2024/11/24

EICO MX99 真空管式FMステレオ・マルチプレクスアダプター

 

EICO MX99 真空管式FMステレオ・マルチプレクスアダプターの紹介です。EICO(USA製)から1961年~1963年まで販売されていた製品です。当時は1ドル=360円の頃ですから、39ドル(日本円で約14,000円)の価格になります。当時、サラリーマンの月給が20,000円~25,000円ですから、FMアダプター単体だけでも非常に高価な製品でした。EICO MX99は温かみのある音質とシンプルなデザインが魅力の真空管式FMマルチプレックスアダプターです。前面パネルは、電源スイッチ、ステレオ/モノ切替スイッチ、STEREOランプ、電源ランプ、セパレーションボリュームです。セパレーションボリュームは菊型ノブなので、たぶんオリジナルではないと思います。パネルも含めたボディーには傷もなく保存状態が良い製品です。

背面はMPX INとLRのOUT PUT端子、電源ヒューズの構成です。

 

左奥の真空管が6D10になります。国内では珍しい真空管で入手しにくい比較的高額な球です。海外のサイトからはMX99サービス・マニュアルが入手可能です。サービス・マニュアルには回路図や調整方法が記載されています。スキルと機材があれば個人でもメンテンナンスも可能かと思います。
12AU7×2、12AT7×1,6AU6×1、6D10×1、6X4×1、ダイオード×6で構成されています。

背面から見ると真空管配置図と背面パネルの説明シールが貼られています。
真空管全体を見渡すと6D10以外は全てガラス面が黒くなっています。6D10は最近交換されたように見えます。6D10以外は国内で流通している真空管なのでメンテナンスは楽です。6D10以外は使用しながら順次交換が必要かと思います。
部品は当時のオリジナルのままのようです。修理した形跡もありません。電源をいれますが約0.4Aで安定しました。正常のようです。ブロック電解コンデンサの発熱もありません。左右から音が出ました。高価な6D10が正常なので一安心です。オリジナル部品で今でも正常に安定動作することに驚きます。セパレーションを測定すると15dBほどです。本来であれば30dB確保できるはずです。コアを回して調整しようとしましたが、コアが固くてまわりません。無理に回すとフェライトが破損しそうなので断念しました。
ヒヤリングをしてみます。帯域はやや狭く現在のチューナーのように広くは感じられませんがバランスの良い音質です。セパレーション・ボリュームを左側にまわすとシャープな音、右側に回すと音が丸く変化します。セパレーション・ボリュームを操作するとセパレーションの値も増減します。セパレーションが変化する量は少ないボリュームです。私は音質調整用に使っています。左右に廻して快適な音質に調整しています。MX99は、FMステレオの基礎となった技術を持った60年以上前の製品です。技術的遺産やビンテージ製品としての価値は高く、今尚現役のオーディオ機器として使用できる貴重なFMアダプターです。

2024/11/04

電子ブロックSRとFMステレオパーツ

電子ブロックSRとFMステレオパーツの紹介です。前回はFMラジオ用IC TDA7000をチューナーブロックに組み込んでFMパーツを製作しました。しかし、FMラジオはモノラルです。FM放送はやはりステレオで聞きたいです。今回は電子ブロックSRと組み合わせて使えるFMステレオパーツを製作します。子供のころは夢だった電子ブロックSRによるステレオ再生です。

FMラジオをステレオで聞くために、いろいろ検討しましたがアナログ回路の小型化が難しく自作を諦めてDSPラジオ・キットを組み込むことにしました。候補としては、上の写真のEQKIT(左側)とHEX3653(右側)のDSP FMラジオ・キットの2つです。

この2つのキットのプリント基板の大きさなら電子ブロックSRの電池ブロックに搭載できるかもしれません。プリント基板の大きさを比較すると、EQKIT(左側)は縦30mm×横55mm、HEX3653(右側)縦28mm×横55mmの大きさいです。電池ブロックは、縦26mm×横58mmなので入りません。プリント基板のパターンを見るとEQKITはプリント基板の隅までギッシリ配線していますが、HEX3653は数ミリの余裕があります。

HEX3653のプリント基板をヤスリで削って実装できるか試してみます。限界まで削ったところ、ギリギリ電池ブロックの一番奥に実装できるようになりました。

電池ブロックに穴あけをします。タクトスイッチ用の穴あけです。HEX3653のタクトスイッチのボタンは5mmの高さがありプリント基板を奥に実装できれば直接スイッチを押すことでができます。プリント基板を固定するためのネジ穴を2つ確保しました。

電池ブロックの上からタクトスイッチを押せるようにするため、背の高い部品(イヤホンジャック、電解コンデンサ、トランジスタ、セレクタピン)はプリント基板の表面には実装しません。また、発光ダイオードを小型のものに変更しました。

プリント基板の裏面には、イヤホンジャック、電解コンデンサ、トランジスタ、セレクタピンを実装します。この状態で電池をつなぎイヤホンで動作確認をします。やや受信感度が弱いですが動作は良好でした。

電池ブロックにプリント基板を入れて配線します。 電子ブロックなので006P(9V)で動作するように3.3Vの簡単な定電圧回路(ツェナーダイードと抵抗)を組み込みます。参考までに、このラジオ基板は、1.8V~3.6V、26mAで動作します。 

完成したFMステレオパーツです。

完成したFMステレオパーツをクリスタルイヤホンで試聴します。電源をONするとホワイトノイズが聞こえます。SEEKボタンを押すとチッチッ・・・と選局する音が聞こえます。FM放送の受信も良好で動作も安定しています。外部アンテナを接続しましたが300Ωより75Ωの方が受信感度が高かったです。

FMステレオパーツと電子ブロックのアンプを接続するとラジオが受信できたり出来なかったりと状態が不安定になります。FMステレオパーツのアンテナ線材をスズメッキ線で最短ルートに変更することでて受信状態が改善しました。

FMステレオパーツのセパレーションを測定してみました。セパレーションは約10dBほどです。

次にFMステレオパーツでスピーカーを正常に鳴らす方法を2つご紹介します。HEX3653のインピーダンスは32Ωイヤホン用です。スピーカー(8Ω)を接続すれば小出力で鳴らすことができます。しかし32Ω定格に8Ω接続では4倍の電流が流れるため無理があり故障の原因になります。そのため、下記の2つのどちらかで対策する必要があります。

【接続方法①】FMステレオパーツの出力端子に68Ωを入れる方法です。HEX3653のインピーダンス32Ωより高い抵抗値ですが、この抵抗値以上でないとFMステレオパーツの電源がON/OFF出来ません。定電圧回路を組み込んだことが原因かと思います。低インピーダンス8Ωのスピーカー接続ありと接続なしによる消費電流の変動で給電電圧が動作範囲を超えたためです。

上の写真は、出力端子に68Ωを組み込んだ様子です。

上の写真は改良したFMステレオパーツに電子ブロックの8Ωスピーカーを接続した様子です。定格より低い8Ωスピーカーの接続や出力端子がショートしても故障することはありません。音はやや小さくなりますが十分な音量です。

 

【接続方法②】FMステレオパーツの出力をアンプに接続してスピーカーで聞く方法です。アンプ入力側でインピーダンスを整合させます。FMステレオパーツの出力端子に68Ωがなくても正常に動作します。今回は電子ブロックSRのレコードプレーヤー・スピーカー式アンプを2セット使用します。ただし、FMステレオパーツの出力レベルが大きすぎるため、3石アンプの初段のトランジスタ回路は省略して2石アンプに回路変更します。前回のTDA7000のFMパーツに使ったアンプより高性能で出力も大きくとれます。音質が良いので2Wayスピーカーを使用しました。

 

次に左右の入力とスピーカーの極性を合わせ、音量を揃えてヒヤリングします。高域が鮮やかに伸びた透明感のある音です。奥行きもありバランスも良好です。ノイズ感はなくクリアなFM放送です。パワーがあり音に余裕が感じられます。クラッシク音楽やジャズの放送を聴きましたが鑑賞に耐えうる音です。電子ブロックSRのアンプが良い音だとは知りませんでした。音だけ聴いたら電子ブロックだとはわかりません。

我が家にある電子ブロック×3セットを生かせないかとFMステレオパーツを製作しました。小型なDSPラジオの性能に驚きを隠せません。昔のFMラジオの製作とは隔世の感があります。また、電子ブロックで良い音が出せることに50年経ってようやく気づき、いい意味で刺激の多い製作でした。今回の電子ブロックSR用のFMステレオパーツ製作が皆様の参考になれば幸いです。

2024.11.3 トランジスタ故障

電子ブロックでアンプを組みましたが、サッーとホワイトノイズが混入します。増幅はするがノイズがでる故障です。トランジスタを1個交換したら良好です。AMラジオでは気が付かないノイズだったかもしれません。

2024/11/03

ナショナル SC-9200 レシーバー・アンプ

 

ナショナル SC-9200 レシーバー・アンプの紹介です。1971年頃、4点一式(レシーバー、プレーヤー、スピーカー×2)で63,800円のシステムステレオのレシーバー本体になります。鮮やかなアルミのフロントパネルとウッドケースのオーソドックスなデザインのレシーバーで価格の割に高級感があります。SC-9200はセパレートステレオシステムの雰囲気を持たせて価格を抑えた製品です。高価なセパレートステレオシステムと普及型のモジュラーステレオシステムの中間に位置する製品です。

ダイヤルスケールの両脇にはヒューズランプがあり照明は明るく、黒いバックに電球色のうすい黄色の周波数表示が鮮やかで綺麗です。

カタログには、●低歪域をなくした準コンプリメンタリー回路採用の高級ステレオシステム、●出力(EIAJ歪率5%)10W、ミュージックパワー(M.P.O)20W、●巾44.0×高さ12.4×奥行34.5cmとレシーバーの製品仕様の記載があります。また、プレーヤーにはソリッドステートカートリッジ使用と書いてあり圧電素子(クリスタル型)のカートリッジを採用しています。

上の写真はウッドケースから本体を取り出した様子です。電源ヒューズは本体横の左奥にあり、ウッドケースから本体を取り出さないと確認や交換もできない構造です。スピーカー保護のリレー回路やヒューズはないようです。

FM3連バリコンのフロントエンド初段には2SK19(右上のGR文字がFET)が使われています。

 

チューニング・ダイヤルにはフライホイールがないのでダイヤルの操作が軽すぎます。糸掛けは張り直しました。プーリー部分の糸掛けが以外と難しい構造です。

RCAコネクタが劣化して破損しています。

PhonoTape、スピーカー端子の劣化・損傷したRCAコネクタ部分を抜き出して金メッキのプラグと交換します。背面パネルがいい雰囲気に仕上がります。

劣化部品は全て交換します。音だし試験をしますがTAPE MONスイッチの接触不良がありクリーニングします。ボリュームはガリもなく良好です。

本体を逆さまにしないとプリント基板が下向きで調整ができません。スピーカー端子出力でオフセット電圧0Vに調整、FMトラッキングが大幅にずれていたので調整、セパレーション調整などをして終了です。外部入力の試験ではTAPE PLAY BACK端子にUSB DACを接続して良好でした。

修理が完了したのでスピーカーを接続してヒヤリングします。やや音が粗くハイ上がりの音です。低音は締まった音で気持ちがいいです。帯域は全体に狭く感じられS/Nもあまり良くなく音量を上げるとうるさく感じます。ここまで辛口の評価でしたが上位機種と比べたらの話です。ロックなど聞くと元気で意外といい音です。価格的には十分な性能と音質だと思います。SC-9200は電源ON/OFF時のポップノイズが出ないのが秀逸です。機能面ではAUX入力端子なしやPhono入力でMMカートリッジが使えないのが残念です。SC-9200はワールドボーイ・RF-858(ラジオ)と同じ頃に発売されていて印象に残っています。70年代初頭の雰囲気を持った懐かしいナショナルのステレオ・レシーバーの修理でした。

2024/11/02

ライントランスの製作

オーディオ用ライントランスの製作です。近頃、ライントランスが話題になることが多くなりました。デジタル・オーディオが普及した影響でしょうか。

管球王国のVol.107 2023 WINTERでは「ライントランス ヴィンテージ/現行15種の聴き比べ」でライントランスの記事が掲載されています。

 

もう一冊は無線と実験2021年10月号の「特集:ライントランスの研究 ライントランス12種類の試聴」にライントランスの記事が掲載されています。

これらの雑誌をを読み返していたらライントランスが欲しくなります。今回はUSB DACとアンプの間にライントランスを入れることを目指して製作します。我が家のPCオーディオはそこそこの音質だと思いますが音の粒子のつぶつぶ感が気になりだしました。これがデジタル臭さでしょうか。ライントランスで音に滑らかさと艶が出せないかと期待しています。

ゼネラルトランス販売のトランス購入を検討していましたが、上の写真のジャンク・トランスを購入しました。ライントランスは流す電流が少ないので小型のものでも良いですが、入力部分なので音質を重視するとある程度の大きさは必要です。価格面とトランスの大きさから古い測定器から取り外したトランスを購入しました。かなり大型トランス(約300g×2個)なので音に余裕がありそうな気がします。

このトランスは型番や回路が不明です。インピーダンスが600Ω:60Ω:60Ω、0.2~100kHzとしかわかりません。1,2番端子から信号レベルを入力して測定したところ上図のトランス回路だとわかりました。巻線比1:1ぐらいで製作したかったのですが、このトランスでは600Ω:180Ωで製作することにします。巻線比は1:0.55なのでレベルもやや低い程度で気にならない範囲かと思います。管球王国のヒヤリング環境では一次側:150Ω、二次側:600Ωです。はからずも似通ったインピーダンスで製作することになりました。

RCA端子の右横のスペースは、将来的にセレクターを設ける予定です。一次との二次のアースは切り離してグランドループを防止します。ライントランスの機能には音質改善だけでなくノイズ対策用アイソレータとしての役割も持たせました。全ての機器が正しくアースできていれば不要とは思いますが、せっかくトランスを使用するので完全にグランドループを切断してみました。

今回はUSB DACとアンプの間にライントランスを入れてヒヤリングします。ライントランスを通してもノイズはなく良好です。ヒヤリングでは一聴して粗さがとれた滑らかで優しい音に変化します。音全体が静かになった印象です。大人しく聴こえますが、よく聴くと高域はしっかり伸びています。低域はあきらかに量感が増え音全体の重心が下がって聴こえるようになります。低域が今まで以上に心地よく押し寄せるようです。だぶつく様な聴こえ方ではなく締まった低音で地鳴りの様な音も感じられる気持ちが良い音です。音に滑らかさと艶を期待していましたが、低音の量感が増して気持ちがいい音がするという予想外の結果が得られました。トランスが大型なので低域の質が良かったのかもしれません。

雑誌やネットの音質評価を参考にしましたが、実際に聞くと音のイメージがかなり変わります。ライントランスはアナログ的な音質に変えるエフェクターです。音質はトランスの性能に依存するのでどうしても高価になります。元の音源が高音質でないとライントランスでエッジのとれたつまらない音になるリスクもあります。トランスの音と言われても通常わかりません。事前に音質を確認できないので導入には躊躇します。ライントランスは価格と音質のリターンなどの導入リスクの板挟みで悩ましいです。成功すれば ライントランスにより今までと違った音の世界を見せてくれます。

2024.10.12

ライントランスのコア(11番端子)のアース接続を忘れたので配線しました。

2024/10/20

CROWN TR-690 6石トランジスターラジオ

 

CROWN TR-690 6石トランジスターラジオの紹介です。1960年頃の製品になります。今回のラジオは動作品なので修理作業はありません。

 

このラジオはクラウンのロゴマークや装飾ガラスも残っています。スピーカーカバーやパネルに傷もなく文字消えもない良好な状態です。

 

裏蓋を外した内部の様子です。ゲルマニウムトランジスタが6石確認できます。プリント基板を固定するネジの塗料が残っているので、プリント基板は取り外したことのない状態のようです。

 

ポリバリコンはMITSUMI PVC-2Zの小型2連です。カーボン抵抗が使われているので古さを感じます。トランジスタのサビも少なく内部の状態も良好です。


横からの写真です。ダイヤルとボリュームが平行になった珍しい構造です。ダイヤルとバリコンはギアで連動させているのでしょうか。誰も触った形跡がないので取外して構造の確認は遠慮しました。

当時の取扱説明書には配線図が掲載されています。 

ラジオと配線図を比較してみると、2SA101×2(配線図)⇒2SA12×2(実装)です。

ラジオと配線図を比較してみると、2SB171(配線図)⇒2SB75(実装)です。写真はありませんが、2SA102(配線図)⇒2SA15(実装)、2SB172×2(配線図)⇒2SB77×2(実装)です。

ゲルマニウムダイオードは、配線図1N34A⇒1S80が実装されています。配線図より古いトランジスタやダイオードが使われています。ラジオと元箱の年代が異なります。ラジオ本体はトランジスタの古さから初期の貴重な製品です。

ラジオの元箱です。元箱もきれな状態です。

元箱の蓋を開けた状態です。茶色のラジオカバーは欠品です。元箱内部の梱包はオリジナルではありません。イヤホンと茶色のイヤホンケースは残っていました。

裏面の写真を忘れていました。

取扱説明書です。

以上が今回ご紹介した内容です。鮮やかな赤に装飾を施したラジオです。1960年頃のポケットラジオの雰囲気が少しでも伝わったでしょうか。