TRIO FM-105 FMチューナー 1960年頃で13900円の製品です。 このFMチューナーはモノラル出力のみです。FM-105のMPX OUTにマルチプレックスアダプターを接続してFMステレオ放送を聴くしくみでした。この製品で感心するのは、3連バリコンを採用していることです。2連バリコンでは混信妨害に弱くS/Nもあまりよくありません。モノラル出力ですが、スレテオ放送を前提としているため3連バリコンを搭載しているのだと思います。ステレオ放送を良好に受信するには3連バリコン以上のチューナーが必要だと思います。できれば4連バリコン以上が理想的ですね。
初めてダブルリミッタを搭載したFM-105については、ラジオ技術1962年9月号「トリオ FM-105形 FMチューナの解剖」で機能・動作の解説や回路図が掲載されていますので大変参考になります。
症状:オークションで購入時のコメントは「真空管式のため通電確認していません・・・」と記載があります。電源を入れると損傷する危険があることをわかってくれている出品者に感謝です。よく出品時に「通電確認しました」との記載をみかけますが、ただ電源が入ることを確認する行為は危険ですし故障を拡大させるだけの百害あって一利なしの無用な行為だと思っています。
修理の前に、まずは外観をチェックすると全面パネルの左下のシルバー部分の表面に黄色のヤニでしょうか?よごれが固着してとれませんしサビがあちこちに出ていますので、一度はがして再塗装するしかないかもしれません。試しに表面を少し削ると簡単にはがれて驚いたことにその下から黄金色の銅の地金がでてきました。贅沢な銅製の全面パネルが採用されていました。
次に底板を外して内部配線を確認すると、ブロック電解コンデンサの安全弁が盛り上がっていて危険な兆候があります。電源入れずに販売したことは大正解だったことがわかります。また、よく見るとIFTとアース間のコンデンサが焼け焦げて容量もわかりません。並列で入っている抵抗はなんともないので発振したのでしょうか?このようなケースには回路図を事前に用意できているので安心して部品交換ができます。これ以外は異常はなさそうなので修理作業に入ります。
全面パネルの補修から始めますが、パネルの再塗装にはひとつ問題があります。シルバーに再塗装するとその部分の文字が消えてしまいます。凹凸は残るので文字はよく見れば見えるかと思います。今回はシルバーの塗装を剥がして様子を見ることにしました。半日かかって塗装を剥がした全面パネルはとても美しい姿なので再塗装する気にはなれません。ただし、銅製なので翌日にはすぐに酸化して黒くくすんでしまいます。そこで、酸化しないようにアクリルスプレーで表面をコーティングしてみたところ銅製の地金の色を生かした美しいパネルに修復することができました。再塗装よりはるかにきれいな仕上がりです。しかも文字も消えずにきれいに残っているFM-105のゴールドバージョンですね。トランスのケースもサビがあるため塗装を剥がして再塗装するとみちがえるような部品配置の景色に生まれ変わります。
次に劣化部品の交換です。灼け焦げたコンデンサは回路図から50pfとわかるので交換します。FMモノラルチューナーなので高周波部品が多いので劣化部品は少なく交換修理は楽なんです。 3つあるチューブラ型のコンデンサはフィルムコンデンサに交換します。ブロック電解コンデンサは内部をくり抜き外側のケースのみ残して新しい電解コンデンサ3個で再配線します。この頃のTRIOの製品は何故かヒューズがないため危険なのでガラス管ヒューズを入れて完成となります。
配線の再度確認と電源部の電圧を確認してから、毎回登場の電源装置に接続してからFM-105の電源を入れます。おおよそ0.45Aで各箇所の電圧も適正値でした。
動作確認はFMアンテナを接続してFMモノラル出力を確認しますが受信レベルメータも振れて音出しもOKでした。MPX OUTはAD-5を接続してステレオ放送の確認をしましたが良好です。今回は60年以上前の製品とは思えない良い仕上がりになりました。修理すると愛着が湧くんですが、コレクターではないので使わないと意味がないと思います。手放したほうがいいのではないかと思うと複雑な心境の修理になりました。