2022/02/20

TRIO トリオ FM-105 真空管FMチューナー 修理(60年には完成の領域)

 正面から見たTRIO FM-105

TRIO FM-105 FMチューナー 1960年頃で13900円の製品です。 このFMチューナーはモノラル出力のみです。FM-105のMPX OUTにマルチプレックスアダプターを接続してFMステレオ放送を聴くしくみでした。この製品で感心するのは、3連バリコンを採用していることです。2連バリコンでは混信妨害に弱くS/Nもあまりよくありません。モノラル出力ですが、スレテオ放送を前提としているため3連バリコンを搭載しているのだと思います。ステレオ放送を良好に受信するには3連バリコン以上のチューナーが必要だと思います。できれば4連バリコン以上が理想的ですね。

ラジオ技術1962年9月号の掲載記事

初めてダブルリミッタを搭載したFM-105については、ラジオ技術1962年9月号「トリオ FM-105形 FMチューナの解剖」で機能・動作の解説や回路図が掲載されていますので大変参考になります。

症状:オークションで購入時のコメントは「真空管式のため通電確認していません・・・」と記載があります。電源を入れると損傷する危険があることをわかってくれている出品者に感謝です。よく出品時に「通電確認しました」との記載をみかけますが、ただ電源が入ることを確認する行為は危険ですし故障を拡大させるだけの百害あって一利なしの無用な行為だと思っています。

修理前の汚れた前面パネルのTRIO FM-105

修理の前に、まずは外観をチェックすると全面パネルの左下のシルバー部分の表面に黄色のヤニでしょうか?よごれが固着してとれませんしサビがあちこちに出ていますので、一度はがして再塗装するしかないかもしれません。試しに表面を少し削ると簡単にはがれて驚いたことにその下から黄金色の銅の地金がでてきました。贅沢な銅製の全面パネルが採用されていました。

 修理前のTRIO FM-105の内部配線

次に底板を外して内部配線を確認すると、ブロック電解コンデンサの安全弁が盛り上がっていて危険な兆候があります。電源入れずに販売したことは大正解だったことがわかります。また、よく見るとIFTとアース間のコンデンサが焼け焦げて容量もわかりません。並列で入っている抵抗はなんともないので発振したのでしょうか?このようなケースには回路図を事前に用意できているので安心して部品交換ができます。これ以外は異常はなさそうなので修理作業に入ります。

TRIO FM-105を修理してきれいになった前面パネルと電源トランスケース
全面パネルの補修から始めますが、パネルの再塗装にはひとつ問題があります。シルバーに再塗装するとその部分の文字が消えてしまいます。凹凸は残るので文字はよく見れば見えるかと思います。今回はシルバーの塗装を剥がして様子を見ることにしました。半日かかって塗装を剥がした全面パネルはとても美しい姿なので再塗装する気にはなれません。ただし、銅製なので翌日にはすぐに酸化して黒くくすんでしまいます。そこで、酸化しないようにアクリルスプレーで表面をコーティングしてみたところ銅製の地金の色を生かした美しいパネルに修復することができました。再塗装よりはるかにきれいな仕上がりです。しかも文字も消えずにきれいに残っているFM-105のゴールドバージョンですね。

 TRIO FM-105を上から見た部品配置ときれいになった電源トランスと

トランスのケースもサビがあるため塗装を剥がして再塗装するとみちがえるような部品配置の景色に生まれ変わります。

 TRIO FM-105を修理して部品交換した内部配線

次に劣化部品の交換です。灼け焦げたコンデンサは回路図から50pfとわかるので交換します。FMモノラルチューナーなので高周波部品が多いので劣化部品は少なく交換修理は楽なんです。 3つあるチューブラ型のコンデンサはフィルムコンデンサに交換します。ブロック電解コンデンサは内部をくり抜き外側のケースのみ残して新しい電解コンデンサ3個で再配線します。この頃のTRIOの製品は何故かヒューズがないため危険なのでガラス管ヒューズを入れて完成となります。

 TRIO FM-105の試験模様

配線の再度確認と電源部の電圧を確認してから、毎回登場の電源装置に接続してからFM-105の電源を入れます。おおよそ0.45Aで各箇所の電圧も適正値でした。

修理してきれいになったTRIO FM-105

動作確認はFMアンテナを接続してFMモノラル出力を確認しますが受信レベルメータも振れて音出しもOKでした。MPX OUTはAD-5を接続してステレオ放送の確認をしましたが良好です。今回は60年以上前の製品とは思えない良い仕上がりになりました。修理すると愛着が湧くんですが、コレクターではないので使わないと意味がないと思います。手放したほうがいいのではないかと思うと複雑な心境の修理になりました。

2022/02/18

ONKYO Integra T-410DG FM tuner(MPX OUT端子があるチューナー)

前から見たONKYO Integra T-410DG

 ONKYO Integra T-410DG FM tunerは、1978年頃の定価88000円の製品でクォーツ・デジタル・シンセサイザ方式を採用しています。今回は愛用しているFMチューナーが故障してしまいました。

ONKYO Integra T-410DGの背面パネルとDET.OUT端子

私がFMチューナーに求めている機能は少し変わっていてFMチューナーにMPX OUT端子を搭載していることを条件にしています。そのため、FMチューナーは背面パネルを重点的に観察してMPX OUT端子の有無を確認する変わった買い方をしています。初期のシンセサイザー・チューナーでMPX OUT端子(T-410DGではDET. OUTと表記されています)を搭載するメーカーはテクニクスとONKYO以外は見つけることができませんでした。バリコン式チューナーの中級クラス以上であればMPX OUT端子を搭載している機種は多数存在します。今時、FM放送による4chステレオ用マルチプレックス出力があっても4ch-FM放送は廃止されていて何に使うのか疑問に思われるかと思います。

ONKYO Integra T-410DGとTRIO AD-5

ONKYO Integra T-410DGのDET.OUT端子にAD-5(管球式FMマルチプレックス・アダプタ)を接続してFMステレオ放送を楽しんでいるんです。真空管チューナーによるFMステレオ放送を好んで使っている一部のオーディオ・ファンは存在しますが、その中でも変則的な使い方の一員(他にいるかは知りませんが)です。バリコン式チューナーのTRIO KT-5500も使いますが、バリコン式チューナーからシンセサイザー・チューナーのONKYO Integra T-410DGに変えてAD-5を接続して使うと不思議なことに真空管サウンドのFMステレオ放送が少しデジタル臭く感じられますがもっとクリアに聞こえる不思議な音の世界が広がるんです。T-410DGの受信機能だけを使いAD-5でステレオ復調させることを楽しみにしているオーディオ・ファンなんです。

話はかなり脱線したのでもとに戻します。症状:両チャネル出力の音が歪む

FM放送を聞いていると発音の語尾が 不鮮明にモガモガ聞こえるようになってしましました。修理するためにチューナーのボンネットを外すと正面から見て左側が制御で右側がFMチューナーの配置が確認できます。

ONKYO Integra T-410DG内部のプリント基板

故障の切り分けですがDET.OUT出力で放送を聞くと正常なので、ステレオ復調~OUTPUTまでの間で故障と判断しました。ステレオ復調にはHA11223Wが搭載されていて、このICからのステレオ出力は正常でした。回路図がないので、ここからは基板のプリント配線を追って調べる根気のいる作業になります。1時間ほどかかりOUTPUTのプリアンプ部の2SC1815,2SC1740(左右で違うトランジスタでした)の入出力で音が歪むことが確認できました。

ONKYO Integra T-410DGの故障と思われるトランジスタとコンデンサ

2つのトランジタを2SC1815へ交換して再度確認しますが、まだ音が歪みます。次に疑わしいのは、このトランジスタとのカップリングコンデンサの無極性(NP)2.2μFかと思います。無極性は使い切って手持ちがないので、やむなく少々大きいですがフィルムコンデンサ1μFで代用として交換しました。基板にはフィルムコンデンサがなんとか収まりました。交換箇所での音を確認して正常になり、OUTPUTでも当然音は正常になりました。

部品交換したONKYO Integra T-410DG

故障修理は終了しましたが、過去にもマランツのチューナーでOUTPUTをドライブするためのトランジスタが故障した経験があり、この部分は外部機器との接続があるため負担がかかるのが要因なのかもしれません。大切に愛用しているONKYO Integra T-410DGは予備機も持っていますが直せて一安心の修理でした。

追記2022.11.29:「比較的新しいFMチューナー(TRIO KTF-5002など)で FM多重放送用の検波出力端子ではAD-5と接続してもステレオ復調はできません」との記述は誤りでした。TRIO AD-5の調整不良が原因でした。AD-5を正しく調整したところFMステレオ放送として正常に復調でき、FM多重放送用のMPX端子も使えることが確認できました。

2022/02/17

TRIO FMマルチプレックス・アダプタ AD-5 修理(貴重なFMアダプター)

前から見たTRIO AD-5

今回は TRIO FMマルチプレックス・アダプタ AD-5 の修理になります。TRIOモノラルFMチューナーFM-30とペアになるTRIO AD-5です。ご存じのようにFMステレオ放送初期のFMチューナーはモノラルしかなく、FMマルチプレックス・アダプタによりステレオに復調して聴いていました。60年代、70年代のトランジスタラジオにもMPX OUT端子が装備されていましたが、トランジスタラジオもモノラルのためFMステレオ放送を聞くためにはMPX OUT端子にFMアダプターを接続する必要があったのです。代表的な製品ではスカイセンサーのオプションでSTA-50,STA-60などがあります。

1963年(昭和38年)のラジオ雑誌に掲載されていたTRIO AD-5の広告です。現金正価11,200円とあります。当時はモノラルラジオとFMアダプターを別々に販売した理由が、金銭面で負担のないようラジオを買ってから後からFMアダプターを購入できるようにしたとのことです。現代の私たちの金銭感覚では、まったく理解できません。1963年の初任給は17,100円ですから、AD-5の11,200円は現代の価値にして130,000円ぐらいでしょうか。ラジオやFMアダプターを一緒にすると1ケ月分の給与でも買えなかったようです。当時はラジオやFMアダプターがいかに贅沢で高額な製品だったのか驚くばかります。

私は管球式FMマルチプレックス・アダプターによるFMステレオ放送を好んで聞いているオーディオファンの一人です。私のお気に入りのTRIO AD-5がオークションで入手できたので修復したいと思います。

電波科学 1963年8月号の掲載記事

TRIO AD-5は1960年頃の製品になり、電波科学 1963年8月号「FCC方式ステレオ用マトリックス方式 トリオAD-5アダプタの回路と性能」で機能、性能や回路図が詳しく解説されています。

TRIO AD-5を上から見た部品配置

早速、上部ボンネットを外すと72476AU6,12AX7の真空管類が配置された簡単なつくりです。

修理前のTRIO AD-5の内部配線

修理で問題になるのは裏ブタの中で開けて配線や部品を確認するとオリジナルの状態のままのようです。以前にオリジナルではない魔改造されたFMアダプタを苦労して修理した体験があるのでオリジナルのままであることが重要なポイントです。異常がないか丹念に確認すると電解コンデンサの安全弁が破裂して液漏れをしています。60年もたっているので経年劣化する部品は交換することにしました。ブロック電解コンデンサは今では入手できない3つのコンデンサを集約した太くて短い形状のものです。

修理後のTRIO AD-5の内部配線

当時の雰囲気を残したいので、くり抜いて外側のボディーだけ使うことにします。その他コンデンサはフィルムコンデンサに交換しました。最後にAD-5にはヒューズがないのでガラス管ヒューズを装着してあります。

TRIO AD-5の市試験模様

ここで、前回の真空管ラジオ修理でも使った電源装置に接続してから電源を入れてみます。電流計は0.3A付近で落ち着きましたのでやや多めかと思いますが正常のようです。次に各部の電圧も測り正常です。

TRIO FM-106とTRIO AD-5

テストにはMPX OUTのあるTRIO FM-106にAD-5を接続する構成としました。AD-5のRCAライン端子からのFM放送のステレオ出力を試聴する音出し試験は正常のようです。AD-5の電源ケーブルが他のオーディオ機器の電源ケーブルと近すぎたりするとハム音が混じるので注意が必要になります。AD-5のデメンション・コントロールを調整するには試聴しながらセパレーションが一番良い位置にする必要があります。しかし、デメンション・コントロールは音質に大きな影響を及ぼすので私は自分の好みの音質の位置で固定して使っています。感想ですがAD-5を通したFMステレオ放送の音質は60年前の製品とは思えないくらいです。管球式と聞いて古臭い音のイメージがあるかもしれませんが、イメージを一掃するようなクリアな音を提供してくれます。何度でもこの音が聞きたくなりAD-5を買っては修理することを繰り返しています。管球式FMステレオを一度聴いてみる価値はあると思います。

2022/02/16

SONY スレテオヘッドホンアダプター STA-50(スカイセンサーでFMステレオ)

 SONY STA-50と元箱

SONY スレテオヘッドホンアダプター STA-50は、スカイセンサーのオプションで定価4300円で販売されていました。当時のラジオにはMPX OUT端子を装備している機種が数多くあり、このMPX OUT端子にSTA-50を接続してFMステレオ放送を聞くことができました。オークションで"電源が入りません。ジャンク品です”と出品されているのを見て、また衝動買いをしてしまいました。STA-50は簡単なつくりなので電源が入らないなんて故障は想像できませんが、修理は簡単だと思い買ったしだいです。

改造で付加されたSONY STA-50の電源端子

届いたSTA-50は元箱付きで定価4300円の値札もあります。しかし、よく見ると"DC IN 4.5V"のテプラと外部電源ジャックを付加する改造をされたようです。使った人しかわからないと思いますがSTA-50に外部電源を接続したい気持ちは痛いほどわかります。毎日、FM放送を聞いていると単3電池3本ではすぐに電池が切れてしまいます。STA-50の後継機種にSTA-60があり単2電池3本で長時間使えるようになりましたが、外部電源にはかないません。当時、私も外部電源を付けようかと思いましたがFMステレオ放送をオーディオ・チューナーで聞くようになりSTA-50は使わなくなりました。元の所有者の方はスカイセンサーで毎晩FM放送を聞きたかったのだと思います。

症状:電源が入らない

ナショナル RF-858 GXワールドボーイのMPX OUTにSTA-50を接続してもイヤホンからは何も聞こえてきません。たしかに電源が入っていないように感じられます。

ナショナル RF-858とSONY STA-50を接続

分解して蓋を取るとDC INプラグのプラス(+)端子とMPX INのアース線の配線が2本完全に外れています。元に戻してハンダして試聴するとイヤホンから音がでるようになりました。

SONY STA-50の内部配線

次にSTEREO CHECK ボタンを押しますがランプが点灯しません。ランプにはむぎ球が使われていて両端をテスタで測るとステレオ時に電圧がでますが、むぎ球はかすかに光るだけです。使われているトランジスタが劣化してむぎ球を点灯できないようです。19kHzのステレオ信号を検出して電圧はでるので消費電力が大きいむぎ球からLEDへ変更して修理しました。

SONY STA-50のSTEREO CHECK

最後に手持ちのSONY ACアダプター 4.5Vと接続してSTA-50で聞いてみたところ、外部電源でノイズが乗るかと思ったのですが音質はクリアでちょっと意外でした。

SONY STA-50とACアダプター

STA-50を使いラジオでステレオ放送を聞くにはFM波の受信環境がよくなければノイズだらけで聞くに堪えないことになってしまいます。私のナショナル RF-858ではかなり無理があります。スカイセンサーなどのように受信性能が高く外部アンテナ端子があり安定した受信レベルを確保できる機種が最適なんです。STA-50のようなFMステレオアダプターは使う人のスキルが問われる製品です。使いこなしが意外と難しいです。今回は元の所有者の思い入れのある製品の修理でした。

2023.4.29追記:STA-50のセパレーションを測定してみました。35dB以上あり非常に良い数値に驚きました。


2022/02/15

ナショナル RE-725 ホームラジオ修理(隠れた名機)

 正面から見たナショナル RE-725

今回修理するラジオは、ナショナル RE-725 FM-AM 2-BAND 9トランジスタ 6ダイオード1969年(昭和44年)定価12500円のホームラジオです。ホームラジオの中でも個人的にとても気に入っている機種です。正面から見ると真空管ラジオと同じ配列のナショナルらしい堅実でシンプルなパネルで木製ボディーにメタリックで強調することで新しさを感じさせるデザインとなっています。本体は木製(合板)のしっかりした作りで化粧板を張り付けただけのホームラジオとは違い経年劣化ではがれたりしない良いつくりだと思います。ダイヤルスケールにはE10豆球のバックライトもあり夜間のイルミネーションはいいい雰囲気で、スピーカーパネルは直接スピーカーが見えない構造でホコリの侵入を防ぐ巧妙なつくりになっています。

ナショナル RE-725のダイヤルパネル

背面には、FMアンテナの外部接続端子とMPX OUT端子がありFMステレオアダプターを接続してFMステレオ放送を楽しむ以外にもラジオ修理の切り分けに利用できてとても便利な端子です。

ナショナル RE-725の本体天井部にある回路図

RE-725の最大の特徴は真空管ラジオに近い内部の作りにあり、天井には回路図があり各段のトランジタには電圧まで記載されていて金属シャーシの下には糸まき詳細図があり真空管ラジオと同様に修理できるように配慮されています。ただし、修理には真空管ラジオと同様にシャーシを本体ケースから外す必要があり、ダイヤル針の糸を外すさないと本体ケースから取り出せませんので注意が必要です。

ナショナル RE-725の内部構成

全体の作りは、糸まきのダイヤル機構と金色の金属シャーシにラジオ基板、スピーカで構成されていて真空管ラジオのつくりに瓜二つでシャーシの固定の仕方も底面から4本の大型のネジで固定するところまでそっくりです。真空管ラジオのつくりを強く意識していて、ラジオはこうあるべきだと言わんばかり主張を感じさせます。真空管ラジオの技術者が今までの技術をつぎ込んでトランジスタラジオを製作したように思え、技術者が昔を懐かしむような哀愁さえ感じるラジオだと思っています。

症状:音が大音量でボリュームが効かない
故障の状態からカップリングコンデンサーの容量抜けだと判断しました。該当箇所の電解コンデンサーは電極の識別が+(プラス)表記の古い電解コンデンサーが採用されおり、これを交換するだけの簡単な故障修理で完了です。ただし、故障を予防するため電解コンデンサーはすべて交換したので永くラジオを使うことができると思います。また、受信感度は良くFM放送も1、2局はアンテナなしで試聴することができました。

修理したナショナル RE-725を背面から内部を見る

このRE-725は世間の評価は低いようですが、良い状態のものが今でも安価で入手できるので個人的にはおすすめのホームラジオだと思っています。

2022/02/09

HITACHI F-555 AM・FM 真空管ラジオ 修理(真空管ラジオでFM放送を楽しむ)

HITACHI F-555は昭和40年頃の製品で真空管ラジオとして最後の頃の製品だと思います。今回はジャンクですがFMが入る真空管ラジオの修理です。真空管ラジオでもFM放送が入る製品が個人的には好きなんです。F-555は5球スーパーラジオで17EW8,12AJ7,12BA6,12AV6,50C5で構成されています。12AJ7はあまり見慣れない球ですね。また、正面左上のFMの文字を強調したデザインが目を惹きます。

 正面から見たHITACHI F-555

最初の作業は回路図、部品配置図、糸かけ図の写真をとり、拡大印刷してから作業に入ります。今回のラジオには3つの図面すべてが残っていて、これらの図面類も私はコレクションにしています。回路図は鮮明で数値、単位、部品番号まで読み取ることができる非常にいい状態でした。

HITACHI F-555の写真を撮り拡大印刷した回路図、配置図、糸まき図
症状:電源入らず
背面パネルを外したところ、なんと運搬固定用のダンボールが入ったままでしかも焼け焦げていました。私も初めて見たのでビックリです。使っている最中によく燃えなかったものだと変なところで感心しました。このラジオは電源を入れるといつも焦げ臭かったと思います。販売するときに電気屋さんが外すの忘れたんでしょうね。
HITACHI F-555の内部から出てきた焼け焦げた運搬固定用のダンボール

修理を開始します。まずヒューズを確認すると見事に溶断していてガラス管に付着していて重症のようです。シャーシを裏返し部品を確認しますが焦げたり破損したところはなさそうです。しかし、いきなり電源入れる勇気はないのでひととおり部品交換してから様子を見ることにしました。

HITACHI F-555のブロック電解コンデンサをくり抜いて外側ケースを再利用する

まずは電源部のブロック電解コンデンサですが、見た目がいいので残したいのですが新しい電解コンデンサを取りつけるスペースがありません。仕方なくブロック電解コンデンサの中身をくり抜いて新しい電解コンデンサにはブロック電解コンデンサの外側ボディだけ被せて部品配置の雰囲気だけ残しました。真空管ラジオの電源部の電解コンデンサをむやみに大容量に交換すると、電源投入時の突入電流が大きくなり真空管を早く傷めるので注意が必要かと思います。更に経年劣化で絶縁不良になりやすいペーバーコンデンサはフィルムコンデンサに交換します。

HITACHI F-555のむき出しの新しい電解コンデンサ

HITACHI F-555の古いブロック電解コンデンサの外側ケースを被せる
ここまでやれば電源入れて確認してもいい思います。ただし、お手製の絶縁トランス(100VA)と電流計(1A)、ヒューズ(1A)、ACコンセントを付けた電源装置にラジオをつないでから電源を入れ試験をします。この電源装置には何度も危ないところを助けてもらったすぐれもので、真空管ラジオ修理を安全に作業するための必須アイテムです。電源装置は、テスト時の過電流ではヒューズがとび、1A以下でも0.3A以上流れることを瞬時に電流計で確認できるので真空管ラジオの最初の健康診断に使おうと思い作成しました。初期診断で数点の電圧測るのにもたもたしていては、過電流の場合は更に部品を痛めてしまいます。絶縁トランスも入っているのでトランスレスラジオで感電することもありませんのでかなり安全に作業できます。

HITACHI F-555に電源装置をつないで試験をする

部品交換したラジオの電源を入れると、0.3A付近で落ち着きましたので正常のようです。過電流はコンデンサ劣化が故障の原因と判り、あっさり治って拍子抜けです。ダイヤルをまわして選局するとAM,FMも受信感度が悪いので、それぞれ感度を調整して完成です。今回は、久しぶりの真空管ラジオでしたが特殊な故障原因もなく短時間で修理することができました。真空管ラジオのFM放送はノイズもなく良い音なので、今日はFMを聞きながら楽しい時間を過ごせそうです。