2025/02/16

米国製の鉱石ラジオ:American Leader Pocket Radio

1937年(昭和12年)の米国製の鉱石ラジオ:American Leader Pocket Radioの紹介です。ラジオは木製の箱で横に扉をつけてレシーバーを保管できるようにしています。ポケットラジオの名前のとおり小型で軽いので持ち運びには便利なラジオです。


裏側はアンテナ端子とアース端子です。A:アースとG:グランドのシールの文字が逆さまです。端子への内部配線が逆だったためシールを逆さまに貼ったのだと思います。配線を直さずシールを逆さに貼っていた、細かいことは気にしない時代だったのかなと想像してしまいます。(1937年は世界恐慌ですから大変な時期ですが・・・・)

ラジオの動作確認をしますが全くの無音です。 ラジオの裏蓋がクギで止められていて、過去に開けた様な形跡がみられます。蓋を外すと四角いコイルが上下に紙を詰めて固定した面白い作りです。

とりあえず、コイルを外してみます。コイルは角材にエナメル線を巻き付けています。コイルにバーをスライドさせてインダクタンスを変えてチューニングする方式です。

最初に導通を確認するとレシーバーと本体間の導通がありません。


レシーバーの蓋を開けてみると2つのコイルが見えます。古いラジオ教科書に書かれたマグネチック・レシーバーの構造です。レシーバーの導通を確認します。代替えのない大切な2つのコイルの導通はOKです。1つのコイルで抵抗が600Ωあり、2つ直列で1200Ωの高インピーダンス・タイプであることがわかります。レシーバーの綿編コードが断線していました。コードの内部での断線なのでコード全体を交換します。レシーバー単体では正常になり音が聴こえるようになりました。

同調コイルの通電はOKです。しかし検波器がみあたりません。コイルを巻いた角材の横に直径5mmほどの穴があり黒いタール状の物質の中へ裸線が伸びています。導通確認しましがNGで片側の行先が不明です。慎重にタール状の物質を取り除いてみました。中から探り針と鉱石がでてきました。鉱石の形状や色合いから方鉛鉱を使っているようです。探り針は真鍮製でしょう。予想外の探り式鉱石検波のラジオです。検波器の導通のNGが故障の原因です。元オーナーさん達が修理を断念したのも頷けます。

ラジオの実体配線図
上の図は、このラジオのしくみです。もう少し詳しく説明すると、角材の横に穴をあけ、鉱石を穴の奥に設置して探り針で検波します。ポケットラジオなので持ち運べるように調整後の探り針を黒いタール状の物質で固定しています。黒い物質は完全に硬化しないので、棒などで上から押せば探り針の針圧ぐらいは調整できたかと思います。また、湿度などから検波器を封止する役割もあったのでしょうか。探り式鉱石検波器はすごく不安定なのでこの状態で何年も使えたとは思えません。屋外にラジオを持ち歩きたいとの要望に応えた意欲的な製品なのでしょう。

上の図が、このラジオの回路図です。部品点数が少ない基本的なラジオです。同調コンデンサがないので電灯線アンテナとアースをしっかり接続することが大前提のラジオです。

復元はかなり細かい作業になるので探り式鉱石検波器は大事に保存するだけにします。オリジナル性が損なわれるので賛否が分かれますが仮復旧してみます。このラジオには固定式鉱石検波器を入れるスペースもないので、高感度のゲルマニウム・ダイオードを使いました。但し、いつでも探り式鉱石検波に戻せる状態にしてあります。

仮修理したのでテストしてみます。電灯線アンテナとアースを接続します。音は小さいですがNHKが1局受信できました。受信できる周波数は約500~750kHzぐらいです。マグネチック・レシーバーはクリスタルイヤホンより音が小さく聴こえます。ラジオを聞けるレベルには仮修理できたようです。

このラジオはマグネチック・レシーバーを収納して本体を耳にあてながらチューニングしてラジオ放送を聞くことが出来ます。こんな使い方もあるんだと感心します。ラジオ本体のスピーカー窓は飾りではなく実用的な機能です。

壊れて鳴らないので骨董的なコレクションとして保管されていたラジオです。取り外した部品(綿編コードとクギ)は大事に保管してあります。いつでも復元できるかと思います。コレクションとして復元しても良いですし、古典鉱石ラジオの雰囲気を味わいながら使ってみるのもいいかと思います。米国でラジオが普及して日常生活に大きな影響を与えた時代の製品の紹介でした。

2025.2.15

壊れた探り式鉱石検波器を修理します。 

探り針の先端を磨いてみますが導通がありません。

しかたなく探り針を取り外してみたところはんだの根本で断線していました。このまま戻してもいいのですが、新しく探り針を作成することにします。

上の写真は製作した探り針です。真鍮0.5mmなのでオリジナルより太いです。何回か方鉛鉱の上を針で探るとラジオが聞こえてきます。修理はできたようです。ただし、このままだと本体に振動を与えるとすぐに針がズレて検波できなくなります。固定してもその後、継続的に正常のまま保持できるか不安です。固定しないでダイオードと並行して接続しておくことにしました。 探り式でラジオを聞きたい場合は、裏蓋を開けてダイオードの片側を外します。探り式は不安定で固定して無調整にすることは断念しました。今回はオリジナルの状態に戻すのが難しい探り式のラジオ修理でした。

2026.1.20 修復作業の再開

修理してから、すでに1年ほど経過したことになります。
American Leader Pocket Radio について少し理解が深まったこともあり、再度の修復作業を進めてみました。

この鉱石ラジオには、以前から大きな疑問がありました。
それは、探り針を固定するためにタールが詰められている理由です。

当初は、製造元が最初からタールで固定したものと解釈していました。しかし、次の三点から見直すことで、購入者自身が検波状態を保持するためにタールで固定したのではないかと考えるようになりました。

・裏蓋はクギで固定されており、製造側は再度ラジオを開けることを想定していない。
・タールがあることで、一度調整した探り針は二度と調整できない。
・裏蓋が一度外された形跡が残されています。

以上のことから、オリジナル状態では探り針はタールで固定されていなかったと考えられます。さらに、ここから American Leader Pocket Radio の実際の使用方法も見えてきます。

当時の調整方法の推測

1.調整方法
レシーバーを格納する窓から検波部をのぞき、棒や針金などで探り針を調整します。鉱石ラジオを聞くたびに、毎回この調整が必要です。

2.探り針の要件
探り針は非常に細く、調整しやすい材料である必要があります。実際に非常に細い真鍮線が使用されており、太い真鍮線では窓越しの調整は固くて困難でした。

3.付属品
探り針の調整を行うためには、ヘッドセット付きレシーバーが必要になります。また、アンテナとアースのスプリングプラグには、専用のラインプラグ付きコードも必要です。これらは当初は付属品として存在していたのではないかと推測しています。

ヘッドセット付きレシーバー

ラジオのスプリングプラグ
スプリングブラグと接続するラインプラグ

American Leader Pocket Radio の弱点

ここまでの内容から当時の利用方法が見え、同時にこのラジオの弱点も明確になります。

それは、使用するたびに探り針を調整しなければならないことです。

実際に窓をのぞきながら方鉛鉱に探り針を当てて調整する作業は、かなり大変です。
一度調整したら、その後は調整不要にしたい――利用者がタールを入れたくなった気持ちもよく理解できます。

方鉛鉱は感度が良い反面、検波の頂点範囲が非常に狭く、調整が難しい鉱石です。
探り針による調整の難易度と煩雑さが、American Leader Pocket Radio 最大の弱点と言えます。

2鉱石方式の採用

この弱点を克服するため、2つの鉱石を直列に接続する方式を取り入れることにしました。

方鉛鉱はすでに固定されており変更できないため、
紅亜鉛鉱を探り針側に配置する構成とします。

方鉛鉱と紅亜鉛鉱の組み合わせは、探り式鉱石検波の中でも感度と安定性を両立できる方法として知られています。

方鉛鉱は感度が高い反面、検波点の範囲が非常に狭く調整が難しい鉱石です。
一方、紅亜鉛鉱は感度こそやや劣りますが、検波特性がなだらかで安定しています。

この二つを直列に接続することで、検波点は一点ではなく帯状に広がり、探り針の調整が格段に容易になります。

今回の構成では、

  • 方鉛鉱が検波の立ち上がりを担当

  • 紅亜鉛鉱が検波の安定性と調整余裕を担当

という役割分担になります。

その結果、探り針の位置が多少ずれても、検波状態を維持しやすくなります。

紅亜鉛鉱+方鉛鉱の探り式検波のイメージ図

構造上の課題

紅亜鉛鉱を使用する上で最大の問題は、検波部への取り付けです。

コイル木片の穴は、方鉛鉱が固定されている直径5mm、奥行7mmの非常に小さな空間です。その狭い空間に紅亜鉛鉱の探り機構を収める必要があります。

イメージ図の構成を元に、紅亜鉛鉱固定用スプリングを作成しました。

紅亜鉛鉱を固定するためのスプリング

真鍮線をコイル状に加工し、先端には滑り止め付きワッシャーを取り付けています。
紅亜鉛鉱は約4mm角に加工したものを使用しています。

紅亜鉛鉱とコイルを取り付けた様子

この状態では、紅亜鉛鉱はコイル内でわずかに動けるようにしてあります。

調整方法 

探り式検波部を調整する様子

ラジオ横から覗いた検波部の様子

調整方法は非常に単純です。

細い棒をコイル中心に差し込み、左右に数回ゆすります。
その後、受信できるか確認します。

受信できなければ、コイルを上から押して鉱石を圧迫し、再度受信できるか確認します。
この作業を数回繰り返すと、ラジオは安定して受信できるようになります。

通常の探り式検波器のように神経質な調整は不要です。
紅亜鉛鉱+方鉛鉱方式のメリットが、調整の容易さにもはっきり表れています。

受信結果

紅亜鉛鉱+方鉛鉱方式では、

  • NHK第一(音量大)

  • NHK第二(音量大)

  • AFN(音量中)

  • TBSラジオ(音量小)

  • 文化放送(音量小)

  • ニッポン放送(音量小)

の6局が受信できました。
音質はやわらかく、角のない優しい音です。

一方、方鉛鉱のみでは、NHK第一のみが小音量で受信できる程度でした。

総合評価

紅亜鉛鉱+方鉛鉱方式は、

  • 検波調整の容易さ

  • 受信可能局数

  • 音量

  • 音質

すべての面で優れていることが分かります。

特に操作感の違いは圧倒的です。

方鉛鉱のみの方式では、暗いラジオ内部をのぞき込みながら、レシーバーの音に集中して細い棒で探り針を調整する必要があり作業には時間がかかり、かなりの根気を要します。調整してもすぐにズレてしまい、再調整が必要になる、少しつらいラジオだったことがよく分かります。

そこで今回は、多少乱暴でも、細い棒を数回上下左右に動かせば誰でも受信できるような構成を目指して作成しました。

American Leader Pocket Radio は、少しだけ使いやすいラジオになったのではないかと思います。

2026.1.21 受信状態の安定性の確認(現在、試験中) 

1週間ほどラジオを使いラジオの受信状態の安定性(または検波状態の保持)を確認します。前日にラジオを受信できる状態にしておき、翌日にラジオの受信状態を確認します。 2つの鉱石による探り式検波が受信したままの状態をどのくらい保持できるかを確認します。測定条件は、NHK第一放送、室内同一設置場所、1日1回の受信状態確認と5分から10分程度ラジオを手にもってのヒヤリングと数回のダイヤル操作を実施します。

前日 :ラジオの設置場所を決め受信調整。

1日目:受信できす検波部を再調整。同じ場所に設置。

2日目:受信可能、やや音が小さいので検波部を再調整。同じ場所に設置。

3日目:受信良好、ラジオを手にもってダイヤル操作。検波部の調整なしで同じ場所に設置。

4日目:同調がズレていてやや音割れあり、ダイヤル操作で同調させて受信良好。検波部の調整なしで同じ場所に設置。

5日目:受信良好、ラジオを手にもってダイヤル操作。検波部の調整なしで同じ場所に設置。

6日目:受信良好、ラジオを手にもってダイヤル操作。検波部の調整なしで同じ場所に設置。

7日目:

8日目: 

2025/01/25

さぐり式鉱石検波器の製作

さぐり式鉱石検波器の紹介です。日本では1925年にラジオ放送がはじまりました。さぐり式鉱石検波器は当時のラジオ技術です。今回は100年前のラジオ技術の追体験になります。

部品棚を整理していたら昔に購入した黄鉄鉱のビン詰めがでてきました。なつかしい黄鉄鉱です。これを使って鉱石ラジオが作れます。今回は何十年ぶりかでさぐり式鉱石検波器を作ってみました。

材料を用意します。木板、ワンタッチスピーカー端子(L,R)、ネジ式スピーカ端子(端子に穴あり)、銅製キャップ、金属リング、ビス・ナット、ワッシャー、ゴム足、鉱石(黄鉄鉱、方鉛鉱)、真鍮ワイヤーなどを用意します。

上の写真では、木板に穴あけ加工後に塗装を施して台座を作成します。

最初に銅製キャップにはんだを流し込みます。上の写真のように後から鉱石(黄鉄鉱)を入れキャップ内のはんだに沈めて固定したら完成です。黄鉄鉱と方鉛鉱の2種類を作成します。はんだのフラックスで鉱石が黒くなることがあります。そのときは鉱石を磨いてください。

次にさぐり針を作成します。 ヒゲの形は様々ありますので自分の好みの形状に加工します。上の写真は作成したさぐり針です。毎回、代り映えしない同じ形状です。私はこの形でしかうまく作成できません。

全ての部品を取り付けます。さぐり針は金色のスピーカー端子の穴を通してから最後にビスで固定します。台座の裏側で見えない様に配線します。銅製キャップの底からスピーカ端子(+)へ、さぐり針の根元からスピーカー端子(-)に配線します。最後にさぐり針の形を整えて金色のスピーカー端子でさぐり針の針圧を調整すれば完成です。スピーカー端子のネジがグラグラするので気になる人はスプリングを噛ませた方が良いかと思います。

自作したさぐり式鉱石検波器を試験します。試験にはゲルマニウム・ラジオを使います。トランジスタ・ラジオでは回路によりトランジスタ検波することがあり、ダイオードなしのただの銅線でもラジオが聞こえることがあるので試験用ラジオとしては使いません。

ラジオの簡単な実験には電子ブロックが便利です。電子ブロック:DR-ⅡAのゲルマ検波ラジオを使用します。電子ブロックのダイオードをさぐり式鉱石検波器と入れ替えて試験します。

電波環境を確認するために検波電流を測定します。検波電流を測定するにはアナログ・テスターを使用します。テスター(電流計)はダイオードとクリスタルイヤホンの間に直列に挿入します。デジタル・テスターでは内部損失が大きく検波電流をうまく測定できないことがあります。通常のアナログ・テスターで60μAまたは100μAポジション(上の写真は60μA)があれば測定可能です。我が家の受信電波は弱く、ダイオード(1N60)で測定できた検波電流は3μAでした。

鉱石検波器を作成する前に検波電流の測定をした方が良いです。ゲルマニウムラジオの検波電流が1μAも測定できない環境では、鉱石検波器ではラジオの受信は無理かと思います。検波電流が小さすぎる場合は電灯線アンテナやアースを事前に改善しておく必要があります。

   

ダイオード検波でラジオ放送が聞こえたらさぐり式鉱石検波器と入れ替えます。さぐり針をセラミックドライバーで少しづつ移動させて音量が最大になる点を探ります。最大の音量で検波電流を測定します。

 

黄鉄鉱の表面は比較平らで針をスライドしての検波がしやすいです。しかしテスターで針1本分のほんのわずかしか振れません。1μA未満です。 それでも放送内容をじゅうぶんに聞き取れる音量です。もう一つの方鉛鉱の表面は凸凹しているため針の移動はやり難いです。但し方鉛鉱に変えると1μA程度と黄鉄鉱より感度は良いです。鉱石検波器は簡単に自作できて誰が作成しても動作すると思います。

さぐり式鉱石検波器は壊れやすいので保管がむずかしいです。そのため、白木の箱を用意して箱に入るサイズに検波器を作成します。

 

久しぶりにさぐり式鉱石検波器を作成しました。なつかしいです。ゲルマニウム・ラジオも魅力的ですが、鉱石を針でさぐってラジオを聞くことは毎回新鮮で楽しい体験です。古典的ですが簡単に製作できるさぐり式鉱石検波器を作成してみてはいかかでしょうか。何気なく聴いていたラジオに新たな魅力を感じることは間違いありません。

2025. 5.24

さぐり式鉱石検波器の製作(二作目とシリコン結晶)のブログもアップしましたので参考にしてください。 

部品の入手先 

真鍮ワイヤー:Amazonへのリンク 

真鍮両面ハトメ:Amazonへのリンク 

銅製エンドキャップ:Amazonへのリンク 

2025/01/18

Topping DX3Pro(推奨値とは異なる実装の改善)

Topping DX3Pro

Topping DX3Proは2018年発売の少々古いUSB DACの紹介です。今回はToppingDX3proユーザーさん向けに書いたブログです。本記事は製品レビューや音質評価を目的としたものではなく、DX3Proの実装を観察しデータシート上の推奨条件との違いがどのように現れているかを確認した技術的メモです。本機の性能はすでに測定限界に近く、手持ちの測定環境では有意な差を示せないため数値測定は行っていません。本稿は測定値の優劣ではなく、実装とその考え方を記録することを目的としています。

現在は、Topping DX3Proにはエーワイのアナログ電源と自作したデータ専用USBケーブルを使っています。この2つの対策でも十分に満足のいく音がでています。今回のTopping DX3Proのコンデンサ交換の紹介については海外フォーラムの事例を参考にしています。海外フォーラムの事例からはデジタル機器に対する暗黙の示唆を感じます。DX3proは本機はスペック上の性能を維持したまま、コストおよび実装面積の最適化が図られています。しかし、その最適化が聴感上の余裕や時間軸方向の安定性まで担保しているかについては検証の余地があると感じます。本機でもD/Aコンバータ周辺を含め、必ずしもチップメーカーの推奨値通りとは言えない実装が見受けられます。今回は、そうした点に着目して実装状態の確認と推奨値どおりの部品交換により音の変化を確認します。※注:ここで言う「推奨値」とは、ICメーカーのデータシートに記載された標準的・代表的な使用条件であり、必ずしも製品設計で厳守されるべき数値ではありません。

Topping DX3Pro:Amazonへのリンク

背面パネルの取り外し

早速、Topping DX3Proを分解してみます。最初に背面パネルを取り外します。アンテナのナットも取り外します。

工具による前面パネルの取り外し 

次にTopping DX3Proの前面パネルと本体ケースを連結する左右2つの六角穴付きボルトを外す必要があります。特殊な工具(軸長が16cm以上ある2mm六角ドライバー)を差し込み取り外します。私は”BONDHUS(ボンダス) 六角ループ・T-ハンドル ロング 2mm [全長:249mm 軸長:229mm ハンドル長さ:70mm]  No.46552”が安いのでAmazonで購入しました。

BONDHUS(ボンダス) 六角ループ・T-ハンドル ロング 2mm:Amazonへのリンク

プリント基板を取り出した分解写真

プリント基板

上の写真が分解した様子と取り出したプリント基板です。

DX3proV4.1:バージョンが記載

Topping DX3proのプリント基板には、DX3proV4.1とバージョンが記載されています。海外ではV2バージョンと呼ばれる製品です。

OPA1612A

RCA出力のオペアンプにはOPA1612Aが実装されています。

AK4493S周辺の実装

AK4493Sアナログ出力とOPアンプ入力の間は電解コンデンサが採用されています。

ヘッドホン用オペアンプ:TPA6120A
ヘッドホン用オペアンプはTPA6120Aです。V1バージョンのOPA2140の方が音が良いと人気のようです。

次に部品交換する箇所について説明します。

D/Aコンバータ AK4493Sの回路

上の図はD/Aコンバータ AK4493Sのdatasheetからの抜粋です。AK4493Sアナログ出力とOPアンプ入力の間には100μF×4(赤丸印)のコンデンサ容量が推奨されています。AK4493Sの出力段のカップリングコンデンサを推奨値に増やすことで、低域のカットオフ周波数が下がり、位相特性や低音の厚みが改善される可能性があります。

推奨値とは異なる電解コンデンサ

実際のプリント基板を見ると推奨値とは異なる47μFのニチコンFG電解コンデンサです。

D/Aコンバータ AK4493Sの回路 

次に、これもD/Aコンバータ AK4493Sのdatasheetからの抜粋です。アナログ電源1.8Vに10μF×1、アナログ電源5.0Vに10μF×2、基準電圧5.0Vに470μF×2のコンデンサ容量が推奨されています。この実装もメーカー推奨値ではありませんでした。基準電圧(VREF)周辺の容量不足を補うことは、DACの変換精度やノイズ耐性に直結するため、音の「時間軸方向の安定性(ジッター感の低減)」や「見通しの良さ」に寄与します。

これらの推奨値とは異なる部品はコストダウンの痕跡またはサイズダウンなどによるものと推測します。

交換対象の電解コンデンサ

交換対象のチップコンデンサ

実際には、アナログ電源1.8Vに10μF×1、アナログ電源5.0Vに10μF×2、基準電圧5.0Vに100μF×2が実装されています。

対象箇所と推奨値と実装値、変更値

上の表に実装とメーカー推奨値を表にまとめてみました。アナログ出力のコンデンサは47μFと小さく推奨値どおりの100μF(6.3V)へ変更します。アナログ電源は推奨値と実装が同じですが、100μF(6.3V)に容量を増やして改善します。基準電圧5.0Vには470μFと大容量が推奨されていることから、かなり重要な基準電圧のようです。実装では100μFと1/4以下の小さな容量です。手持ちの部品から一番容量の大きな220μF(10V)へ変更します。最初にD/Aコンバータ AK4493Sの電源部強化の実施です。

交換用チップコンデンサ

上の写真が交換部品のチップコンデンサです。一番上が100μF(6.3V)、下2段が220μF(10V)です。

チップコンデンサを交換した様子

交換対象のチップコンデンサを取り外します。ホットピンセットがあれば作業は楽なのですが2本のはんだゴテで取り外します。チップコンデンサの両端に少しハンダを追加すればハンダが溶けて簡単に取り外せます。次に上の写真のように全てのチップコンデンサを取り付けて完成です。チップコンデンサ交換後の動作は良好です。電源部強化までで一度ヒヤリングしてみます。交換前のTopping DX3Proは少し高域よりのバランスです。チップコンデンサ交換により全体的に音の重心が下がり深みのある音質に変化しました。高域はややキラキラした印象でしたがシルクタッチできめ細やかな音に変わります。たったこれだけのチップコンデンサ交換で音に大きな影響があることに驚きます。

交換対象の電解コンデンサ

残りはAK4493Sアナログ出力とOPアンプ入力の間のカップリング用電解コンデンサ47μFを100μFに置き換えです。ニチコンMUSE ESへの置き換えが評価された例が多くあり、帯域と透明感の改善を期待して47μFのFGから100μFのMUSE ESに置き換えてみました。ただし、ケースに接触しないように隅の2個はやむなく横に寝せて実装します。

交換後の電解コンデンサ

次はカップリング・コンデンサ交換後は1日以上のエージングが必要です。最初のころは音に霞がかかりぼんやりした不明瞭な音がします。エージングが終了したらヒヤリングです。いままでより透明感があり豊かで深みのある音です。ほんの少しベールのように薄い膜が1枚あるような音でエッジが取れて少し丸なって聴こえます。この音の傾向が長所か欠点かは個人の好みの世界です。どちらにしても音のグレードは向上します。Topping DX3proは高音がきれいで抜けのいい音がしますが低音がやや薄く不満でした。低域を補強することにはじゃうぶんに出来たようです。これらの変化は、本機・本個体を自分の使用環境で聴いた限りでの印象であり、他の製品や条件で同様の結果が得られるとは限りませんのご注意ください。

Topping DX3ProのD/Aコンバーター周辺部品をメーカー推奨値に変更する試みは海外フォーラムを参考にしています。 今回は取り組み易く根拠があり納得できるものに限定しました。海外フォーラムではOPアンプを交換する筋金入りのマニアも多く、大いに盛り上がっています。性能や測定したデータに基づき議論するフォーラムなどもあります。中国製のオーディオ機器は安価で高性能なので利用者が多く、フォーラムが盛況な理由かもしれません。今回は日本語圏のサイトでは事例が少ないのでご紹介しました。作業は楽しかったですが参考になりましたでしょうか。ただし、改造は自己責任でお願い致します。

本記事はDX3Proをそのまま使うことを否定するものではなく、実装という観点から既製品を眺め直した一例として記録したものです。メーカーのスペックはノイズと正弦波を破綻なく出力できる最低限度の再現性を示しているだけと考えています。また、スペックは製品の性能保証で音質を保証するものではありません。今回のようなコンデンサ交換が影響するような領域は、波形として直接観測できるものではなく、せいぜいノイズの影響差を観測できるかどうかだと思います。そのため、測定データがなにもかかわず部品交換により音質差があるという主観に基づいた評価としました。

2025.2.15

Topping DX3Proを使いこんだことで、バランスもよく豊かで奥行きのある音ができるようになりました。前回、ほんの少しベールのように薄い膜が1枚ありましたがエージングでその影響もなくなったように聴こえます。

2025.12.3

Topping DX3Proのツマミはプラスチックで貧弱です。感触も良くありません。最悪なのはボリュームを調整するたびに回転させた最後に数値が後戻りします。

ツマミをアルミ製に交換
 アルミ無垢のツマミに交換するとボリュームの動作が安定します。完璧な動作ではありませんが回転した最後のボリューム数値の戻りは減少します。アルミのツマミの重さで最後の1クリックを確実に回転させることができます。アルミ無垢の重さのあるツマミへの交換をお勧めします。