がほとんど残っていません。アルミパネルに文字を彫り込むタイプではないため摩耗したようです。文字の修復にはレタリングより簡単な透明黒字のテプラを使います。上の写真は文字をテプラで修復したものです。

修理が終わりヒヤリングです。中音に厚みのある落ち着いた雰囲気を持っています。エージングが進むと音の見通しが良くなります。不思議と真空管式チューナーと似たような音の傾向です。このチューナーはもう少し高音寄りのバランスでも良かったと思います。当時のTRIOはチューナーに限っては真空管よりトランジスタの方が優位性があると全面的に移行しています。その後、トランジスタ式チューナーはFX-7T以降に機能・性能を大幅に改善されてゆきます。技術の変遷期に登場したTRIOの記念すべき初代トランジスタ式・FMチューナーです。貴重なFX-7Tは修理して大切に使ってほしいものです。

2023/05/05

SANSUI サンスイ AU-207Ⅱ プリメイン・アンプ

SANSUI サンスイ AU-207Ⅱ プリメイン・アンプの紹介です。1979年 34,000円の製品です。昔、SANSUIのアンプを使っていたことがあり懐かしくなり購入しました。ブラック・パネルは定番です。さすがにこのクラスではツマミはプラスチック製が採用されています。しかしツマミの感触は良く操作感も良好です。

薄型のアンプなので内部のつくりに興味津々です。大型の電源トランスにパワートランジスタ(2SB545A/2SD188A)、アルミ製ヒートシンクでシャーシを補強する構造になっています。回路はシンプルでもう少し凝った回路を想像してたので意外でした。しかし個人的には好感のもてる回路構成です。

 
電源回路は目的別にフォノイコライザー、プリアンプ、パワーアンプに区分されています。内部を見ても触った痕跡はありません。ヒューズ切れはなく見た目には損傷はなさそうです。プリント基板の電解コンデンサの一部に被覆が熱でめくれているものがあります。劣化部品は全て交換します。

劣化部品を交換してから電源を入れてみます。電流値は0.3Aで正常のようです。保護回路のリレーが正常に動作します。電源回路の出力電圧も正常です。AUX1kHzを入力してみるとRchはきれいな正弦波で正常ですがLchは波形も小さく大きく歪んでいます。Lch回路の各電圧を測定しますが微妙に全ての数値が違います。なかなか故障箇所が特定できません。

結論から言うとLchの82Ωの抵抗が断線と10kΩに劣化しています。抵抗を交換して波形が正常に出力しました。念のためRchの抵抗を取り外して測定すると同じく断線と2kΩに劣化しています。抵抗が断線でもRchから出力していたのが理解不能です。更にRchとLchの220Ωは4本とも全て断線を確認しました。この抵抗を交換すると低音がでるようになり音質が激変です。バイアスは7mVに合わせます。回路図には故障した抵抗に赤丸マークを入れてあります。経年劣化で回路が不安定になりトランジスタに大きな電流が流れてW数の小さい抵抗が損傷した模様です。

次に音質の確認をします。左右ともにノイズが出ています。ノイズはプリアンプ部の2SC1845のトランジスタ交換で解決しました。更に長時間ヒヤリングしていると右側の高域で滲みでるような歪みが聴こえます。基板を良く見ると右端奥の3.3μF電解コンデンサの交換を忘れていました。すぐに交換して歪みは完全になくなりました。

修理が終わりヒヤリングをします。AU-207IIは音のバランスも良く過不足は感じられません。バイアス調整により音に深みが出ています。ジャンルを選ばす良質の音楽を聴かせてくれます。上位機種と比べれば音全体に不満は感じます。しかしAU-207II単体だけのヒヤリングで不満を感じる人は少ないと思います。AU-207IIは低価格帯ですが音楽性をもった良く出来たアンプです。

2023/04/28

NATIONAL ナショナル SH-300 真空管FMマルチプレックス・アダプタ

 NATIONAL ナショナル SH-300 真空管FMマルチプレックス・アダプタの紹介です。1964年頃、6,500円の製品です。ナショナル家具調ステレオSE-8800、SE-7500DSE-7700などのスピーカー内側の底板の上にSH-300を設置することでFMステレオ放送を聴くことができました。また、SE-8800などの高級機種には最初から内蔵されています。SH-300本体をオークションで見るのは大変珍しいので購入しました。上の写真で右側がSH-300、左側は今回自作した専用ケースになります。

ナショナル RD-511と酷似した回路を採用しています。RD-511はプリント基板ですがSH-300は全て手配線なので音の違いに興味が沸きます。また、RD-511は6BA6,12AT7,12AX7でSH-300は6BA6,12AX7,12AU7と真空管の構成にも違いがあります。

今回、入手したのはSH-300本体のみでUSプラグも取り外されているジャンク品です。コイルの端子破損(コイル切断)、ネジ付きフェライトコアを強引に引き抜いたのか座金の残骸とコアなしでボビン破損など多くの修理が必要な製品です。今回は、SH-300を修理して外付けFMマルチプレックス・アダプタを製作したいと思います。

写真左側の端子が破損したコイルです。補強用の軸を入れて破損した端子をボンドでボビンに固定します。切断されていた極細のエナメル線の被膜を紙やすりで慎重にはがして端子にハンダ付けします。コイルから外れている配線は回路図をみながら巻線方向を間違えないようにハンダ付けすれば終了です。次に写真右側の固定金物とネジ付きフェライトコアが欠損しているコイルには、手持ちの部品を移植しました。SH-300の一番重要な箇所の修理は終了です。 

内部を見ると電解コンデンサが発熱で被覆がめくれています。シャーシの側面の金属板の欠損もみられます。その他ペーパーコンデンサーなどの劣化部品は全て交換します。

SH-300本体と電源回路を組み込むには、高さ12cm以上で通気の良いケースが必要になります。市販品で程よい大きさのケースが見つからず自作することにしました。部品配置を決めてから500円の板を裁断して底板、側板を切り出します。全面はアルミ板、天板はパンチ穴のあるステンレス板を使います。側板は水性の着色剤でマホガニーブラウンで仕上げてみました。底板は無垢のままで、全面パネルと底板は1cmほど離して下からの空気穴を確保します。

手持ちの電源トランス、電解コンデンサ64μF×2、整流用ダイオードと抵抗をラグ板に配置してヒューズを付けた電源回路を製作します。全面パネルには、真空管ラジオから取り外した回転式の電源スイッチとネオンランプを取り付けます。全面にOUTPUT端子を設置したのは、SH-300の構造ではOUTPUT(前)とMPX IN(後)がシャーシの両端に位置する関係からです。B電源とヒーターの電源配線と入出力の配線をすれば完成です。回路をよく見るとセパレーション調整用の半固定抵抗の配線が欠損しています。また、行先不明の電解コンデンサーが1個、B電源の誤配線などを見つけました。これらを回路図どおりに修理して本当の完成です。

電源試験では0.39Aで安定しました。B電源は120Vの想定のところ135Vなのですが後で修理とします。次に動作確認をします。MPX INとFMチューナーのMPX OUTを接続してOUTPUT端子に簡易モニターを入れてみます。Lch,RchともにFM放送を聞くことができます。修理に大きな間違いはなかった模様です。SH-300に測定器を入れてコイルの調整をします。セパレーションは10dBほどしか確保できません。B電源の電圧の影響かもしれません。135Vから120V(回路図の規定の数値)に変更します。再度、セパレーションを調整すると35dB以上を確保することができました。電源電圧の影響は大きかったです。

調整も終わりヒヤリングです。ややエコーがかかった様な音質が不自然です。RD-511では外部のオーディオ機器との接続には100kΩの抵抗をOUTPUTに付加する必要があります。SH-300も同じかもしれません。OUTPUTに並列で100kΩの抵抗を挿入してから再度ヒヤリングです。ややエコーがかった音は解消しました。出力はやや小さくもう少し音量は大きいほうが使いやすと思います。RD-511と同じ傾向の音色です。ノイズは感じられずS/Nは良好です。スッキリした音で高音がシャープで気持ちの良い響きです。中音は繊細で充実しています。低音は締まっていますがう少し量感がほしいところです。音に艶があり音楽を美しい響きで聴かせてくれるFMアダプタです。セパレーションの調整により奥行が感じられるように変化しました。動作には安定感があります。SH-300は優秀なFMアダプタだと思います。

コイルなどの補修部品や回路図をもっていないと修理が難しい製品です。ジャンク品が蘇り同じ年代のTRIO AD-5と並べて眺めているのは楽しいものです。管式FMアダプタは流通している品数が少なく今では貴重な製品だと思います。

2023/04/22

TRIO トリオ FX-5 真空管FMステレオ・チューナー

1964年、19,500円の製品です。FX-5の魅力は真空管サウンドを堪能できるオール真空管(8球)のFMステレオ・チューナーであることです。当時のTRIOらしいパネル・デザインで左右にアルミ無垢のツマミと中央にAFCスイッチ、信号レベル・メーターが装備されています。全面のMONITORランプ(緑)はSELECTORがMONITORのときに点灯し、FM放送がステレオかモノラルかを実際に放送を聞いて確認するためのしくみです。FMステレオ放送の初期のチューナーにはよくみられるMONITOR機能です。STEREOランプ(赤)はSELECTOR位置がRECEIVEとNOISE FILTER のときに点灯しますのでこの位置でステレオ放送を聞くことができます。ただし、19kHzを検出してステレオ放送を自動判別する機能ではありません。ステレオ放送とモノラル放送が混在していた時代背景のチューナーなので、現在の人はこの機能の必要性が理解しにくいかと思います。

チューナーの背面です。シャーシはサビ止め塗装をしてあります。

電波技術社から出版された「電波技術 臨時増刊号 1964年(昭和39年)11月号増刊」にFX-5の回路図が掲載されています。真空管FMチューナは同じ製品でも出荷時期により回路が1台1台で微妙に異なるところも面白いと思います。今回のFX-5は雑誌の回路図より簡素化されていたので後期の製品かと思います。

電源回路は6×4の整流管、6AQ8×2と6BA6×3のフロント~IF、MPXは6AU6,6BL8で構成されています。

底板を外すと電源トランス付近の電解コンデンサーが破裂して中身のアルミ拍と絶縁紙が散乱していました。目視確認しただけで5つの補修が必要のようです。①サビ(シャーシ、全面パネル、トランスカバー、底板)、②ACコード切断 、③MPX改造、④電解コンデンサー不良(見た目で3個が破裂)、⑤ダイヤル糸のゆるみ、など満身創痍のチューナーです。最初にシャーシや底板のサビを落としてサビ止め塗料で補修します。電源トランスのカバーもサビが出ているので塗装をはがして再塗装します。全面パネルもサビが出ているので表面を地金がでるまで研磨します。 その後、クリアラッカーで表面を保護します。ダイヤルスケールのガラス板やその周辺を清掃すれば外観の補修は終了です。この作業により見違えるような姿のチューナーに変身します。

次に回路の修理にとりかかります。劣化部品を全て交換します。交換後にようやく電源試験です。電源試験では0.6Aですぐに安定しました。チューナーの動作を確認します。受信確認するとメーターも振れます。モノラルの音出しは正常ですがステレオ選択しても音が小さく歪んでいます。AFCは動作しません。セレクタの接触不良によりランプ点灯不良や音切れが発生します。

動作不良の個所を1つずつ修理します。①AFCスイッチは分解清掃して正常にアースが出るようになりました。②セレクタの接触不良は接点のロータリー面のひどい汚れを丹念に清掃します。清掃でランプ点灯不良や音切れは解消しました。

③モノラルは正常ですがステレオ時は音が小さく歪んだ故障の修理です。MPX回路を見ると改造されています。ざっと見ただけで電源の配線と信号経路の配線の欠損や改造が見られます。波形観測すると完全にマトリクスのバランスが崩れてステレオ分離も正常にできていません。回路をオリジナルどおりに元に戻します。しかし、歪みはなくなりません。電圧を確認したところ、6AU6の47V⇒120Vで真空管不良のため交換します。交換した後の電圧は47V⇒20VでまだNGです。カーボン抵抗が劣化して22kΩが30kΩになっています。劣化した抵抗を交換して42Vまで回復して波形出力や調整も正常動作するようになりました。最後に受信感度やセパレーションなどを再調整して修理は完了です。

ヒヤリングをしてみます。部品交換してすぐの音出しでは高音よりの少々神経質な音です。エージングにより高音の粗さが取れます。 低音は少し硬い音ですが、これもエージングにより低音の硬さがとれて量感がアップして奥行も出てきます。エージング後はやや高音よりですが聴きやすい音に落ち着きました。同じTRIO製品でも機種ごとに個性があり、前回のFX-46Kとは明らかに違う音質です。1台1台が個性が感じられる真空管FMチューナーは何台修理しても楽しいものです。

2023/04/15

TRIO トリオ FX-46K 真空管FMチューナー(ファーストリカバリーダイオードに交換)

TRIO トリオ FX-46K 真空管FMチューナーは、1966年頃で17,900円のキット製品です。同時期にFX-46として23,900円で完成品も販売されていました。今回は久々に真空管チューナーの修理です。

TRIOの真空管チューナー は1966年頃を最後に製造は終了しています。 この頃から急速にトランジスタのチューナーへと移行しています。FM真空管チューナーは1960年前後から6〜7年のほんの短い期間の貴重な製品なので大切に扱ってほしいものです。

 FX-46Kはメーターがブルーの照明が目印です。

外観を見ても大きな傷やダメージはなさそうです。サビもみられませんので比較的良好な状態のようです。

内部の状態を確認します。トランスの電解コンデンサが3ケ所で破裂して焼け焦げています。何故かAC100Vの白いリードが外れていて危険な状態でした。ブロック電解コンデンサ不良なのかシャーシ回りに焼け焦げた跡がみられます。

 

この状態では電源試験もできないので、劣化部品を全て交換します。全面パネルも外し清掃します。このときガラス管ヒューズ型ランプも交換します。

部品交換も終わり、ようやく電源試験ができます。電源ONにすると0.6Aで安定します。各箇所の電圧を測定して正常であることを確認します。電解コンデンサーなど発熱もないことを確認します。最後に受信感度やセパレーションなど再調整します。

エージングを兼ねたヒヤリングを数時間します。音質は厚みがありききやすい音です。低音は出ますし奥行も感じられます。個人的にはもう少し抜けの良い音で音楽を楽しみたいところです。

FX-46Kには整流用ダイオードにER1Kが2本使われています。 

以前から交換してみたかったファーストリカバリーダイオード(FRダイオード)に交換してみます。トランジスタ・アンプではよく使っていましたが、管式チューナーでは使ったことがありません。音のバランスが崩れたらと心配しながらの交換です。元に戻せるように慎重にダイオードを取り外してから交換します。

FRダイオードに交換後にヒヤリングして音質を確認します。本来の厚みのある音質はそのままで霧が晴れて見通しが良い音に変わりました。情報量が多くなったのが一聴してわかり細かい音が再現できるようになりました。交換前のマイルドな音が良いのか交換後の音が良いのかは好みで決めればよいと思います。FRダイオードに交換したから音質が良くなるとは思っていませんので、あくまで音質の変化の違いを楽しめればいいと思います。個人的には交換後のジャスの音が好みです。