2023/01/14

Victor ビクター JR-S3 FM-AMステレオ・レシーバー

 Victor ビクター JR-S3 FM-AMステレオ・レシーバーの紹介です。1973年発売で52,900円のレシーバーです。大きなダイヤル目盛りと2つのメーター、鮮やかなグリーンに光る文字盤が印象的なパネルです。ガラス奥の黒い文字盤を明るいアルミパネルで囲い、アルミのツマミと大きなトグルスイッチを配置した垢ぬけたデザインです。60年後半のレシーバーにはない陽気で明るい雰囲気を持っています。いかにも音楽を楽しんでくださいと思わせるレシーバーです。更に今回のJR-S3は別売のウッドケースに入り高級感も漂います。

右からアンテナ端子、入力端子、中央の四角いカバーの中はパワートランジスタ:2SA765/2SC1445とヒューズが入っています。左側はスピーカー端子、プリOUT端子とパワーIN端子が配置されていて本格的です。

内部は大きな2つのプリント基板で構成されています。奥の基板は半分が電源回路で残り半分がパワーアンプ回路です。中央はFMとAMのチューナー基板です。大きなフライホイールがありますので小さいアルミのツマミですが適度に重くチューニング感覚は非常に心地いいです。

 手前左から簡単なプリアンプを含むボリュームとマイク回路や各種回路の基板とTONE回路のプリント基板が格納されています。ボリュームとTONE回路はかなり遠く離れたデザイン優先の苦しい配置です。

ヒューズ切れはありませんが、いきなり通電しての試験はしたくありません。まずは劣化部品の交換をします。 

次にボリュームとマイク回路や各種回路のプリント基板の劣化部品は全て交換します。TONE回路の基板では電解コンデンサーの下部が膨らみ劣化が進んでいます。ここの劣化部品もすべて交換しました。

 

ここで初めて通電してみます。ヘッドホンでFM放送を聞いてみます。FMチューナー部は無事のようです。選局・ステレオランプ点灯も正常で放送が聞こえます。ただしRightのみ正常でLeft側は無音です。外部入力から1kHzのテスト信号を入れPRE OUTで確認してみました。上の写真がその波形で正弦波が歪んでいますので入力~PRE OUTまでの回路の故障です。

波形の歪ではモニターによる故障探査は無理なので。テスト信号を入れたままオシロスコープで故障個所を探します。TONE回路を通すと歪みます。 TONE回路の出力段のトランジスタ:2SC458が故障していました。交換でLeft側の音声波形は正常に戻りました。

スピーカーを接続してヒヤリングしてみます。元気で切れのある音を聴かせてくれます。高音の抜けもよく中域から低域までよく出て聞かせるメリハリのある音です。ロックやポップスなどに向いているのかもしれません。カラッとした音でしっとりとした味わいではありません。どの音楽を聴いてもレシーバー特有の音質を感じます。この音はレシーバーのデザインと不思議にマッチしているような気がします。このレシーバーを聴いているとローリング・ストーンズやカリー・サイモンの当時の曲が蘇ってきます。

2023/01/06

NATIONAL ナショナル R-118

NATIONAL ナショナル R-118の紹介です。1964年3900円で販売されていたものです。100mm×65mm×30mmのポケット・ラジオで赤、青、黒の3色が用意されていました。シルバーのスピーカーパネルとキザキザの縁取りがあるゴールドのダイヤルツマミ、縦にシルバーの梨地仕上げの華やかなデザインとなっています。また、ボディーの両側は中央から上下に2mmの落差のある緩やかなカーブで膨らみをもたせ柔らかな雰囲気を醸し出しています。

内部の熱を意識した空気抜きのスリット なのかラジオの音の抜けを良くしたいのか理由は定かではありませんが、ラジオの背面には必ずスリットがあります。そしてここにも懐かしいMADE IN JAPANの文字があります。

前面を横から見ると下から1/3で上下に2mmずつ傾斜しています。 おそらく前面パネルをより立体的にみせたいとのデザイン上の理由と傾斜でダイヤルを2mm前に出すことで操作感を良くしたかったのだと思います。また、全面のシルバーの枠は前面に向かって0.5mmほどでしょうか傾斜させています。裏蓋の相当する赤いボディーは上下左右の側面が背面に向けて2mm傾斜しています。さらに背面も縦にゆるやかなカーブを描いしています。このラジオで直線が使われているのは前面横、上面横、下面横、背面横と前面のスピーカーパネルと梨地仕上げの堺の縦線のみで直線を排除した徹底したつくりのデザインになっています。

 

ポリバリコンは超小型の16mm角でIFTは標準サイズを採用しています。ボリュームのスイッチ機構は接点を上下に動かす今で見たことのない古い方式のものでした。

このラジオを分解するときに一番気をつかうのがダイヤルツマミの取り外しです。プリント基板の赤いネジを外してからダイヤルツマミとポリバリコンの隙間にドライバーを入れて本体を傷つけないようにダイヤルツマミを浮かせて取り外します。

「通電しませんでした」 とのジャンク品を購入しました。電池を入れてスイッチをONにしますが無音です。何もスピーカーから音がしない本当の無音です。故障の切り分けで出力トランスでモニターするとラジオ放送が聞こえてきました。原因はよくある故障でイヤホンジャックの切り替え端子の接触不良でした。1000番以上のサンドペーパーで軽く接点を磨いて固着した汚れをとり、コンタクトスプレーをごく少量塗れば修理は終わりです。ラジオのダイヤルを回して受信してみたところ感度は良好です。低い周波数のラジオ局を選択しているとバリバリと雑音が入ります。しばらくはこのまま使っても大丈夫そうですが、ポリバリコン内部のポリプロピレンの劣化が始まっているようです。それ以外には特に不具合は見られませんでした。

上の写真がラジオを分解した様子です。古いラジオなので分解清掃をします。

R118特有ではありませんがトランジスタの構成に特徴があります。R118のトランジスタの構成を見ると2SA102,2SA101×2、2SB175、2SB176×2となっています。6石ラジオとしてR118以前からR1000番シリーズに至るまで同様のトランジスタ構成が採用されています。当時、6石トランジスタ・ラジオとしてはすでに完成の域にありデザインを変えて販売していたようです。それだけラジオには大きな需要があったということなのでしょう。上の回路図は海外輸出仕様なので電源3V(国内は9V)になっています。国内仕様でも3V~9Vの電圧の違いはありますが同様のトランジスタ構成が採用されていました。

メタリック調のラジオはメカを強調したシャープなデザインになりがちです。R-118 は細やかなデザインへの配慮により優雅な雰囲気さえ漂わせています。現在のラジオにはみられないゆとりと活力がを感じることができるのが昭和のラジオ製品です。

2023/01/04

PIONEER パイオニア SX-70T AM/FMマルチ総合ステレオアンプ(T型プラグの自作)

 

PIONEER パイオニア SX-70T AM/FMマルチ総合ステレオアンプの紹介です。1967年に発売されたトランジスタによるディスクリート設計されたレシーバーです。SX-70Tのデザインを見ていると同じ時期に販売されたプリアンプSC-100、パワーアンプSM-100を思い出します。当時のパイオニアらしさを感じさせる懐かしいデザインです。機能は豊富で必要とする機能は一通り用意されています。スイッチ類はわかりやすく配置してあり使いやすいコンパクトなレシーバーです。

背面はAMアンテナバーとアンテナ端子、各種入力端子 、スピーカー端子はパイオニア独特のT型端子が採用されています。セパレーションコントロールの調整ネジがあるのは珍しいです。

SX-70Tの内部配置はわかりやすく機能ごとに基板化されています。FMフロントエンド、AMバリコン、AM基板、FM IF基板、MPX基板などから構成されています。

本体下部の基板も同様に機能ごとです。電源基板、パワーアンプ基板、プリアンプ基板、イコライザー 基板で構成されています。この製品にはスピーカーの保護回路(リレーやヒューズ)がありませんのでボリュームを絞ってから電源を入れたほうが良いと思います。それでも電源ONの時のPOP音(ボコッやキュ)がスピーカーから漏れてきます。また保護回路がないのでスピーカー端子のショートは故障原因になるので要注意です。

このレシーバーは音がでないジャンク品です。最初の故障診断では電源回路をチェックします。9番端子:12V⇒0V 不良、8番端子:19V⇒12V 電圧が低いようです。9番端子は2SC367の故障です。交換することで9番の電圧が正常になりました。電源基板の電解コンデンサーは全て交換します。8番端子はコンデンサ交換で正常な電圧になりました。

外部入力で音出しの試験をしてみます。左右の音は出るようになりました。しかし音が割れてノイズもありひどい状態です。パワーアンプの入力側をモニターすると正常に聞こえます。ノイズの原因はパワーアンプ基板のトランンジスタのバイアス用電解コンデンサー不良でした。電解コンデンサー劣化しているので全て交換します。

パワーアンプを修理してもプリアンプ出力でまだ少しノイズがあります。プリアンプ基板の電解コンデンサーを全て交換してノイズは解消しました。次にFMの動作を確認します。

FM放送を聞くとステレオ時にノイズがあります。MPX基板の電解コンデンサーを交換しますがノイズが消えません。更にトランジスタを交換してようやくノイズが消えました。しかし、長時間ヒヤリングするとまだ僅かなノイズと時々音が途切れたりします。最後に残ったのはスチロールコンデンサーです。交換してみたところノイズ音は完全に消えました。

しかし、この時点でも長時間試験すると音が出たりでなかったりの不安定な状態は変わりません。MPX基板に原因があることは間違いありません。基板を軽く叩くと音切れが再現しました。原因はMPX出力バランス用の1kΩ半固定抵抗です。昔のワット数の大きな半固定抵抗でスライド接点のカーボン部分が摩耗してカーボンが殆ど残っていません。暫定ですが2本の抵抗に交換して様子をみます。数日間、音出しや電源ON/OFFなど繰り返し試験しましたが不安定な動作が完全になくなりました。音にも影響があり安定感ある音に変わったようです。

50年以上前のトランジスタ・レシーバーは繊細ですから、長期利用を考えると電源のサージ電流を軽減して回路を保護したいと思います。サイリスタを電源トランスの一次側に入れてサージ電流を軽減させることにしました。最後に19kHz同期や受信感度やセパレーション等を調整して修理作業は終了です。

上の写真は交換した部品です。トランジスタ製品の古いレシーバーは交換部品が多くなり修理が大変です。しかし、この部品交換がレシーバーの安定した動作に欠かせない大切な作業になります。

修理したSX-70Tですがスピーカー用T型端子で接続に困った方は多いと思います。製品にT型プラグが偶然ついてくるケースは稀にありますが市販もされていません。

そのため私の場合はT型プラグを自作しています。1個100円程度のACプラグを加工して作成します。ACプラグの端子部分を長さ10mm、幅5mmに加工します。ACプラグの端子は90度根元で捻ってあるのでこれを元に戻して垂直プラグを作成します。もう1本は平行プラグなのでそのまま利用します。垂直プラグではケースのフタができません。プラグの厚み分を削ると完成です。

実際に使ってみると大きさも程よく脱着がしやすくて非常に便利です。パイオニアのT型端子用プラグの自作はおすすめかと思います。

スピーカーを接続してヒヤリングするとバランスの良い音です。キラキラとした華やいだ雰囲気を持っています。低音は出にくいですがトーンコントロールやラウドネススイッチにより好みに合わせて楽しめます。夜、SX-70Tから聴こえるFM放送のジャズが一番似合っています。昭和のビンテージ・オーディオは少しレトロな雰囲気で気持ちが和む空間を提供してくれます。

2022/12/21

マグネチック・スピーカー(トランジスタ直結で鳴らす)

 

マグネチック・スピーカーの紹介です。私が中古オーディオショップで偶然みつけたスピーカーです。展示してあるスピーカーの上に何気なくポツンと置かれていました。特に利用するあてはありませんが衝動買いしました。

私がマグネチック・スピーカーを知ったのは、中学生の頃にもっていた「ラジオの初歩から組立まで」という本にラジオ部品として掲載されていたからです。当時、自宅にあった真空管ラジオはダイナミックスピーカーですし、並四ラジオなどの回路図にも出力トランスを使うのがあたりまえでした。今日までマグネチック・スピーカーにお目にかかったことはありません。戦前・戦後のラジオを取り扱うことはないので今回初めて現物を手にしたしだいです。

このスピーカーは金属枠が錆びていますが黒いコーンは良い状態で劣化はみられません。正面から見ると先の尖った小さなセンターキャップで振動片棒とコーンをつなぎ留めています。平坦で大きなセンターキャップのダイナミックスピーカーとは見た目も明らかに違います。

解説本のとおりU字磁石にコイルそこから振動板、振動片棒が伸びてスピーカーコーンに接続されているのがわかります。

スピーカーのメーカー名はどこにも記載や刻印もないので不明ですが、「日本放送協會認定」の痕跡が残っていました。その下には2・・・の認定番号がかすれて見えます。日本ラジオ博物館さんのサイトをみると1934年~1943年もしくは1946年以降に認定を受けたスピーカーのようです。

早速、テスターで抵抗を測ると1.3kΩありスピーカーコイルは断線せずに生きています。真空管ラジオ用のスピーカー出力トランスをトランジスタラジオの出力に逆接続して動作テストをしてみます。スピーカーから放送が聞こえてきましたが、甲高く蚊の鳴くよう小さい音です。マグネチック・スピーカーの音は良くないことは知っていますが、音も変ですし音量もすごく小さくて動作がおかしいようです。

調べているときにコイルの振動板を触ったところ、いきなり大音量で鳴りだしました。 振動板が錆びてコイルを挟むためのコの字型金物との間で固まっていたようです。ドライバーで錆びを落として修復です。音量はラジオに付属するスピーカーと遜色ありませんでした。無事にスピーカーの初期のテストは終了です。

 

 

私が唯一知っているマグネチック・スピーカーを使ったラジオがあります。ゼネラルエレクトリック社のトランジスタラジオです。マグネチック・スピーカーから聞こえてくる独特な音色が魅力のラジオです。

上の図はGE製ラジオの回路図を簡略化したものです。最終段のトランジスタでマグネチック・スピーカーを直結して駆動させています。トランジスタの出力インピーダンスが高いので直接マグネチック・スピーカーを鳴らすことができたようです。

GE製ラジオと同じようにラジオの最終段のトランジスタに直接マグネチック・スピーカーを繋いで鳴らす実験をしてみました。実験ではAce AR-205k:2石ラジオを使いします。上の回路図がAR-205kにマグネチックスピーカーを接続したものです。小さな30mW出力のラジオでどれだけ鳴るのか楽しみです。

上の写真ではAce AR-205kの赤い出力トランスの足を外してトランジスタにスピーカーを直結しています。音を出してみますが大きく鳴り響きます。とても30mWの音量ではありません。音質も低音こそでませんが評判とは違い以外と良い音で放送を聴くことが出来ます。同じマグネチックスピーカーでもトランスが不要な直結のほうが明らかに音声は明瞭です。ラジオの出力段が1石のトランジスタでこの大音量が出せたのが本当に衝撃でした。

今回はここまでで終了です。マグネチックスピーカーの実力を少し知ることができました。小出力でよく鳴ります。特に音色が独特で耳に残ります。スピーカーは気に入ったので箱に入れてレトロな雰囲気のラジオを楽しむことしました。