2022/08/11

真空管FMマルチプレックス・アダプターの製作(MPXアダプタ MU-34)

先日、ラジオ技術(1965年5月号)の「MPXアダプタ スターMU-34を使った…FMステレオ・アダプタの製作」の記事を久しぶりに読み返しました。それから数日後、オークションを覗くと驚いたことにスター製MU-34 MPX-UNITが出品されていました。しかも奇跡的に私以外に誰も入札せずに980円で落札することができました。私だけが喜んでいるだけで60年以上前の古い製品なので誰も興味ないのかもしれませんが・・・。しかし、今回のMU-34は現存している数少ないデッドストック製品だと思います。そのMU-34が上の写真です。しかも元箱付きです。

ラジオ技術(1965年5月号)の「MPXアダプタ スターMU-34を使った…FMステレオ・アダプタの製作」の掲載記事

当時のラジオ雑誌に掲載されていたMU-34の広告記事

MU-34は1962年頃の製品で、真空管6EA8をプリント基板に実装して鉄製ケースで覆ったFMマルチ・ステレオ・ユニットです。FMチューナーのMPX OUT端子にこのMU-34を接続すれば、簡単にFMステレオ放送を聴くことができます。19kHz抽出回路、38kHz逓倍回路、マトリクス回路、フィルター等で構成されスイッチング方式を採用しています。

今回は、MU-34を使ってFMアダプタを製作してみることにしました。製作といっても簡単でMU-34に電源回路を接続すればすぐにでもFMステレオ放送を聴くことができます。上の写真が今回の製作で使用する部品一式です。ケースと電源トランス(ゼネラルトランス販売㈱PMC-B80HG)は購入しましたが、そのほかの部品は手持ちを流用して製作します。ラジオ技術の製作記事との違いは、ノイズフィルター、ステレオ・ランプ、モノラル選択などの機能は不要と判断して省略することにしました。ただし、セパレーションのボリュームは1度調整するとほとんど使用しませんがTRIO AD-5をまねて全面に配置します。

電源回路から配線をして、次にMU-34からの入出力およびセパレーション用ボリュームなどを配線しました。たったこれだけで、FMアダプタの完成です。

FMアダプタの配線を再度確認して電源試験をします。B電源は150Vで、電流値は0.15Aで正常のようです。

RCA出力端子で4Vの直流がでていたので、 プリント基板の5μF・電解コンデンサを交換しました。

一番重要なチャネルセパレーション・レベルを調整します。LEADER LSG-231 FM SIGNAL GENERATORとスペアナ&オシロスコープ(VISUAL ANALYSER 2014)で調整します。チャネルセパレーション・レベルを測定してみましたが、ステレオに分離していませんでした。つまり、左右同じ波形のモノラルしか観測できません。コイルを調整してもほとんど波形に変化は見られませんでした。

原因の調査として各機能と個々の部品を確認してゆくことにします。19kHz抽出回路では19kHzが出ているのですが波形が不安定です。周囲のカーボン抵抗を外して測定すると、470kΩ⇒625kΩ、1.5kΩ⇒1.48kΩ、5.6kΩ⇒9.7kΩと経年劣化で数値が大幅に狂っています。フィルムコンデンサーは0.05μF⇒0.57,0.66,0.58μFでした。カーボン抵抗、フィルムコンデンサーは交換して、再度測定すると19kHzの波形が安定して観測できるようになりました。19kHzコイルに下側コアで波形出力を最大に調整、次に上側コアで波形出力を最大になるように調整します。

次に38kHz逓倍回路の抵抗を外して測定すると2kΩ⇒2.3kΩ、56kΩ⇒79kΩなので交換します。最後にマトリクス回路の抵抗を外して測定すると50kΩ⇒62.9,75.6,64.9,70.4kΩなので交換します。コンデンサはセラミックコンデンサですが念のため交換しました。これでコイルとスチロールコンデンサ以外は全て交換したことになります。下の写真は、劣化部品交換後のプリント基板のようすです。

部品交換により回路が安定したので再度調整してみます。19kHzコイルの下側コアと上側コアを回してオシロスコープで観測しながら19kHzの波形出力を最大になるように調整します。次に38kHzコイルのコアを回してRCA出力波形が静止して左右の出力波形の差が最大になるように調整します。再度、19kHzコイルの下側コア・上側コアを回してRCA出力で左右の出力波形の差が最大になるように調整し、38kHzコイルのコアを回してRCA出力で左右の出力波形の差が最大になるように調整します。最後にディメンション・コントロールでRCA出力で左右の出力波形の差が最大になるように調整したら完成です。チャネルセパレーション・レベルは1kHzで25dBまで調整することができました。MU-34のチャネルセパレーション仕様は30dB<(1kHz 1V入力時)です。下の写真がオシロとスペアナの測定結果です。チャネルセパレーション・レベルの最終調整ではVISUAL ANALYSER 2014のスペアナによる波形観測による調整ではなく、スペアナの付加機能で1kHzのLRレベルを数値で確認しながらだと精度よく調整することができます。

苦労して製作したFMアダプタをFMチューナーと接続してみます。高音域は繊細で中音域から低音域にかけてはダンピングが効いたような粘りのある音を聴かせてくれます。欲を言えばもう少し奥行きの表現があれば良かったと思います。このFMアダプタにはセパレーション・レベルの改善や出力段の位相調整などの改善の余地があり今後の課題だと思います。

当初、スター製MU-34 MPX-UNITでのFMアダプタの製作は半日でできると思っていました。60年以上前の製品に私の思惑は通用しません。実装されていた各パーツの劣化が激しく初期性能が出せないMU-34に苦戦しました。そして、FMアダプタの動作が部品精度に敏感で繊細な調整が必要であることを再認識するいい機会になりました。

2022/07/11

後編:ナショナル RD-511 真空管FMステレオアダプター(アンプ接続時に注意)

 

ナショナル RD-511 真空管FMステレオアダプター、1963年頃の製品になります。RE-510 FMチューナーと同じデザインで組合わせてFMステレオ放送を聞くことができます。正面左から電源スイッチ、ステレオ・インジケーター、セレクターが配置されています。

背面パネルの左からMPX IN(2ピン端子およびピンジャック)、PHONO(IN)L R(3ピン端子)、STEREO OUT L R(RCA端子)が配置されています。

ケース底に真空管配置図、上蓋の裏に回路図が配置されていました。回路図が残っていますので、写真を撮って拡大印刷して修理のときに使用します。


付属品一式が揃っているこは大変めずらしいです。RCA接続コード2本(茶×1本、灰×1本)、3ピン端子×3個、2ピン端子×2個、スペーサおよびネジ×各6、ピンプラグ×1個、改造用抵抗100kΩ×2本、ご愛用のしおり×1冊。

上の写真は付属する取扱説明書(ご愛用のしおり)です。

詳細な定格は以下のとおりです。真空管 6BA6,12AT7,12AX7/ダイオード OA79×4、OA70×2、SC-20×1/ステレオセパレーション 100c/s~7000c/s,20dB以上/利得 1:1/電源電圧 AC(交流)100V,50~60c/s/消費電力 10W/形状 272(巾)×80(高さ)×149mmm(奥行)/重量 2㎏

中を覗いても埃はほとんどありませんので過去にRD-511を修理したのだと思います。観察するとヒューズフォルダーの爪が折れていて糸ヒューズで処理してありました。

次に見つけたのはゲルマニューム・ダイオードOA79がOA91に置き換わっていました。過去に修理した跡が確かに残っています。

 
ヒューズボックスは交換しその他の劣化部品もすべて交換します。しかし、コンパクトな部品配置なので修理作業に手間のかかる製品です。
修理は終了したので交換した部品が正常か通電試験をしてみます。電流値は0.25Aで正常のようです。

アンテナは300Ω-75Ω変換プラグで接続、RE-510とRD-511はMPX端子を2ピン端子コードで接続します。最後にSTEREO OUTをRCAケーブルでオーディオ装置と接続します。

音だしの試験をします。L(左)の音が極端に小さいです。R(右)は正常。ステレオ・インジケータは正常に点灯しました。この製品は左右の音のバランスをとる機能はありませんのでL(左)の音が小さいのは、どこかに不具合がある模様です。

L(左)の音が小さい原因をトレーサーで追ってみるとマトリクス回路のゲルマニューム・ダイオードOA70×1本が不良とわかりました。トランジスターテスターで測定してみるとNGです。

上の写真の互換表に従いゲルマニューム・ダイオードOA70はIN60と交換しました。再度、音出し試験をしますがL(左)の少しは改善しましたが音がまだ小さいようです。あれこれ調べてみましたが回路に不具合はみあたりません。そこで、RCAプラグを抜き差しして試験するとRCAプラグが刺さった状態だとL(左)の音が小さくなるようです?

説明書には接続する機種によってはSTEREO OUTに付属品の抵抗100KΩを入れるように改造の指示が記載されています。もしかしたら、今回のケースもインピーダンス整合用の抵抗100KΩが必要なのかもしれません。

ためしに手持ちの抵抗100KΩを説明書に従って追加しました。音出し試験をするとL(左)の音量は正常になりました。まだ、少し音が小さく感じられますが、極端な音量差はみごとになくなりました。また、抵抗100KΩを入れたことで全体のノイズが低下してクリアに聞こえるようになります。今回の現象は説明書がなければ修理できなかったかもしれません。また、ヒヤリングした感想ですがFMステレオ放送をすっきりとした良い音で聴かせてくれる製品です。初期のFMステレオ放送の時代にこれだけの高音質で聴くことができたことに驚きます。

RE-510とRD-511の組み合わせは、特別な2ピン端子コードが必要で尚且つ現代のオーディオ装置と接続するためには抵抗100KΩを改造して取り付ける必要があります。それらを知らなくて故障したものと勘違いした人もいたと思います。ある程度のスキルを持った人またはマニア向けの真空管FMアダプタかと思います。

2026.1.30 前編:ナショナル RE-510 真空管FMチューナー(普通の修理) 

RD-511FMステレオアダプターとペアになるFMチューナーRE-510の修理ブログです。前編:ナショナル RE-510 真空管FMチューナー(普通の修理)を合わせてご覧いただければと思います。

 

 

2022/07/10

前編:ナショナル RE-510 真空管FMチューナー(普通の修理)


ナショナル RE-510 真空管FMチューナーです。1963年頃の製品で6,800円で販売されいました。現在でもオークションなどで年に何台か出品されているようです。大きさは幅272mm×高さ80mm×奥行149mmのコンパクトなモノラルFMチューナーです。

 
背面には、アンテナ端子、MPX OUT端子、PHONE(L)端子、EXT AMP(L)のRCAコードが配置されています。MPX OUTはFMステレオアダプタ接続してFMステレオ放送を聞くための端子が装備されています。

 

本体の底には、真空管配置図、ダイヤル駆動図があります。残念ながらこのチューナーには回路図は添付されていません。黒いプラスチックの頭のネジは破損しやすいので、必ず手で締めるようにします。ドライバーで締めると非常にもろいので破損させる恐れがあります。

RE-510の中を覗くとすごいほこりでいっぱいです。今まで一度も開けたことはない様子です。本体ケースの汚れやヤニを落とし内部の埃を丁寧に掃除します。

真空管には12BA6×2、17EW8、2連バリコン、セレン整流器の構成となっています。チューナーのシャーシはケースから電気的に浮いた(絶縁)状態で固定されていました。

ケースから目盛り板が完全に外れていました。きれいに掃除してボンドで固定します。


目盛りの裏板が汚れとサビが出ています。上の写真は再塗装して取り付けた様子です。

はじめに故障個所はないか入念に目視点検します。電源回路の電解コンデンサ端子からの液漏れで使えそうにありません。

同じ径のコンデンサを2個使い絶縁テープで巻いて交換用コンデンサとします。厚紙をコンデンサに巻いて横に固定する方法なので、外観的には交換したことはわからないと思います。

その他の経年劣化した部品を交換します。

一通り修理が終わったので、劣化部品以外に故障個所はないか通電してみます。0.23~0.24Aで安定し正常のようです。

次にFMチューナーの動作確認をします。調整はカバーを外した状態でチューナー部の横から調整することができます。アンテナを接続して受信してみます。受信感度およびトラッキングを調整します。

これで修理は終了です。今回はFM放送の初期に製造された貴重なナショナル FMチューナーRE-510の修理でした。

2026.1.30 後編:ナショナル RD-511 真空管FMステレオアダプター(アンプ接続時に注意) 

FMチューナーRE-510とセットになるFMステレオアダプター RD-511の修理作業になります。後編:ナショナル RD-511 真空管FMステレオアダプター(アンプ接続時に注意)を合わせてご覧いただければと思います。 

2026.2.24  ナショナル RE-510 回路図の公開のブログも参考にしてください。

2022/07/09

ONKYO Integra T-410DG(電源部の経年劣化を修理)

 

前回、Technics ST-S6の修理で電源部がひどく劣化していました。Technics ST-S6 1981年製、ONKYO Integra T-410DG 1978年製です。T-410DGの電源部も経年劣化していると思ったほうがよさそうです。今回は緊急対応でT-410DGの電源部のリニューアルです。

試験的にT-410DGの消費電流を測定してみます。Power OFFで0.2Aも流れます。しかもPower ONでもなんと0.2Aで電流値が同じでした。電源スイッチの意味ありません。どうりで、使っていないのに左後ろのトランス付近が妙に熱くなるので気になっていたんです。

 
しかもチューナーなのに背面パネルに空気穴が開いています。チューナーで空気穴があるのはT-410DGぐらいだと思います。ONKYOさんは発熱多いことを知ってたんですね。
チューナーを開けてみます。時すでに遅し、金属カバーの裏側がススで真っ黒です。電源部の電解コンデンサからは液が漏れだしていて全滅です。セメント抵抗のプリント基板も焦げています。
チューナー部もよく見ると抵抗が焼けています。この状態で、よくチューナーとして動作してくれていました。
 
電源部の電解コンデンサを全て交換しました。
チューナー部の電源に関わる電解コンデンサを全て交換しました。T-410DGはデジタル時計が内蔵されているので常に電流を流す必要があり、1978年製の部品は更に早く劣化したのかも知れません。T-410DGが中古で品物が少ないのも納得です。電源部が故障するので完全に壊れて中古市場にも出せない物が多かったんだと思います。T-410DGは2台もっていますが、2台とも同じ惨状でした。やはり、1970-1980年代のシンセサイザーチューナーをそのまま使うと重大な故障につながることを学びました。現在、使われているこれらの年代の製品は修理してから使用することを強くお勧めします。

2022/06/21

TRIO 真空管FMチューナー FM-111(整流管6X4の不良)

 今回は初めて修理するTRIO 真空管FMチューナー FM-111になります。FMシリーズでFM-111があるとは知りませんでした。本体は堅牢なケースと前面パネルの色は違いますがデザインはFM-105と同じでツマミが金属製に代わっていました。POWER OFF/FM/FM AFCと記載のある電源のセレクタ-も若干異なります。

背面は同じでモノラル端子とMPX OUT端子、ボリューム、アンテナの構成はFM-105と同じです。

TRIOの管式FMチューナーの種類はわかりにくいです。上の一覧(2022.12.4更新)は私が使っているTRIO管式FMチューナー一覧です。自作の一覧なので抜けている機種や年代、系統などに誤りがあると思いますがご容赦ください。この一覧で私も修理したことがあるのは12機種ぐらいです。一覧を眺めてみるとTRIOさんがFMステレオ放送の普及のために多くのチューナーを世に送り出したことがわかります。今回のFM-111はFM-105の流れをくむFMシリーズのモノラル・FMチューナーだと思います。

6AQ8×2、6BA6×2、6AU6×2、6AL5、6X4の構成・配置はFM-105と全く同じです。FM-105の後継機種がFM-111のようです。

このチューナーは「通電できますが受信できないジャンク品」とのことで購入しました。内部を見てみましたが目視からは損傷個所は見つかりませんでした。
 
ためしに通電試験をしてみます。電源を入れると0.38Aで安定しました。電流値が少ない感じがします。各箇所の電圧を測るとB電源で0V、ここで電圧がでていません。トランスの電圧は正常なので整流管6X4の不良と思われます。
上の写真は故障したと思われる整流管6X4です。整流管の中心部がぐると一周ガラスが黒くすすけています。整流管はこのチューナーの中で一番寿命の短い真空管なので故障しても納得です。
 
最初に劣化部品の交換です。ブロック電解コンデンサーは配線を外して外観上の見栄えのために残します。その他の劣化部品は全て交換しました。 念のために故障と思われる6X4を交換して確認します。B電源は0Vなので6X4の故障に間違いありません。整流管6X4を交換します。
修理後、電源を入れると0.45Aで安定します。B電源出力で約100Vの電圧が出ました。電源部は正常になりました。
ここで受信確認をしてみます。受信感度は良好でメータも振れます。AFCもよく機能します。また、トラッキングはズレていましたので調整しました。
最後にTRIO AD-5(FMマルチプレックス・アダプター)と接続してFMステレオ放送を受信してみます。受信感度も高く、いつも通りの管式FMチューナーのいい音です。FM-111はFM-105の後継機種としてお勧めのチューナーだと思います。今回のFM-111もこの時代の製品として性能・信頼性などが群を抜いて優れた製品だと思っています。この製品以降、2~3年するとトランジスタ方式に置き換わってゆくことになります。管式FMチューナーは1960年代前半~中頃までの短い期間の製品ですが今でも色あせない音でFM放送を聴かせてくれます。